すまん、いちばん最初の使い魔のわしがいらない子ってマジ?

小択出新都

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わしと主(あるじ)とバトロワ 11

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 わしは木の鬱蒼としている森の中に隠れると、ため息をひとつはいた。

「ふう、なんとか撒けたのう」

 ミーフィアを地面におろしてやり、ひたいの汗をぬぐった。
 Sクラスの召喚士と、幻獣と呼ばれる使い魔を撒いたのだ。さすがにくたびれた。

 ハイランドワイバーンとの戦いでは、森の中に隠れていたエセナたちを援護したわけじゃが、今度は自分が隠れる立場になるとはおもわなかった。

「すいません、わたしのせいで」
「いやいや、ミーフィアは何も悪くないのじゃよ」

 原因はどう考えても、自身の使い魔、同級生、関係なしに無差別攻撃を放ってくる我が主にあった。 
 どうしてあんなになってしまったのか……。

「しかし、喉が渇いたのう」

 何しろ全力で、あちらの攻撃を避け、ときに迎撃しながら走ったのだ。
 齢1000歳を越える老猫には、きつい行脚だった。

 その言葉を聞いて、ミーフィアが制服についていたポーチを漁る。

「ごめんなさい、クロトさん。水筒もってきてたんですけど、落としちゃったみたいです」

 ミーフィアは申し訳なさそうな顔をした。

「いやいや、大丈夫じゃよ」

 むしろ、水筒をもってくるなんて家庭的でポイントアップじゃ。

 そんなことを考えていると、ミーフィアが森のある場所を指して嬉しそうな声をだす。

「あ、クロトさん。あそこに泉がありますよ」
「おお、どれどれ?」

 ミーフィアの指差した方角を見ると、確かに泉があった。
 くぼんだ地形に湛えられた水が、木々の間から落ちる光をきらきらと反射している。

「ソーラたちにもまだ見つかってないようじゃし、ちょっといって休憩でもするか」
「はい、クロトさん!」

 とにかくソーラが落ち着くまで逃げ回る。長丁場じゃ。
 あまり気をはりつめすぎてもやってられない。

 泉の前までやってくると、それはとても綺麗な泉だった。水は澄んで透明で、あたりの景色を鏡のようにうつしている。
 たまに小鳥たちがやってきて、水を飲んでは飛び立っていく。
 自然と緊張していた心がやすらぐ。
 ミーフィアも同じようで、穏やかな顔で深呼吸をひとつした。

「いい天気じゃのう」
「はい、そうですね」

 ソーラたちとの戦闘では気づかなかったが、今日は晴れで、気温もちょうど良くピクニック日和だった。
 これでソーラたちに追われてなく、お弁当でも作ってあれば、本当にピクニックになるのじゃが。

(どれ、わしも水分補給しておくか)

 穏やかな気持ちで、水場に足を踏み入れ、水をひとなめしたとき。

「ひゃっ!」

 女の子の悲鳴のようなものが聞こえた。
 それと同時に、水面が揺れ動きはじめる……。

 何が何だかわからない……、ならよかったんじゃが、わしは思いっきり覚えがあった。

 揺れ、ゆらぎ、動き出した水面は、泉の中央にあつまって人の形を形成する。

 上半身は美しい少女、下半身は美しい青く輝く鱗をもった魚。伝説に謡われる人魚の姿。
 水の精霊の上位種、セイレーンだった。

 それも特段に見覚えのある。

 セイレーンの少女は、少し頬を朱にそめながら、こちらをじと目で見てくる。

 わしは額に汗をかき、その少女のご機嫌を伺うように、前足をあげながらいった。

「セイ子、ぬしはいい子じゃ。ほかのみんなみたいに、わしを攻撃したりはせぬよな……?」
「……」

 セイ子からの返答はなかった。
 しかし、こちらをすぐさま攻撃してくる気配もない。じっとこちらの様子をうかがっている。

 さっきもいったとおり、何かと癖のあるソーラの使い魔たちのなかで、セイ子の性格はおしとやかで優等生ともいえる存在だった。
 話し合えばなんとかなりそうな相手じゃった。

 セイ子の視線が別方向を向いた。ミーフィアのほうじゃった。

「あの子はミーフィアじゃ。この学園の生徒で、ソーラと一緒のクラスなんじゃが、よくわからないことにわしと一緒にソーラに襲われてこまっておる。ぬしからも説得してくれんかのう」

 セイ子は問答無用で襲い掛かってくるムー子、フェニ子とは違って、状況を見極めようとしてくれているように見える。
 さすがは優等生。ちゃんと考えてるのじゃ。
 行動と脳が直結してる2匹とは違った。

 わしはできるだけ彼女に味方になってもらえるように、アピールをすることにした。

 わしらをじっと見ていた彼女の視点が、ある一点で止まった。
 わしもその場所に目をやる。

 そこにはあった。ミーフィアのふくよかな膨らみが。
 木々から漏れる光のもとでは陰影くっきりと、特に胸を強調する服装でもないのにはっきりと、やわらかそうに盛り上がっていた。

 わしは彼女の同じ場所に視線を向ける。

 そこには崖があった。
 もし彼女の肩に川があるのなら、その場所は急降下する滝になるであろう。

 セイレーンとは本来は胸のふくよかな種族だった。
 幻獣たちを解説する本にも、大きな胸を貝殻のブラで隠した女性の姿がのっている。

 だが、セイ子の胸は小さかった。どうしようもないほど……。

 彼女の胸には、彼女の仲間たちがつけてるような貝殻のブラではなく、伸縮性のある生地をまとってある。

 わしは知っていた……。
 あまりにも平すぎて……。
 貝殻のブラの凹凸が肌に刺さって……。
 痛いからつけられないのだと……。

 わしの目線はふたりの胸を行き来した。
 同じ場所でありながら、ふたつの景色はあまりにも違いすぎた……。

 ふと気づくと、セイ子の視線が、わしのほうにもどっていた。
 何も言わず、こちらをじっと見ている。

 わしは愛想笑いをして、彼女をはげまそうと声をかけた。

「大丈夫じゃ。ぬしもそのうち大きくなるぞ」

 嘘じゃ。彼女の成長期は、もう終わっておる。

「長(おさ)さま」
「なんじゃ?セイ子よ」

「死んでください」

 次の瞬間、わしにむかって彼女の水柱の一撃が炸裂した。

「なぜじゃああああああああああああ!?」
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