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野望は絶対阻止!
127話:シークレットルーム
しおりを挟むエレベーターが各フロアについているのに、まだ完成前ということで電気が通っていない。
形ばかりのドアに手を当て、勇治はため息をつく。
「あ~、俺はもう無理だ。お前たち、俺のことはいいから先に進め」
「何言ってんのよ、一人だけ楽しようとしてんでしょ」
美園が冷たい目で勇治を睨みつける。
「んな訳ねぇだろ、後からゆっくりついてくよ。お前たちの底なしの体力に俺の繊細な体が悲鳴をあげてるんだよ」
「勉強ばっかりして日に当たらないからもやしになったんじゃない。足腰まで弱っちゃって」
千秋に対する淡い恋心を告白してから、美園の態度が急によそよそしくなった。
兄としての威厳などほとんどないというのに、勇治は美園に対して説教を始めようとする。
「だんたいねぇ、勉強ばっかりしてるからそうやって頭がおかしくなんのよ」
「はぁ? お前はお兄様に向かってその口の聞き方は……」
そう言いかけた勇治の言葉を遮るように、少し先を進んでいた誠が声を張り上げる。
「ねぇ、勇治兄ちゃん。こっち見て、たくさんの機械が置いてあるよ」
「なんだ?」
誠たちに手招きされ、SRと書かれた扉をくぐる。
薄暗い部屋に青や赤のランプが灯っており、あちこちに大型のパソコンやモニターが設置されている。さながらコンピューター室といったところだ。
先に到着していたつかさはパソコンをいじったり、スマホで写真を撮ったりと、情報収集に勤しんでいる。
「こりゃ、制御室じゃねぇか」
勇治の呟きに、つかさが問いかける。
「オペラハウスの電源を操作するところみたいだけど、どう思います」
「ああ、それもあるだろうが……」
勇治は室内を歩き回りながら、あちこちを観察し、
「むしろセキュリティーの類が集中してるって感じだな」
それを聞いた美園が首を傾げる。
「セキュリティー? 肝心のドアに鍵かけてなかったら意味ないんじゃない。バカなの?」
それを聞いて誠がはっとして口を開く。
「そうだ、城島さんが言ってたんだ。トワを奪還した後、一気にオペラハウスを占領して機能を無効化するって。そのために、キロッスのほかのメンバーたちが城のあちこちのセキュリティーを壊して回ったんだ」
「なるほど。で、そのキロッスたちが捕まったことに安心して、まだマツムラたちはこの惨状に気付いてないってことだな」
勇治は室内の一番奥にあるモニターの前に座り、マウスの操作を始める。
しばらくそうしていたが、ある場所で操作の手を止め「くそったれ」と吐き捨てる。
「どうしたの?」
美園達が勇治の背後に回り、モニターを覗き込む。
「あの野郎、オペラハウスに自爆装置をしこんでやがる。起爆スイッチを押せば、ここだけじゃなく、ユグドリアの各所にある観光地も吹っ飛ぶ算段だ」
「なんてこと!」
トワが青ざめて悲鳴を上げる。
「普通の人間ならそんなこと不可能だが、国の要人だとあちこちの施設もフリーパスだろうし、爆弾の一つや二つこっそり仕掛けておいても誰も気づかないだろうな」
勇治の分析に、つかさも納得する。
「万が一、都合が悪くなればユグドリアごと沈めちまおうってことだな」
「なんてやつなの」
美園は拳を握り締めてモニター画面を見つめる。
何が書いてあるかさっぱり理解できないが、勇治の脳裏ではこれらがきっちり整理されて表示されているようだった。
「おい、お前たち、俺を置いて先に行け」
再びそう言った勇治に対し、美園が肩にパンチをお見舞いする。
「まだそんなこと言ってんの? 早く城島先輩を助けなきゃ。今頃心細くて泣いてるかもしれないじゃない」
美園の絶望的な妄想に、つかさが小さく反論する。
「んなタマじゃねぇよ、あいつは」
その呟きに対し、拳を目の前にかざして「何か言った?」と聞き返す美園。
「いや、何も」
つかさは無言でモニターに見入った。
勇治はカチャカチャとキーボードを叩きはじめ、何やら英語の文章を打ち込んでいるようだった。
「何事も適材適所。俺に体力はないけど、強靭な頭脳がある。このプログラムを書き換えてやるよ」
それを聞いたつかさは、美園の腕を引っ張り「行こう」と促す。
誠とトワは素早く状況を把握して、すでに部屋を飛び出していた。
美園とつかさもその後に続こうとすると、勇治がつかさを呼び止める。
「美園のこと頼んだぞ。俺の代わりにお前がしっかり守れ」
「もちろんです」
2人はぐぅにした拳を突き合わせ、互いの健闘を誓い合った。
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