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ラストファミリー 全ては家族のために

143話:変わらぬ一家

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 背の高い勇治に胸倉を掴まれながら、ネクタイを締めあげられる元樹。
 つま先立ちになって苦しさから逃れようと、バレリーナのように前後左右へちょろちょろと動き回る。

「ぐっ、お前父親を窒息死させる気か……」
「ああ、そうだよ。親父みたいに女を乗り換えまくる奴に、人のこと説教する資格はないんだよ!」
「何を言ってる。リンリンちゃんとはお互いに話し合って別々の道を歩むことになったんだよ」
「はぁ、自分の知名度を利用してリンリンちゃんに取り入ろうとして店に迷惑かけて出禁になったんだろうが」
「そ、それはッ、ぐふぅ」

 元樹は勇治の思わぬ反撃に相当メンタルを削り取られた。
 その情報を今初めて知った栄子と美園は、冷たい目で元樹を見ていた。

「なんだ、なんなんだそのネタは、どこで掴みやがった」

 そう言って八ッとしたようにつかさを見る。 
 つかさは惚けたように小さく口笛を吹いて、遠くを見つめる。

「つ~か~さ~! お前はどういうつもりだ。これ以上俺たち一家をむちゃくちゃにしてどうする気だ。何が座敷童子だ、疫病神じゃねぇか」

 それを聞いたつかさは、心外だという表情で元樹を睨みつける。

「元樹さん、いくら何でもそれはひどすぎでしょ。俺のこと家族同然だって言ってくれたじゃないですか」
「バカヤロー! んなもん言葉のアヤに決まってんだろうが。誰がお前みたいなクソ坊主を家族だと思うんだ」
「いい加減にしてくださいよ。それ以上言うなら、元樹さんとグラビアタレントあみりんとの関係について俺の握ってる情報いろいろ暴露しますよ」

 その瞬間、カメラの向こうで仁の目がきらりと光る。
 離れた場所で様子を静観していた栄子の眉もピクリと動く。
 それに気づいた元樹は、真っ青な顔でつかさに訴える。

「クソ坊主と勇治! お前らに家長に対する敬意ってもんはないのか?」

 2人が二重奏のように答える。

「あるか、ボケ」
「ないです」

 和やかな授賞式会場は、男たちの暴走によって阿鼻叫喚の大騒ぎ。
 総理はなんとか一家の怒りを鎮めようと「落ち着いてください」と右往左往するが、誰の耳にも入っていない。

 みかねた美園が元樹たちの間に割って入る。

「お兄ちゃんもお父さんもいい加減にして。テレビ中継が入ってるのよ。ユグドリアで城島先輩が見てるかもしれない。恥ずかしすぎるよ」

 美園が止めに入ると、勇治はさらに激昂する。

「はぁ? 恥ずかしいのはどっちだ。胸にパッド6つも入れやがって。有名人になってから数が増えてんじゃねぇか、見栄っ張り女」
「何ですって!」

 思わずつかさがぷっと吹きだす。
 それを見た美園は、すかさずつかさの脳天に頭突きを食らわした。

「いでっ! 何しやがんだ!」
「その胸を触りたいっていってきたのはどこのどいつよ!」
「何だと!」

 今度は元樹がぶち切れる。

「貴様、まさか俺の大事な娘に!」
「何もしてないって。させてもらえないんだよ。だけど、俺らは恋人同士。いつかは俺のものになるんだからな」
「この野郎。恥ずかしげもなくクソみたいなこと吐きやって。お前みたいな奴に栄誉笑のメダルなんぞふさわしくない」

 勇治に胸倉を掴まれながらも、元樹は鬼の形相でつかさににりじより首のメダルに手をかけようとする。

「俺は皆さんと一緒に今回の事件に立ち向かった功労者だ。それを言うなら家で待ってただけのケンジさんとタキさんの方が無関係だろ。しかも犬にまで」

 ケンジとタキの耳にも会話は聞こえていたが、2人はあくまで慎ましく微笑んでいた。
 しかし、これだけは絶対に手放すまいと首にかけられたメダルをしっかり握りしめている。

 ケンジとタキに並んで無関係と名指しされたあんこは、それを知ってか知らずか、自分のメダルの紐を引きちぎり、口の中でハムハムしはじめた。 

「あ、メダル……」

 総理はそれを見て青冷める。

 あんこはふと顔を上げ、自分を見ている品のいい老人に向け、ニヤリと笑みを漏らした(ように総理には見えた)。

 あんこは誠の腕から飛び出し「きゃぃ~ん」という鳴き声と共に尻尾を振りながら総理に飛びつく。
 総理は勢いあまって直立にぶっ倒れ、会場は大騒ぎ。
 黒服の男やSPらが大慌てで総理を介抱している。
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