137 / 146
最終決戦
135話:崩壊
しおりを挟む
仁の機転により正義が勝ち、悪が滅びたかに思えたが、マツムラはまだ最後の悪あがきを続ける。
「まだだ、まだ終わっていない。きっちりと国民に説明するのだ。私が成し遂げようとしたことの偉大さを。この国を守るために貢献した私の偉業は認められてしかるべきだ」
そう言って、マツムラは周りを見渡すが、誰も彼に賛同するものはいない。
マツムラは目を血走らせて、トワを見た。
けれど、トワも黙って首を振る。
「もう、終わりにしようマツムラ」
――終焉。
長年に渡って彼が計画してきた国家創造は、今この瞬間、打ち砕かれたも同然だった。
それもどこの馬の骨かも分からないほど、くだらない一家とその仲間たちに。
「私の……私の夢が。理想が!」
マツムラの顔が大きく歪む。
明らかに様子は一変していた。
優位に立つものが覗かせる傲慢で尊大な笑みを浮かべていた男は、いまや完全に死に体だった。
目が泳ぐ。息が荒い。
「一人では逝かぬ。一人では逝かぬぞ」
彼は胸の隠しポケットからスイッチのようなものを取り出し操作するが「クソッ!」と唾を吐く。
「だから言ったろ。起爆装置は操作不能だ」
勇治は得意顔で目を細める。
しかし、マツムラはすぐに別の操作を始める。
――ピッ。
小さな電子音が鳴ったすぐ後、ゴゴゴゴゴッ、という地鳴りのような音と共に地面が揺れ始めた。
「地震か!」
つかさはよろめいて倒れそうになりながら、美園を支える。
「しまった! まだ他にも仕込んでやがったのか」
勇治は舌打ちする。
「おい、ここは崩れるぞ。逃げろ!」
ミシリ。
壁に大きな亀裂が走る。
「きやぁあああ」
悲鳴をあげた栄子の側に元樹が駆け寄る。
「栄子、大丈夫だ。俺がついてる」
「……あなた」
元樹は栄子を支えながら、そばにいた勇治に声をかける。
「俺は栄子を連れて行くから、勇治は誠を頼む」
「ほい来た!」
言うや否や、勇治は誠を肩の上にかつぎあげ、先頭きって走り出す。
途中、入り口のところでカメラを回している仁に気づき、その首根っこを掴む。
「おいおっさん。こんなことしてる場合じゃねぇだろ。戦場カメラマンでもあるまいし、死んだら元も子もねぇ」
そう言われ、仁は素直に部屋を抜け出した。
この時、一度も息子のことを気にかける仕草すら見せなかったことが、のちほど起こる「親子断絶、73日間冷戦」のきっかけとなるのだが、今はおいておこう。
仁の後に続こうとする勇治の肩の上で、誠が暴れる。
「待って、トワが!」
「こっちは大丈夫よ。あたしたちに任せて」
背後を振り返ると、トワの手を美園がひき、城島の体をつかさが支えていた。
元樹は悔しそうに顔を歪めるが、渾身の思いを込めて声を張り上げる。
「おい、つかさ。美園はお前に任せたぞ。嫁入り前の大事な娘だ。もし怪我でもさせてみろ。そん時は…………」
「そん時は責任とります!」
はい?
そん時はぶっ殺す、と続けようとしていた元樹は、つかさの意外な言葉に勢いをそがれ、またそれの深い意味を理解する状況ではないだけに、
「よ、よろしく頼む」
と返した。
美園は真っ赤だった。
その様子を見て、栄子は「あらあらいつの間に」と、目を丸くして微笑んだ。
ガガガガッ!
再び地面が大きく揺れる。
「走れ!」
誰かが叫んだ。
それに合わせてみな一斉に走り出した。
「まだだ、まだ終わっていない。きっちりと国民に説明するのだ。私が成し遂げようとしたことの偉大さを。この国を守るために貢献した私の偉業は認められてしかるべきだ」
そう言って、マツムラは周りを見渡すが、誰も彼に賛同するものはいない。
マツムラは目を血走らせて、トワを見た。
けれど、トワも黙って首を振る。
「もう、終わりにしようマツムラ」
――終焉。
長年に渡って彼が計画してきた国家創造は、今この瞬間、打ち砕かれたも同然だった。
それもどこの馬の骨かも分からないほど、くだらない一家とその仲間たちに。
「私の……私の夢が。理想が!」
マツムラの顔が大きく歪む。
明らかに様子は一変していた。
優位に立つものが覗かせる傲慢で尊大な笑みを浮かべていた男は、いまや完全に死に体だった。
目が泳ぐ。息が荒い。
「一人では逝かぬ。一人では逝かぬぞ」
彼は胸の隠しポケットからスイッチのようなものを取り出し操作するが「クソッ!」と唾を吐く。
「だから言ったろ。起爆装置は操作不能だ」
勇治は得意顔で目を細める。
しかし、マツムラはすぐに別の操作を始める。
――ピッ。
小さな電子音が鳴ったすぐ後、ゴゴゴゴゴッ、という地鳴りのような音と共に地面が揺れ始めた。
「地震か!」
つかさはよろめいて倒れそうになりながら、美園を支える。
「しまった! まだ他にも仕込んでやがったのか」
勇治は舌打ちする。
「おい、ここは崩れるぞ。逃げろ!」
ミシリ。
壁に大きな亀裂が走る。
「きやぁあああ」
悲鳴をあげた栄子の側に元樹が駆け寄る。
「栄子、大丈夫だ。俺がついてる」
「……あなた」
元樹は栄子を支えながら、そばにいた勇治に声をかける。
「俺は栄子を連れて行くから、勇治は誠を頼む」
「ほい来た!」
言うや否や、勇治は誠を肩の上にかつぎあげ、先頭きって走り出す。
途中、入り口のところでカメラを回している仁に気づき、その首根っこを掴む。
「おいおっさん。こんなことしてる場合じゃねぇだろ。戦場カメラマンでもあるまいし、死んだら元も子もねぇ」
そう言われ、仁は素直に部屋を抜け出した。
この時、一度も息子のことを気にかける仕草すら見せなかったことが、のちほど起こる「親子断絶、73日間冷戦」のきっかけとなるのだが、今はおいておこう。
仁の後に続こうとする勇治の肩の上で、誠が暴れる。
「待って、トワが!」
「こっちは大丈夫よ。あたしたちに任せて」
背後を振り返ると、トワの手を美園がひき、城島の体をつかさが支えていた。
元樹は悔しそうに顔を歪めるが、渾身の思いを込めて声を張り上げる。
「おい、つかさ。美園はお前に任せたぞ。嫁入り前の大事な娘だ。もし怪我でもさせてみろ。そん時は…………」
「そん時は責任とります!」
はい?
そん時はぶっ殺す、と続けようとしていた元樹は、つかさの意外な言葉に勢いをそがれ、またそれの深い意味を理解する状況ではないだけに、
「よ、よろしく頼む」
と返した。
美園は真っ赤だった。
その様子を見て、栄子は「あらあらいつの間に」と、目を丸くして微笑んだ。
ガガガガッ!
再び地面が大きく揺れる。
「走れ!」
誰かが叫んだ。
それに合わせてみな一斉に走り出した。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
となりのソータロー
daisysacky
ライト文芸
ある日、転校生が宗太郎のクラスにやって来る。
彼は、子供の頃に遊びに行っていた、お化け屋敷で見かけた…
という噂を聞く。
そこは、ある事件のあった廃屋だった~
【完結】「婚約者は妹のことが好きなようです。妹に婚約者を譲ったら元婚約者と妹の様子がおかしいのですが」
まほりろ
恋愛
※小説家になろうにて日間総合ランキング6位まで上がった作品です!2022/07/10
私の婚約者のエドワード様は私のことを「アリーシア」と呼び、私の妹のクラウディアのことを「ディア」と愛称で呼ぶ。
エドワード様は当家を訪ねて来るたびに私には黄色い薔薇を十五本、妹のクラウディアにはピンクの薔薇を七本渡す。
エドワード様は薔薇の花言葉が色と本数によって違うことをご存知ないのかしら?
それにピンクはエドワード様の髪と瞳の色。自分の髪や瞳の色の花を異性に贈る意味をエドワード様が知らないはずがないわ。
エドワード様はクラウディアを愛しているのね。二人が愛し合っているなら私は身を引くわ。
そう思って私はエドワード様との婚約を解消した。
なのに婚約を解消したはずのエドワード様が先触れもなく当家を訪れ、私のことを「シア」と呼び迫ってきて……。
「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」
※無断転載を禁止します。
※朗読動画の無断配信も禁止します。
※小説家になろう、カクヨム、エブリスタにも投稿しています。
※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。
182年の人生
山碕田鶴
ホラー
1913年。軍の諜報活動を支援する貿易商シキは暗殺されたはずだった。他人の肉体を乗っ取り魂を存続させる能力に目覚めたシキは、死神に追われながら永遠を生き始める。
人間としてこの世に生まれ来る死神カイと、アンドロイド・イオンを「魂の器」とすべく開発するシキ。
二人の幾度もの人生が交差する、シキ182年の記録。
(表紙絵/山碕田鶴)
※2024年11月〜 加筆修正の改稿工事中です。本日「60」まで済。
【完結】大量焼死体遺棄事件まとめサイト/裏サイド
まみ夜
ホラー
ここは、2008年2月09日朝に報道された、全国十ケ所総数六十体以上の「大量焼死体遺棄事件」のまとめサイトです。
事件の上澄みでしかない、ニュース報道とネット情報が序章であり終章。
一年以上も前に、偶然「写本」のネット検索から、オカルトな事件に巻き込まれた女性のブログ。
その家族が、彼女を探すことで、日常を踏み越える恐怖を、誰かに相談したかったブログまでが第一章。
そして、事件の、悪意の裏側が第二章です。
ホラーもミステリーと同じで、ラストがないと評価しづらいため、短編集でない長編はweb掲載には向かないジャンルです。
そのため、第一章にて、表向きのラストを用意しました。
第二章では、その裏側が明らかになり、予想を裏切れれば、とも思いますので、お付き合いください。
表紙イラストは、lllust ACより、乾大和様の「お嬢さん」を使用させていただいております。

【完結】会いたいあなたはどこにもいない
野村にれ
恋愛
私の家族は反乱で殺され、私も処刑された。
そして私は家族の罪を暴いた貴族の娘として再び生まれた。
これは足りない罪を償えという意味なのか。
私の会いたいあなたはもうどこにもいないのに。
それでも償いのために生きている。

政略結婚の約束すら守ってもらえませんでした。
克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
「すまない、やっぱり君の事は抱けない」初夜のベットの中で、恋焦がれた初恋の人にそう言われてしまいました。私の心は砕け散ってしまいました。初恋の人が妹を愛していると知った時、妹が死んでしまって、政略結婚でいいから結婚して欲しいと言われた時、そして今。三度もの痛手に私の心は耐えられませんでした。
EX級アーティファクト化した介護用ガイノイドと行く未来異星世界遺跡探索~君と添い遂げるために~
青空顎門
SF
病で余命宣告を受けた主人公。彼は介護用に購入した最愛のガイノイド(女性型アンドロイド)の腕の中で息絶えた……はずだったが、気づくと彼女と共に見知らぬ場所にいた。そこは遥か未来――時空間転移技術が暴走して崩壊した後の時代、宇宙の遥か彼方の辺境惑星だった。男はファンタジーの如く高度な技術の名残が散見される世界で、今度こそ彼女と添い遂げるために未来の超文明の遺跡を巡っていく。
※小説家になろう様、カクヨム様、ノベルアップ+様、ノベルバ様にも掲載しております。

婚約破棄されるのらしいで、今まで黙っていた事を伝えてあげたら、婚約破棄をやめたいと言われました
新野乃花(大舟)
恋愛
ロベルト第一王子は、婚約者であるルミアに対して婚約破棄を告げた。しかしその時、ルミアはそれまで黙っていた事をロベルトに告げることとした。それを聞いたロベルトは慌てふためき、婚約破棄をやめたいと言い始めるのだったが…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる