公爵家に生まれて初日に跡継ぎ失格の烙印を押されましたが今日も元気に生きてます!

小択出新都

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「私が協力します!」

 私の言葉にリオンさんは懐疑的な態度を示した。

「協力するったって、あんた、おそらく魔法は使えないだろ。あんなデカブツ相手には無理だよ」
「大丈夫です。ああいうおおきいの相手にするの得意ですから。というか、初めてあったときは、只者じゃないみたいに扱ってくれてたじゃないですか」

 今更、反対されるとは思ってなかった。

「そりゃ、気配がおかしかったからね。足音だって立ててなかったし。暗殺者か何かだと思ったんだよ……」

 そんな風に思われてたのかぁ。

「水の中にいるのが問題なんですよね。私の力なら、水の外に追い出すこともできると思いますし、うまくいったらその前に倒すことができちゃうかもしれません」
「ふむ、それではワシがバックアップ、エトワくんとリオンであのゴーレムを倒すということでどうじゃね?」
「おい、ジジイ!」
「どちらにしろ、これ以上地盤が弱れば息子が来ても、被害が大きくなるかもしれない。エトワくんの言葉を信じてみるのも悪くないじゃろう」
「でもよ……!」
「これは当主の決定じゃよ」
「……くそっ」

 リオンさんはまだ納得してないようだけど、私の作戦の参加が決まった。
 私たちは一旦、小屋に戻って、打ち合わせをすることになった。


***


「ふむ、エトワくんの力は怪力と強力な斬撃か。ちなみに斬撃はどれほどの威力かわかるかね」
「えっと、うーん」

 そう言われても、表現するのが難しい。そもそも私も最大出力ってあんまりわかんないんだよね。いつもその時に応じて、なんとなくの力加減で切ってるから。
 実際に見せるのが一番だと思うけど。

『これぐらいだと伝えろ』

 そう考えてたら天輝さんが良さげなイメージを伝えてくれた。

「硬い岩ならこれぐらいの大きさなら斬れるみたいです」

 私は用意された紙にこの小屋と比較した大きさの岩を書いた。

『周囲の環境を考えたら、常時だせるのはこれぐらいの力だ』

 なるほど、教えてもらった力がフルパワーってわけでもないらしい。
 紙に書かれた岩のサイズを見て、リオンさんが顔色を変える。

「本気で言ってるのかい……?」
「ふむ、それほどの力とは……。これは注意して扱わなければいけないのう」

 レイモンドさんは少し悩むような顔をした顔をした。

「注意ですか?」
「さっきも言っただろ? 周囲の地盤が弱ってるって」

 そう言いながら、リオンさんは簡単に書いた湖の見取り図に印をつけていく。

「こことここなら多少崩壊させても大丈夫。ここは少し注意が必要だね。そしてこの場所は、あんたのその力の4分の1でも出しちまったらアウトだよ」

 運が悪いことに、一番力を出せない箇所は、ちょうどゴーレムが居着いている場所だった。
 でも、考えれば当然かもしれない。そこは堤防付近で一番、ダムの水圧の負荷がかかる場所。しかも、大量の水を発生させてるゴーレムまでいるわけだから……

(天輝さんどうかな?)
『あのゴーレムの材質も不明だ。実際に見てみないと難しいな』

 もしかしたら、私一人でも処理できるかと思ったけど、これはリオンさんたちと協力しておいた方が良さそうだ。

「無理そうなら降りてもいいんだよ?」

 天輝さんと相談するため無言になった私に、心配してくれたリオンさんが言う。
 私は笑顔で首を振った。

「いえ、大丈夫です。三人の力であのゴーレムを倒して、子供とこの国の人たちを助けましょう!」

 そう言うと、リオンさんはなぜか顔を逸らして気まずそうな顔をした。


***


 子供たちにお昼ご飯を食べさせて、寝かしつけたあとの時間。
 私とリオンさん、レイモンドさんは再び、あのゴーレムがいる堤防の前に立っていた。

「作戦でも話した通り、エトワくんはあいつをなんとか水底から追い出してくれ。リオンの魔法で葬れる範囲なら、水面付近でも大丈夫なはずじゃ。ワシはバックアップということで、トラブルが起きたときの対応に回らせてもらうよ」
「はい!」
「ああ、わかってる」

 サルマンドさんは戦う場所からは離れた所に待機することになっていたので、私たちに手を振った。

「二人ならこの事態を解決してくれると信じておるよ。サルマンド家の秘蔵っ子リオン、それから不思議な少女エトワくん」
「は、はい?」
「じじい、その呼び方で呼ぶんじゃねえって言っただろうが!」

 一瞬でうまく聞き取れなかったけど、最初のはリオンさんの昔の呼び名だったみたいだ。
 なんかどこかのお家の秘密兵器的な扱いだったらしい。

 レイモンドさんが離れてからしばらく……
 沈黙のあとリオンさんがボソリと呟く。

「悪かったよ……」
「え!? 何がですか!?」

 突然、謝られてびっくりする。

「しょ、初対面のときあんたに飛びかかろうとしたことだよ……! 一晩とちょっと過ごしたぐらいだけど、悪いやつじゃなかった……あんたは……」

 ぶっきらぼうに、誰かを思い出す仕草でそう言われて、私はなんだか笑いが込み上げてきてしまった。

「あはは、全然気にしてないからいいのに。でもありがとうございます。それよりも日が暮れる前に、倒しちゃいましょう。あのゴーレムを」
「あ、ああ……!」

 私は天輝さんを呼び出し、その真の名前を唱える。

「天、輝く金烏の剣!」

 私の瞳が開き、力が解放される。

「それがあんたの力かい!」

 リオンさんが驚いた表情で呟いた次の瞬間。
 ブオオオオオオンと、サイレンのような音が響いた。

「何事だい!?」

 私もリオンさんもあっけに取られて、一瞬空を見上げる。
 しかし、変化があったのは下の方だった。

 突然、湖の水が水かさを増し始めた。
 これだけの巨大な湖の水かさがである。一体、どれだけの水量が一瞬で生み出されたのか。

 そして、堤防部分にも変化が起きる。
 ガコンと何かが開く音がして、湖に押し止められていた大量の水が下流に向かって流され始めたのだ。

 その量は、今まで川を作っていた水の量の数十倍。
 一気に、鉄砲水が形成される。

「まずいっ!」

 まさか堤防が崩壊する前から、下流に住む人たちに大打撃を与える行動がくるとは予想してなかった。
 私はすぐに下流側に移動しようとする。

 しかし、それを腕を掴んで止めたのはリオンさんだった。

「リオンさん!?」
「大丈夫だよ。何のためにあのジジイをバックアップに回したと思ってるんだい」

 そういったリオンさんの視線の先には、いつのまにか堤防の下の方に移動していたレイモンドさんの姿があった。
 レイモンドさんは巨大な鉄砲水が迫る中、自然体でその前に立ち塞がる。

 そして――

『赤竜(アズライン)!!』

 その強烈な気合の入った詠唱は、私たちの元まで響いてきた。
 レイモンドさんの背後に、巨大な、山と見紛うほどに大きな炎の竜が出現した。
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