142 / 146
ラストファミリー 全ては家族のために
140話:本妻と愛人
しおりを挟む
来月、世良田一家の活躍をまとめたドキュメンタリー映像がNHMで独占配信されることが決定した。
つかさの胸ポケットから隠し撮りされた映像に加え、新たに一家の近況を収録したDVDの発売も決定している。
結果的に著作権や映像使用料、関連書籍を含めた契約金で、一家は相当な収入を得ることとなった。
この物語がこれほどまでに盛り上がった要因のひとつは、一家のおもしろさに加え、ある人物たちの活躍があったからであろう。
それが美園とつかさの恋模様と、勇治をめぐる女同士の三角関係だった。
高性能レコーダーによって、美園とつかさの情事は世界中に垂れ流し状態となっており、2人は今や世界が認める公認カップルになっている。
<赤い糸>が年間トレンドワードの1位を獲得し、今年の流行語大賞にもノミネートされた。
けれどそれ以上に国民の話題をさらったのが、世良田一家が飛行機から降り立った後のことである。
ユグドリアでの騒動後、時を置かず帰国の途に着いた一家は、係員に案内されながら大勢の出迎え客が待つ空港ロビーに辿り着いた。
誰もが笑顔で一家を出迎え、出国前の大惨事など嘘のような歓迎ムードだった。
今回の一件で世良田一家の評価が逆転したなどと露ほども思っていない面々は、愛想笑いを浮かべながら空港ロビーを出口に向かって進みはじめた。
カメラのフラッシュを浴びるなか、疲れ切った勇治が肩をもみながら歩いていると、出口付近に夏美と千秋が立っていた。
どちらも潤んだ瞳で勇治を見ている。まるで本妻と愛人が愛する男を同時に待ち構えているような、一種ゾッとする光景だった。
勇治は2人の姿を見つけ、肩に手を当てた状態でバッキバキに固まってしまった。
夏美と千秋は互いにほどよい距離感をとり、勇治の到着を待っている。
どちらか片方を選択しなければならない、2人からはそんな圧が感じられた。夏美と千秋はここで恋のトライアングルに決着を付けようとしているのだった。
後ろからぞろぞろと歩いてきた世良田一家も、すぐさま状況を理解し互いの間に緊張が走る。
それは観衆も同じこと。
あれだけ喧騒に包まれていた周囲の音が、水を打ったように静まり返る。
「どっちに声をかけるんでしょうか?」
マイクを持ったレポーターが小声でカメラに状況説明した後、ことの成り行きを見守るために声を潜めた。
勇治は1分ほど前をみつめたままだったが、どうにも埒が明かないと判断し、ため息をついて歩きだす。
夏美と千秋は今にも勇治に抱き着かんばかりの表情だが、互いに牽制し合い抜け駆けはしまいとその場にぐっと踏みとどまっている。
勇治は俯きながら2人のいる方へのろのろと進んでいく。
美園の目からはほんの数センチ夏美寄りに歩いているように感じ、夏美もそれが分かったのか、両手を広げて勇治の到着を待った。
が、勇治はそのままうまい具合に2人の間を通り抜け、とぼとぼとロビーから出て行ってしまったのだ。
敵前逃亡。まさしくそんな感じだった。
夏美と千秋は予想だにしていなかった勇治の態度を前に、唖然とした表情で突っ立っていた。
そのまましばらく呆れて口も聞けなかったが、
「千秋には悪いけど、少しだけ私の方に来ようとしてたわよね。勇治は優しいからここで千秋を傷つけたくなかったのよ」
「そんなことない。ゆぅたんがお姉ちゃんを選ぶはずない。だって約束してるんだもん、キリンさんを買ってくれるって」
「何バカなこと言ってんのよ。勇治たちにお金なんて一銭も入ってこないわよ。むしろこれから偽証罪やらで訴えられてスッカラカンになる可能性だってあるんだから。借金地獄よ」
「そんなことないもん。ゆぅたんはお年玉とかちゃんと貯金してるんだよ」
夏美と千秋はすぐ近くに世良田一家が居ることすら忘れ、罵り合いをしながらロビーを出て行った。
後に残された一家は「借金」「地獄」「スッカラカン」というパワーワードを前に、虫の息状態だった。
つかさの胸ポケットから隠し撮りされた映像に加え、新たに一家の近況を収録したDVDの発売も決定している。
結果的に著作権や映像使用料、関連書籍を含めた契約金で、一家は相当な収入を得ることとなった。
この物語がこれほどまでに盛り上がった要因のひとつは、一家のおもしろさに加え、ある人物たちの活躍があったからであろう。
それが美園とつかさの恋模様と、勇治をめぐる女同士の三角関係だった。
高性能レコーダーによって、美園とつかさの情事は世界中に垂れ流し状態となっており、2人は今や世界が認める公認カップルになっている。
<赤い糸>が年間トレンドワードの1位を獲得し、今年の流行語大賞にもノミネートされた。
けれどそれ以上に国民の話題をさらったのが、世良田一家が飛行機から降り立った後のことである。
ユグドリアでの騒動後、時を置かず帰国の途に着いた一家は、係員に案内されながら大勢の出迎え客が待つ空港ロビーに辿り着いた。
誰もが笑顔で一家を出迎え、出国前の大惨事など嘘のような歓迎ムードだった。
今回の一件で世良田一家の評価が逆転したなどと露ほども思っていない面々は、愛想笑いを浮かべながら空港ロビーを出口に向かって進みはじめた。
カメラのフラッシュを浴びるなか、疲れ切った勇治が肩をもみながら歩いていると、出口付近に夏美と千秋が立っていた。
どちらも潤んだ瞳で勇治を見ている。まるで本妻と愛人が愛する男を同時に待ち構えているような、一種ゾッとする光景だった。
勇治は2人の姿を見つけ、肩に手を当てた状態でバッキバキに固まってしまった。
夏美と千秋は互いにほどよい距離感をとり、勇治の到着を待っている。
どちらか片方を選択しなければならない、2人からはそんな圧が感じられた。夏美と千秋はここで恋のトライアングルに決着を付けようとしているのだった。
後ろからぞろぞろと歩いてきた世良田一家も、すぐさま状況を理解し互いの間に緊張が走る。
それは観衆も同じこと。
あれだけ喧騒に包まれていた周囲の音が、水を打ったように静まり返る。
「どっちに声をかけるんでしょうか?」
マイクを持ったレポーターが小声でカメラに状況説明した後、ことの成り行きを見守るために声を潜めた。
勇治は1分ほど前をみつめたままだったが、どうにも埒が明かないと判断し、ため息をついて歩きだす。
夏美と千秋は今にも勇治に抱き着かんばかりの表情だが、互いに牽制し合い抜け駆けはしまいとその場にぐっと踏みとどまっている。
勇治は俯きながら2人のいる方へのろのろと進んでいく。
美園の目からはほんの数センチ夏美寄りに歩いているように感じ、夏美もそれが分かったのか、両手を広げて勇治の到着を待った。
が、勇治はそのままうまい具合に2人の間を通り抜け、とぼとぼとロビーから出て行ってしまったのだ。
敵前逃亡。まさしくそんな感じだった。
夏美と千秋は予想だにしていなかった勇治の態度を前に、唖然とした表情で突っ立っていた。
そのまましばらく呆れて口も聞けなかったが、
「千秋には悪いけど、少しだけ私の方に来ようとしてたわよね。勇治は優しいからここで千秋を傷つけたくなかったのよ」
「そんなことない。ゆぅたんがお姉ちゃんを選ぶはずない。だって約束してるんだもん、キリンさんを買ってくれるって」
「何バカなこと言ってんのよ。勇治たちにお金なんて一銭も入ってこないわよ。むしろこれから偽証罪やらで訴えられてスッカラカンになる可能性だってあるんだから。借金地獄よ」
「そんなことないもん。ゆぅたんはお年玉とかちゃんと貯金してるんだよ」
夏美と千秋はすぐ近くに世良田一家が居ることすら忘れ、罵り合いをしながらロビーを出て行った。
後に残された一家は「借金」「地獄」「スッカラカン」というパワーワードを前に、虫の息状態だった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
1
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる