すまん、いちばん最初の使い魔のわしがいらない子ってマジ?

小択出新都

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わしと主(あるじ)とバトロワ 16

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 突然、大泣きをはじめたソーラにわしは焦る。

(こ、これではわしが悪いことをしたみたいではないか……!?)

「あーあ-あ-、泣かせたーっす。泣かせたー泣かせたーっす」

 さっきまで黙りこくっていたのに、復活したムー子がこちらをじと目で睨みながら、歌うような口調でそんなことをいいだした。

「これ、ムー子!こんなときにからかうでない!」

 わしの猫ほどのちいさな額に汗が溢れる。

「からかってないっす!本気っす!」
「そうです長(おさ)さまが悪いんです!」

 フェニ子がむくれた顔をしながらそんなことを言った。

「わたしもそう思います。今回のことは長(おさ)さまに原因があるかと」

 セイ子も唇をとがらせ、こちらを上目遣いににらめつけながら同意する。

「わ、わしが何をしたというのじゃ!」

「女心が」
「ぜんぜん」
「わかって」
「ないっす!(ないです!)(いません!)」

 ひとつのセリフを、三匹が順番に口にしながら、最後に見事に唱和する。

(なんなんじゃ、こういうときの女子の団結力というのは……)

 いつの間にか、わしが追い込まれる形になっていた……。
 たすけ舟が欲しくて、ミーフィアのほうを向く。

 すると、ミーフィアはすこし苦笑いしながら、後ろに手を組んだ格好でわしに言った。

「わたしもクロトさんがちょっとだけ悪いと思います」
「なんじゃとぉ!?」

(わ、わしが悪かったのか……?)

 ミーフィアにそういわれると、さすがにわしにも原因があったのではと思えてくる。

「の、のう。ソーラよ」

 わしは地面に座り込み、泣いているソーラをうかがうように声をかけた。

「よくわからんが、わしにも悪いところはあったようじゃ。そこについては、すまんと思う。わしを存分にせめてくれてよい」

「クロトのバカ……。わからずや……。鈍感……。浮気もの……。彼女いない暦イコール年齢……。1000年童貞……」

 最後のほう、関係なくなかったか……?

「しかしじゃ、今回のことはよくないぞ。ぬしは特別な大きな力をもっておるのじゃ。人と接するときは、その力の使い方を考えなくてはならぬ」

 ああいう使い方をしては、ソーラが怖れられるようになってばかりだ。
 模擬戦で本気を尽くすというのは本分ではあるが、ソーラの場合、残念ながらそれで得られるものはほとんどない。
 それは他の人間とは違う、大きな力をもってしまったソーラの不幸でもあった。

 ソーラは涙を溜めた瞳で、ミーフィアを見た。

「クロトはその子のことが大切なの……?」

「当たり前じゃ」

 わしの答えに、ソーラは傷ついた顔をした。

「おぬしのクラスメイトじゃぞ?」
「へっ……?」

 しかし、次の言葉にぽかーんとした顔になる。

「ぬしがこれから学校で一緒に過ごし、一緒に学び、一緒に遊び、大切な時間を過ごし、友達になるやもしれぬ相手なのじゃ。大切でないわけがないじゃろう」

 わしはミーフィアみたいないい子に、ソーラの友達になってほしかった。
 もちろん、それは強制できることではないが。
 特別な力をもち、特別な才能をもち、常に大人の利害関係に巻き込まれかねないソーラの立場。
 だからこそ、そんなのを関係ない場所で、友達を作り、時間を過ごしてほしかった。
 それが、わしがソーラを学校にやった目的じゃった。

 ソーラはその言葉を聞くと、目をごしごしこすり涙を拭きながら。
 でも、口もとはちょっと嬉しそうに、わしに抱きついて言った。

「やっぱり、クロトって少しバカ……」
「そうなんじゃろうかのう……」

 赤くなった目もとがちょっと嬉しそうにしてるのを見て、わしはほっと息をついた。

「ええ、バカっす」
「バカです」
「わたしもそう思います」

「おぬしらには聞いておらんわ!」

 会話に割ってはいる三匹に、わしはどなりかえした。
 すると、後ろからくすくすと笑い声が聞こえる。振り返ると、ミーフィアが笑っていた。

「クロトさんたちって、とても仲が良いんですね」
「そうなのかのう……?」

 正直いって、三匹はわしに全力攻撃をしかけてくるし、ソーラはわしを使い魔としてつかうのを拒否したり、みんなわけのわからぬ行動をして、問題だらけなのじゃが……。

「はい、そう思います」

 しかし、ミーフィアは笑顔で、その言葉に頷くのじゃった。



※おまけクロトの設定

 魔界出身の1014歳の猫。(ごめんなさい、あらすじは設定ミスです。さらにもうちょっと変動するかも……)
 その正体は剣士であり、前足の爪から出現する十本の神器クラスの魔剣をあやつる<十装神軌>の使い手であり、とてつもない戦闘力を誇る。
 ただし、本人の魔力自体は小さく、使い魔としては最下級とみなされている黒猫、さらにとある事情(本人以外にはばればれ)によりあるじが活躍させたがらないため、使い魔としての評価は不当に低い。
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