上 下
86 / 140
連載

163.日常日常

しおりを挟む
 いろいろどたばたしていた誕生会も終わって、私たちの生活も日常に戻ってきていた。
 王子さまの誕生会ということで、貴族学校のルーヴ・ロゼは数日間のお休みになってたんだけど、今日から学校がまたはじまった。

「助けに来てくれてありがとうね」

 私は登校の折に、ソフィアちゃんたちに改めてお礼を述べた。

「そんなの当たり前だろ。本当は……傍にいてやれたらよかったんだけどな」

 いの一番に助けにきてくれたリンクスくんは、照れながらもそういってくれた。
 ソフィアちゃんとミントくんも不審がられないように答えを返してくれる。

 2人はもちろんあのときの顔を隠した魔族っぽい奴が、私だって気づいてくれていた。
 あのあと、シュバッとリンクスくんの前から逃走したんだけど、同じ速度でUターンして会場に戻ったら、なんとか誤魔化せたみたいだった。

「クリュートくんもありがとうね」

 クリュートくんにもあらためてお礼を言っておく。
 助けに来てくれたみたいだったから。

「僕は魔族に襲われた市民を助けにきたんです。あなたじゃなくて。勘違いしないでくださいよね」

 なるほど~。。

「それも偉いね!」

 市民を守ろうとするなんて貴族として立派なことだと思う。
 クリュートくん偉い。

「っ……」

 褒めると、クリュートくんはすねたようにそっぽむいた。
 うーん、私が褒めたことでプライドに障ってしまっただろうか。気位の高い子を相手にするのはいろいろとむずかしい。

「スリゼルくんもありがとう~」
「エトワさまの護衛として当然のことをしたまでです」

 スリゼルくんはいつもの調子に戻っていた。
 あのときのハチとのやり取りについてはどちらにも聞けてない。そもそも私が聞いていいことなんだろうか。

 踏み込んでいいものか迷う。
 スリゼルくんは表面的な付き合いだけで、私がそれ以上に近づくことを拒絶してるように感じるときがある。

 踏み込んでいいものか、そっとしておいてあげるべきか。
 どうすればいいのか、私も迷ってしまうのだった。


***



 そんなこんなでルーヴ・ロゼの授業は平穏に終わって、パイシェン先輩から三回ほどはたかれたけど、お茶会も終わって、ポムチョム小学校へ。

「エトワちゃん、おはよー」
「おはよー、リリーシィちゃん」

 リリーシィちゃんと挨拶して、いつも通りの日常がはじまると思ったら、今日はちょっと様子が違った。
 ウィークマン先生が知らない子を連れてきたのだ。

 亜麻色の髪をした目つきの鋭そうな女の子。

「だれー?」
「だれだろう」

 首をかしげる私たちにウィークマン先生が言う。

「今日はうちの学校に転校生が来てくれたよ。これからみんなと一緒に勉強をしていくことになるから仲良くしてあげてね」

 おおー、転校生かー。
 小学生にとっては大きなイベントにみんなの目がきらきらする。

「よろしくね!」
「仲良くしようねー!」

 ポムチョム小学校の子たちはみんないい子たちばかりだ。
 まだ自己紹介もすんでないけど、転校生の子に笑顔を見せて、仲良くしようと声をかける。

 しかし――。

「それじゃあ、エルフィスさん。自己紹介をお願いします」
「ふんっ、アホ面のガキばっかり揃った学校ね。本当に冒険者を目指してる教室なの?」

 転校生の子にぶっちぎりで仲良くする気がなかった。

「なんだとーっ!」
「むきぃー!」

 思考回路がシンプルなポムチョム小学校の子たちは、すぐにエルフィスちゃんの言葉に顔を真っ赤にする。


「私はね、剣で名の知れた商家に生まれた娘なのよ。引越しで仕方なくこの学校に来ることになったけど、本当はこんなボロ学校に通うべき身分の人間じゃないの。あんたたちみたいなバカに足を引っ張られるのはごめんなの」

 いや、でもここまであしざまにいわれたら大人でも怒ると思う。

「ボロ学校じゃないもん、ちょっとボロだけどいい学校だもん!」

 リリーシィちゃんも我らが学校をバカにされて顔を真っ赤にする。

「お前、いい加減にしろよ! バカとかアホとか俺らのことをよく知りもしないで好き勝手いいやがって!」
「ふん、言うわよ。見るからにへっぽこで弱そうなんだもん」
「そこまで言うなら、お前はかなり強いんだろうな!」
「当たり前でしょ、剣の名家の娘よ。あんたたちの100倍強いわよ!」

 100倍とはこれまた子供っぽい。
 そのまま喧嘩になりそうだったので、1人、冷静な私がその場を諌める。

「まあまあ、みんな落ち着いてね? 喧嘩してもいいことないよ」

 すると、エルフィスちゃんが私を睨んで口を開いた。

「何よあんた。1人だけ私は大人ですみたいな雰囲気だして。何よその間延びしたしゃべり方、まったり系でも演出してるの? キャラ作ってんじゃないわよ」

 ズガーン――。
 エルフィスちゃんのストレートな暴言が私にも容赦なく放たれた。

「あぁ、エトワちゃんが泣いちゃった。ひどいこと言うのやめてよ」
「ふんっ、小3にもなってキャラ作ってんじゃないわよ」

 キャラ、作ってないもん……。
 ……ちょっとしか。

「エトワちゃん泣かないで!」
「作ってない…………ちょっとだけしか……」
「あ、やっぱり、作ってたんだ……」
「そっか、やっぱり……」
「……ちょっとだけだもん」

 ポムチョム小学校のクラスメイトたちが次々と合点がいったように頷く。

『作ってたのか、やはり』

 ……。

 ……ちょっとだけだよ。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。

束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。 だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。 そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。 全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。 気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。 そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。 すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈 
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

妹だけを可愛がるなら私はいらないでしょう。だから消えます……。何でもねだる妹と溺愛する両親に私は見切りをつける。

しげむろ ゆうき
ファンタジー
誕生日に買ってもらったドレスを欲しがる妹 そんな妹を溺愛する両親は、笑顔であげなさいと言ってくる もう限界がきた私はあることを決心するのだった

三年目の離縁、「白い結婚」を申し立てます! 幼な妻のたった一度の反撃

紫月 由良
恋愛
【書籍化】5月30日発行されました。イラストは天城望先生です。 【本編】十三歳で政略のために婚姻を結んだエミリアは、夫に顧みられない日々を過ごす。夫の好みは肉感的で色香漂う大人の女性。子供のエミリアはお呼びではなかった。ある日、参加した夜会で、夫が愛人に対して、妻を襲わせた上でそれを浮気とし家から追い出すと、楽しそうに言ってるのを聞いてしまう。エミリアは孤児院への慰問や教会への寄付で培った人脈を味方に、婚姻無効を申し立て、夫の非を詳らかにする。従順(見かけだけ)妻の、夫への最初で最後の反撃に出る。

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。