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野望は絶対阻止!

122話:囚われた男

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 オペラハウスの最深部。
 鉄製の冷え冷えとした牢獄に、両手を鎖で縛り上げられ身動きがとれない状態の城島がいた。

 額からは血が流れ、上半身の服は脱がされており、無駄な贅肉のついていない陶器のような肌には、幾本かの赤い筋が走っていた。
 城島は時折苦しげな息を吐き、何とか精神力で気を失うのを堪えていた。

 彼のその姿を舌なめずりをして眺めているマツムラ。
 キロッスの仲間はすでにオペラハウスから連れ出され、軍に引き渡されている。
 それを率いたリーダーだけを手元に残したマツムラは、その他いっさいの人間をここから退去させたのだ。

「久しぶりに会うな……アンドレ」
「俺はアンドレじゃない」
「会いたかったよ。ずっと……」

 マツムラは陶酔したような瞳で、すっと城島の頬に手を伸ばす。
 城島は反射的にその手に歯をかけた。

 ピリッとした痛みがマツムラの全身を駆け抜け、指先から赤黒い血が滴り落ちた。
 マツムラは艶めかしい動作でゆっくりと指に舌を這わせ、それをなめとると、口元に猥雑な笑みを浮かべる
 城島は毅然とした態度で相手を睨み返した。

「それだ! その瞳だよ」

 マツムラは嬉しそうに声をあげる。

「あの時のアンドレの瞳と同じだ。ハハハッ。やはりあいつの息子だ。血は争えん。ん? 何だ。何を見ている。何が言いたいんだアンドレ。私はこの国をより豊かにするために手をつくしてやったんだ。その私に向かって……何だその瞳は!」

 ビュンというムチのしなる音が響き、城島の肌に赤い筋が走る。
 城島は苦悶に満ちた表情で歯を食いしばる。

 マツムラは身動きがとれない城島の背後に回り込み、背中に走った長い古傷に指を落とす。

「お前のためだ。お前のためにこの国を大きくしてやろうとしているんだ」

 城島は肌が粟立ってくるのを必死にこらえた。
 先ほどマツムラが飲んでいた薬……気分が高揚すると言っていたが、おそらく非合法な薬なのだろう。
 明らかに今のマツムラの精神状態は普通ではない。城島を父親のアンドレと混同したり、かと思えば現実に立ち返ったり。

「俺にさわるな! 虫酸がはしる」
「何だと、アンドレ。また私に逆らうつもりなのか」
「俺はクオンだ。アンドレじゃない。気でも狂いやがったのか」

 バシン!

 再び鋭い音が響き、クオンの背中が弓なりに反る。

「背中の傷をもうひとつ増やさなければ分からないのか」

 そう怒鳴った後、急に柔和な目つきで城島を見る。

「まぁいい。時間はたっぷりあるんだ。ゆっくり語り合おうじゃないか」

 マツムラはそう言って城島の白い頬を指先でツーとなぞった。
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