129 / 146
野望は絶対阻止!
127話:シークレットルーム
しおりを挟むエレベーターが各フロアについているのに、まだ完成前ということで電気が通っていない。
形ばかりのドアに手を当て、勇治はため息をつく。
「あ~、俺はもう無理だ。お前たち、俺のことはいいから先に進め」
「何言ってんのよ、一人だけ楽しようとしてんでしょ」
美園が冷たい目で勇治を睨みつける。
「んな訳ねぇだろ、後からゆっくりついてくよ。お前たちの底なしの体力に俺の繊細な体が悲鳴をあげてるんだよ」
「勉強ばっかりして日に当たらないからもやしになったんじゃない。足腰まで弱っちゃって」
千秋に対する淡い恋心を告白してから、美園の態度が急によそよそしくなった。
兄としての威厳などほとんどないというのに、勇治は美園に対して説教を始めようとする。
「だんたいねぇ、勉強ばっかりしてるからそうやって頭がおかしくなんのよ」
「はぁ? お前はお兄様に向かってその口の聞き方は……」
そう言いかけた勇治の言葉を遮るように、少し先を進んでいた誠が声を張り上げる。
「ねぇ、勇治兄ちゃん。こっち見て、たくさんの機械が置いてあるよ」
「なんだ?」
誠たちに手招きされ、SRと書かれた扉をくぐる。
薄暗い部屋に青や赤のランプが灯っており、あちこちに大型のパソコンやモニターが設置されている。さながらコンピューター室といったところだ。
先に到着していたつかさはパソコンをいじったり、スマホで写真を撮ったりと、情報収集に勤しんでいる。
「こりゃ、制御室じゃねぇか」
勇治の呟きに、つかさが問いかける。
「オペラハウスの電源を操作するところみたいだけど、どう思います」
「ああ、それもあるだろうが……」
勇治は室内を歩き回りながら、あちこちを観察し、
「むしろセキュリティーの類が集中してるって感じだな」
それを聞いた美園が首を傾げる。
「セキュリティー? 肝心のドアに鍵かけてなかったら意味ないんじゃない。バカなの?」
それを聞いて誠がはっとして口を開く。
「そうだ、城島さんが言ってたんだ。トワを奪還した後、一気にオペラハウスを占領して機能を無効化するって。そのために、キロッスのほかのメンバーたちが城のあちこちのセキュリティーを壊して回ったんだ」
「なるほど。で、そのキロッスたちが捕まったことに安心して、まだマツムラたちはこの惨状に気付いてないってことだな」
勇治は室内の一番奥にあるモニターの前に座り、マウスの操作を始める。
しばらくそうしていたが、ある場所で操作の手を止め「くそったれ」と吐き捨てる。
「どうしたの?」
美園達が勇治の背後に回り、モニターを覗き込む。
「あの野郎、オペラハウスに自爆装置をしこんでやがる。起爆スイッチを押せば、ここだけじゃなく、ユグドリアの各所にある観光地も吹っ飛ぶ算段だ」
「なんてこと!」
トワが青ざめて悲鳴を上げる。
「普通の人間ならそんなこと不可能だが、国の要人だとあちこちの施設もフリーパスだろうし、爆弾の一つや二つこっそり仕掛けておいても誰も気づかないだろうな」
勇治の分析に、つかさも納得する。
「万が一、都合が悪くなればユグドリアごと沈めちまおうってことだな」
「なんてやつなの」
美園は拳を握り締めてモニター画面を見つめる。
何が書いてあるかさっぱり理解できないが、勇治の脳裏ではこれらがきっちり整理されて表示されているようだった。
「おい、お前たち、俺を置いて先に行け」
再びそう言った勇治に対し、美園が肩にパンチをお見舞いする。
「まだそんなこと言ってんの? 早く城島先輩を助けなきゃ。今頃心細くて泣いてるかもしれないじゃない」
美園の絶望的な妄想に、つかさが小さく反論する。
「んなタマじゃねぇよ、あいつは」
その呟きに対し、拳を目の前にかざして「何か言った?」と聞き返す美園。
「いや、何も」
つかさは無言でモニターに見入った。
勇治はカチャカチャとキーボードを叩きはじめ、何やら英語の文章を打ち込んでいるようだった。
「何事も適材適所。俺に体力はないけど、強靭な頭脳がある。このプログラムを書き換えてやるよ」
それを聞いたつかさは、美園の腕を引っ張り「行こう」と促す。
誠とトワは素早く状況を把握して、すでに部屋を飛び出していた。
美園とつかさもその後に続こうとすると、勇治がつかさを呼び止める。
「美園のこと頼んだぞ。俺の代わりにお前がしっかり守れ」
「もちろんです」
2人はぐぅにした拳を突き合わせ、互いの健闘を誓い合った。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説

ご主人様と僕
ふじゆう
ライト文芸
大切なペットが、飼い主になつくまでの60日間。
突然、見知らぬ場所へやってきた犬のナツは、疑心暗鬼であった。
時には、苛立ちながらも、愛情を注ぐ飼い主。
次第に、ナツの心は、解放されていく。


シャングリラ
桃青
ライト文芸
高校三年生のこずえは、卒業後、大学へ行かず、フリーターになることを決意。だが、好きな人が現れたり、親友が鬱病だったりと、色々問題のある毎日。そんな高校生活ラストイヤーの青春、いや青い心を、できるだけ爽やかに描いた小説です。

隣の古道具屋さん
雪那 由多
ライト文芸
祖父から受け継いだ喫茶店・渡り鳥の隣には佐倉古道具店がある。
幼馴染の香月は日々古道具の修復に励み、俺、渡瀬朔夜は従妹であり、この喫茶店のオーナーでもある七緒と一緒に古くからの常連しか立ち寄らない喫茶店を切り盛りしている。
そんな隣の古道具店では時々不思議な古道具が舞い込んでくる。
修行の身の香月と共にそんな不思議を目の当たりにしながらも一つ一つ壊れた古道具を修復するように不思議と向き合う少し不思議な日常の出来事。
飯屋の娘は魔法を使いたくない?
秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。
魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。
それを見ていた貴族の青年が…。
異世界転生の話です。
のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。
※ 表紙は星影さんの作品です。
※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。

王太子殿下の小夜曲
緑谷めい
恋愛
私は侯爵家令嬢フローラ・クライン。私が初めてバルド王太子殿下とお会いしたのは、殿下も私も共に10歳だった春のこと。私は知らないうちに王太子殿下の婚約者候補になっていた。けれど婚約者候補は私を含めて4人。その中には私の憧れの公爵家令嬢マーガレット様もいらっしゃった。これはもう出来レースだわ。王太子殿下の婚約者は完璧令嬢マーガレット様で決まりでしょ! 自分はただの数合わせだと確信した私は、とてもお気楽にバルド王太子殿下との顔合わせに招かれた王宮へ向かったのだが、そこで待ち受けていたのは……!? フローラの明日はどっちだ!?

元平民の義妹は私の婚約者を狙っている
カレイ
恋愛
伯爵令嬢エミーヌは父親の再婚によって義母とその娘、つまり義妹であるヴィヴィと暮らすこととなった。
最初のうちは仲良く暮らしていたはずなのに、気づけばエミーヌの居場所はなくなっていた。その理由は単純。
「エミーヌお嬢様は平民がお嫌い」だから。
そんな噂が広まったのは、おそらく義母が陰で「あの子が私を母親だと認めてくれないの!やっぱり平民の私じゃ……」とか、義妹が「時々エミーヌに睨まれてる気がするの。私は仲良くしたいのに……」とか言っているからだろう。
そして学園に入学すると義妹はエミーヌの婚約者ロバートへと近づいていくのだった……。

いいぞ頑張れファルコンズ 燃やせ草野球スピリット
夏野かろ
ライト文芸
男子大学生の西詰歩くんが草野球チームの遠山ファルコンズに入って頑張るお話。
投手陣はへなちょこ、四番バッターは中年のおっさん、帰国子女やら運動音痴やら、曲者ぞろいのファルコンズで彼は頑張れるのか……?
最後まで楽しんで読んでいただけたら嬉しいです。
追伸:逝去された星野仙一氏にこの作品を捧げます。監督、ありがとうございました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる