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剣を使えばいろんなものが解決できる。でも、剣を振るうには周囲の環境が悪すぎる。
周囲の環境に影響を与えず剣を使う方法。
これがなかなか難しい。
もう、いちかばちか剣で突っついてみようか。
いやいや、ヤケになるのはまだはやい。
思考が行き詰まってしまったときは、大きな視点で考えるといいという。
大きな視点で……大きな視点で……大きな……何かで……
あのぬるぬるを……包み込むように!
「むむむ」
私は妙案を思いついてしまった。
『それは……できるのか……?』
私の妙案に天輝さんは不安そうな声を漏らした。
いつもできるか、できないかはっきり伝えてくれる天輝さんとしては珍しい。
でも、できないと断言しなかったってことは、可能性があるってことだ。
それなら、やってみよう。
とりあえず、リオンさんに話をつけないと。
私は水上を目指す。
すると水底にはりついたエンシェントゴーレムが、こちらにむかって口を大きく開いた。
『あちらから攻撃してくるようだ。水の衝撃波か』
天輝さんのいう通り、半球状の何かがこちらに向かって飛んできた。
私はそれを横に回避する。
水底に留まってなくて良かった。
あの攻撃を水底で受けてしまったら、ダムに悪影響が起きていたかもしれない。
私は何度も放たれる衝撃波を避けながら陸にでた。
リオンさんもすぐに私に気づく。
「無理そうかい!?」
「はい、今の状態だとちょっと!」
「わかった。しょうがない、爺さんも長くはもたないだろうし、あたし一人でなんとかしてみるよ」
「あ、待ってください。今の状態なら無理だけど、時間をもらえればなんとかできる可能性があるんです」
私の言葉を聞いて、リオンさんはすぐに頷く。
「わかった。任せるよ」
次の瞬間、地面が揺れた。
水底でエンシェントゴーレムが暴れているのが見える。
私を見失ったせいかもしれない。
どうすべきか迷っていたら、リオンさんが口を開く。
「あたしがあいつを引きつける。あんたはその可能性とやらをやってみな」
「でも……!」
移動力に優れる風や、この場所と相性のいい水の魔法が使える五侯家の子供たちならともかく、火の魔法しか使えないリオンさんが水の中でアレの注意を引きつけるのは大変なはずだった。
「あたしはあんたを信用する。だからあたしのことも信じな!」
真っ直ぐな瞳でそう言ってくれる。
私はなんとなく、リンクスくんのことを思い出してしまった。
私がいなくなって心配してないだろうか。
早く帰ってあげなければならない。
「はい! お願いします!」
リオンさんは私の代わりに、水の中へと飛び込んでいった。
私もすぐに行動を開始する。
まずやってきたのは丈夫そうなおおきな木のたくさん生えている森。
山の中なのですぐに辿り着く。
私はそこで剣を一閃、大量の木を切り倒す。
立派に育った木さんたちごめんなさい!
さらに剣を振るって、片っ端から大量の丸太をつくっていく。
ここまでは、自分でもやれるってわかっていた。
問題はここからだ。
この木材を組み立てて、私はあるものを作らなければいけない。
けど、木と木を繋ぐ道具は何もないし、たぶん準備できても強度が足りない。
だから、木の端っこをつなぎ合わせるように切って加工して、継ぎ合わせていかなければならない。
熟練の大工さんだけができる『木組み』と呼ばれる伝統工法。
私は熟練の大工さんじゃないけれど、神様からもらった天才的な剣の才能がある。
この才能さえあれば、きっとできる。
『できるのだろうか……』
天輝さんの不安そうな声を、私は上書きするように心の中で断言した。
(できる!)
私は二つの丸太を目標に定め、剣を振るう。
昔、一度動画で見ただけのうろ覚えの技法。二つの木がつなぎ合わさるように、正確に切らなければならない。
私の振るった剣が、瞬時に二つの丸太の端の形を変える。
私はその片方の丸太を持ち上げ、もう一方へと降ろしていく。
「できた!」
丸太同士はかっちりとはまり、一本の棒になってくれた。
喜ぶのも束の間、急いで次の作業へと入る。
同じように長い棒をたくさん作っていき、それを十字に組み合わせて補強していく。
カーブも作って、こうやって、ああして!
「よーし、完成!」
20分ほど経ってしまっただろうか。
私の目の前には、一面に木を切り倒された森と、巨大な木のザルができあがっていた。
私はそれをよいしょと持ち上げる。
よし、持ち上げても壊れないので、とりあえずは大丈夫そう。
早くリオンさんのところに戻らなければならない。
猛スピードで湖へと戻る。
湖では水の柱が、爆音と共に立ち上がっては消えていく。
リオンさんは水の中に潜り、エンシェントゴーレムの攻撃を水面側に引きつけながら戦ってくれていた。
相性の悪い水の中、おまけにこちらは攻撃できないということもあって、かなり苦しそうだった。
早く交代しなければ!
『冷静になれ、エトワ。私たちの仕事はヤツを水面まで引き上げることだ。注意が逸れているこの状態こそが最大の好機だ』
うん……確かに……
私はリオンさんに駆け寄ろうとした足を止め、湖畔づたいにゴーレムの背後に回る。
そしてザルをもって水へと飛び込んだ。
ゴーレムはリオンさんを狙っているために、こちらに気づいていない。
私はザルを構え、ゴーレムの背後から急接近する。
リオンさんの赤い瞳が私を見ている気がした。
ザルの大きさは十分。
私は加速して、ザルの先端を水底に走らせながら、サンショウウオ型のゴーレムを一気にすくい上げる。
「あら、えっさっさぁあああああああああああああああ!!」
ザルはゴーレムの体を捉える。
その重みで丸太の何本かが折れる感触がする。
でも、このまま持っていく!
私はザルを思いっきり振り上げると、ゴーレムの巨体はびっくりするぐらいの速さで、水面へと吹き飛ばされていった。
ゴーレムの体を水底から見送ると、向かった先にいるリオンさんがその体を踏み台に飛び上がる。
ゴーレムと共に湖の上空へと飛び上がったリオンさんの口元がニヤリと笑うのが見えた。
「やるじゃないかい! エトワ!」
リオンさんの掲げた右手から、ゴーレムの巨体を上回る巨大な五本の炎の爪が伸びていく。
『王獣炎爪(レオニスストライク)』
赤く燃え盛る炎の爪は、ゴーレムの体をバッサリと切り裂いた。
※水源とか木の耐久力とかいろいろツッコミどころあると思いますけど許してください。
小説版の一巻が8月31日まで無料公開してます。もし読み返したい方がいらっしゃったらよろしくお願いします。
周囲の環境に影響を与えず剣を使う方法。
これがなかなか難しい。
もう、いちかばちか剣で突っついてみようか。
いやいや、ヤケになるのはまだはやい。
思考が行き詰まってしまったときは、大きな視点で考えるといいという。
大きな視点で……大きな視点で……大きな……何かで……
あのぬるぬるを……包み込むように!
「むむむ」
私は妙案を思いついてしまった。
『それは……できるのか……?』
私の妙案に天輝さんは不安そうな声を漏らした。
いつもできるか、できないかはっきり伝えてくれる天輝さんとしては珍しい。
でも、できないと断言しなかったってことは、可能性があるってことだ。
それなら、やってみよう。
とりあえず、リオンさんに話をつけないと。
私は水上を目指す。
すると水底にはりついたエンシェントゴーレムが、こちらにむかって口を大きく開いた。
『あちらから攻撃してくるようだ。水の衝撃波か』
天輝さんのいう通り、半球状の何かがこちらに向かって飛んできた。
私はそれを横に回避する。
水底に留まってなくて良かった。
あの攻撃を水底で受けてしまったら、ダムに悪影響が起きていたかもしれない。
私は何度も放たれる衝撃波を避けながら陸にでた。
リオンさんもすぐに私に気づく。
「無理そうかい!?」
「はい、今の状態だとちょっと!」
「わかった。しょうがない、爺さんも長くはもたないだろうし、あたし一人でなんとかしてみるよ」
「あ、待ってください。今の状態なら無理だけど、時間をもらえればなんとかできる可能性があるんです」
私の言葉を聞いて、リオンさんはすぐに頷く。
「わかった。任せるよ」
次の瞬間、地面が揺れた。
水底でエンシェントゴーレムが暴れているのが見える。
私を見失ったせいかもしれない。
どうすべきか迷っていたら、リオンさんが口を開く。
「あたしがあいつを引きつける。あんたはその可能性とやらをやってみな」
「でも……!」
移動力に優れる風や、この場所と相性のいい水の魔法が使える五侯家の子供たちならともかく、火の魔法しか使えないリオンさんが水の中でアレの注意を引きつけるのは大変なはずだった。
「あたしはあんたを信用する。だからあたしのことも信じな!」
真っ直ぐな瞳でそう言ってくれる。
私はなんとなく、リンクスくんのことを思い出してしまった。
私がいなくなって心配してないだろうか。
早く帰ってあげなければならない。
「はい! お願いします!」
リオンさんは私の代わりに、水の中へと飛び込んでいった。
私もすぐに行動を開始する。
まずやってきたのは丈夫そうなおおきな木のたくさん生えている森。
山の中なのですぐに辿り着く。
私はそこで剣を一閃、大量の木を切り倒す。
立派に育った木さんたちごめんなさい!
さらに剣を振るって、片っ端から大量の丸太をつくっていく。
ここまでは、自分でもやれるってわかっていた。
問題はここからだ。
この木材を組み立てて、私はあるものを作らなければいけない。
けど、木と木を繋ぐ道具は何もないし、たぶん準備できても強度が足りない。
だから、木の端っこをつなぎ合わせるように切って加工して、継ぎ合わせていかなければならない。
熟練の大工さんだけができる『木組み』と呼ばれる伝統工法。
私は熟練の大工さんじゃないけれど、神様からもらった天才的な剣の才能がある。
この才能さえあれば、きっとできる。
『できるのだろうか……』
天輝さんの不安そうな声を、私は上書きするように心の中で断言した。
(できる!)
私は二つの丸太を目標に定め、剣を振るう。
昔、一度動画で見ただけのうろ覚えの技法。二つの木がつなぎ合わさるように、正確に切らなければならない。
私の振るった剣が、瞬時に二つの丸太の端の形を変える。
私はその片方の丸太を持ち上げ、もう一方へと降ろしていく。
「できた!」
丸太同士はかっちりとはまり、一本の棒になってくれた。
喜ぶのも束の間、急いで次の作業へと入る。
同じように長い棒をたくさん作っていき、それを十字に組み合わせて補強していく。
カーブも作って、こうやって、ああして!
「よーし、完成!」
20分ほど経ってしまっただろうか。
私の目の前には、一面に木を切り倒された森と、巨大な木のザルができあがっていた。
私はそれをよいしょと持ち上げる。
よし、持ち上げても壊れないので、とりあえずは大丈夫そう。
早くリオンさんのところに戻らなければならない。
猛スピードで湖へと戻る。
湖では水の柱が、爆音と共に立ち上がっては消えていく。
リオンさんは水の中に潜り、エンシェントゴーレムの攻撃を水面側に引きつけながら戦ってくれていた。
相性の悪い水の中、おまけにこちらは攻撃できないということもあって、かなり苦しそうだった。
早く交代しなければ!
『冷静になれ、エトワ。私たちの仕事はヤツを水面まで引き上げることだ。注意が逸れているこの状態こそが最大の好機だ』
うん……確かに……
私はリオンさんに駆け寄ろうとした足を止め、湖畔づたいにゴーレムの背後に回る。
そしてザルをもって水へと飛び込んだ。
ゴーレムはリオンさんを狙っているために、こちらに気づいていない。
私はザルを構え、ゴーレムの背後から急接近する。
リオンさんの赤い瞳が私を見ている気がした。
ザルの大きさは十分。
私は加速して、ザルの先端を水底に走らせながら、サンショウウオ型のゴーレムを一気にすくい上げる。
「あら、えっさっさぁあああああああああああああああ!!」
ザルはゴーレムの体を捉える。
その重みで丸太の何本かが折れる感触がする。
でも、このまま持っていく!
私はザルを思いっきり振り上げると、ゴーレムの巨体はびっくりするぐらいの速さで、水面へと吹き飛ばされていった。
ゴーレムの体を水底から見送ると、向かった先にいるリオンさんがその体を踏み台に飛び上がる。
ゴーレムと共に湖の上空へと飛び上がったリオンさんの口元がニヤリと笑うのが見えた。
「やるじゃないかい! エトワ!」
リオンさんの掲げた右手から、ゴーレムの巨体を上回る巨大な五本の炎の爪が伸びていく。
『王獣炎爪(レオニスストライク)』
赤く燃え盛る炎の爪は、ゴーレムの体をバッサリと切り裂いた。
※水源とか木の耐久力とかいろいろツッコミどころあると思いますけど許してください。
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