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わしとあるじと迷宮ダンジョン 2
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それから3時間ほどひたすらぶっつづけでしゃべりつづけたクララのまえに、ちょっと涙目になってこくこく頷くミーフィアの姿があった。
「わかりましたぁ……。参加します、参加しますから。だからもう休ませてぇ……」
(ふっ、どうやらわたしの説得術が効いたようね)
クララは腕をくんで自慢げに笑うが、どう考えて説得術(拷問)だった。
この3時間、ひたすら動き続けたクララの口が止まり、ミーフィアは安堵のため息をはいて、ぬるくなった紅茶をようやく飲み始めた。
「それであとの問題は、パーティーのメンバーののこりを見つけることね!」
「ええ!?ほかの二人は決めてなかったんですか!?」
ミーフィアが驚いた顔をする。
そうなのだ。
美味しい物件がいるのだから確保しなければ、と思いたったが吉日と行動をはじめたのだが、ほかのメンバーはめぼしすらつけてなかった。
あまりに目先のことしか考えてなさすぎるクララだった。
当然のツッコミをうけ、クララは頬に汗をたらしながらごまかしにかかる。
「こ、こういう重要な問題は、パーティーのメンバーで話し合ってきめないとと思ってね」
「わたしも今日、パーティー入ったばかりなんですけど……」
「うちは実力主義だから、初日だからって差別したりしないわ!成果をあげればばんばん出世できるの!リーダー以外の役職ならなんだってなれるわよ!」
「そもそもわたしとクラリネッタさん以外いませんけど……」
大人しいミーフィアもさすがに呆れた表情で、クララもうっとなった。
(まあ多少、無計画だったことは認めるわ……。
でもだいじょうぶ。こんなに優秀な魔法使いがはいったんだもん。
ほかもなんとかうまくいくわよ!)
そんな風に考えたクララは、リーダー責任を追及されそうなこの状況をごまかすため、話をどんどん進めることにした。
「まず、ひとりは戦士がほしいわね。あとのひとりはとくに考えてないわ!」
魔法使いだけのパーティーっていうのはなにかと不安があるものだった。
これからビックになるパーティーを組む予定のクララとしては、後衛の護衛と防御と盾役とアタッカーと荷物もちをかねてくれる優秀な戦士がほしいところだった。
「戦士ですか?でも、近場に戦士学校なんてないですよ。この学校には魔法戦士科はないですし。大人の冒険者にお願いするしか――」
「いやよ。あんなうさんくさい連中。こっちが魔法学校の生徒なんていったら、護衛してもらえるどころか身包みはがされかねないわ!」
「でも、ほかには、この近辺で戦士を調達する方法なんてないですよ?」
「とにかくいや!」
ミーフィアがクララにさそわれたのは、長期休暇に行われるダンジョン実習というものだった。
この魔法学校の近くにある街のひとつペルジーアには、中規模程度の迷宮ダンジョンがある。そしてそこをたまり場にする冒険者たちがいる。
こういう街は世界にいくつかあって、そのひとつといった感じだ。
そんな場所があることから魔法学校では長期休暇に、生徒たちにそこの街で冒険者として実戦経験をつむことを実習単位としてとして組み込んでいる。
ただし、当然ながら命の危険もともなうので任意選択だし、挑戦できるのは近場の街のそのダンジョンだけ、領域は低階層までが推奨されている。
基本的には、パーティーは生徒たちで組まれる。
魔法学校の生徒は金持ちが多いから、かつかつのその日暮らしが多い冒険者にはかもにされやすいのだ。殺されることはないが、いいように金を要求されたり、約束を反故にされたりした話は枚挙にいとまない。
だから、クララのいうこともわかる。
しかし――
「それなら魔法使いだけで編成して、ひとりが防御魔法をはりながら――」
「それもいや。効率が悪いもん」
――対案なき反対は、議論にまったく貢献しないのだ……。
ミーフィアは泣きたくなった。
でも、泣かない。
引き受けた以上はがんばる。そう決めたのだ。
クロトさんのような立派な人(?)になるため。
まじめな彼女らしい、いじらしい考えだが、この場合どろ沼にすすんで足を突っ込んでるともいえなくもない。
結局、議論は停滞し、二人は沈黙してしまった。
この近辺で戦士を調達するなら大人の冒険者に頼るしかない。
しかし、それでは彼女は納得しない。
でも、どうしても戦士は欲しいらしい。
どう考えても詰んでいた。
「クラリネッタさん……、やっぱり……」
ミーフィアが申し訳なさそうにもう一度説得しようとしたとき。
ドンッとクララがテーブルを叩いた。
「とにかくわたしのパーティーには絶対に戦士が必要なの!だって――」
すると天井のほうからシュッと何か黒いものがふってきた。
ふってきたものをみて、クララはいぶかしげな顔を、ミーフィアは嬉しそうな顔をする。
「ねこ……?」
「クロトさん!」
彼女たちのテーブルの脇におりてきたのは、一匹の黒猫だった。
かわいらしい容姿で、普通の猫よりちょっと小柄だった。
その黒猫は地面に着地した態勢から立ち上がると、自分をその前足で指して、目を輝かせていった。
「わしなんてどうじゃ!?わし、戦士じゃ!」
「わかりましたぁ……。参加します、参加しますから。だからもう休ませてぇ……」
(ふっ、どうやらわたしの説得術が効いたようね)
クララは腕をくんで自慢げに笑うが、どう考えて説得術(拷問)だった。
この3時間、ひたすら動き続けたクララの口が止まり、ミーフィアは安堵のため息をはいて、ぬるくなった紅茶をようやく飲み始めた。
「それであとの問題は、パーティーのメンバーののこりを見つけることね!」
「ええ!?ほかの二人は決めてなかったんですか!?」
ミーフィアが驚いた顔をする。
そうなのだ。
美味しい物件がいるのだから確保しなければ、と思いたったが吉日と行動をはじめたのだが、ほかのメンバーはめぼしすらつけてなかった。
あまりに目先のことしか考えてなさすぎるクララだった。
当然のツッコミをうけ、クララは頬に汗をたらしながらごまかしにかかる。
「こ、こういう重要な問題は、パーティーのメンバーで話し合ってきめないとと思ってね」
「わたしも今日、パーティー入ったばかりなんですけど……」
「うちは実力主義だから、初日だからって差別したりしないわ!成果をあげればばんばん出世できるの!リーダー以外の役職ならなんだってなれるわよ!」
「そもそもわたしとクラリネッタさん以外いませんけど……」
大人しいミーフィアもさすがに呆れた表情で、クララもうっとなった。
(まあ多少、無計画だったことは認めるわ……。
でもだいじょうぶ。こんなに優秀な魔法使いがはいったんだもん。
ほかもなんとかうまくいくわよ!)
そんな風に考えたクララは、リーダー責任を追及されそうなこの状況をごまかすため、話をどんどん進めることにした。
「まず、ひとりは戦士がほしいわね。あとのひとりはとくに考えてないわ!」
魔法使いだけのパーティーっていうのはなにかと不安があるものだった。
これからビックになるパーティーを組む予定のクララとしては、後衛の護衛と防御と盾役とアタッカーと荷物もちをかねてくれる優秀な戦士がほしいところだった。
「戦士ですか?でも、近場に戦士学校なんてないですよ。この学校には魔法戦士科はないですし。大人の冒険者にお願いするしか――」
「いやよ。あんなうさんくさい連中。こっちが魔法学校の生徒なんていったら、護衛してもらえるどころか身包みはがされかねないわ!」
「でも、ほかには、この近辺で戦士を調達する方法なんてないですよ?」
「とにかくいや!」
ミーフィアがクララにさそわれたのは、長期休暇に行われるダンジョン実習というものだった。
この魔法学校の近くにある街のひとつペルジーアには、中規模程度の迷宮ダンジョンがある。そしてそこをたまり場にする冒険者たちがいる。
こういう街は世界にいくつかあって、そのひとつといった感じだ。
そんな場所があることから魔法学校では長期休暇に、生徒たちにそこの街で冒険者として実戦経験をつむことを実習単位としてとして組み込んでいる。
ただし、当然ながら命の危険もともなうので任意選択だし、挑戦できるのは近場の街のそのダンジョンだけ、領域は低階層までが推奨されている。
基本的には、パーティーは生徒たちで組まれる。
魔法学校の生徒は金持ちが多いから、かつかつのその日暮らしが多い冒険者にはかもにされやすいのだ。殺されることはないが、いいように金を要求されたり、約束を反故にされたりした話は枚挙にいとまない。
だから、クララのいうこともわかる。
しかし――
「それなら魔法使いだけで編成して、ひとりが防御魔法をはりながら――」
「それもいや。効率が悪いもん」
――対案なき反対は、議論にまったく貢献しないのだ……。
ミーフィアは泣きたくなった。
でも、泣かない。
引き受けた以上はがんばる。そう決めたのだ。
クロトさんのような立派な人(?)になるため。
まじめな彼女らしい、いじらしい考えだが、この場合どろ沼にすすんで足を突っ込んでるともいえなくもない。
結局、議論は停滞し、二人は沈黙してしまった。
この近辺で戦士を調達するなら大人の冒険者に頼るしかない。
しかし、それでは彼女は納得しない。
でも、どうしても戦士は欲しいらしい。
どう考えても詰んでいた。
「クラリネッタさん……、やっぱり……」
ミーフィアが申し訳なさそうにもう一度説得しようとしたとき。
ドンッとクララがテーブルを叩いた。
「とにかくわたしのパーティーには絶対に戦士が必要なの!だって――」
すると天井のほうからシュッと何か黒いものがふってきた。
ふってきたものをみて、クララはいぶかしげな顔を、ミーフィアは嬉しそうな顔をする。
「ねこ……?」
「クロトさん!」
彼女たちのテーブルの脇におりてきたのは、一匹の黒猫だった。
かわいらしい容姿で、普通の猫よりちょっと小柄だった。
その黒猫は地面に着地した態勢から立ち上がると、自分をその前足で指して、目を輝かせていった。
「わしなんてどうじゃ!?わし、戦士じゃ!」
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