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わしと主(あるじ)とバトロワ 1
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ソーラが出かけたあと、わしは庭掃除をはじめた。
ネコの体にはいくぶん余る箒をもって、風で飛んできたゴミや夏の落ち葉を掃いていく。
しかし、それも小一時間ほどで終わってしまった。
一昨日も庭掃除をしたから、そんなにゴミもなかった。
「暇じゃあ」
洗濯は朝すませたし、家の中の掃除は昨日やった。食材もまだ十分足りている。
今日は本当にやることがない。
「ソーラが依頼をまわしてくれれば、こんなこともないのじゃが……」
ほろりと、老境の目じりに涙が浮かぶ。
ソーラへの依頼は、かんたんな依頼もむずかしい依頼も、かたっぱしからほかの優秀な使い魔が片付けていってしまう。
わしにまわってくる依頼は、ここ数年なかった。
かといって無名のわしに、直接依頼がくるはずもない。
「ソーラが帰ってきたら、もう一度頼んでみるかのう。
それまで、散歩でもしておくか」
結局、ちょっとは使い魔らしいことをしたいという欲求を捨てきれず、わしはもう一度ソーラに頼むことにして、時間つぶしに散歩することにした。
家の門をでると、そこはすぐに魔法学校の敷地が広がっている。
いまわしらが住んでるのは、魔法学園の敷地の一角にある小さな借家だった。
ソーラはあの歳にしてSランクと呼ばれる最高クラスの召喚士で、本来なら学校に通う必要はない。
じゃが、王国と学校のたっての願いで、この学校に通っている。
王国としては有名な召喚士なので学歴をつけて箔をつけてほしいらしい。学校としてはソーラほどの召喚士なら、大歓迎ということだった。
わしも学校は通った方がいいと思ったので、ソーラに承諾するようにほどこした。
いい学校じゃと思う。
緑が豊かでひろびろとしていて、散歩していても心が休まる。
通う生徒は家柄も成績も優秀なものが多いらしく、治安もとてもいい。
学校もソーラの特殊な家庭環境に配慮して、魔法学校の敷地内にある使われてない一軒家を貸してくれた。
ほかにも学食の仕入れ値で野菜を買わせてもらったり、わしもいろいろとこの学校の人間には世話になっている。
だから恩返しというわけではないが、敷地内を散歩してるときは、箒とゴミ袋をもって清掃しながら歩くようにしている。
「用務員のネコさんこんばんはー!」
「やあ、こんばんはじゃ」
学園の生徒たちも笑顔で挨拶してくれる。
みんな良い子たちじゃ。
用務員ではないんじゃがの。
事情説明もむずかしいので放置しておる。
他の使い魔たちのように有名な使い魔なら、勘違いされることもないんじゃろうけどな……ぐぬぬっ……。
学園内をきれいにしながら気ままに散策していると、敷地内の大きな森にさしかかったとき、若い女性の声に呼び止められた。
「あの、すいません!」
なんじゃろうと思って振り向くと、少しだけ見覚えのある若い女性じゃった。
確かソーラの担任の先生だったと思う。
記憶は確かだったようで、女性の後ろにいる生徒たちにはソーラの姿もあった。
「確かソーラさんの使い魔さんですよね」
「そう――」
「いいえ、婿です」
そうじゃよ、と言おうとしたら、いつの間に近くに来ていたソーラが割り込んで変なセリフで上書きしてきた。
「使い魔じゃよ」
わしはすぐに訂正した。
「そ、そうですよね。びっくりしました」
頼むからソーラの妙な言動を真に受けないでほしい。
「まさかオスの方だったなんて……」
「いや、なんでそこじゃ!」
妙なところを驚きポイントにされ、わしは先生に突っ込む。
「あ、すいません」
「謝られても困る……」
ソーラのせいで話が変な方向にいってしまった。
ソーラを見るとまた機嫌が下がっている。
いったい何が不満なのじゃ。
箸がころがってもおかしな年頃とはいうが、ほとんど何もしてないのに機嫌が下がっていく。どう対応したら正解なのかわからぬぞ……。
「それで先生殿。いったいどうされたんじゃ?」
話を戻すため、先生にたずねかえした。
わざわざ声をかけてきたということは、用件があるのじゃろうし。
「あ、実はクラスで模擬戦闘をやろうと思ってるんですけど、ひとりだけ使い魔がいない子がいるんです。
もしよろしければ、ネコさんにその子の使い魔の代わりをやっていただけたらなぁっと」
「だ――」
ソーラが、だめ、っとまた言い出すのが感覚でわかった。
わしはネコの俊敏な動きでソーラの唇を肉球でふさぐと、先生によい返事をした。
「大丈夫じゃ!こう見えても経験は長いベテランじゃ。任せてくれ!」
「だ、大丈夫なんですか?ソーラさんから黒いオーラがでてますけど」
確かに口をふさぎながら、ソーラの機嫌がどんどん下がっていくのは感じてた。
しかし、ひさしぶりにやってきた使い魔らしい仕事じゃ。
代理とはいえ、逃す手はない。
「か、かまわん。先生からわしへの直接の依頼じゃ。問題はないのじゃ。
さあ先生殿、その困ってる生徒のもとへ案内してくれ」
「は、はい……」
「あ、ソーラもがんばるんじゃぞ?応援してるからの!じゃあ、模擬戦までまたじゃ」
「クロト……」
後ろからソーラの恨みがましい声が聞こえてきた。
しかし、わしのほうは久しぶりに使い魔らしいことができるということで、なんだかんだウキウキしていた。
ネコの体にはいくぶん余る箒をもって、風で飛んできたゴミや夏の落ち葉を掃いていく。
しかし、それも小一時間ほどで終わってしまった。
一昨日も庭掃除をしたから、そんなにゴミもなかった。
「暇じゃあ」
洗濯は朝すませたし、家の中の掃除は昨日やった。食材もまだ十分足りている。
今日は本当にやることがない。
「ソーラが依頼をまわしてくれれば、こんなこともないのじゃが……」
ほろりと、老境の目じりに涙が浮かぶ。
ソーラへの依頼は、かんたんな依頼もむずかしい依頼も、かたっぱしからほかの優秀な使い魔が片付けていってしまう。
わしにまわってくる依頼は、ここ数年なかった。
かといって無名のわしに、直接依頼がくるはずもない。
「ソーラが帰ってきたら、もう一度頼んでみるかのう。
それまで、散歩でもしておくか」
結局、ちょっとは使い魔らしいことをしたいという欲求を捨てきれず、わしはもう一度ソーラに頼むことにして、時間つぶしに散歩することにした。
家の門をでると、そこはすぐに魔法学校の敷地が広がっている。
いまわしらが住んでるのは、魔法学園の敷地の一角にある小さな借家だった。
ソーラはあの歳にしてSランクと呼ばれる最高クラスの召喚士で、本来なら学校に通う必要はない。
じゃが、王国と学校のたっての願いで、この学校に通っている。
王国としては有名な召喚士なので学歴をつけて箔をつけてほしいらしい。学校としてはソーラほどの召喚士なら、大歓迎ということだった。
わしも学校は通った方がいいと思ったので、ソーラに承諾するようにほどこした。
いい学校じゃと思う。
緑が豊かでひろびろとしていて、散歩していても心が休まる。
通う生徒は家柄も成績も優秀なものが多いらしく、治安もとてもいい。
学校もソーラの特殊な家庭環境に配慮して、魔法学校の敷地内にある使われてない一軒家を貸してくれた。
ほかにも学食の仕入れ値で野菜を買わせてもらったり、わしもいろいろとこの学校の人間には世話になっている。
だから恩返しというわけではないが、敷地内を散歩してるときは、箒とゴミ袋をもって清掃しながら歩くようにしている。
「用務員のネコさんこんばんはー!」
「やあ、こんばんはじゃ」
学園の生徒たちも笑顔で挨拶してくれる。
みんな良い子たちじゃ。
用務員ではないんじゃがの。
事情説明もむずかしいので放置しておる。
他の使い魔たちのように有名な使い魔なら、勘違いされることもないんじゃろうけどな……ぐぬぬっ……。
学園内をきれいにしながら気ままに散策していると、敷地内の大きな森にさしかかったとき、若い女性の声に呼び止められた。
「あの、すいません!」
なんじゃろうと思って振り向くと、少しだけ見覚えのある若い女性じゃった。
確かソーラの担任の先生だったと思う。
記憶は確かだったようで、女性の後ろにいる生徒たちにはソーラの姿もあった。
「確かソーラさんの使い魔さんですよね」
「そう――」
「いいえ、婿です」
そうじゃよ、と言おうとしたら、いつの間に近くに来ていたソーラが割り込んで変なセリフで上書きしてきた。
「使い魔じゃよ」
わしはすぐに訂正した。
「そ、そうですよね。びっくりしました」
頼むからソーラの妙な言動を真に受けないでほしい。
「まさかオスの方だったなんて……」
「いや、なんでそこじゃ!」
妙なところを驚きポイントにされ、わしは先生に突っ込む。
「あ、すいません」
「謝られても困る……」
ソーラのせいで話が変な方向にいってしまった。
ソーラを見るとまた機嫌が下がっている。
いったい何が不満なのじゃ。
箸がころがってもおかしな年頃とはいうが、ほとんど何もしてないのに機嫌が下がっていく。どう対応したら正解なのかわからぬぞ……。
「それで先生殿。いったいどうされたんじゃ?」
話を戻すため、先生にたずねかえした。
わざわざ声をかけてきたということは、用件があるのじゃろうし。
「あ、実はクラスで模擬戦闘をやろうと思ってるんですけど、ひとりだけ使い魔がいない子がいるんです。
もしよろしければ、ネコさんにその子の使い魔の代わりをやっていただけたらなぁっと」
「だ――」
ソーラが、だめ、っとまた言い出すのが感覚でわかった。
わしはネコの俊敏な動きでソーラの唇を肉球でふさぐと、先生によい返事をした。
「大丈夫じゃ!こう見えても経験は長いベテランじゃ。任せてくれ!」
「だ、大丈夫なんですか?ソーラさんから黒いオーラがでてますけど」
確かに口をふさぎながら、ソーラの機嫌がどんどん下がっていくのは感じてた。
しかし、ひさしぶりにやってきた使い魔らしい仕事じゃ。
代理とはいえ、逃す手はない。
「か、かまわん。先生からわしへの直接の依頼じゃ。問題はないのじゃ。
さあ先生殿、その困ってる生徒のもとへ案内してくれ」
「は、はい……」
「あ、ソーラもがんばるんじゃぞ?応援してるからの!じゃあ、模擬戦までまたじゃ」
「クロト……」
後ろからソーラの恨みがましい声が聞こえてきた。
しかし、わしのほうは久しぶりに使い魔らしいことができるということで、なんだかんだウキウキしていた。
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