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第1章 異世界3姉妹の日常と冒険物語

4-12 闇に飲まれゆく世界

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「エル様!!」
 城から出た私たちはアリシアのもとに戻った。
 私たち3人が戻ると外は本当に廃墟のようになっていた。
 あちこちで燃え上がる炎。
 さっきよりもひどくなった瓦礫の山。
 今まさに崩壊しようとしているアレクサンダー城。
 大きくへこんだ巨大なクレーター。
 何より驚いたのは上空にいる巨大な龍だった。
 そして、いつの間にかいるエルドロールとその横にいる小さな翼竜。
「アリシア!!無事でよかった!」
「そららはどうしたんだ?」
「申し訳ございません、正体不明の男の出現で一時撤退してきました。」
「お姉ちゃん!」
「魔石はどうなった!?」
 一気に5人で話し出すと意味が解らない。
 みんな思い思いの事を言い始めている。
「うるさ~い!!」
 その言葉を制したのはエルドロールの横に浮いている翼竜だった。
「なに?このちっちゃいの?」
 私の漏れた本音。
 いつの間にか黄土色のちっちゃい生き物が増えている。
「ここの人間は知性のかけらも感じないわ」
 シルウィアは最初にあったときのフレイアよりも見下すように大きな瞳で私の事を見る。
「うん、納得ずぶぅぅ!!」
 フレイアをまた両手で挟み込むアリシア。
 それを驚きと気の毒そうな顔で見るシルウィア。
「ま、まぁ。とにかく順番で話そうか。まずはマッシュ様から」
「マッシュ?」
 私だけが意味が解らなかったので一人聞き返してしまった。シルウィアはすごくめんどくさいようで
「あぁ、そこの人間から聞けばいいよ。では、マッシュ様どうぞ」
「そららはどうした?怪我しているのか?」
「正体不明の者に首をかまれて出血はしていますが、その他は軽傷です。アンデットとの戦闘中に気を失いました。」
「今すぐ治療を!きらら、お前もこっちに。」
「は、はい!」
「ヒール」
 エルドロールの手が薄く光り、そららと私の身体を包み込む。ところどころにあった小さな傷や打撲が癒えていく。
「すまない。本当にすまない。お前たちの事を守れなかった。」
「頭を上げてください!いつも助けられてます!今だって、ここに来てくれたじゃないですか!」
「きらら・・・。そららも、すまない」
 目を覚まさないそららの頭をなでながら心配そうに見つめる姿は、本当の親の様だった。
「ちょっとフラン、マッシュってなによ?」
 エルドロールは話しかけにくい雰囲気なのでフランに話を聞きに行く。
「あぁ。知らないだろうけど、マッシュは宮廷魔導士の名前だよ」
「でも、エルドロール様をマッシュってあのちっこいのは言ってたわよ?」
 ちっこいの。と言う言葉にシルウィアが反応していたが私は『べーっ!』と舌を出し仕返しをしてやった。
「エルドロールは仮の名。本名は―」
「マッシュ・ヘルム。アリスのいた村。ヘルム村の村長。」
「えぇ!!じゃあ、宮廷魔導士って・・・」
「そう。さっき城の中で二人がどこいってるんだ、宮廷魔導士!って探してた人。」
「うわぁ~・・・。」
 私は気まずく後ろを振り返るとそこには何も知らないエルドロール。いや、マッシュと呼ぶべきか。
「んで、アリシアはいつ知ったの?」
「さっき。あれを倒す前に知った」
 あれ、と言われて指差した先には先ほどまで元気だった魔獣の姿。早くも腐りかけている。
「うわ!!首がないし・・・」
 そこには右後ろ足がないわ、全身焼け焦げてるわ、頭はないわ、ズタボロの【もと】魔獣が横たわっていた。
「首はあそこ」
 アリシアが指さす方向にはさっき見た大きな龍。
「あれ、なに?」
 私とフランは口をあけながら上空を仰いだ。
「土龍。エルドロ・・・、マッシュ様が召喚した完全形態。2回かじったら魔獣は死んだよ」
『2回!?』
 私とフランは驚きを声に出して顔を見合わせた。
 2回。あんな威圧感の塊みたいだった奴を・・・。たったの。
「首はあの土龍のおなかの中・・・」
 アリシアが口を開けて上を見ている。
「食べちゃうんだ。あたま・・・」
 ドラゴンが魔獣の頭をかじっている姿が想像できないが、あの口元の湿っているのはおそらく魔獣の血なんだろう。
「それで!!魔石は?」
 フレイアの問いかけには、フランも答えなかった。
「魔石!壊してきた?」
「まぁ、壊した・・・と言えば壊れたんだけど・・・」
 実際に壊れた?いや、砕けたというのか、元の原型にはなかったからいいと思うんだけど・・・
「壊れたんだ!よくやったよきらら!!さすがアリシアのお姉ちゃんだね!」
「へー、やるねー人間!」
 シルウィアとフレイアが私の周りに飛んでくる。
 フランがそっと離れていくのがわかった。
「ただの馬鹿かと思ったけど、意外とやるんだねー」
 シルウィアが私の頭の上に乗っかる。
 おそらく、精霊が2体も人間のそばにいるなんて、よっぽどレアなんだと思う。けど、今はあまり嬉しくもありがたくもなかった。
「あたりまえじゃないか!火の精霊、フレイアの人選だぞ!まさに適材適所!光の加護を受けているきららを瞬時に城へ送り最善のパーティで乗り込ませる。そして、魔石撃破!これは精霊界に戻ったら長老に報告したらきっとなにかいいことが・・・」
 ウシシッっと笑うフレイア。いや、そんないいものではないと思う。実際。
「う、うっぅぅん・・・」
「そら!起きろ!そらら!!」
 マッシュがそららの身体を揺さぶる。
「えるさま?」
 ゆっくり目を開けるそらら。
「そら!痛いところはないか!?大丈夫か?」
「んー・・・。あ!!私、確かエドに蹴られて・・・え!?この血なに!!」
 ぼーっとした顔で思い出していたそらら。
 その時に不意に目に入った自分の胸元に付いてる血に驚いていた。
 どうやら、噛まれたことは記憶にないらしい。
「フラン、首の件は黙ってなさいよ」
 うん、とうなずくフラン。
「どーしたの?」
 手を振りながら『別に何でもないよ』と笑ってかわす私たち。
「そー言えば、魔石はどうしたの?」
 ギクッ!!
 ・・・
 そっと逃げるフランの左手を握って離さない私。手を引っ張って『答えなさいよ』、と合図を送る。
「あ、あー。魔石ね。あれは・・・結果的には壊れたよ」
 結果的に。間違ったことではない。
 実際に壊れてたし。嘘ではない。
「すごい!よく壊したね!あんなの。どうやって壊したの?」
 2体の精霊をあわせ、すべての視線がフランに集中する。
 フランを捕まえている右手が彼に何回か引っ張られたが、私は手を放しそららの方に逃げた。
 すこし、かわいそうな気もしたがそこはそれ。この視線に私は耐えられない。
「魔石を壊そうとしたら光におおわれ」

 ドオゴオオオオオオォォォォォォンンン!!!

 私たちが話しているうちに城の一部が吹っ飛んだ。
「あれは・・・私の部屋のあたりか?」
 マッシュが爆発した場所を見る。
「あ、忘れてた・・・」
『なにを?』
 精霊コンビがこっちをなにかイヤそ~な顔でこっちを見る。
「魔石は壊れたんだけど・・・あれが」
 私が指さす方向には、さっきの赤髪の男が城のむき出しになった壁に立っていた。



「うわっ!!」
『キャー!』
 それは一瞬だった。
 男が私たちの中心に現れたかと思うと、一気に爆風が男を中心に吹き荒れた。
 フランと、私とそららはバラバラに飛ばされてしまう。
 アリシアとマッシュは精霊の加護があり爆風には耐えてはいたが、正直アリシアの方は危なかったようだ。
「おぉ?ここにも女がいるじゃねぇか?若い女はかんげいすいるぜぇ?」
 下で口をなめまわし、アリシアを欲しそうに見る赤髪の男。
「貴様、何者だ」
「あんだぁ?てめぇ。ジジィはすっこんでろよ」
「マッシュ様、こいつ。魔族ですよ!」
「アリシア、気を付けて。こいつ。強いよ・・・。さっきの魔獣の何倍も」
 精霊は二人をかばうように前衛に出る。
「んだぁ?このちっこいのにダリアンドは負けたのか?ったく使えねー犬だな。クソ犬が」
 そう言うと無造作に首のない身体を蹴り上げる。
 それは王国の上空に飛び、私やそら、フランも見ることができた。
 男は右手に生んだ炎を魔獣の亡骸に投げつける。
 魔獣は炎の包まれ、火の玉になり落ちてくる。
「弾けろ!!」
 パチンッと指を鳴らす。

 ウ"ウ"ウ"ウ"ウ"ゥ"ゥ"ゥ"・・・バチン!!

 鈍い音を出しながら、火に包まれた魔獣の身体は微塵に砕け散った。
 アレクサンドリア中に腐った魔獣の身体。体液、内臓が降り注ぐ。
「おー!!きれいだなぁ。おい?花火はこうじゃないとなぁ」
 大声で高笑いしながらヘラヘラ笑う男。
「さいっていのゲスね・・・」
 私がエルドロール、いや、マッシュの後方でボソッと呟く。
「・・・あぁあ??」
 高笑いをやめて、チラッと赤い瞳から凍りつくような冷たい視線が私に送られる。
「そこの外野、うっせぇんだよ。クソ虫が・・・」
 男が私に手を向ける。
「お、おね―」
「しま―」
 アリシアとマッシュが手を出すよりも早く、目に見えない何かが私を襲う。
 今まで感じたこともないような突風で私はその場から吹き飛ばされてしまう。
「きららっ!!シルウィア!どうにかならんか!!」
「そ、そんな。僕には無理ですよ」
「フレイア!!」
「・・・」
 首を横に振るフレイア。
 私は一瞬でお城の方まで飛ばされ、空からアリシアたちを見ていた。
 私をここまで連れてきた風は次第にその力を無くし、私を押し上げるものはなくなった。
 身体が、地面に引き寄せられる。遠くにエルドロールの屋敷。いや、マッシュの屋敷だったのか、私たちの家が見えた。短い間だったけど、この世界で思い出がある我が家。
 下降していく私の眼にはやがて屋敷は見えなくなる。
 パラシュートがないスカイダイビングだった。落ちる速度はドンドン加速していく。
 私の身体は、お城の前。城門あたりにそのまま落下していった。
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