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朝ごはんはベーコンと卵を挟んだパンと野菜のスープだった。
一人では寂しいだろうと思ったのか、コーラルさんがテーブルの向かい側で紅茶を優雅に飲んで付き合ってくれる。
程よくトーストされたパンはさっくりふわふわ。美味しくいただいた。
前世の癖で手を合わせていると、くすくすと笑ったコーラルさんから「リンクスたちは庭にいますよ」と言われた。
道すがら、お屋敷で働く人たちに挨拶しながら、リンクスくんたちのいる庭の方へ向かう。
リンクスくんのお家は働いてる人が多い。ソフィアちゃんの家とは全然違う。
あのお家は老齢の執事さん一人でほぼ切り盛りされていた。普通なら大変じゃないだろうかと思うのだけれど、あの執事さんは馬車の御者から料理洗濯、庭の木の剪定、家庭菜園の世話、食事の給仕や主人の仕事の補佐までこなし、あまつさえ、ソフィアちゃんたちの『自分たちでできることは自分でやる』という姿勢に対して「あれさえなければ仕えるのになんの不満もない方々なのですが……」と愚痴までこぼす始末だった。
そんな超人たちに支えられ、質実剛健を体現していたソフィアちゃんのご実家と比べると、リンクスくんのご実家はふぉーまるな貴族のお屋敷という感じだ。
程よく広く、程よく綺麗で、程よく洗練されていて、程よくいろんな場所でいろんな職業の人が働いている。
護衛役の子たちの中で、戦わせたら強いのはリンクスくんとソフィアちゃんだ。
特にリンクスくんの戦闘センスはずば抜けていて、ソフィアちゃんに対してすら勝ってると言ってしまっていい状態かもしれない。
本人も戦いが好きなようで、勉強の成績ももちろん優秀なんだけど、戦闘に関わる勉強や魔法の開発をしているときの方が楽しそうである。
もともとリンクスくんのご実家、スカーレット侯爵家は戦いに定評がある家系らしい。
クリュートくんも、スリゼルくんも直接対決で負け越すことに悔しそうな表情はするものの、追い越そうとするよりは、別の面で勝負しようとしている。
そういうわけでリンクスくんのご実家やご両親に抱いていたイメージは、武人っぽいものだったのだけれど、実際に目にしてみると真逆のものばかりだった。
十人を越える人に、挨拶をし終えたころ、私はリンクスくんたちのいる庭へとたどり着いた。
リンクスくんとフェーリスくんは戦いの訓練をしていた。
やっぱりこの一族の人たち、戦うのは好きなんだねぇ。
私はうんうんと頷く。
フェーリスくんもリンクスくんと同じく風と火の魔法が使えるようだった。
フェーリスくんの放った魔法を、リンクスくんが受け止めている。フェーリスくんは一生懸命なのに対して、リンクスくんは余裕のある表情で、魔法素人の私から見ても力の差はかなりあるようだった。
でも、フェーリスくんの魔法が下手というわけではないと思う。むしろ年頃の割には上手に魔法を使いこなしてるように見えて、さすがリンクスくんの弟という感じだった。
二人はそのまま10分ほど魔法の練習をしたあと、庭の隅で休憩をはじめた。
テーブルにはお茶とお茶菓子が用意されてて優雅な休憩だ。
椅子にちょこんと座り、紅茶を食みながらフェーリスくんはきらきらした顔で、リンクスくんのことを見上げる。
「やっぱりリンクス兄さまはすごいです。魔法の構成が早くて精確で、僕じゃ追いつけません」
「いや、その歳でそれだけ使えるなら十分だよ。それに俺なんて実際は大したことない……。俺より強いやつはいくらでもいるし、まだ全然力不足だ……」
そう言って、リンクスくんは自らの拳をぎゅっと握りしめて、じっと見つめる。
「いやいや、リンクスお兄ちゃんはすごいよ」
そんなリンクスくんの背後から忍び寄り、私はそう声をかけた。
「うわぁっ、エトワさま!! いつの間に!?」
「この前の長期休暇前のテストの成績、総合で2位だったんだよね。戦闘の実技は学校で一番の勝率だって噂だよ、リンクスお兄ちゃん」
「…………」
「…………」
私の登場にリンクスくんはびっくりした後、黙りこくる。
フェーリスくんもつられるようにように沈黙する。
「何より、そのために毎日、勉強も魔法の訓練もがんばってることを私は知ってるよ、リンクスお兄ちゃん」
リンクスくんはまたしばらく沈黙したあと、私に尋ねる。
「なんだよ、その呼び方は……」
「え、どうかしたの? リンクスお兄ちゃん」
「だからお前がさっきから、お兄ちゃんとか言ってるそれだよ」
そうおっしゃるリンクスくんに、私は指を立ててドヤ顔で解説する。
「だって弟ポジションは嫌なんでしょう? だからリンクスくんのご実家にいる間は、私が妹ポジションに収まろうかと」
仕方なしの妥協案である。
決して、フェーリスくんとのやりとりを見て羨ましくなったとかではない。いや羨ましい。
「そういうわけで、しばらくよろしくね、リンクスお兄ちゃん!」
「ダメだ!」
そんな私の期間限定妹案に、反対の声を上げたのはフェーリスくんだった。
「リンクス兄さまは僕だけの兄さまだ! お兄さまと呼んでいいのは僕だけだ」
確かに、リンクスくんの本物の弟はフェーリスくんただ一人。
つまり、リンクスくんを「お兄ちゃん」と呼ぶことに絶大な権限を持っていることになる。
でも、私もリンクスくんと過ごした時間は負けていないのだ。
盛り返す余地はある。
「いやいや、フェーリスくん考えてみてよ」
「なんだ……?」
「リンクスくんといえば、昔はやんちゃで近寄りがたかったけど、今やすっかり大人になって、下級生の間で人気上昇中」
元から人気があったけど、今、すごく人気がのびてる最中なのだ。
「もちろん成績優秀で、魔法の腕はトップクラスで学校を代表する生徒の一人! さらに最近は学校で伸び悩んでいる下級生を見かけたら、それとなく魔法や勉強の相談に乗ってあげてるという情報が伝わってきております! そういうわけでリンクスくんを慕う生徒はどんどん増えていて、今や学校の兄貴分といっても過言ではないわけです」
「そりゃ相談ぐらいは乗るだろう……というかなんで知られてるんだよ……」
さりげない自分の親切な行動を知られていることに、気恥ずかしそうな顔をするリンクスくん。
立派な行動なんだから照れることはないよ!
ちなみにこの情報を仕入れたのは桜貴会からです。あと最近はクラスメイトの伝手もできましたので、そちらからもいろいろと仕入れております。
「つまり!」
「つまり……?」
真剣に私の話に耳を傾け、相槌をくれるフェーリスくん。
リンクスくんの話を聞けることが嬉しいのか、表面上は対抗意識満々の顔をしながらも、どこか嬉しそうな雰囲気が漂っていた。
「リンクスお兄ちゃんはみんなの、いや世界のお兄ちゃん!」
「たしかに……!」
「いや、なんでそうなるんだよ」
フェーリスくんの納得と、リンクスくんのツッコミが同時にきた。
ここではフェーリスくんの意思が大切なので、リンクスくんの方は無視させていただく。
「そういうわけで、私がリンクスくんをリンクスお兄ちゃんと呼ぶことにも、ご理解をいただけないでしょうか」
「う~ん……たまに小リンクスって呼んでくれるなら許す」
どうやら「小リンクスくん」呼び、気に入ってしまったようだ。
しかしながら交渉成立!
リンクスくんは私たちのやりとりに何かを諦めたようにため息を吐いて立ち上がった。
「休憩も済んだし、訓練を再開するぞ」
「はい、リンクス兄さま」
私はがんばってね~と、フェーリスくんとリンクスくんを見送る。
それから、ふと、何かに気づいた気がした。
(あれ? そういえばリンクスお兄ちゃん呼びについては、結局一度も嫌とは言われなかったような)
呆れたり、ツッコんだりはされたけど、それは嫌という反応では無かった気がする。
私がお姉ちゃんを名乗ったときは、結構嫌そうにしてたのに。
(お兄ちゃんぶりたいなんて、まだまだ子供らしいところも残ってるんだね、ふふふ)
どんどん成長していくリンクスくんに、少年らしいところを見つけ出して、私はほっこりした気分になった。
一人では寂しいだろうと思ったのか、コーラルさんがテーブルの向かい側で紅茶を優雅に飲んで付き合ってくれる。
程よくトーストされたパンはさっくりふわふわ。美味しくいただいた。
前世の癖で手を合わせていると、くすくすと笑ったコーラルさんから「リンクスたちは庭にいますよ」と言われた。
道すがら、お屋敷で働く人たちに挨拶しながら、リンクスくんたちのいる庭の方へ向かう。
リンクスくんのお家は働いてる人が多い。ソフィアちゃんの家とは全然違う。
あのお家は老齢の執事さん一人でほぼ切り盛りされていた。普通なら大変じゃないだろうかと思うのだけれど、あの執事さんは馬車の御者から料理洗濯、庭の木の剪定、家庭菜園の世話、食事の給仕や主人の仕事の補佐までこなし、あまつさえ、ソフィアちゃんたちの『自分たちでできることは自分でやる』という姿勢に対して「あれさえなければ仕えるのになんの不満もない方々なのですが……」と愚痴までこぼす始末だった。
そんな超人たちに支えられ、質実剛健を体現していたソフィアちゃんのご実家と比べると、リンクスくんのご実家はふぉーまるな貴族のお屋敷という感じだ。
程よく広く、程よく綺麗で、程よく洗練されていて、程よくいろんな場所でいろんな職業の人が働いている。
護衛役の子たちの中で、戦わせたら強いのはリンクスくんとソフィアちゃんだ。
特にリンクスくんの戦闘センスはずば抜けていて、ソフィアちゃんに対してすら勝ってると言ってしまっていい状態かもしれない。
本人も戦いが好きなようで、勉強の成績ももちろん優秀なんだけど、戦闘に関わる勉強や魔法の開発をしているときの方が楽しそうである。
もともとリンクスくんのご実家、スカーレット侯爵家は戦いに定評がある家系らしい。
クリュートくんも、スリゼルくんも直接対決で負け越すことに悔しそうな表情はするものの、追い越そうとするよりは、別の面で勝負しようとしている。
そういうわけでリンクスくんのご実家やご両親に抱いていたイメージは、武人っぽいものだったのだけれど、実際に目にしてみると真逆のものばかりだった。
十人を越える人に、挨拶をし終えたころ、私はリンクスくんたちのいる庭へとたどり着いた。
リンクスくんとフェーリスくんは戦いの訓練をしていた。
やっぱりこの一族の人たち、戦うのは好きなんだねぇ。
私はうんうんと頷く。
フェーリスくんもリンクスくんと同じく風と火の魔法が使えるようだった。
フェーリスくんの放った魔法を、リンクスくんが受け止めている。フェーリスくんは一生懸命なのに対して、リンクスくんは余裕のある表情で、魔法素人の私から見ても力の差はかなりあるようだった。
でも、フェーリスくんの魔法が下手というわけではないと思う。むしろ年頃の割には上手に魔法を使いこなしてるように見えて、さすがリンクスくんの弟という感じだった。
二人はそのまま10分ほど魔法の練習をしたあと、庭の隅で休憩をはじめた。
テーブルにはお茶とお茶菓子が用意されてて優雅な休憩だ。
椅子にちょこんと座り、紅茶を食みながらフェーリスくんはきらきらした顔で、リンクスくんのことを見上げる。
「やっぱりリンクス兄さまはすごいです。魔法の構成が早くて精確で、僕じゃ追いつけません」
「いや、その歳でそれだけ使えるなら十分だよ。それに俺なんて実際は大したことない……。俺より強いやつはいくらでもいるし、まだ全然力不足だ……」
そう言って、リンクスくんは自らの拳をぎゅっと握りしめて、じっと見つめる。
「いやいや、リンクスお兄ちゃんはすごいよ」
そんなリンクスくんの背後から忍び寄り、私はそう声をかけた。
「うわぁっ、エトワさま!! いつの間に!?」
「この前の長期休暇前のテストの成績、総合で2位だったんだよね。戦闘の実技は学校で一番の勝率だって噂だよ、リンクスお兄ちゃん」
「…………」
「…………」
私の登場にリンクスくんはびっくりした後、黙りこくる。
フェーリスくんもつられるようにように沈黙する。
「何より、そのために毎日、勉強も魔法の訓練もがんばってることを私は知ってるよ、リンクスお兄ちゃん」
リンクスくんはまたしばらく沈黙したあと、私に尋ねる。
「なんだよ、その呼び方は……」
「え、どうかしたの? リンクスお兄ちゃん」
「だからお前がさっきから、お兄ちゃんとか言ってるそれだよ」
そうおっしゃるリンクスくんに、私は指を立ててドヤ顔で解説する。
「だって弟ポジションは嫌なんでしょう? だからリンクスくんのご実家にいる間は、私が妹ポジションに収まろうかと」
仕方なしの妥協案である。
決して、フェーリスくんとのやりとりを見て羨ましくなったとかではない。いや羨ましい。
「そういうわけで、しばらくよろしくね、リンクスお兄ちゃん!」
「ダメだ!」
そんな私の期間限定妹案に、反対の声を上げたのはフェーリスくんだった。
「リンクス兄さまは僕だけの兄さまだ! お兄さまと呼んでいいのは僕だけだ」
確かに、リンクスくんの本物の弟はフェーリスくんただ一人。
つまり、リンクスくんを「お兄ちゃん」と呼ぶことに絶大な権限を持っていることになる。
でも、私もリンクスくんと過ごした時間は負けていないのだ。
盛り返す余地はある。
「いやいや、フェーリスくん考えてみてよ」
「なんだ……?」
「リンクスくんといえば、昔はやんちゃで近寄りがたかったけど、今やすっかり大人になって、下級生の間で人気上昇中」
元から人気があったけど、今、すごく人気がのびてる最中なのだ。
「もちろん成績優秀で、魔法の腕はトップクラスで学校を代表する生徒の一人! さらに最近は学校で伸び悩んでいる下級生を見かけたら、それとなく魔法や勉強の相談に乗ってあげてるという情報が伝わってきております! そういうわけでリンクスくんを慕う生徒はどんどん増えていて、今や学校の兄貴分といっても過言ではないわけです」
「そりゃ相談ぐらいは乗るだろう……というかなんで知られてるんだよ……」
さりげない自分の親切な行動を知られていることに、気恥ずかしそうな顔をするリンクスくん。
立派な行動なんだから照れることはないよ!
ちなみにこの情報を仕入れたのは桜貴会からです。あと最近はクラスメイトの伝手もできましたので、そちらからもいろいろと仕入れております。
「つまり!」
「つまり……?」
真剣に私の話に耳を傾け、相槌をくれるフェーリスくん。
リンクスくんの話を聞けることが嬉しいのか、表面上は対抗意識満々の顔をしながらも、どこか嬉しそうな雰囲気が漂っていた。
「リンクスお兄ちゃんはみんなの、いや世界のお兄ちゃん!」
「たしかに……!」
「いや、なんでそうなるんだよ」
フェーリスくんの納得と、リンクスくんのツッコミが同時にきた。
ここではフェーリスくんの意思が大切なので、リンクスくんの方は無視させていただく。
「そういうわけで、私がリンクスくんをリンクスお兄ちゃんと呼ぶことにも、ご理解をいただけないでしょうか」
「う~ん……たまに小リンクスって呼んでくれるなら許す」
どうやら「小リンクスくん」呼び、気に入ってしまったようだ。
しかしながら交渉成立!
リンクスくんは私たちのやりとりに何かを諦めたようにため息を吐いて立ち上がった。
「休憩も済んだし、訓練を再開するぞ」
「はい、リンクス兄さま」
私はがんばってね~と、フェーリスくんとリンクスくんを見送る。
それから、ふと、何かに気づいた気がした。
(あれ? そういえばリンクスお兄ちゃん呼びについては、結局一度も嫌とは言われなかったような)
呆れたり、ツッコんだりはされたけど、それは嫌という反応では無かった気がする。
私がお姉ちゃんを名乗ったときは、結構嫌そうにしてたのに。
(お兄ちゃんぶりたいなんて、まだまだ子供らしいところも残ってるんだね、ふふふ)
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