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255.

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 山の中の湖、というかダムの底にいるサンショウウオの姿と似た巨大なゴーレム。
 その異常な光景に私は息を呑んだ。

「あれってエンシェントゴーレムなんですか……?」

 心眼だからわかるけど、私が知ってるエンシェントゴーレムの十倍ぐらいは大きい。

「ほう、よく知っておるのう。その通りじゃ」

 私の疑問にレイモンドさんが頷く。

「1ヶ月前、この遺跡を訪れたときに見つけてのう。それからずっと監視をしておったのじゃが……」

 レイモンドさんたちの話によると、彼らは数年前もこの遺跡を訪れたことがあったらしい。
 そのときは、この湖も水深は半分ぐらいで、あのゴーレムの姿はなかったという。

 それが1ヶ月前にやってきたら、あらびっくり。
 湖の状況が一変していた上に、あんな巨大なゴーレムが水底をうろついていたらしい。

 そして肝心の遺跡は湖の底に沈んでいるのだという。
 いくらレイモンドさんが遺跡について詳しくても、子供たちを送り返してもらうのは不可能というわけである。

「帰るには別の方法を考えないといけないってことですかあ……」

 まあ別世界に飛ばされたわけではないので、帰る方法はいくらでもあるといえる。
 最悪、陸路で時間をかければ私たちの国には戻れるのである。

 ただし、三人の小さな子供を連れて、私も子供の姿で、異国を旅するのは安全上問題が起きそうな気がする。
 子供の安全を考えたら、私が力を解放して運搬するのが一番だけれど、子供たちが秘密を守ってくれるかはわからないのでそれは最後の手段だ。

 他に方法はないかと考えてみると……

「あの、リオンさんたちは私の国の貴族の方で、戻られる予定があったんですよね」
「ああ、そうだよ?」
「それなら子供たちを国に帰すのに協力してもらえませんか? 私がついていくのが嫌でしたら、子供たちだけでも大丈夫ですので」

 考えてみると、これが最も最適な方法に思えた。
 子供たちと過ごす姿を一晩見ただけだけど、リオンさんとレイモンドさんは信用できる人だ。

 子供たちの心と体の安全を考えるなら、大人の人に守ってもらいながら戻った方がいい。

 私がそう言うと、リオンさんはふんっと鼻を鳴らした。

「言われなくても、それができる状況ならそうするさ。あんただってもちろん一緒に連れていってやるつもりだよ。水臭いこというんじゃないよ……私の態度も悪かったかもしれないけどさ」

 それから、リオンさんはため息をつく。

「ただ、私らもここを動くわけにはいかないんだよ。あのゴーレムを倒すまでは」
「倒すんですか? 暴れ出してはいないみたいですけど」

 確かにあんな大きなゴーレムがいたら不安になるから、監視するのはわかる。
 けれど、今のところ、あのゴーレムは水底で大人しくしてるだけである。倒すというのは、ずいぶん性急な話に感じた。

「話たじゃろう。以前来たときより、湖の水の量が二倍ぐらいになっておることは。この湖は太古の時代に造られたもので、貯水池と同じ構造をしている。大きさは比べ物にならんものじゃがな。通常の水量はこの半分ほどで、不要な水は山の下流に流すことで、その構造を維持しておる」

 そう言われて、私の頭に、日本でのニュースが過ぎる。
 大雨でダムが満杯になり、このままでは決壊する危険があるというニュースである。

「この湖の下流には街はありますか!?」
「ふむ、聡い子じゃ。その通り、下流には五つの町がある。しかも、一つはこの国で五番目に大きいものじゃ。一応、国に警告は送ったが、避難してる気配はない。この水の量が維持され続ければ、この湖は決壊を起こす。大量の水が街を襲い、多くの犠牲者がでるじゃろう……」
「あのゴーレムを倒せば、それが解決するんですか?」
「ワシらの調査では、この湖にこれだけの水量を維持できる水が流入している気配はない。魔力の動きなども調査したが、あやつそのものが水を生み出す機能を有してると考えていいじゃろう」

 なるほど……
 思ったより逼迫した事態だったことに驚きつつも、私はようやく状況を把握した。

 リオンさんが拳をパンっと自分の掌に打ち付ける。

「つまり、あいつを倒しちまえば、全てが解決するってことよ!」

 そういって好戦的に笑ったリオンさんだが、次の瞬間、耳を伏せた獣みたいにしょぼんとなる。

「なのに……あいつがこないのさ……」
「あいつですか?」
「ワシの息子じゃよ。ワシらは火の魔法しか扱えんでな。今回の相手とはちと相性が悪い。だから三人で挑みたいと思って、息子を呼んだのじゃが、なかなかこなくてのお」

 リオンさんはぷんすか「あいつ」さんに怒り出す。

「あいつはいつものんびりしすぎなんだよ! 5年前の親族会議のときだって遅刻してきやがったし。もう! あいつさえちゃんと時間通りに来てれば、今頃、息子二人にだって、コー……」

 そこまで言って、リオンさんは言葉を止めた。

「なんでもない……」

 なぜか赤面して、ゴニョゴニョと呟く。
 レイモンドさんはほっほっほと笑い、私に言った。

「そういうわけで、ワシの息子がここに着くまでしばし待ってもらえんかのう」
「はい、ご説明感謝します。でも……」
「どうしたんだい? 言っとくけど、あんたらがここに滞在する間の世話ぐらい、あたしらがしてやるよ」
「あっ、それもありがとうございます。でも、今現在、危ない状況なんですよね」
「ふむ、あまり状況が良いとは言えんな。周辺の地盤にも徐々に負荷がかかっておるから、長引けは戦いが不利になっていく」
「それなら明日倒しちゃうのはどうでしょうか?」

 私の言葉に、レイモンドさんは何かわかっていたという表情を、リオンさんははあ?という顔をした。

「だから、それができれば苦労しないんだって……」
「人手は三人必要なんですよね。レイモンドさんの息子さんの代わりになれるかはわかりませんけど、私が協力しますよ!」

 うん、考えてみると、これがベストな気がする。
 子供たちをはやく戻してあげたいし、リオンさんも息子さんやコーなんとかさんていう旦那さんと会わせてあげたい、そして私もきっと心配してるだろうリンクスくんたちの元に戻りたいし、それと滞在が七日過ぎちゃうと、次のミントくんの家を訪れる約束を破ってしまうことになる!

 もともと、最悪の事態のときには子供たちに私の力をバラして助けるつもりではいた。
 それがリオンさんとレイモンドさんに変わるだけである。二人ともいい人だし、悪いことは起きない気がする。

 そもそも、世間は広いのである。
 貴族の二人とはいっても、普段は国外を旅してるみたいだし、貴族のお家はたくさんあるわけだから、失格者の私が二人とまた顔を合わせる機会なんて、たぶんまったくぜったい高確率でないないなーいのである。

 そう考えると、バラしちゃってもほとんど問題ナッシング!






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