公爵家に生まれて初日に跡継ぎ失格の烙印を押されましたが今日も元気に生きてます!

小択出新都

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 そうして私はクリュートくんのご実家での生活を私は平穏無事に終えたのだった。

 え? 何か語らないのかって?

 いやいや、本当に平穏だったからねぇ。強いていうなら、クリュートくんが「なんでウチで実家みたいにごろごろしてるんですかねぇ? 早く1週間がすぎて出ていってくれませんかねぇ」ってやたら言ってたのと、クリュートくんのお父さんが髭のナイスミドルだったことぐらい。お母さんは家庭的で優しい人だった。

 クリュートくんのお母さんのお手製のシチューまた食べたいなぁ。
 なんてことを言ったら、クリュートくんのお母さんとお父さんに喜ばれて、クリュートくんからは「まさか僕の家に居着くつもりですか!?」と迷い込んだ野良猫みたいにシッシッされた。

 クリュートくん、キザなところはお父さん譲りかもしれないけど、なんだかんだ根が素直なのはお母さんの影響かもしれない。
 そんなことを思った滞在でした。

 そうして私は次のスリゼルくんのご実家を訪れることになったんだけど……
 その日、空は曇り模様で、今にも雨が降ってきそうだった。

 スリゼルくんはといえば、予想通りといえば予想通り、迎えにきてはくれず、私は使用人さんに案内されて飛行船に乗り込むことになった。
 それからしばらく、飛行船に揺られて、たどり着いたのがスリゼルくんのお屋敷である。

 その第一印象は、暗いということだった。

 急に訪れた他人の家に、そんな印象を抱くのは失礼かもしれないと、私も思った。
 だけど、本当にシンプルに暗いのだ!

 空は曇り模様で、おまけに日が暮れかけているのに、窓から漏れ出る灯りか、片手でも数えられるほどしかない。普通、貴族のお屋敷というのは、使用人さんたちが働いていて、その分の明かりも灯っているものだ。なので結果的に、明るくなる。
 なのに、これは……数人しか暮らしていないみたいだ。

 そう思っていたら、すぐに謎は解けた。
 ここまで案内してくれた使用人さんたちが、屋敷の前で踵を返したのだ。

「あれ、 入らないんですか?」
「私たちは別のお屋敷で生活してます。本邸に入るのは、アリエル家の方からの指示があったときだけです」

 アリエル家というのはスリゼルくんのご実家の名前だ。
 つまり、そういうことらしい……

 使用人の人たちはいなくなり、私はポツンと屋敷の前に取り残されてしまった。

 とりあえず、大きな扉の前まできて、コンコンと叩いてみる。
 それから、ドアベルがあることに気づいて、カランカランと鳴らしてみた。

 しばらくして、人の気配が近づいてきて、扉が開いた。
 スリゼルくんが迎えにきてくれたのかな、と思ったら、初めて会う人が立っていた。

 ただその初めて会う人は、スリゼルくんのお父さんだと、紹介されずともわかった。本心を誰にも話さず心のうちに隠してしまうような、そんな雰囲気がよく似ていたからだ。

 けど、私を見つめる瞳は、スリゼルくんと比べるとだいぶ優しかった。
 失格の紋のおかげで自己紹介はいらない。

「エトワさまですね。ようこそ我がアリエル家へ。歓迎します」

 そういうわけで、スリゼルくんのお父さんによる歓迎を受けたあと、屋敷の中を歩きながらお父さんは自己紹介してくれた。名前はラザラスさん、年齢は私のお父さんと同い年、それ以外の情報は休日の趣味も好きな食べ物もわからない。

 ラザラスさんと歩く屋敷の中は、やっぱり暗かった。
 私がそんな印象を抱いていることには、ラザラスさんも気づいていたのだろう。

「申し訳ありません。家族以外は暮らしていないので、余計な灯りはつけないようにしてるのです」

 そういって謝られてしまった。

「いえいえ、そんな……。スリゼルくんはどうしていますか?」

 私は家に遊びにきても、顔すらだしてくれない薄情な少年のことを話題にだした。

「スリゼルなら部屋で勉強をしています。この家に帰っている時は、いつもそうしています」

 スリゼルくんはルヴェンドのお屋敷にいるときも、部屋でよく勉強している。そういうときのスリゼルくんはピリピリしていて、晩御飯で呼びにきても、どこかイライラしたような気配を、威嚇するように私にのぞかせる。私は気づいてないふりをしているけど。
 これは邪魔しないようにしなきゃな、と私は思った。
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