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野望は絶対阻止!
129話:初めての友達
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誠とトワのペースに合わせ、再び階段を下り始めた美園たち。
道すがらふと、つかさの過去のことに話が及ぶ。
「そういえばつかさは私たちと別れた後、おばあちゃんに引き取られたんだよね。確かおばあちゃんがあさこちゃんを迎えに来たって聞いたけど」
「ああ、親父のばあちゃんに引き取られた。でも、数年したらそのばあちゃんも死んで、中学に入るタイミングで親父に引き取られたんだ」
「はは~ん。それでグレたわけね」
つかさ以上にやんちゃな進藤仁の姿を思い浮かべ、致し方ないと美園は納得した。
「なんつーか、長いこと親子してなかったからすげぇ気まずくて。そのうち家に帰るのも嫌になっちまって、あれよあれよとヤバい方に進んで」
「それでメンタルがパンクして、楽しかった子供時代を思い出して、ベソ掻いてあたしたちに会いに来たってわけね」
「そうだな。まぁ、結果的にそこで更なる衝撃を受けたわけだけど」
「悪かったわね」
美園が目を細めてつかさを睨みつける。
「いやいや、まぁなんだ、それがきっかけで俺も心を入れ替えたんだから良かったよ。お前たちの姿を見て、なんとかして俺の知ってる世良田一家に戻さないと、って。俺の大好きだったあの家族を俺が取り戻してみせる、そう誓ったんだから」
「大したもんね。他人の家族を更生させるために、M高に入るレベルまで一から勉強したんだから」
素直に感心した美園を前に、つかさはこともなげに言う。
「いや、勉強はそんなにしなかったな。俺、地頭がいいんだよ。受験だって補欠じゃなく、一般合格だし」
「…………」
美園は小さく舌打ちした。
「親父はさ、俺に協力してくれたんだよ。世良田一家のインタビューを取ってきてやる、って。親父としちゃ、一家のイメージアップに一役かってやろうって心づもりだったんだけど、結果的に企業の不正を暴くことになっちまって、元樹さんには迷惑かけたな」
「悪くないんじゃない。そんなヤバい会社だったんなら、いずれパパの精神がやられちゃってたよ。その前に逃げ出せて良かったんじゃない」
「そうか、そう言ってもらえると助かるよ」
つかさは心の底から安堵する。
そうして歩きながら美園手をぎゅっと握る。
「な、何!」
驚いて手を振りほどこうとする美園だったが、つかさがそれを許さない。
繊細だががっしりとした手のひらが、美園の小さい手をしっかり握りしめていた。
「お前には大したことない言葉だったかもしれないけど、俺は嬉しかったんだぜ」
「……何が」
仕方なしにつかさと手を繋いだまま階段を下りる美園。
気のせいだろうか、なんだか気温が上昇している気がする。
美園は火照り始めた頬を覚ますように、反対側の手で顔をさすりながら、誠とトワがこちらを振り向かないことを祈っていた。
「覚えてないか? あさこちゃんと私は友達よ。これからもずっと一緒にいようね、って」
「へぇ。そんなこと言ったんだ」
「言った言った。俺、言葉にこそ出さなかったけど、最高に嬉しかったんだぜ。美園は俺にできた初めての友達だからな」
そう言ったつかさは屈託のない表情で美園に笑いかけた。
彼のこういった表情や仕草のひとつひとつが、美園の中で少しづつ変化を起こしていった。
あれほど毛嫌いしていた相手のはずだが、今はつかさの事を知るごとに心の距離が近づきはじめている気がするのだ。
「俺が一番苦しかった時、お前たち家族が……そして、お前が……俺を助けてくれたんた。だから今度は俺が全力でお前を守る」
そう言って握りしめた手により一層力を込めた。
それに答えるかのように、美園もしっかりその手を握り返した。
2人の視線が重なり合う。大丈夫、自分たちは絶対やれる。そんな確信が心を強くしていた。
ちょうどその時、誠とトワが鉄製との扉の前に辿り着き、耳を澄まして中の様子を伺い始めた。
「何か声が聞こえるよ」
誠はそう言って、美園たちを手招きした。
道すがらふと、つかさの過去のことに話が及ぶ。
「そういえばつかさは私たちと別れた後、おばあちゃんに引き取られたんだよね。確かおばあちゃんがあさこちゃんを迎えに来たって聞いたけど」
「ああ、親父のばあちゃんに引き取られた。でも、数年したらそのばあちゃんも死んで、中学に入るタイミングで親父に引き取られたんだ」
「はは~ん。それでグレたわけね」
つかさ以上にやんちゃな進藤仁の姿を思い浮かべ、致し方ないと美園は納得した。
「なんつーか、長いこと親子してなかったからすげぇ気まずくて。そのうち家に帰るのも嫌になっちまって、あれよあれよとヤバい方に進んで」
「それでメンタルがパンクして、楽しかった子供時代を思い出して、ベソ掻いてあたしたちに会いに来たってわけね」
「そうだな。まぁ、結果的にそこで更なる衝撃を受けたわけだけど」
「悪かったわね」
美園が目を細めてつかさを睨みつける。
「いやいや、まぁなんだ、それがきっかけで俺も心を入れ替えたんだから良かったよ。お前たちの姿を見て、なんとかして俺の知ってる世良田一家に戻さないと、って。俺の大好きだったあの家族を俺が取り戻してみせる、そう誓ったんだから」
「大したもんね。他人の家族を更生させるために、M高に入るレベルまで一から勉強したんだから」
素直に感心した美園を前に、つかさはこともなげに言う。
「いや、勉強はそんなにしなかったな。俺、地頭がいいんだよ。受験だって補欠じゃなく、一般合格だし」
「…………」
美園は小さく舌打ちした。
「親父はさ、俺に協力してくれたんだよ。世良田一家のインタビューを取ってきてやる、って。親父としちゃ、一家のイメージアップに一役かってやろうって心づもりだったんだけど、結果的に企業の不正を暴くことになっちまって、元樹さんには迷惑かけたな」
「悪くないんじゃない。そんなヤバい会社だったんなら、いずれパパの精神がやられちゃってたよ。その前に逃げ出せて良かったんじゃない」
「そうか、そう言ってもらえると助かるよ」
つかさは心の底から安堵する。
そうして歩きながら美園手をぎゅっと握る。
「な、何!」
驚いて手を振りほどこうとする美園だったが、つかさがそれを許さない。
繊細だががっしりとした手のひらが、美園の小さい手をしっかり握りしめていた。
「お前には大したことない言葉だったかもしれないけど、俺は嬉しかったんだぜ」
「……何が」
仕方なしにつかさと手を繋いだまま階段を下りる美園。
気のせいだろうか、なんだか気温が上昇している気がする。
美園は火照り始めた頬を覚ますように、反対側の手で顔をさすりながら、誠とトワがこちらを振り向かないことを祈っていた。
「覚えてないか? あさこちゃんと私は友達よ。これからもずっと一緒にいようね、って」
「へぇ。そんなこと言ったんだ」
「言った言った。俺、言葉にこそ出さなかったけど、最高に嬉しかったんだぜ。美園は俺にできた初めての友達だからな」
そう言ったつかさは屈託のない表情で美園に笑いかけた。
彼のこういった表情や仕草のひとつひとつが、美園の中で少しづつ変化を起こしていった。
あれほど毛嫌いしていた相手のはずだが、今はつかさの事を知るごとに心の距離が近づきはじめている気がするのだ。
「俺が一番苦しかった時、お前たち家族が……そして、お前が……俺を助けてくれたんた。だから今度は俺が全力でお前を守る」
そう言って握りしめた手により一層力を込めた。
それに答えるかのように、美園もしっかりその手を握り返した。
2人の視線が重なり合う。大丈夫、自分たちは絶対やれる。そんな確信が心を強くしていた。
ちょうどその時、誠とトワが鉄製との扉の前に辿り着き、耳を澄まして中の様子を伺い始めた。
「何か声が聞こえるよ」
誠はそう言って、美園たちを手招きした。
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