すまん、いちばん最初の使い魔のわしがいらない子ってマジ?

小択出新都

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わしと主(あるじ)とバトロワ 9

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 空に漆黒の羽を広げるバハムートと、その背中にのった最強クラスの召喚士の少女。
 生徒たちを一気に壊滅させた真っ黒い光条。
 それはバハムートの口から放たれたものだった。
 ゼロブレス。
 絶対なる破壊の力をもったバハムートのブレス攻撃。

 その姿を見た瞬間、わしは叫んだ。

「ムー子!きさまいったい何を考えておる!生徒たちに向けてゼロブレスを放つとは!」

 バハムートの口がぱかっと開いた。
 その口から出てきたのは、あらゆる生き物を震撼させる外見に反して、可愛らしい少女の声だった。

「ちゃんと手加減したっすー。みんな無事っすー」

「無事とかそういう問題ではない!きさまのブレスは危険きわまりないのじゃ!そのうえ生徒たちのどうにかできる範疇を越えておる!これではミーフィアの訓練にもならんじゃろうが!」

 そういって責めると、ソーラの顔がさがり肩が震えた。

 おお、少しは反省してるのじゃろうか?
 どう考えてもやりすぎだったし。さもありなん。
 わかってきちんと反省してくれれば――

 顔をあげたソーラは、以前にもましてすわった目つきで、わしを睨んでいた。
 ……なぜじゃ?

「ムーコ……。ゼロブレス最大出力……」
「了解っす!」

 ソーラの命令により、またムー子がゼロブレスの発射準備に入る。

 まずい。
 あの黒い光の大きさ。ムーコのやつ本気じゃ。
 しかも、今度は拡散型ではなく集積型。当たればわしやミーフィアなどの普通の生き物はひとたまりもない。

「これやめんか!ミーフィアもいるのじゃぞ!いったい何を考えておるんじゃ!」

 わしは慌てて止めるが、無情にもムー子の口からゼロブレスが解き放たれた。
 それと同時に、こちらをとがめるような声が聞こえる。

「長(おさ)さまが悪いっすー」
「なにがじゃああああああああああああ!?」

 意味不明の言いがかりにわしは叫ぶ。

「ミーフィア、すまぬ!少し我慢してくれ!」
「え、はい……?きゃあ!?」

 完全に事態に取り残されてるミーフィアに一応断りをいれ、わしはミーフィアの肩にのった体勢から、わしがミーフィアを抱き上げる体勢へと入れ替わった。

「加速剣グラム!」

 魔剣を解放し、地面を斬りつける。
 わしの踏みしめてる地面がカタパルトのように上空に加速され、わしとミーフィアの体を一気に空へ打ち上げる。

 ゼロブレスがさっきまでわしらがいた地面に突き刺さる。
 ブレスが着弾してから、そこを中心に直径50メートルぐらいがあっさりと抉り取られた。
 森の中にぽっかりと、クレーターができあがる。

 わしらはぎりぎりでゼロブレスの破壊範囲から脱出できた。

「大丈夫か?ミーフィア」
「は、はい。クロトさんって以外にちから強いんですね」

 心配して問いかけたミーフィアの頬は、なぜか朱にそまっておった。
 まあ怖がってないならいいんじゃが……。

「お……お姫さま抱っこ……」
「ぐぬぬっ……す!」

 わしはゼロブレスを放ってきた二人を一喝した。

「これ!いい加減にせぬか!危ないのじゃ!」
「こっちの全力攻撃をあっさり避けておいてよくゆうっす!」
 
 あっさりではない!
 ミーフィアを守るために大慌てじゃったんじゃ。

 生徒たちが無事なようだから、ちゃんと<みがわり人形>が発動するのじゃろうが、とてもじゃないがあんなものに少女の身を晒す気はおきない。

「でも、空中に浮かんだ……。もう逃げ場はないよ……クロト……」

 こちらをおどろおどろ瞳で睨みながら、ソーラが呪文詠唱をはじめた。

「天空に眠る凍れし鉄よ――」

 こ、この詠唱は上級魔法、千氷冷剣(ブリザーム)――。
 千の巨大な氷の剣を召喚して、周囲の一帯を爆撃する戦術規模の魔法。

「事象剣ムラサメ!」

 わしは慌ててムラサメを発動させ、事象予測を目に映した。

 一般的にはとてつもなく高度な魔法じゃが、このレベルの魔法でソーラが失敗する確率は0%。
 もとになる確率がない以上、詠唱の失敗を呼び起こすことはできない。

 だが、発動したあとの事象で、こちらへの被害が少ない未来を引き当てることはできる。
 広範囲を攻撃する魔法じゃ。必ずむらっけは生じる。
 できる限り回避しやすい事象を――

 そのつもりでムラサメを解放したわしの目に、信じられないものが映った。

(これは発動の失敗!?)

 わしの目に、わずかにうすくソーラが呪文の発動に失敗する未来が映った。
 可能性とはいっても、0.1%にも満たない。
 だが、普段のソーラならありえない発動そのものの失敗だった。

(心を乱しておるのか……?魔法の精度が悪くなっておる……。これならば!)

 ソーラの詠唱が完成する前に、わしはムラサメで魔法が発動する事象を連続て切り裂いていく。

(わずかに斬り残した!だが、しかし!)

 ほとんどの成功する事象は切り裂いた。
 いまソーラがこの呪文の発動に成功する確率は25%!

「千氷冷剣(サウザント オブ ブリズアームズ)!」

 ぷすぷすぷすっ……。
 呪文を発動した瞬間、ソーラの手から生じたのは黒い煙のみだった。
 魔法の発動に失敗したのだ。

「なんでっ……。まさか……ムラサメ……!?」
「事象切断っすか!長(おさ)さま汚いっす!」

 魔法の発動に失敗したソーラが動揺した声を漏らす。

「こちらにはミーフィアがいるのじゃぞ。汚いも何もあるか!」
 
 さっきからミーフィアがいるからやめろと言ってるのに、ふたりは攻撃を弱めるどころかどんどんヒートアップしていく。

「浮気もの……浮気もの……浮気もの……浮気もの……許さない……」
「そうっす!浮気ものには死をっす!」

 ソーラはなにかぶつぶつとつぶやいているし、ムー子はまたゼロブレスを充填しはじめた。

 またゼロブレスが放たれる。
 今度は拡散型。しかも、一度周囲にばらばらに展開してから、鋭角に曲がりこちらへと向かってくる。

「ぬおっ!?」

 こやついつのまにこんな芸当を!

「奥の手は最後まで秘密にするものっすー!」

 最後まで秘密にしてしまってはいかんじゃろうっと、わしは心の中で突っ込んだ。

 しかし、アホなセリフに反して攻撃の方は致命的だった。
 ゼロブレスは当たったものに100%の破壊をもたらす。ムラサメでは防げない。
 拡散した弾幕はわしの全方位に展開されているので、グラムでは避けきれない。


(ええい!まさか、模擬戦でここまで魔剣を使うことになるとは!)

 わしは三番目の魔剣を解放する。

「空食剣オフィス!」

 わしが剣を円形に振るうと、迫り来るゼロブレスを空間ごと一気に消滅させた。
 空間を喰らい消す剣オフィス。
 この剣なら防御不能なゼロブレスも防ぐことができる。

「三番目の魔剣っすか!!」
「オフィスまで……クロト……」

 なんとか攻撃は防いだが防御するたびに、二人の態度がどんどん硬化していってる気がする。

「なんなんじゃ……。あの二人は……」
「えっと、嫉妬してるんじゃないでしょうか?」

 わしは地面に着地し、ミーフィアの言葉を聞き返す。

「嫉妬……?」

 その瞬間、背中で火の粉が舞った。

 振り返った視界に映ったのは、白く輝く炎の体をもった一匹の美しい鳥。
 幻獣の中でもさらに希少な存在であり、幻獣の中の幻獣といわれる存在。不死と再生の力を持つ火の鳥。
 不死鳥フェニックス。

「フェニ子!?」
「長(おさ)さま!覚悟です!」

 フェニ子の体の炎が一気に膨れ上がり、炎の突撃がわしにむかって放たれた。
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