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わしと主(あるじ)の朝
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小鳥の鳴き声が窓の向こうから聞こえてくるさわやかな朝。
すでに起きていたわしは、踏み台をつかってキッチンに立ち、朝食を作っていた。
今日は卵が安かったから、厚焼き玉子と、野菜の炒め物、それからパンもフライパンで加熱し、サクッとした触感にしておく。
できた料理を皿に移すと、わしはキッチンを出て、主(あるじ)の部屋にむかった。
ソーラの部屋と書かれたプレートがかかった扉。
扉を開け中に入ると、10代半ばぐらいの年頃の銀色の髪の少女がベッドにすやすやと寝ていた。
この少女があのときわしが助けた子じゃった。
歳はもう15歳になる。
同じ年代の少女たちと比べるとまだまだ小柄じゃが、それでもずいぶん大きくなったもんじゃと思う。
「これ、起きんかソーラ。はやく朝食をたべて家を出んと遅刻してしまうぞ!」
「んん……クロト……?」
ソーラは目を薄く開け、アイスブルーの瞳でわしを見つめると、両手をわしのほうにのばしてきた。
「ん、何じゃ?」
「クロト……おはようのキス……」
差し出された唇に、ペシッと肉球パンチをお見舞いした。
「ふざけてないではやくおきんか!本当に遅刻するぞ!まず顔を洗面所であらってくるんじゃ!」
「クロトのいけず……」
ソーラは恨みがましい目でわしを睨みながら、部屋を出て洗面所へと行ってしまった。
近頃は毎朝、こんなやり取りを繰り返してる。
「はぁ、どうしてあんな風になったんじゃ。わしが育て方をまちがったのか……?」
むかしはパパと呼んで、慕ってくれたときもあった。
それがいつのまにかクロトと呼ばれるようになり、最近はとくに理解できない行動を繰り返すようになっていた。
思春期の年頃の少女というのはとにかくむずかしい。
洗面所からもどってきたソーラと朝食をともにする。
ソーラはまだ不機嫌なようだった。
しまった、今日はとあるお願いをするつもりじゃったのに。
「ソ、ソーラよ。今日はプリンもあるぞ?甘くておいしいぞ」
「んっ……」
主の機嫌を損ねたときのために用意していた、彼女の好物であるプリンをテーブルに置いて見せた。
ソーラはむくれたままだったが、プリンは自分の方に引き寄せた。
よし、なんとか掴みはオーケーじゃ。
「それで主(あるじ)よ。頼みごとがあるんじゃ。
ほれ、近場の村長から依頼があったじゃろう。洞窟に住み着いてしまった魔物を退治してくれという比較的簡単なのが。
でてくる魔物もゴブリン数匹というやつじゃ。
あれならわしにもできると思うのじゃ。
だからわしにやらせて――」
「だめ」
くれんかのう。
と言葉をいい終わる前に、わしの頼みごとは主によってばっさりと断られた。
「な、なぜじゃ?このくらいの依頼なら、わしでも十分じゃろうて」
「だめ」
「最近はもっと簡単な依頼も、ほかの使い魔にまわしてばかりじゃないか。
わしだって、おぬしの使い魔じゃ。なのにここ三年間、ちっとも使い魔らしい仕事ができておらんのじゃぞ!」
「だめ」
「ぬしはわしを使い魔として少しでも役立てる気がないのか!?」
「だめ」
「クロトは使わない。フェーニを使う」
わしの涙とプリンの陳情は、問答無用で却下された。理由説明すらなしに。
「うっ…うっ…なぜじゃぁ……。簡単な依頼ぐらいわしに任せてくれていいじゃろうが……ひっく……。これでは使い魔ではなく、ただの家政夫じゃ……ひっくひっく……」
わしはテーブルに突っ伏して男泣きする。
「クロトはずっと家にいればいいの。本当は買い物や掃除だって外にでてほしくない。だからだめ」
それはずばり主(あるじ)からの、使い魔としていらない子宣言だった。
わしは真っ白に燃え尽きた。
「じゃあ、わたしは学校いく」
そんなわしを置いて、ソーラは学校に行ってしまった。
すでに起きていたわしは、踏み台をつかってキッチンに立ち、朝食を作っていた。
今日は卵が安かったから、厚焼き玉子と、野菜の炒め物、それからパンもフライパンで加熱し、サクッとした触感にしておく。
できた料理を皿に移すと、わしはキッチンを出て、主(あるじ)の部屋にむかった。
ソーラの部屋と書かれたプレートがかかった扉。
扉を開け中に入ると、10代半ばぐらいの年頃の銀色の髪の少女がベッドにすやすやと寝ていた。
この少女があのときわしが助けた子じゃった。
歳はもう15歳になる。
同じ年代の少女たちと比べるとまだまだ小柄じゃが、それでもずいぶん大きくなったもんじゃと思う。
「これ、起きんかソーラ。はやく朝食をたべて家を出んと遅刻してしまうぞ!」
「んん……クロト……?」
ソーラは目を薄く開け、アイスブルーの瞳でわしを見つめると、両手をわしのほうにのばしてきた。
「ん、何じゃ?」
「クロト……おはようのキス……」
差し出された唇に、ペシッと肉球パンチをお見舞いした。
「ふざけてないではやくおきんか!本当に遅刻するぞ!まず顔を洗面所であらってくるんじゃ!」
「クロトのいけず……」
ソーラは恨みがましい目でわしを睨みながら、部屋を出て洗面所へと行ってしまった。
近頃は毎朝、こんなやり取りを繰り返してる。
「はぁ、どうしてあんな風になったんじゃ。わしが育て方をまちがったのか……?」
むかしはパパと呼んで、慕ってくれたときもあった。
それがいつのまにかクロトと呼ばれるようになり、最近はとくに理解できない行動を繰り返すようになっていた。
思春期の年頃の少女というのはとにかくむずかしい。
洗面所からもどってきたソーラと朝食をともにする。
ソーラはまだ不機嫌なようだった。
しまった、今日はとあるお願いをするつもりじゃったのに。
「ソ、ソーラよ。今日はプリンもあるぞ?甘くておいしいぞ」
「んっ……」
主の機嫌を損ねたときのために用意していた、彼女の好物であるプリンをテーブルに置いて見せた。
ソーラはむくれたままだったが、プリンは自分の方に引き寄せた。
よし、なんとか掴みはオーケーじゃ。
「それで主(あるじ)よ。頼みごとがあるんじゃ。
ほれ、近場の村長から依頼があったじゃろう。洞窟に住み着いてしまった魔物を退治してくれという比較的簡単なのが。
でてくる魔物もゴブリン数匹というやつじゃ。
あれならわしにもできると思うのじゃ。
だからわしにやらせて――」
「だめ」
くれんかのう。
と言葉をいい終わる前に、わしの頼みごとは主によってばっさりと断られた。
「な、なぜじゃ?このくらいの依頼なら、わしでも十分じゃろうて」
「だめ」
「最近はもっと簡単な依頼も、ほかの使い魔にまわしてばかりじゃないか。
わしだって、おぬしの使い魔じゃ。なのにここ三年間、ちっとも使い魔らしい仕事ができておらんのじゃぞ!」
「だめ」
「ぬしはわしを使い魔として少しでも役立てる気がないのか!?」
「だめ」
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「うっ…うっ…なぜじゃぁ……。簡単な依頼ぐらいわしに任せてくれていいじゃろうが……ひっく……。これでは使い魔ではなく、ただの家政夫じゃ……ひっくひっく……」
わしはテーブルに突っ伏して男泣きする。
「クロトはずっと家にいればいいの。本当は買い物や掃除だって外にでてほしくない。だからだめ」
それはずばり主(あるじ)からの、使い魔としていらない子宣言だった。
わしは真っ白に燃え尽きた。
「じゃあ、わたしは学校いく」
そんなわしを置いて、ソーラは学校に行ってしまった。
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