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2巻
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しおりを挟む第2話 宰相府
大地の丘のイベントをクリアして、すぐに帰還石で学園に戻ってきた。
学園と王城には直通の転移陣があるんだが、転移の許可は俺だけにしか下りなかった。
本を届けるくらいで四人分の転移陣の使用許可は出せないらしい。俺たちのクラスの担任であるバダン先生がそう言うのも納得できるので、俺一人で王城に行くことにした。
転移陣のある学園長室から王城の入り口に飛ぶと、六人の近衛騎士が待機していた。
近衛騎士は、魔法攻撃力を上げる高価な装備に身を固め、杖と剣を佩いている。王国の近衛騎士団は最高の魔法騎士団であると他国まで勇名をとどろかせているんだ。
俺が学園の通行許可書を見せると、ビシッと全員一斉に敬礼した。
「スノウ子爵家嫡子ジャック・スノウだ。宰相閣下に至急、面会を希望する」
「はっ! ご案内いたします」
近衛騎士の小隊長さんが王城の奥へと俺を案内してくれる。王城の中は紅いふかふかの絨毯が敷かれ、華麗な装飾が施された白い石の壁には花が飾られていた。
階段を何度も上がった。上層部分が王宮と呼ばれる場所である。おいおい、どこまで奥に行くんだよと思い、小隊長さんに尋ねると、宰相府は王宮に一番近い階にあるらしい。衛兵と近衛騎士の敬礼を受けながら奥に突き進む。
窓から外の景色が見えた。王城の上層階は王都全体が見渡せるくらいの高さがあるな。廊下には近衛騎士が並んで警護している。
近衛騎士団の小隊長さんに案内された扉の前に立つ。プレートには「執務室」って書いてあった。ここが宰相の執務室か、緊張するな。
そんな俺の緊張を無視して、小隊長さんは執務室のドアをコンコンとノックする。「入れ」との重々しい声がして室内に踏み込む。宰相は正面の奥の机に座っていた。
その左右に五つずつ机が並んでおり、十人の宰相府の官僚が座っていて書類の山を高速で処理している。
宰相の左隣の机ではシスティナが書類を分けていて、そのシスティナの机にセシリアはお茶を置いていた。着ている緑のエプロンドレスが可愛いな。
セシリアを見て癒されていたら、宰相が書類をバシバシ叩きながら、次々に近衛騎士を呼び寄せて怒鳴り続けていた。
「なんだこれは! 金額が違う! あの馬鹿どもは目が腐っているのか! おい、そこの騎士、税官どもに水をぶっかけて来い!」
「こんなに予算を出せるかっ! そこの騎士、将軍にこの書類を叩きつけてこい! ついでにフルフレアの一発でもかましてこい! なーに奴なら死にはしない!」
「白髪が増えるから辞めたいだと! この程度の仕事で白髪が増えるなら私はとっくに真っ白だ! そこの騎士、こいつの頭をファイアボールで焼いてやれ! 髪がなければ白髪など気にしなくていいからな!」
ここは戦場のようだった。
以前システィナから聞いた話では、宰相は昼まで諸侯会議、夕方まで書類整理と行政処理、夜に貴族と交渉して、朝まで執務をするらしい。今は日暮れ前で一番忙しいときみたいだ。しかし、宰相はいつ寝ているんだろう。
宰相の怒号を聞いていた高級官僚の一人も、宰相の体を心配しているみたいだ。
「閣下、そんなに働かれては体に障ります。セシリア様、閣下にお茶のおかわりを!」
「うん、すぐに紅茶を入れるね!」
セシリアも心配そうな顔で、パタパタと宰相府の奥の部屋に消えていく。この状態では声もかけづらいな。宰相が指示を出し終わったタイミングを見計らって小隊長さんが敬礼した。
「ジャック・スノウ様が宰相閣下にご面会したいと……」
「何だと! 君は下がれ」
「はっ! 失礼いたします」
不機嫌な宰相の声に、小隊長さんは逃げるようにドアから出て行った。
俺は十人の宰相府の高級官僚からすごい目で見られている。文官って騎士とは別の威圧感があって怖いな。
宰相が立ち上がり、システィナと一緒に駆け寄ってくる。俺は宰相に敬礼して貴族の挨拶をしようとした。
「宰相閣下には……」
「さっさと要件を言ってくれ。君の挨拶など気持ち悪い。何か厄介事かね」
「……魔王に関する二冊目の本を偶然発見したので……」
「ちょっと貸しなさいよ。なに、短剣の書……。確かに魔王に関する本ね」
この伯父と姪は、人の話を最後まで聞いてくれよ。
システィナに奪い取られた本が宰相府の官僚に回し読みされていく。宰相府の官僚たちは古代帝国語を読めるみたいだ。
すごいなと感心していたら、宰相が腕を組んで目を細めてきた。
「君が見つけて持ってきたのか。それで目的は何かね?」
俺が王国を脅そうとしてるとでも思ったのだろうか。俺は慌てて弁解する。
「少し違います。パーティで活動中に発見しました。目的はもちろん王国のために決まっていますよ。王国を支える宰相閣下に……」
「君のパーティにいるセシリア様が王族であられることを私は神に感謝するよ。で、見返りは何かね? 早く言いたまえ」
俺の信用度が低すぎて涙が出そうになるな……。
最高の騎士になるために王国に力を貸そうって思ったのは本当なのに。まあ、前科があるから宰相が信用してくれないのもわかるけどな。
「王国北部を守護するスノウ子爵家の嫡子として当然のことをしたまでです。って、俺が王国のために働いたのがそんなに変ですか……」
俺のセリフを聞いて、宰相とシスティナはポカンと口を開けていた。宰相はメガネを指で押さえながら頭をかいている。
「それは失礼した。この本に書いてある短剣を探し出せば、魔王の存在が明確になるだろうな。君のパーティには褒賞を用意する。システィナは解読を優先で、他は仕事に戻れ」
「はい、伯父さま。でも、その前にジャックさん、三冊目はどこにあるのかしら?」
システィナが探るような目で俺を見た。
封印の書と短剣の書は、両方俺が見つけてきたのだ。三冊目の書の場所も俺が知っていると思っているのだろう。
一応、知っているけど、イベントやクエストには発生時期があるので、すぐに手に入るわけではない。そもそも本家のガルハンでは、魔王に関係のある書は重要ではなく、クエストのついでに入手する感じでしかないのだ。
とはいえ、クレイがゲームと同じ行動をしていたとするなら、ストーリー上で手に入る三冊目の魔王に関する書「中級回復薬の書」のイベントはすでにクリアしているだろう。
■「中級回復薬の書」のイベント
【発生条件】
・エドワードとカインとパーティを組む。
【ストーリー】
組んだ初日にダンジョン二階で赤い宝石を発見する。その宝石を拾うと大量のモンスターの部屋に転移させられる。
その部屋のモンスターを全滅させ、「中級回復薬の書」を入手する。
ゲームでは、クレイが中級回復薬の書を古本屋に売ってしまうんだ。
そして半年後に、クレイの知り合いの薬師の娘がその本を買って、ハイポーションなどの中級回復薬が学園で売られるようになるという、実は結構重要なイベントだ。
本は高価なものだし、古本屋の数なんて王都でもたいした数じゃない。休日にでも自分で探せばいいだけだ。今、報告すると大変な騒ぎになるだろうから、ここは惚けておこう。
俺は首をかしげてシスティナに告げた。
「さあ? 俺が知るわけないだろ」
「嘘ね。人は嘘をつくときに目を逸らすけど、ジャックさんは逆に睨みつけるからわかりやすいのよ」
「君は誤魔化すときに右手を握りしめる癖がある。気をつけたまえ」
システィナの観察眼がすごすぎるし、しかも宰相のおまけ付き。
言い訳するのは無理だな。この二人から逃れるのは難しいし、どうしようかと考えていたら、紅茶を宰相に渡しにきたセシリアまでお願いしてきた。
「ジャック、他に本があるなら私に教えて」
「たぶん、王都の古本屋にあると思う」
セシリアに聞かれては、素直に報告するしかない。
俺の言葉を聞くやいなや、宰相が舌打ちしながら近衛騎士を呼びつけて命令を下す。
「近衛騎士団を総動員して王都の古本屋を調べろ! 魔王に関連する古代帝国語の本を探せ」
おいおい、古本屋に近衛騎士を出動させるのかよ。
近衛騎士団は王城の守りの要であり王国の切り札ともいうべき戦力だ。近衛騎士団が出動すれば王都中の騒ぎになるぞ。
宰相に呼び出された近衛騎士もそれを心配しているようだ。
「古本屋に近衛騎士をですか!? 他の騎士団の騎士でいいと思いますが……」
「私に同じことを二度言わせるな。仮にも近衛騎士なら古代帝国語を読めるだろ。今日中には片付けろ」
「はっ! 今日中までに魔王に関連する古代帝国語の本を探します!」
近衛騎士は敬礼して扉の向こうに消えていく。
「本を発見するまで君はここにいてくれ。そんな嫌そうな顔をしなくても最高の待遇でもてなすよ」
俺は帰ろうとしたのに、宰相にがっちり肩をつかまれて椅子に座らされてしまった。それはいいとしても、高級官僚二人の見張りがつき、無言で俺を睨みつけてくる。
「えっと、俺って何かしました?」
「営業許可書の件で王都を混乱させたな。おかげで俺の髪の毛が百本は抜けたなあ。いや、俺は全然気にしていないけどな!」
「国宝の『黒太子の長剣』を隠したよな。そのせいで私の髪の毛が真っ白になったよ! もちろん、それくらいで怒ったりはしてないが!」
高級官僚の二人は気にしているし怒ってるよ。
セシリアが入れてくれた紅茶の香りが俺の救いだ。
幸いなことに俺は、嫌な視線を受け流すのに慣れている。官僚たちのイライラ視線を華麗にスルーして、俺は紅茶を飲んだ。
二時間ほどで、さっき飛び出していった近衛騎士がドアをノックして戻ってきた。片手に本を持っているな。その近衛騎士が宰相に敬礼して報告を始める。
「報告します! 古本屋を全部調べ終わりました。魔王に関連すると思われる『中級錬金術の書』を古本屋で発見しました!」
さすが近衛騎士、仕事が早い。
「ご苦労だったな。どうやら本当にあったようだ。さて、君と話し合う必要がありそうだな」
宰相が俺を睨み、官僚たちが俺を包囲した。何かヤバい事務所に来たような感じだ。
俺は顔を引きつらせながら言い訳を考えていた。それにしても、本当にクレイは古本屋に売っていたんだな。
「ん? あれ? 中級錬金術の書?」
「本の表題にはそう書いてある。状態異常の攻撃アイテムの書だと思うが……、それがどうかしたのかね?」
宰相が近衛騎士から本を受け取り、古代帝国語で書かれたその表題を俺に見せてくれる。古代帝国語なんて読めないからスキルの「鑑定」で確認すると、確かに「中級錬金術の書」と表示されていた。
中級錬金術の書は、ガルハンに登場していない。状態異常の攻撃アイテムなんてゲームの攻略本にもなかった。俺は近衛騎士を見上げて尋ねる。
「この書は、誰が古本屋に売ったんだ?」
「ハンターの『赤い風』のメンバーですね。古本屋の主の話では、元の持ち主は王都にあるダンジョンで発見したらしく、読めないからと売ってきたそうです」
ハンターが王都のダンジョンで入手だと……。あれ? なら「中級回復薬の書」はどこに消えたんだ。まさかクレイはイベントをクリアしていなかったのかな。
そんな風に俺が考え込んでいると、宰相が近衛騎士に険しい表情で命令した。
「そいつらを拘束して、入手した経緯を報告させろ」
「はっ! 失礼します」
近衛騎士が最敬礼して部屋から出て行き、全員の視線が俺に集中した。
いや、だから俺は、中級錬金術の書なんて本当に知らないから答えようがないんだ。
でも現実に、俺が言った通りに古本屋で発見されたわけだから、言い訳するのが難しくなったな。
どう説明しようと考えていたら、システィナが俺に詰め寄って襟元を締め上げてきた。苦しい。それにキスしそうなくらいシスティナの怖い顔が近い。セシリアなら大歓迎なんだが……。
「なぜ古本屋に魔王に関する書があると知っていたの? さっさと吐きなさいよ!」
「システィナちゃん放してあげて。ジャックが死んじゃうよ」
「セシリア様はこの男を甘やかしすぎなんです!」
俺の襟をつかんで締め上げるシスティナをセシリアが止めてくれた。
げほっ、助かったぜ。目を吊り上げて怒っているシスティナに俺は抗議の声を上げる。
「喉を締め上げたら声が出ないだろうが! クレイとエドワード様とカインが中級回復薬の書を持っていたのを見たような気がしただけだよ。それで古本屋に売ったと思ったんだ」
「見たような気がしただけ? それを早く言いなさい! 誰かエドワード様たちから事情を聞いてきて!」
システィナが大声で叫ぶと、高級官僚の一人が宰相府の外に駆け出して行った。
何とか誤魔化せたなと思っていたら、俺への包囲が狭まってきた。どうやら、まだまだ俺は逃がしてもらえないらしい。
宰相が冷ややかに俺を見つめている。頼むから無言の圧力をかけるのは勘弁してくれよ。こっそりため息をついて俺は椅子に座った。
そのまま三十分ほど待っていると、高級官僚が帰ってきた。
でも、その報告は俺にとって予想外だった。
「申し上げます! エドワード様がダンジョンで読めない字の書を手に入れたのは確かなようです。その書はクレイという学生付きの騎士であるロベルトという者が所持していたそうですが、現在、学園から逃走中で行方がわかりません!」
「なんだと! 草の根分けてもその男を探しだせ!」
宰相が近衛騎士を呼び出し、次々と指示を出していった。
ロベルトって、スノウ子爵家の元執事で、俺に嫌がらせしてきたロイドが使ってた偽名だよな。
エドワードたちに見放されてパーティを解消されたクレイは、ロイドを騎士として連れたまま、俺の兄弟のアレンとアンリとパーティを組んだはず。しかし、アレンとアンリは、使えない能力の「精霊の種」を食べさせられたことを恨んで、ロイドを始末しようと血眼になってる。
ロイドは仮面を被って正体を誤魔化していたが、さすがに同じパーティだと正体がばれてしまうと思ったのだろう。すぐに学園から逃亡してしまったらしい。
そして、そのときにクレイの装備以外の所持品を持って逃げたようだ。まさかロイドが中級回復薬の書を持っているなんてパターンは予想していなかったよ……。
宰相がロベルトを指名手配しようとしているな。俺にとってもこの展開は危なくて、ロイドがスノウ子爵家の騎士や衛兵に捕まると、ロベルトがロイドだと判明してしまう。ロイドは俺の執事だったから、スノウ子爵家では顔を知らない者はいないだろう。
そうなると、ロイドは俺の母親のところに連れて行かれ、母親の「風雷の魔法書」を奪ったのがロイドではなく俺だということがバレてしまう可能性があるな。今まで止まっていた俺への嫌がらせがまた始まるかもしれない。
そういえば今さらだが、母親の反応が実の息子に対するものとは思えないほどおかしかった。俺の悪役補正のせいだったのか、それとも何か憎む理由でもあるのか。
ともかくこれを放置していたら、せっかく処刑ルートから脱出したのに、母親の罠にハメられてバッドエンドになるかもしれん。調査する必要があるな。
近衛騎士に指示を出し終わった宰相が、つかつかと俺の前に来て見下ろしてくる。
「魔王に関する書のことは私に任せたまえ」
「それはいいけど……」
「短剣の書を発見した君のパーティには十分な褒賞を出そう。今日は帰りなさい」
「はい、失礼します」
宰相は俺にかまっている場合ではなくなったようだ。俺はセシリアに手を振りながら宰相府をあとにした。
宰相の命令でロイドの捜索が行われた。
しかし四日を過ぎてもロイドは捕まらなかった。一度、スノウ子爵家の衛兵が発見したのだが、逃走スキルで振り切って逃げたらしい。
どうやらロイドは王国の北に向かっているようだ。
王国の北には帝国がある。西に獣人の国エストリア、東に鳥人の国ハイランド、南に魚人の島の連合国があり、いずれも友好国だ。獣人、魚人、鳥人族の中にはモンスターとそっくりな部族がいて、過去、帝国に弾圧と差別を受けた部族が立ち上げた国でもある。
国同士は友好関係にあっても、人族を敵視する個人的な感情までは抑えきれない。そのため人族が王国と帝国以外で暮らすのは難しいんだ。だからロイドは帝国に逃げているのだろう。
第3話 変装は仮面が最高!
短剣の書を発見してから五日目の朝、俺はルッツとともに宰相府に呼び出された。ラルフとザックをお供にして宰相府に向かう。
ちなみに三日後に学園の合宿が始まるので、今日から休校なんだ。だから朝早くから宰相府に呼び出されたわけなんだが、いったい何の用だろう?
疑問に思いながら宰相府のドアを開けると、白いセーラー服を着たシスティナが俺たちを出迎えてくれた。
そして俺たちを壁際に整列させ、紙を取り出して読み上げる。
「短剣の書の発見の褒賞として、ルッツさんとザックさんは騎士に叙勲されます」
「僕と兄さんが騎士に、ですか!?」
「……!?」
ルッツとザックが飛び上がって驚いている。
二人は元の身分があまり高くないので、騎士団に入るか親から家督を譲られるかしないと正式に家名を名乗れないんだ。叙勲されれば、家名を名乗れるし装備さえ揃えれば試験なしで好きな騎士団に入れるなど、いろいろな特典がある。ルッツたちにとって最高の褒賞だろう。
「騎士の叙勲式は明日行います。二人は今から着替えて礼儀作法の練習ね。私が指導するわ」
「えっ……、システィナさんが教えてくれるんですか……」
「……」
ルッツとザックが肩を落とした。
二人は一日中叙勲式の礼儀作法を叩き込まれるらしい。大変だけど頑張ってくれ。
ラルフが肩を落としたルッツたちを見て、不思議そうな顔で聞く。
「叙勲されるんなら、礼儀作法くらい我慢したらいいんじゃね?」
「その礼儀作法が大変なんだよ。叙勲式は国王陛下に謁見してナイトの紋章をもらうんだ。そのときにお辞儀の角度から返答の仕方、誓いの立て方まできちんとしていないと、最悪、不敬罪で処罰されるんだぞ」
「へー、王国は作法に厳しいって本当だったんだな。んで、俺とジャックの褒賞は何なの?」
ラルフが軽い口調で尋ねると、システィナは机の上に革の袋を二つ置いた。
「ジャックさんとラルフさんの褒賞は、金貨二十枚よ。受け取ってね」
「おおっ! ジャック、帰る前に王都の猫屋に寄っていいか?」
「好きにしろ」
ラルフに金貨を渡しても、猫のルーンのエサになるだけだよな。だったら猫の缶詰め一年分とかの褒賞にしたほうがいいんじゃないか。
金貨の入った袋を受け取りながらそう思っていたら、システィナが短剣の書と中級錬金術の書の解読が終わったと伝えてきた。
中級錬金術の書には、状態異常攻撃のアイテムのことが書かれていたらしい。
実は三日後に始まる学園の合宿で、魔王四天王の一人が現れるイベントがある。そのときに使えるかもな。
「システィナ、中級錬金術の書のことなんだけどさ。そこに書かれていた状態異常の攻撃アイテムってどんなのがあるんだ?」
「毒状態にする『埋伏の毒薬』と、麻痺状態にする『金縛り』の二つね」
「それ欲しいな。ちょっと試したいことがあるんだよ。用意してくれないか?」
俺が拝むようにして頼むと、システィナが渋い顔で考え込む。
「うーん、材料が多くて集めるのに苦労するのよね……。ジャックさんが変なことに使わないのなら、考えてもいいのだけれど」
「変なことに使わないと誓うよ」
さらに俺が真剣な顔でセシリアの名前を出して誓いを立てると、「それなら良し」とシスティナが大きく頷いてくれた。
俺の評価が低すぎて泣ける。毎回、セシリアに誓わないとシスティナに信じてもらえないのだろうか……。まあ、状態異常の攻撃アイテムが手に入るならいいかな。
俺はラルフに「帰るぞ」と言い、ルッツとザックに別れを告げて宰相府をあとにした。
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