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217.最悪の騎士
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13騎士のメンバーたちに、自分たちの中で最強は誰かと聞けば、全員がこう答えるだろう。
自分たちのリーダーであるベリオルが最強だと。
しかし、そのベリオルは第二王子ルースの誕生会で起きた、魔族の襲撃により怪我を負い、未だに戦線に復帰できていなかった。
回復魔法も決して万能というわけでない。怪我が大きすぎたり処置までに時間がかかると、治しきれなかったり後遺症が残ることはある。しかし、最高の回復魔法による施術を受けたベリオルが未だに回復しきれないのは、魔族によるある力が原因だと噂されている。
『蝕み』と呼ばれる特殊な力。
上位の魔族でも一部しか持ってないといわれるその力は、傷の回復を阻害し、その魔族が生きている限り、傷を受けた者を苦しめ続ける。
王宮の高官たちの間では、次の13騎士のリーダーは誰が勤めるのかという具体的な話し合いまで、もうでてきていた――13騎士のメンバーたちはそんなこと認めていないが。
では、13騎士のメンバーたちに、ベリオルの次に強い者は誰かと問えば、答えはたぶん分かれるだろう。
一番、多くの者から挙がると思われてるのはロッスラントだ。
その保有する魔力の大きさはベリオルを上回り、まだ若く精神的に未熟と言われながらも、いずれは13騎士のリーダーになると目されている逸材だ。
あるいは歴戦の魔法戦士であるケイを挙げる者もいるだろう。
すでに50を越えたベテランだが、その能力と経験に疑問を抱く者はいない。ベリオル不在の今は、13騎士のまとめ役もしていた。
中にはディナを挙げる者もいるもかもしれない。13騎士では一番の新人で、実力は劣るのだが、その当たれば一撃必殺の魔法は高い評価を得ている。
他にもヴァルシール、アグラなどいろんな名前が挙がるだろう。
しかし、もし自分が戦うのが一番嫌な相手は――。
そう質問すると、答えはひとつに収束していく。
『最悪の騎士』、そう二つ名で呼ばれる13騎士の古参メンバーの一人。
――名はアグラ。
***
13騎士が集まる会議室では、ある事件が大きな話題にあがっていた。
エトワと自称吸血鬼が森で戦った、あの件だ。
「先日、アルグランツ近辺の森で行われた大規模な戦闘。戦場の破壊跡の調査や目撃情報から、都市壊滅級の力を持つ存在二体による戦闘だと推測されている。両者が使っている魔法や能力は一切不明。その正体――恐らくどちらも魔族だろうが――目的も全て不明」
人類が使う魔法と魔族が使う魔法が、その外見や必要な素養、技術から明確に区別されている。しかし、魔族が必ずしも"魔族の魔法"を使うとは限らないのだ。
魔族の能力の多様性は、人間のそれを遥かに上回る。魔法によらない飛行能力を有していたり、驚異的な体の丈夫さを持っていたり、姿を変えたり、特殊な能力がいくつも確認されていた。
それら魔法に属さない特殊能力を有するものは、ほとんどが魔族として世間では認知されていた。 例外は英雄たちの使う、魔法剣や再生力(リジェネート)などの特別な力ぐらいだろうか。
つまり、人間の魔法以外の不可思議な力で起こった事件は、だいたい魔族の仕業ということになるのが世の常だった。それでだいたい正解になるので問題も起きない。
ベリオル不在の今、まとめ役をしているケイがため息を吐く。
「はぁ、最近の魔族の動向はまったく理解ができん。いきなりクララクを襲ったり、ルース殿下の誕生パーティーではベリオル殿を襲撃、今度は町の近くで魔族同士で地形を変える規模の戦闘か……。これらに繋がりがあるのか、それともそれぞれの魔族が勝手に起こした事件なのか……」
「あのパーティーでは魔王の配下を名乗る魔族も現れたらしいですね」
「それも何が本当で何が嘘やら」
わざわざなんで人間のいる町ではなく、被害のでない森で、しかも何故魔族同士で争うことになったのか。目的の分からない不可解な事件に、13騎士たちもお手上げである。
まさか貴族の少女のストーカー事件から端を発する、人間関係のトラブルの末に、こんなことになったとは誰も思うまい。
しかし、この場のほとんどが半ば投げ出すような表情で議題をこねくり回す中、何かを察した顔をした二人がいた。それは13騎士の中でも若手に属する二人である。
ディナとガーウィンだ。
ディナは戦闘の目撃報告に目を通すと、その片方が誰か分かってしまったという顔をし、ガーウィンもそのリアクションを見て、何かを察してまずいなという顔をする。
気まずそうに周りで話し合う年長者たちを窺っていた二人だが、そのリアクションに気づいたものはいないようだった。
その会議が終わるまで、二人は黙っていた。
会議が終わり、人がいなくなってから、ようやく二人は話す。
「使ってる力から見て、たぶんあの子っすよねぇ」
「俺は力そのものは見たことないが、お前から聞いた話からしてそうなのだろう」
ディナはエトワと戦った経験があった。
光の刃を飛ばし、超人的な身体能力で最強クラスの魔法使いと渡り合う。そんなことができるのはあの子しかいない。
そしてガーウィンも、この国の第二王子ルース殿下の誕生パーティーでエトワと接触したことがあり、その後、エトワがどんな子かをディナから聞かされていた。
それで報告書からおおよそを把握できたのである。
二人とも名前は知らないが、エトワの存在は認知している。
「でも、よく黙っててくれましたね」
ディナがガーウィンに言う。
ディナ自身はなんというか、成り行きで13騎士の人間たちにあの塔で接触した子のことを秘密にしている。一応、助けてもらった恩があるし、今さら報告しても逆にめんどうなことになりそうだったからだ。
13騎士としてどうなのよって話でもあるが、ディナ自身が13騎士になったのは金のためだ。危険な仕事だがその分一気にお金が稼げるので、パッとお金を貯めて、美味しいものが食べれる引退生活を送るのが目標だ。
だから、そこまで組織に義理立てする気はない。首にならない程度に、仕事がこなせてればいいのである。
しかし、ガーウィンにはそもそもそんな係わり合いがない。ただ、変に絡んでいって投げ飛ばされただけだ。
「お前が秘密にすると決めてるのだろう? それならば俺も守るまでだ」
ガーウィンは腕を組みながら、そう言い切る。
(またわけのわからない理屈を……)
こういう理解できない思考をするから、この先輩は苦手だ、とディナは思う。
組んだ腕から無意味に主張する筋肉の固まりも苦手だけど……と追加で思いながら。
それでもディナがガーウィンと一緒にいるのは、13騎士の中でも彼は比較的、付き合いやすい部類にあるからだった。
「それに俺も一度ぶつかり合ってみたが、邪悪な存在にはおもえなかった」
ディナもガーウィンもエトワについての組織への報告を避けたのは、ある根本的な理由があるからだった。いや、理由と言うよりは予感といったほうがいいかもしれない。
そして報告を避けた時点で、それが良い予感か悪い予感かは、決まっているようなもんだった。
「とりあえず、今回も魔族から町を守っただけに見えますし、あの子のことは秘密にしておきましょう。本人も学生として暮らしたいみたいっすからね」
「うむ、承知した」
エトワのことを秘密にすることに合意した二人。
しかし、その背後にいつの間にか小柄で髪の長い、少女のような外見の騎士が立っていた。
「ほう、お前たち面白い話をしておるな」
それが誰か認識した瞬間、ディナだけでなく、ガーウィンの顔までも真っ青になる。
「げっ、アグラ先輩!?」
「アグラ!!」
「ほれ、わしにも聞かせてみよ」
老婆のような口調なのに、外見は少女にしか見えないアグラ。
そんなアグラを前に、外見は遥かに大人なはずの二人が動揺を隠しきれない。
「い、いやそんな面白い話じゃないっすよ……。来週見に行く劇の話をしてただけで!」
「そう、そうだ! 楽しみだなぁ。俺もディナも最近観劇に嵌ってな。ああ、たのしみだぁ!!」
無理にでも誤魔化そうとする二人。
しかし、そんなバレバレの嘘も追及することなく、アグラは口元にいびつな笑みを浮かべ、自分より背の高い二人を見下すように笑って、宣言した。
「まあ、お前たちの『意志』などもはや関係ないがのう」
※たくさんの励ましありがとうございます。パワーを充電できました!
読者さんにも辛い章になるかもしれませんが(不穏)がんばります。返信は土日にさせていただきますね。
自分たちのリーダーであるベリオルが最強だと。
しかし、そのベリオルは第二王子ルースの誕生会で起きた、魔族の襲撃により怪我を負い、未だに戦線に復帰できていなかった。
回復魔法も決して万能というわけでない。怪我が大きすぎたり処置までに時間がかかると、治しきれなかったり後遺症が残ることはある。しかし、最高の回復魔法による施術を受けたベリオルが未だに回復しきれないのは、魔族によるある力が原因だと噂されている。
『蝕み』と呼ばれる特殊な力。
上位の魔族でも一部しか持ってないといわれるその力は、傷の回復を阻害し、その魔族が生きている限り、傷を受けた者を苦しめ続ける。
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では、13騎士のメンバーたちに、ベリオルの次に強い者は誰かと問えば、答えはたぶん分かれるだろう。
一番、多くの者から挙がると思われてるのはロッスラントだ。
その保有する魔力の大きさはベリオルを上回り、まだ若く精神的に未熟と言われながらも、いずれは13騎士のリーダーになると目されている逸材だ。
あるいは歴戦の魔法戦士であるケイを挙げる者もいるだろう。
すでに50を越えたベテランだが、その能力と経験に疑問を抱く者はいない。ベリオル不在の今は、13騎士のまとめ役もしていた。
中にはディナを挙げる者もいるもかもしれない。13騎士では一番の新人で、実力は劣るのだが、その当たれば一撃必殺の魔法は高い評価を得ている。
他にもヴァルシール、アグラなどいろんな名前が挙がるだろう。
しかし、もし自分が戦うのが一番嫌な相手は――。
そう質問すると、答えはひとつに収束していく。
『最悪の騎士』、そう二つ名で呼ばれる13騎士の古参メンバーの一人。
――名はアグラ。
***
13騎士が集まる会議室では、ある事件が大きな話題にあがっていた。
エトワと自称吸血鬼が森で戦った、あの件だ。
「先日、アルグランツ近辺の森で行われた大規模な戦闘。戦場の破壊跡の調査や目撃情報から、都市壊滅級の力を持つ存在二体による戦闘だと推測されている。両者が使っている魔法や能力は一切不明。その正体――恐らくどちらも魔族だろうが――目的も全て不明」
人類が使う魔法と魔族が使う魔法が、その外見や必要な素養、技術から明確に区別されている。しかし、魔族が必ずしも"魔族の魔法"を使うとは限らないのだ。
魔族の能力の多様性は、人間のそれを遥かに上回る。魔法によらない飛行能力を有していたり、驚異的な体の丈夫さを持っていたり、姿を変えたり、特殊な能力がいくつも確認されていた。
それら魔法に属さない特殊能力を有するものは、ほとんどが魔族として世間では認知されていた。 例外は英雄たちの使う、魔法剣や再生力(リジェネート)などの特別な力ぐらいだろうか。
つまり、人間の魔法以外の不可思議な力で起こった事件は、だいたい魔族の仕業ということになるのが世の常だった。それでだいたい正解になるので問題も起きない。
ベリオル不在の今、まとめ役をしているケイがため息を吐く。
「はぁ、最近の魔族の動向はまったく理解ができん。いきなりクララクを襲ったり、ルース殿下の誕生パーティーではベリオル殿を襲撃、今度は町の近くで魔族同士で地形を変える規模の戦闘か……。これらに繋がりがあるのか、それともそれぞれの魔族が勝手に起こした事件なのか……」
「あのパーティーでは魔王の配下を名乗る魔族も現れたらしいですね」
「それも何が本当で何が嘘やら」
わざわざなんで人間のいる町ではなく、被害のでない森で、しかも何故魔族同士で争うことになったのか。目的の分からない不可解な事件に、13騎士たちもお手上げである。
まさか貴族の少女のストーカー事件から端を発する、人間関係のトラブルの末に、こんなことになったとは誰も思うまい。
しかし、この場のほとんどが半ば投げ出すような表情で議題をこねくり回す中、何かを察した顔をした二人がいた。それは13騎士の中でも若手に属する二人である。
ディナとガーウィンだ。
ディナは戦闘の目撃報告に目を通すと、その片方が誰か分かってしまったという顔をし、ガーウィンもそのリアクションを見て、何かを察してまずいなという顔をする。
気まずそうに周りで話し合う年長者たちを窺っていた二人だが、そのリアクションに気づいたものはいないようだった。
その会議が終わるまで、二人は黙っていた。
会議が終わり、人がいなくなってから、ようやく二人は話す。
「使ってる力から見て、たぶんあの子っすよねぇ」
「俺は力そのものは見たことないが、お前から聞いた話からしてそうなのだろう」
ディナはエトワと戦った経験があった。
光の刃を飛ばし、超人的な身体能力で最強クラスの魔法使いと渡り合う。そんなことができるのはあの子しかいない。
そしてガーウィンも、この国の第二王子ルース殿下の誕生パーティーでエトワと接触したことがあり、その後、エトワがどんな子かをディナから聞かされていた。
それで報告書からおおよそを把握できたのである。
二人とも名前は知らないが、エトワの存在は認知している。
「でも、よく黙っててくれましたね」
ディナがガーウィンに言う。
ディナ自身はなんというか、成り行きで13騎士の人間たちにあの塔で接触した子のことを秘密にしている。一応、助けてもらった恩があるし、今さら報告しても逆にめんどうなことになりそうだったからだ。
13騎士としてどうなのよって話でもあるが、ディナ自身が13騎士になったのは金のためだ。危険な仕事だがその分一気にお金が稼げるので、パッとお金を貯めて、美味しいものが食べれる引退生活を送るのが目標だ。
だから、そこまで組織に義理立てする気はない。首にならない程度に、仕事がこなせてればいいのである。
しかし、ガーウィンにはそもそもそんな係わり合いがない。ただ、変に絡んでいって投げ飛ばされただけだ。
「お前が秘密にすると決めてるのだろう? それならば俺も守るまでだ」
ガーウィンは腕を組みながら、そう言い切る。
(またわけのわからない理屈を……)
こういう理解できない思考をするから、この先輩は苦手だ、とディナは思う。
組んだ腕から無意味に主張する筋肉の固まりも苦手だけど……と追加で思いながら。
それでもディナがガーウィンと一緒にいるのは、13騎士の中でも彼は比較的、付き合いやすい部類にあるからだった。
「それに俺も一度ぶつかり合ってみたが、邪悪な存在にはおもえなかった」
ディナもガーウィンもエトワについての組織への報告を避けたのは、ある根本的な理由があるからだった。いや、理由と言うよりは予感といったほうがいいかもしれない。
そして報告を避けた時点で、それが良い予感か悪い予感かは、決まっているようなもんだった。
「とりあえず、今回も魔族から町を守っただけに見えますし、あの子のことは秘密にしておきましょう。本人も学生として暮らしたいみたいっすからね」
「うむ、承知した」
エトワのことを秘密にすることに合意した二人。
しかし、その背後にいつの間にか小柄で髪の長い、少女のような外見の騎士が立っていた。
「ほう、お前たち面白い話をしておるな」
それが誰か認識した瞬間、ディナだけでなく、ガーウィンの顔までも真っ青になる。
「げっ、アグラ先輩!?」
「アグラ!!」
「ほれ、わしにも聞かせてみよ」
老婆のような口調なのに、外見は少女にしか見えないアグラ。
そんなアグラを前に、外見は遥かに大人なはずの二人が動揺を隠しきれない。
「い、いやそんな面白い話じゃないっすよ……。来週見に行く劇の話をしてただけで!」
「そう、そうだ! 楽しみだなぁ。俺もディナも最近観劇に嵌ってな。ああ、たのしみだぁ!!」
無理にでも誤魔化そうとする二人。
しかし、そんなバレバレの嘘も追及することなく、アグラは口元にいびつな笑みを浮かべ、自分より背の高い二人を見下すように笑って、宣言した。
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