モデルファミリー <完結済み>

MARU助

文字の大きさ
上 下
125 / 146
野望は絶対阻止!

123話:勇治と美園

しおりを挟む
 結局、辺りをウロウロしてるうちにすっかり夜が明けてきたようだった。
 自販機は鵜の森交差点の上州屋の前に見つけたので、そこでコーヒーやら買って、しばし雑談。
 
 そこからでも、相模外科は嫌でも視界に入る……。
 遠目から見ても、やっぱりそこだけ切り取ったように暗い……。
 
 でも、視界に入れないようにしてなんとなくダベる。
 
「100円玉で買える温もりって……今は、110円って言いなおさないとなー」

「自販機100円って、それいつの話だよ!」

「尾崎豊って、知らね? 今度カラオケで歌ってやるよ……俺、結構上手いよ」

「へぇ、見延君……声、良いしね! 今度、聞かせてよ」
 
 しょうもない雑談が続く。

「この建物って、なんで斜めってるの?」

「ここの上州屋って、元々アルペンだったからね……森野の方にも上州屋あるけど、そっちも元アルペン」

 灰峰さん、妙なことに詳しい。

「どんだけ、アルペン好きなんだよ……上州屋」

 スキー用品のアルペンから釣具屋と華麗なる転身を遂げたこの上州屋。
 このパターンって、意外と多くて、知ってるだけでも3-4件はこのパターンだった。
 
 店の前の自販機前で、若造共がだべってて、さぞ近所迷惑に思えるけど。
 ご近所っても、目の前にあるのは畑……ぶっちゃけ、何もない。
 
 この数年後、灰峰姉さんの影響で、立派な釣り人となった俺は、ここの常連になるのだけど、それは暫く先のお話。
 まぁ、釣りに関しては、この灰峰姉さんが師匠的な感じになって、あっちこっち行くことになるのだけど、その行く先々で割と心霊現象を体験するハメになる。
 
 それはともかく、時刻は午前4時……すっかり空が明るくなっていた。

 待望の夜明けである。
 
 待ってましたとばかりに、俺達は、朝日を浴びながら、相模外科の前に再び立っていた。

 今度は、フルメンバー……そのまま帰るのも何だからと、とりあえず目の前まで来てみた。
 
 さすがに、灰峰ねーさんに色々吹き込まれたので俺も、ややビビり。
 
「……で、どうよ? つか、先陣は任せたよ……ねーさん」

「いや、何があったのか知らないけど、なんか……嘘みたいに雰囲気が変わってる……なにこれ? 何が起きたの?」

「ホントだ……夜が明けたら、いきなり雰囲気変わったな……」

 相変わらずだったら、今日は撤退と言ってた灰峰ねーさんもさっきと様子が違うと言って、今度は乗り気。

 徳重も同じようなこと言ってる。
 
 ホントかよ? でもなんとなく、前に来た時に感じてた圧迫感が和らいだような気がする。
 
「なんかもう俺達だけみたいだし、すっかり明るくなってるから、中見て回ってみる? ここで解散っても消化不良っしょ」

 と言うか、コンビニ探すと言っときながら、単に辺りをウロウロして自販機囲んでただけだった俺達。
 ぶっちゃけ皆、何も言わなかっただけで、思いは一つ!
 
『明るくなってから、こよーぜ!』
 
 要は、モノの見事に揃いも揃って、ヘタれてたってのが実情。
 もっとも、明るくなったら、無駄に強気化……そんなもんなんである。
 
「……なんだこれ。……ホントに同じ場所なのかな?」
 
 確かに明るくなったのもあるだろうけど、もう入った時の雰囲気が全然違う。
 
 夜明け間際の冷たい空気は相変わらずなんだけど、ただの廃墟……そんな感じだった。
 
 ちなみに、地下室はスルー! 
 だって、そこだけは常闇なんだもん。
 
「なんか、ちょっと目を放した隙に建物自体がごっそり入れ替わったんじゃないかって、気もするね……それくらい、雰囲気が違う……さすがに、これは君達でも解るんじゃないかな?」

「そこまでかよ……確かに、雰囲気がぜんぜん違うけど……」

「そこまでだよ……まぁ、これなら、多分大丈夫だから、物理的に気をつければ、何の問題もないと思うよ」
 
 そして、何となく皆バラけて、あちこち好き勝手に歩き回る。
 須磨さんは、灰峰ねーさんに付いてったらしく、俺ソロ状態!
 
 俺は二階を散策する。 
 なんとなく上には行きたくなかったもんで、階段付近をうろついて、部屋の中を覗いてみたり、背後を気にしながら、いつでも撤退できるように……この辺、俺ヘタレ。

 須磨さんと灰峰ねーさんがキャイキャイ言いながら、下に降りてったのを見送り、俺も帰ろうかなと思ってたら、反対側の階段から高藤がぬっと姿を見せる。
 
 ちょっとビビったのは内緒。
 
「高藤ちゃん、ちゃーっす! どうよーっ! なんか面白い事あった?」

 二階の廊下を、もう三回目くらい往復して、何も居ないって確認済み。
 もう怖くもなんとも無くなってたから、高藤への挨拶も軽いもの。
 
「おーうっ! 見延っ! なんだ上にいないと思ったら、こんなとこで一人でウロウロしてたのかい? てか、怖くなったんだろ? ベイビー! 何なら、俺様が熱い抱擁でも……」

 高藤はたまにこの手のホモネタを振ってくる。
 まぁ、俺はいつも華麗にスルーなんだけどな!

「いらねぇよ……さっき、灰峰ねーさんと須磨さんがもう帰らね? って言って下に降りてったよ。……他は上? なんか飽きたし、そろそろ俺らも撤収しねぇか?」

「そうだな……まぁ、夜中に比べて明るいし、全然怖くないし……ちょっと拍子抜けしたな。全くつまらん……俺はここに刺激を求めてきたんだぜ……」

「俺は、そんなスリリングな展開とか、御免こうむるよ」

 お互い歩み寄りながら、そんな話をする。
 この時点で、俺達は……油断しきってた。
 
 お互い、ソロで動いてて仲間と会って、安心したってのもあったのかもしれない。

 けど、その時の俺は文字通り無防備だった……。
 
 
 ――それは、突然の事だった。

 
 背後に人の気配を感じて、思わず立ち止まった……。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【ガチ恋プリンセス】これがVtuberのおしごと~後輩はガチで陰キャでコミュ障。。。『ましのん』コンビでトップVtuberを目指します!

夕姫
ライト文芸
Vtuber事務所『Fmすたーらいぶ』の1期生として活動する、清楚担当Vtuber『姫宮ましろ』。そんな彼女にはある秘密がある。それは中の人が男ということ……。 そんな『姫宮ましろ』の中の人こと、主人公の神崎颯太は『Fmすたーらいぶ』のマネージャーである姉の神崎桃を助けるためにVtuberとして活動していた。 同じ事務所のライバーとはほとんど絡まない、連絡も必要最低限。そんな生活を2年続けていたある日。事務所の不手際で半年前にデビューした3期生のVtuber『双葉かのん』こと鈴町彩芽に正体が知られて…… この物語は正体を隠しながら『姫宮ましろ』として活動する主人公とガチで陰キャでコミュ障な後輩ちゃんのVtuberお仕事ラブコメディ ※2人の恋愛模様は中学生並みにゆっくりです。温かく見守ってください ※配信パートは在籍ライバーが織り成す感動あり、涙あり、笑いありw箱推しリスナーの気分で読んでください AIイラストで作ったFA(ファンアート) ⬇️ https://www.alphapolis.co.jp/novel/187178688/738771100 も不定期更新中。こちらも応援よろしくです

戦いに行ったはずの騎士様は、女騎士を連れて帰ってきました。

新野乃花(大舟)
恋愛
健気にカサルの帰りを待ち続けていた、彼の婚約者のルミア。しかし帰還の日にカサルの隣にいたのは、同じ騎士であるミーナだった。親し気な様子をアピールしてくるミーナに加え、カサルもまた満更でもないような様子を見せ、ついにカサルはルミアに婚約破棄を告げてしまう。これで騎士としての真実の愛を手にすることができたと豪語するカサルであったものの、彼はその後すぐにあるきっかけから今夜破棄を大きく後悔することとなり…。

むしゃくしゃしてやった、後悔はしていないがやばいとは思っている

F.conoe
ファンタジー
婚約者をないがしろにしていい気になってる王子の国とかまじ終わってるよねー

エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。 両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

人生の全てを捨てた王太子妃

八つ刻
恋愛
突然王太子妃になれと告げられてから三年あまりが過ぎた。 傍目からは“幸せな王太子妃”に見える私。 だけど本当は・・・ 受け入れているけど、受け入れられない王太子妃と彼女を取り巻く人々の話。 ※※※幸せな話とは言い難いです※※※ タグをよく見て読んでください。ハッピーエンドが好みの方(一方通行の愛が駄目な方も)はブラウザバックをお勧めします。 ※本編六話+番外編六話の全十二話。 ※番外編の王太子視点はヤンデレ注意報が発令されています。

第12回ネット小説大賞コミック部門入賞・コミカライズ企画進行「婚約破棄ですか? それなら昨日成立しましたよ、ご存知ありませんでしたか?」完結

まほりろ
恋愛
第12回ネット小説大賞コミック部門入賞・コミカライズ企画進行中。 コミカライズ化がスタートしましたらこちらの作品は非公開にします。 「アリシア・フィルタ貴様との婚約を破棄する!」 イエーガー公爵家の令息レイモンド様が言い放った。レイモンド様の腕には男爵家の令嬢ミランダ様がいた。ミランダ様はピンクのふわふわした髪に赤い大きな瞳、小柄な体躯で庇護欲をそそる美少女。 対する私は銀色の髪に紫の瞳、表情が表に出にくく能面姫と呼ばれています。 レイモンド様がミランダ様に惹かれても仕方ありませんね……ですが。 「貴様は俺が心優しく美しいミランダに好意を抱いたことに嫉妬し、ミランダの教科書を破いたり、階段から突き落とすなどの狼藉を……」 「あの、ちょっとよろしいですか?」 「なんだ!」 レイモンド様が眉間にしわを寄せ私を睨む。 「婚約破棄ですか? 婚約破棄なら昨日成立しましたが、ご存知ありませんでしたか?」 私の言葉にレイモンド様とミランダ様は顔を見合わせ絶句した。 全31話、約43,000文字、完結済み。 他サイトにもアップしています。 小説家になろう、日間ランキング異世界恋愛2位!総合2位! pixivウィークリーランキング2位に入った作品です。 アルファポリス、恋愛2位、総合2位、HOTランキング2位に入った作品です。 2021/10/23アルファポリス完結ランキング4位に入ってました。ありがとうございます。 「Copyright(C)2021-九十九沢まほろ」

【完結】限界離婚

仲 奈華 (nakanaka)
大衆娯楽
もう限界だ。 「離婚してください」 丸田広一は妻にそう告げた。妻は激怒し、言い争いになる。広一は頭に鈍器で殴られたような衝撃を受け床に倒れ伏せた。振り返るとそこには妻がいた。広一はそのまま意識を失った。 丸田広一の息子の嫁、鈴奈はもう耐える事ができなかった。体調を崩し病院へ行く。医師に告げられた言葉にショックを受け、夫に連絡しようとするが、SNSが既読にならず、電話も繋がらない。もう諦め離婚届だけを置いて実家に帰った。 丸田広一の妻、京香は手足の違和感を感じていた。自分が家族から嫌われている事は知っている。高齢な姑、離婚を仄めかす夫、可愛くない嫁、誰かが私を害そうとしている気がする。渡されていた離婚届に署名をして役所に提出した。もう私は自由の身だ。あの人の所へ向かった。 広一の母、文は途方にくれた。大事な物が無くなっていく。今日は通帳が無くなった。いくら探しても見つからない。まさかとは思うが最近様子が可笑しいあの女が盗んだのかもしれない。衰えた体を動かして、家の中を探し回った。 出張からかえってきた広一の息子、良は家につき愕然とした。信じていた安心できる場所がガラガラと崩れ落ちる。後始末に追われ、いなくなった妻の元へ向かう。妻に頭を下げて別れたくないと懇願した。 平和だった丸田家に襲い掛かる不幸。どんどん倒れる家族。 信じていた家族の形が崩れていく。 倒されたのは誰のせい? 倒れた達磨は再び起き上がる。 丸田家の危機と、それを克服するまでの物語。 丸田 広一…65歳。定年退職したばかり。 丸田 京香…66歳。半年前に退職した。 丸田 良…38歳。営業職。出張が多い。 丸田 鈴奈…33歳。 丸田 勇太…3歳。 丸田 文…82歳。専業主婦。 麗奈…広一が定期的に会っている女。 ※7月13日初回完結 ※7月14日深夜 忘れたはずの思い~エピローグまでを加筆修正して投稿しました。話数も増やしています。 ※7月15日【裏】登場人物紹介追記しました。 ※7月22日第2章完結。 ※カクヨムにも投稿しています。

処理中です...