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最終決戦
133話:兄の存在
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トワは一気に現実に引き戻された。
「そうだ、あの時、僕は……」
どうして忘れていたんだろう。こんなに大事な事を……。
ぎゅっと瞑っていた瞼を押し上げると、そこには会いたくて会いたくて仕方なかった人の姿があった。
どうしてこの人を疑ったんだろう。
今も昔もこの人は自分のためだけに生きていてくれてたというのに。
トワの胸は複雑な感情を抱えこみ苦しくなる。
「クオン兄さん」
トワは華奢な腕を精一杯兄に巻き付けた。
ふいの抱擁に戸惑いを見せた城島だが、ようやく繋がった大切なものを愛おしむかのように優しくかき抱いた。
長い間離れていた大切な宝物がようやく手元に戻って来たのだ、その喜びはひとしおだった。
「お~い。お取り込み中のとこすんませ~ん」
ふいうちのように間延びした声が聞こえ、トワと城島は我に返る。
どういうわけだかマツムラの剣を両手で挟むように受け止めているつかさに気づく。
「真剣白羽取り……なんちゃって」
つかさのとっさの判断で剣が振り降ろされる勢いを防いだようだ。
茶目っ気たっぷりの表情をしているつかさだが、剣を挟んでいる両手の隙間からは、つぅと赤い液体が伝い落ちている。
「つかさ!!」
美園が悲鳴をあげる。
「大丈夫だ」
つかさはそう言って片足でマツムラの腹を蹴り押して、距離をとる。
人数はこちらの方が圧倒的に多いが、女・子供・怪我人ときて、相手は武器を持っている。どちらが不利かは一目瞭然だ。
マツムラは余裕の笑みをみせる。
彼が再び切っ先をトワの方へ向けたため、城島が背中にトワを庇う。
この時になって初めて、トワは兄の背中を斜めに走る古傷の存在に気づいた。
あの日、船の上でトワを庇った城島。本当ならトワが受けるはずだった痛みを全て引き受けてくれたのだ。
そして今もまた彼のために命をかけ、倒れそうな体を奮いおこして敵に立ち向かっている。
これほど愛情深く力強い存在があるだろうか。
トワの目から涙がこぼれ落ちてきた。
彼は意を決して兄の背後から飛び出すと、マツムラを睨みつけた。
「お前のような奴は地獄に落ちればいい」
「ほぉ、地獄に」
マツムラは小馬鹿にしたように笑う。
「これ以上大事な者をお前に奪われてたまるか!」
トワの大声が部屋を満たした時、
「よく言った坊主」
と、いう声が飛ぶ。
見ると、走ってきたのだろう肩で息をしている元樹と栄子、そして勇治が立っていた。
その満足げな笑みを見れば、全てうまくいったと理解できる。
「爆弾の起爆装置は俺の手中に収まった。すぐに動かすことは無理だ。マツムラ、お前にはもう後がない」
そう言い切る勇治を前に、マツムラは不適な笑みを見せる。
「だから何だ。止められたのならまた動かせばいい。もうじきこの国の全ての権限は私の手に移るのだから」
「――それはどうかな」
勇治と元樹の後ろから、明らかに場違いなアロハシャツを着た男が一人登場した。
「お、親父」
つかさは驚きの声をあげた。
「そうだ、あの時、僕は……」
どうして忘れていたんだろう。こんなに大事な事を……。
ぎゅっと瞑っていた瞼を押し上げると、そこには会いたくて会いたくて仕方なかった人の姿があった。
どうしてこの人を疑ったんだろう。
今も昔もこの人は自分のためだけに生きていてくれてたというのに。
トワの胸は複雑な感情を抱えこみ苦しくなる。
「クオン兄さん」
トワは華奢な腕を精一杯兄に巻き付けた。
ふいの抱擁に戸惑いを見せた城島だが、ようやく繋がった大切なものを愛おしむかのように優しくかき抱いた。
長い間離れていた大切な宝物がようやく手元に戻って来たのだ、その喜びはひとしおだった。
「お~い。お取り込み中のとこすんませ~ん」
ふいうちのように間延びした声が聞こえ、トワと城島は我に返る。
どういうわけだかマツムラの剣を両手で挟むように受け止めているつかさに気づく。
「真剣白羽取り……なんちゃって」
つかさのとっさの判断で剣が振り降ろされる勢いを防いだようだ。
茶目っ気たっぷりの表情をしているつかさだが、剣を挟んでいる両手の隙間からは、つぅと赤い液体が伝い落ちている。
「つかさ!!」
美園が悲鳴をあげる。
「大丈夫だ」
つかさはそう言って片足でマツムラの腹を蹴り押して、距離をとる。
人数はこちらの方が圧倒的に多いが、女・子供・怪我人ときて、相手は武器を持っている。どちらが不利かは一目瞭然だ。
マツムラは余裕の笑みをみせる。
彼が再び切っ先をトワの方へ向けたため、城島が背中にトワを庇う。
この時になって初めて、トワは兄の背中を斜めに走る古傷の存在に気づいた。
あの日、船の上でトワを庇った城島。本当ならトワが受けるはずだった痛みを全て引き受けてくれたのだ。
そして今もまた彼のために命をかけ、倒れそうな体を奮いおこして敵に立ち向かっている。
これほど愛情深く力強い存在があるだろうか。
トワの目から涙がこぼれ落ちてきた。
彼は意を決して兄の背後から飛び出すと、マツムラを睨みつけた。
「お前のような奴は地獄に落ちればいい」
「ほぉ、地獄に」
マツムラは小馬鹿にしたように笑う。
「これ以上大事な者をお前に奪われてたまるか!」
トワの大声が部屋を満たした時、
「よく言った坊主」
と、いう声が飛ぶ。
見ると、走ってきたのだろう肩で息をしている元樹と栄子、そして勇治が立っていた。
その満足げな笑みを見れば、全てうまくいったと理解できる。
「爆弾の起爆装置は俺の手中に収まった。すぐに動かすことは無理だ。マツムラ、お前にはもう後がない」
そう言い切る勇治を前に、マツムラは不適な笑みを見せる。
「だから何だ。止められたのならまた動かせばいい。もうじきこの国の全ての権限は私の手に移るのだから」
「――それはどうかな」
勇治と元樹の後ろから、明らかに場違いなアロハシャツを着た男が一人登場した。
「お、親父」
つかさは驚きの声をあげた。
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