公爵家に生まれて初日に跡継ぎ失格の烙印を押されましたが今日も元気に生きてます!

小択出新都

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3巻

3-3

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 魔王は楽しげに○○パッドをいじり回しながら、○イッターの挨拶の話や、北の城の魔族たちの名前の由来を話したあと、少し困った顔をしてため息をいた。

「しかし、実は最近困ったことがありましてな」
「困ったこと?」
「ええ、実は神の石版――といっても今のこれよりもかなり小さいもので、これぐらいの大きさなのですが。それを持ち出した者がいましてな」

 そう言って魔王がジェスチャーで示したのは、○○フォンらしきサイズのものだった。

「これら神の石版は、古代の遺跡を起動するキーアイテムにもなっているのです。北の城の地下に眠る遺物の中には、恐るべき力をもった兵器がいくつも存在します。城の外に住む野良魔族たちの中には、これらの兵器を手に入れようと企む者たちがいましてな。だから、そのような者の手に渡らないように管理していたのです。しかし十年前に北の城の住人であったはずの魔族が、そのうちの一つとかみかぎを盗み外部へと流出させました」

 魔王は真剣な声で言う。

「その者の名はパトラッシュ」

 天輝さん……僕なんだかとっても眠いんだ……

『…………』
「我らも追っ手を出したのですが、足取りをつかむことは叶いませんでした。持ち出された石版そのものは、遺跡への干渉力が小さく、世界が滅ぶなどの大きな問題にはなりえません。しかし……」

 魔王は金色の目をつむり、うれいのため息をく。

「その石版にも異界の情報が保存されておりました。あちらの文化だけでなく、兵器の設計図が。その兵器も我らからすると大きな脅威ではありません。しかし、魔力をもたない人間や動物などを殺傷するには十分な威力をもつものです。何より危険なのはその扱いの簡便かんべんさ。実用できるレベルに再現すれば、それは剣などより簡単に、遠くから、対象を殺すことが可能でしょう」

 私はその情報から、その兵器が何か予想がついてしまった。
 たぶん、銃だ。銃の設計図がこの世界に流出してしまっているってことかぁ。
 それはちょっと……かなり危ない気がする……。あ、でもそれなら。
 私は○○パッドのある機能を思い出した。

「その神の石版を使って、アイ……別の石版を探すことはできないんですか?」

 たしか○○パッドにはそういう機能があったと思う。

「おおっ、さすが赤目殿、博識ですな。確かにこの石版にはそのような力があります」

 魔王は嬉しそうな顔でうなずくが、その後、首を横に振った。

「ですがこの石版は永く遺跡に放置されていたことにより、一部の機能を損失していましてな。ここに触れても反応を示さないのですよ。残念ながら、その力も発動できない状態にあります」

 さすがに○○パッドといえども数万年の時を経て、万全の状態でいるわけにはいかなかったらしい。魔王さまは例のアプリがある場所を何度も触るけど、何も反応が返ってこない。

かみかぎがあれば、事情が違うのですが、それも石版と一緒に盗まれてしまったのです」
「神の鍵?」
「ええ、白く小さいステッキのようなモノです。それがあれば、この神の石版のすべての機能が使えていたのですが」

 それってもしかして……
 私は自分のもう一つの半身を呼び出した。
 ○ッ○ルペンシルさん‼
 私の手のひらに白いスマートなペンが出現する。神さまが使ってるのを間違えて持ってきたら、私のたましいと混ざってしまったのだ。

「おお、それは!」
「まさか、お前が犯人だったとは……!」

 飛びかかってきたハチを、峰打みねうちで張っ倒すと、別の方角から黒色の棒みたいなのが出てきて、それもハチを張っ倒した。

「ぐはっ」

 二つの攻撃を受けハチが床に沈む。

「失礼、ハチは優秀な戦士ではあるのですが、少々コミュニケーション能力に問題がありまして」
「ええ、知ってます」

 二人してハチを床に沈めた魔王と私は、軽く流して話を続ける。

「もちろん、その神の鍵が我々の持っていたものと別の個体であることはわかります。しかし、赤目殿がまさかそのようなものを持っているとは。しかも、たましいのレベルで同化されている。あなたはとても奇特きとくな生まれ方をされたようだ。もしかしてあなたは異界から――!」
「いいえ、たまたまです」

 私はにっこりと笑って、魔王の想像を否定した。
 だって、前世はあの世界の住人だって知られたらすごく面倒なことになりそうなんだもん……

「そうですか。不思議なこともあるものです。お願いがあるのですが、その神の鍵を一時的に貸していただけませんかな。用が済めばすぐにお返ししますので」
「はい、もとからそのつもりでした」

 ○ッ○ルペンシルさんを貸すのはやぶさかではない。○ッ○ルペンシルさんも本来の仕事ができて喜んでくれるだろうし。

「えっと、ハチに渡せばいいですか?」

 魔王は実際はここにいないのでハチに運んでもらうしかない。そう思っていたら――

「いえ、私の手に置いてくだされば大丈夫です」

 何もない虚空こくうから、いきなりにゅっと腕が出てきた。さっきまで幻影で見てたのと同じ腕だ。

『空間転移、いや連結か。しかも一部だけ。それをいとも簡単に……』

 天輝さんが驚いている。
 私もびっくりだ。空間を操る魔法使いとは以前、戦ったことがあるけど、こんなに簡単に空間を移動できてはいなかった。それより距離が長く、しかも一瞬ではなく安定させたまま、造作もないように繋いで、腕を私に差し出している。

「すみません、城を離れられない身なので、腕だけで失礼を」
「いえいえ」

 私はその手のひらに、○ッ○ルペンシルさんを預けた。
 繋げられた空間が閉じて、向こうの映像に○ッ○ルペンシルさんが現れる。

「それではお借りした神の鍵を使い、神の石版に備えられた別の石版を探す力を起動させます」

 魔王はきちんと○○パッドと○ッ○ルペンシルさんをペアリングさせると神々しくかかげる。

「この力は異界の言葉でこう呼ばれたそうです」

 魔王は一度深呼吸すると宣言した。

「○○フォーンヲ、サガァース!」

 呪文っぽく叫ばんでよろしい!
 ○ッ○ルペンシルさんで画面をタッチすると、○○フォンを探す画面が起動した。同じアカウントで、電源が入っていれば、○○フォンの位置が地図に表示されるのだ。

「出ました」

 一瞬、GPSがない異世界でその機能が使えるのかと不安を覚えたけど、魔王が見せてくれた画面にはしっかり○○フォンの位置が表示されていた。さすが○ッ○ル社だ、すごい。

「ふむ、ちょっと地図が見づらいですな」

 魔王は慣れない、たどたどしい手つきで、○○フォンの捜索画面をいじりだした。

「ここですかな?」

 初めてで操作方法がわからなかったのか、その指が画面左下のボタンへと向かう。

「あっ、だめ!」

 私がそう言ったときには遅かった。
 そこのボタンは、部屋などで見つからない○○フォンを探すために、遠隔操作で音を鳴らす機能だった。この場合、盗まれた○○フォンの所持者に、こちらが探してることを知らせてしまう。
 五十秒ぐらい経ったあと、○○フォンの表示が消えた。所持者が電源を落としたのかもしれない。

「むぅ、すみません。この力には初めて触れたので……」

 まあ、仕方ないのかもしれない。使い慣れてなかったんだし。
 それにあちらも迂闊うかつには○○フォンを起動できなくなった。
 魔王が言う。

「とりあえず、盗まれた神の石版が人間たちの生活圏にあることはわかりました。パトラッシュは人間社会にその身を潜めているのでしょう。もしくは人間から支援を受けているか……」

 どうも危険な遺物とその情報が人間社会にもたらされてしまったらしい。

「赤目殿、残念ながら私はこの城を離れられません。この城にはもっと危険な遺物たちも存在しますゆえに、私にはそれを監視する義務があります。盗まれた神の石版については、配下の魔族たちに捜索を託すしかないのです。ですが、人員が多すぎれば、人間社会に無用な混乱を与え、それもまた争いの火種ひだねとなってしまうでしょう。赤目殿もどうか神の石版の回収に協力してくれませんか。積極的に探してくれとは言いません。もし見かけることがあったら回収してくださるだけでいいのです」
「わかりました。それぐらいなら」

 正直、見つける自信はなかった。
 この国だって広いしね。でも、石版がもたらす情報は、ソフィアちゃんたちみたいな魔法使いには危険じゃなくても、普通の人には十分に危険なものらしかった。じゃあ、魔王さんのところで管理されててほしいよね。あんまり自信はないけど、やれることはやろう。
 魔王は安心した表情を目元に浮かべてうなずく。

「ありがとうございます。赤目殿のような強き存在と縁がもててよかったです」

 私のほうは魔王とこんなことになるとは思わなかったよ……
 ちょっと疲れた思いでそう思っていたら、魔王がまた私に話しだした。

「さて本題ですが」

 え? さっきのが本題じゃないの⁉
 びっくりした私に、魔王の幻影がずずいと近づいてきて、至近距離から本題を述べてくる。

「お世話になっている娘のハナコなんですが、最近特に頻繁ひんぱんにあなたのもとへ訪れているとか」

 私はぎくっとなった。
 これは非常に覚えがあるやり取りだ。娘をもつお父さんと話したときにありがちな……
 私はアルセルさまの身の安全を考え、誤魔化ごまかすことにした。

「ハナコも遊びたい盛りですしね。そういう年頃なんでしょうね、はは」

 しかし、魔王はずずずいとさらに映像の顔を私に近づけてくる。

「それで、好きな男性がいるのだとか……」
「そ、そうなんですか? 初耳ですねー。何かの間違いじゃないでしょうか。ほら、ハナコさんはよく言えば無邪気な性格ですから。恋なんかはまだ早いと……」

 魔王は少し沈黙すると、ぼそりとささやいた。

「アルセルさまとは、どのような方ですか……?」

 ハナコォオオオオオオオオ、思いっきりバレとるやないけー!
 ハナコが思いを寄せる男性の名前は、父親である魔王にすっかり漏れていたようだ。
 頭がズキズキ痛みだす。
 やばい、これはやばい。下手すると殿下の命の危機に、いや国家の危機に発展しかねない。ヴェムフラムとは比べ物にならない本物の危機的な感じで。

「その、私も過保護だと思うのですがね。しかし、大事な娘ですから。もし悪い男にひっかかっては、ほらわかるでしょ? 父親として、見過ごせないというか。そもそも、まだ娘の年頃では恋人を作るなど早いと思うんですよ。そうですよね? ね? その、娘をたぶらかした、と言ってしまうと聞こえが悪いかもしれません、失敬。まだそんな悪い男と決まったわけではありませんからね。そうです、私も冷静に対処しなければいけません。だからこそお聞きしたいのです。ええ、聞かなければなりません。それが父の義務というものです。娘を大切に思う親として当然のことではないでしょうか。そのアルセルさまというお方とは、赤目殿もどうやら親しいようですね。ぜひとも、どのような方かお聞かせ願えないでしょうか…………ね⁉」

 犬の骸骨がいこつの奥の金色の瞳をぐるぐるさせた魔王に、私は冷や汗をだらだらかきながら、できるだけにっこりと品の良い笑顔を作って答えた。

「アルセルさまはとても素晴らしい方です。優しく紳士で、身近な人みんなにしたわれています。とても分別のある方で、人の道に外れることは決してしません。ハナコさんとは歳も離れていますし、魔王さんの言うような心配はないかと存じます。アルセルさまにとってハナコは、甘えてくる小さな妹みたいな存在ではないでしょうか」
「……そうですか、どうやらとても良いお方のようですね。いや、杞憂きゆうでした。失礼しました。ハナコともまだそういう間柄に発展する可能性はなさそうということですね。とても安心です。赤目殿がそう言ってくださるなら信用できます」

 魔王は金色の瞳に、笑みを取り戻してうなずいた。
 私もアルセルさまの危機を回避できてほっとする。

「初対面で女性の角を撫でるようなナンパな男だったらどうしようかと思ってましたよ、はは」
「はは……。そうですね……」

 私はさっと糸目いとめをそらしながら、乾いた声でうなずいた。どうしようって、どうするつもりだったんだろう……。いや、考えまい。

「赤目殿、今日はありがとうございます。とても助かりましたし、非常に有意義な時間を過ごせました。あ、この神の鍵はお返ししますね」

 また空間から腕が出てきて、○ッ○ルペンシルさんを私の手のひらに置いていった。
 おかえりなさい、○ッ○ルペンシルさん。

「それでは、またお会いしましょう。神変しんぺんなる赤目の強者殿」

 そう言うと魔王は消えていった。床に気絶したハチを残して。
 ……連れて帰って?



   第三章 Sランクの冒険者


 ポムチョム小学校でお世話になってる先生の一人、ウィークマン先生。
 弱気な性格だけど優しいその先生に、私は放課後、呼び出しを受けていた。
 何かしたっけ。そう考えながら職員室に着くと待っていたのは、困った感じの顔の先生だ。

「よく来てくれましたね、エトワくん……。あらかじめ言っておきますが、今から話すことは、君が少しでも嫌と感じたら、すっぱり断ってくれてもいい話なんです」

 ん? お説教かと思ったけど、何かのお願い事だろうか。
 ウィークマン先生の表情は、その話を私にすることにかなり躊躇ためらいがある様子だった。

「Sランクの冒険者から、君に臨時のガイダーを頼めないかって話が来ているんです」
「えええっ⁉」

 話の概要はこうらしい。
 Sランクの冒険者パーティーの専属ガイダーが馬車の事故で怪我をしてしまった。そういうときは、しばらく冒険を休むのだけど、そのパーティーはすでにとある依頼を受けていて、期限が残り十五日に迫っている。
 一方、ガイダー業界は繁忙期はんぼうきで、まともなガイダーはみんな冒険に出てしまっていた。
 普段ならガイダーなしで強行するところだけど、今回の目的地はガイダーの力が必須と言われる場所。四方八方に話をして探し回ったところ、最終的に私に行き着いてしまったらしい。

「ええ、なんで私なんかに⁉」
「実はうちの先生たちがですね……。酒場でガイダーの天才児とか、百年に一人の逸材とか、君のことを自慢しちゃったことがありましてね……。本当にすみません……」

 なんとっ……!

「それで冒険者ギルドでもうわさになっていたらしく、そのパーティーの人たちも聞きつけて、つてを使ってこちらに連絡を取ってきたんです」
「びっくりです」

 私はシンプルに今の自分の気持ちを伝える。

「はは、ガイダーを目指す子は少ないですからね。おまけに君はとても優秀ですから、どうしてもうわさになってしまうんです。実際、僕たちも知識は教えられても、実地ではもう君にかないません」

 なんかすごい褒めちぎられてる。びっくりもするけど、ガイダーを目指すようになってからしてきた努力の成果が認められた感じがして嬉しい。えへへ。
 喜ぶ私にウィークマン先生も少し微笑んだ。でも、すぐにその表情は厳しくなる。

「ですが、今回はSランク冒険者の活動圏に行きます。当然、死の危険がある場所です。冒険者時代に大恩がある方からの要請なので、義理として話は通しましたが、私はエトワくんにこの話を断ってほしいと思ってます」

 ここまではっきり言うのは、私が断りやすいようにしてくれてるんだと思う。それでも話だけは通したってことは、よっぽどの恩がある人なんだろう。
 ウィークマン先生も大変だよね、そう考えて私は、一つその行動のおかしな点に気づいた。

「あの、そもそも依頼の内容ってなんなんでしょうか。私にまで話が来るなんて、依頼者も相当困ってると思うんですけど」

 普通、依頼について断るか受けるか判断させるときは、まず依頼の内容を話すと思う。だけど、ウィークマン先生は、それについてまったく話さず、私に断らせようとしてた。
 私の質問にウィークマン先生が苦い顔になる。やっぱり……
 きっと、聞いたら断りにくい内容だからじゃないかな~。

「君は本当にさとい子ですね……。内容を聞けば断りにくくなります。それでも聞きますか?」
「はい」

 私はうなずく。引き受けるにしても断るにしても、どんな依頼か聞いてからにしたい。

「わかりました。依頼内容はメイズの森の奥に生える薬草を採ってくることです。実はある商人の娘が重い病気にかかって、その薬草から作った薬を必要としているらしいんです。ですが、今年はその薬草がまれに見る不作で、市場からすぐに消えてしまいました。栽培されてるものは、もうどこを探してもなく、あとは野生種が存在するメイズの森から採ってくるしかありません」

 なるほど、どうりでウィークマン先生も挙動不審になるわけだ。人の命に関わる話だもんね。先生は私に話すか話さないか、その点でも悩んだんだと思う。
 まあ、そういう難しい話は置いといて、そんなに困ってる人がいたら助けたいよね。

「そういう危急ききゅうの事情なら、引き受けようと思います! 先生!」

 ビシっと手を挙げた私に、ウィークマン先生は申し訳なさそうに笑った。

「君ならそう言うんじゃないかと思ってました……。道中はSランク冒険者が護衛してくれますが、君も自分の命を最優先に行動してください」
「はい!」

 次の日、早速Sランク冒険者の人たちと面会することになった。
 リンクスくんたちには心配させないように、冒険者学校での泊まりの授業だと言っておいた。
 待ち合わせ場所は、冒険者ギルド近くの公園だ。
 お昼ごろに公園に着くと、冒険者らしき人たちがすでに私を待ってくれていた。
 今回、同行させてもらうウイングさんたちのパーティーだと思う。Sランクとしては駆け出しだけど、活躍かつやくめざましく今注目されているらしい。
 私は大きなバッグと地図を持って、いかにもガイダーという格好だった。髪は動きやすいように後ろでくくっている。

「ほ、本当に小等部の子なんだな……」

 待ち合わせ場所に私が姿を現すと、ウイングさんたちは呆然と私を見る。
 知ってはいたんだろうけど、実際に確認して戸惑ってるみたいな表情だった。

「ガイダーを勉強中のエトワです。よろしくお願いします」

 私はぺこりと頭を下げて挨拶する。

「ああっ、ごめんね。僕はこのパーティーのリーダーのウイングだよ。クラスは剣士だ。よろしくね」
「俺はサルド。戦士だ」
「俺はウルド。サルドとは双子の兄弟だ。同じく戦士をしている」
「あたしはフェネッサ。こう見えてもSランクの魔法使いよ。よろしくね」
「僕はリロっていいます。回復魔法を使うヒーラーです。よろしくお願いします」

 私はウイングさんのパーティーの自己紹介を聞いて、衝撃を受ける。
 戦士系多い‼
 そりゃそうだよね。冒険者って肉体勝負だし、そもそも魔法を使える人材は希少だし、そりゃ使える人材集めようとしたら戦士寄りになるだろう。
 勇者、戦士、魔法使い、僧侶なんて黄金率の組み合わせは、ゲームの中でしかないのだと知った。ましてや僧侶から賢者にクラスチェンジなんて夢のまたゆ――
 話がそれた。
 ウイングさんのパーティーは、戦士三、魔法使い一、ヒーラー一のパーティーだ。フェネッサさん以外は男性で、男女比は四対一。リーダーのウイングさんは結構なイケメン。
 ちなみに回復魔法を使えるヒーラーも、本当は魔法使いなんだけど、冒険者の中ではクラスで区別されている。基本的に貴族以外は一系統の魔法を使うのが精一杯だし、クラスとはそもそもパーティー内での役割分担を表すものだからだ。

「聞いてはいましたけど改めて目の前にすると、子供のガイダーというのは戸惑いますね……」
「仕方ないでしょ。期限を考えたら、今日、明日出発でもぎりぎりよ」
「俺たちが守ってやれば問題ない」
「だが、この子で本当にメイズの森を攻略できるのか……?」

 やっぱり、小学生のガイダーということで、みなさん戸惑っているようだった。ウイングさんがしゃがんで目線を合わせて、優しい声で話しかけてくれる。

「信用ある人の紹介だから疑っているわけじゃないんだけど、一応、君の力をテストさせてもらっていいかな? メイズの森はガイダーの力量で攻略の成否が左右される場所だから、どうしても実力を把握しておかなければならないんだ」
「はい、大丈夫です」

 そりゃ、小学二年生が臨時とはいえパーティーメンバーになるんだから不安にもなるよね。

「何をすればいいですか?」

 そう尋ねる私に、ウイングさんは公園の地面に刺してあったくいを一つ指した。

「メイズの森にいると思って、あそこのくいまでの正確な距離を測ってもらえないかな。もちろん、ガイダー用の測量器を使っていいよ。君のペースで、ゆっくり測っていいからね」
「十五・五三メートルです」

 私は即答する。
 それを聞いてウイングさんが苦笑いしながら私に言った。

「ごめん、聞き方が意地悪だったね、メイズの森が迷いの――」
「ちがうわ、ウイング。さっきので正解よ。一センチもズレがないの……」

 ウイングさんの言葉をさえぎるように、フェネッサさんが言った。
 その表情は信じられないものを見たというような表情だった。
 私としてもウイングさんの出題の意図は理解していた。今回入るメイズの森は、迷いの森と呼ばれる森だ。何も準備せずに中に入ると、遭難して出てこられなくなってしまう。
 なぜ、そんなことが起こるかというと、森全体を異常なマナがおおっていて、周囲の景色を歪ませて見せているらしい。まっすぐ歩こうとしても、少しずつ右に曲がったり、左に曲がったりしながら移動することになる。
 だからガイダーをパーティーに入れて、周囲の景色の歪みを常にチェックしながら進まないと、まともに移動ができないのだ。歪みをチェックするには、測量器を使って正確に距離を測り、パーティーの進路を常に修正していくしかない。
 それにはかなりの高度なスキルが必要だ。
 そういうわけで臨時のガイダーが、その肝心なスキルをもってるかどうか見るために、あらかじめ私たちのいる場所からくいのある場所まで景色を歪ませる魔法がかけてあった。
 でも、この魔法、心眼〈マンティア〉と天輝さんのサポートの前には何の意味もないのである。
 心眼が周囲の情報を集めて、天輝さんが分析して、すぐに正しい数値を教えてくれる。

曲率きょくりつは〇・九ってとこでしょうか」
「そんなことまでわかるのか⁉」
「あたしのかけた魔法の数値通りよ……」

 曲率きょくりつはどれくらい周囲の景色が歪んでるかの数値だ。本番の森では、場所によって変動するので、そこでも熟練のガイダーの対応力が要求されるはずなんだけど、私の場合、反則なことにリアルタイムでどれくらい歪んでるかわかるし、おまけに正確な位置関係も見えてる。
 天輝さんの情報処理能力と合わせれば、距離なんて一瞬だ。
 あっさりくいまでの距離を当ててみせた私に、ウイングさんたちが驚いた視線を送る。

「こ、これは本当にうわさ通りの天才かもしれないな……」
「ええ……こんなことできるガイダーなんて見たことないわ……」
「すごいです」

 やれやれ、こんなことで目立つつもりなかったのになぁ。
 えっへっへ~。

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