モデルファミリー <完結済み>

MARU助

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最終決戦

134話:場違いなアロハシャツ男

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 空港で離陸を見送っていたはずの進藤仁がなぜここに。

 つかさは口をあんぐり開けて父親を見、美園と誠は「げっ」と声を漏らす。
 元樹は慌てて「俺は知らなかったんだ、こいつが来てるの」と説明する。栄子も自分は無関係だ、というように頷く。

 どうやら一家が飛び立ったすぐ後、別便で追いかけてきたらしい。

「さすがハイエナ。おもしろいネタは相手が屍になるまで食いつくすのね」

 美園が呟く。
 その言葉が聞こえていただろうに、仁は涼しい顔をしてマツムラを見る。

「マツムラ外相、オペラハウスについて取材したいんですが、大丈夫そうですか?」
「お前は何者だ? 一体何を言ってるんだ」

 明らかに場違いな男の登場を前に、マツムラは険しい表情を見せる。
 仁のご機嫌な衣装に対してなのか、人相の悪い見た目に対してなのかは分からないが、明らかに警戒心を抱いている。

「あなた、外相のマツムラさんですよね? あなたの横にいるそのイケメンは俺の息子でね。ずいぶん可愛がってくれたみたいで一言をお礼をと思いまして」

 仁はつかさの腕から流れ落ちる血を見て、鬼の形相をみせる。
 そのあまりの迫力に美園達は息を呑んだが、マツムラは動じることなくその視線を受け止めた。

「勘違いされるな。あなたのご子息が勝手に剣の前に滑り込んできただけのこと。猫のように俊敏ですなぁ」

 それを聞いた仁は、おもしろそうに笑い声をあげる。
 けれど、殺戮者のような瞳で相手に焦点を合わせている仁に追従するものは誰もいなかった。

 虎VSヒョウ。
 猛獣と猛獣がにらみ合い、爪を隠し互いに攻撃に入る体制を伺っている、そんな状況だった。

「マツムラ外相にひとつ伝えておかなければならない話がありまして」
「なんだね」
「ええ、本来ならこういうことは取材に入る前に相手方にお伝えしておかなければフェアではないのですが……。今回はドタバタしていてついうっかりしてまして」
「だから何だと言うんだ」
「はい、実は……」

 仁の笑みからは、捕らえた獲物を捕食しにかかろうとする喜びが見え隠れする。

「この部屋の音声は全て外に筒抜けでして」
「何?」
「息子の胸に差してるペン型のレコーダー、実は無線機になってましてね。外に置いてある中継機と繋がってるんです」
「な、なんだと」

 マツムラ同様、そんなことを露ほども知らなかったつかさはようやく合点がいったように頷く。

「こんな高価なもん寄越すからおかしいとは思ってたんだけど、無線機じゃなくて盗聴機だろうがよ」
「いやいや、そんなもんじゃないぞ。上に開いてる小さな穴からは映像も送れるんだからな」

 仁は嬉しそうに高笑いする。

「息子にそんな大事なこと知らせないなんて、相変わらず悪趣味な親父だぜ」

 そう言ったつかさだが、辛辣な言葉とは裏腹にその顔には楽し気な笑みが浮かんでいた。

「まぁ、そう言うな」

 つかさに軽く返事を返した仁は、数分前とは違って青ざめた表情のマツムラに向き直る。

「ここでの会話は全て映像で流されてる。ユグドリアの国民は固唾をのんでこの状況を見守っているってわけだ。ちなみに外も包囲されてる。お前に逃げ場はない。お分かり?」
「たわけ。だから何だというのだ。時期国王はこの私、それに変わりはない」
「おいおい、そんなの国民が許すと思ってんのか?」

 元樹が大げさに嘆く振りをする。
 それに同調するように仁も頷く。

「どっちかっていやぁ外の声はキロッスたちに同情的になってきてるな」
「な……なんだと」
「死んだと思っていた第一王子が生きてたんだ。そう簡単にお前に王位が移るわけがないだろう」
「バカを言え。その王子が国民を脅かすテロリストなのだ。誰がそんな奴を王座につけるか」

 マツムラの虚勢にさすがの仁も呆れたようにため息をついた。

「それはお前だって同じだろ。どういう事情か知らないが、国王と王妃暗殺に関わってるんだ。さっきの音声が外に漏れた以上、内部の人間は徹底的に追及されるだろう。全ての人間がお前に忠実でだんまりを決め込むと思うのか?」
「――――」

 ここにきてようやくマツムラの表情に焦りの色が浮かぶ。

「な……何てことを」

 よろよろと後ずさる。

「だが、クオンは絶対に王座にはつけん。国民はどんなことがあってもキロッスを許しはしないはずだ」

 マツムラの必死の言葉に、トワは落ち着いた声で答える。

「それ以上に、お前のことを許しはしないよ。僕と同じでね。キロッスは人を殺めていないが、お前は人を殺めた。それも国民が一番愛していた2人をだ。本当に許されると思っているのか?」

 トワは真っ直ぐにマツムラを見つめた。

「国民だってバカじゃない。きっと正しい判断をしてくれるよ」

 この言葉が決定打となり、マツムラはようやくが自分が限りなく不利な状態に陥っていると認識した。
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