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一家団結
115話:本当の気持ち
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誠は大ホールを出てすぐ近くにある休憩所のベンチでうなだれ座り込んでいた。
栄子を制止して代わりに後を追いかけてきたつかさが、その姿を見つけ黙って横に腰を降ろした。
誠はほんの一瞬視線を流しただけで、すぐに顔を伏せる。
しばらく何も言わずに誠の横に座っていたつかさだが、
「お前なんで俺にブログ見せたんだ?」
と、何でもない話から会話の糸口を切り出した。
ああ、と誠はどうでもいいと言わんばかりの口調で答える。
「つかさ兄ちゃんのブログ見てたら、やたらとモデルファミリーの話題が出てて、名前は伏せてあったけど美園姉ちゃんのこともたくさん載ってた」
ほぼ悪口しか書いてなかっはずだ。
あの女の化けの皮をはがしてやるだの、猫かぶりだの。
「あの女」の実の弟がそれを読んでいたと思うと少し申し訳なく感じる。
「思ったんだ。この人は美園姉ちゃんの本質を見抜いてる。この人ならあのブログに共感してくれるんじゃないか、って。それに美園姉ちゃんのことが好きなら、きっと悪い結果にはならない、って思ったし」
「はい?」
「好きなんでしょ? 美園姉ちゃんのこと。あのブログ見てそう思ったよ。すごく姉ちゃんのこと見てるな、って」
とんでもない事を言い出す小学生を前に、つかさの機能は停止した。
「つかさ兄ちゃんなら僕たちを良い方に導いてくれる、そう思ったから接触したんだ。ただ結果的に良かったのか悪かったのか今となっては分からないけどね」
誠は自嘲気味に笑う。
確かにつかさはあのブログに共感したし、わくわくした。
こんなおもしろいモデルファミリーがかつて存在しただろうか、と。
これだけ感情豊かな一面を見せる世良田一家、わざわざ仮面をかぶるのは惜しい。ありのままの姿で勝負してこそ価値があるのではないか、と。
最近優勝するモデリファミリーをテレビで見ていると全てにおいて嘘くさく、くそつまらないのだ。
画一的な笑顔に、定型文を引用したような決まり文句、政府のビデオでしか登場しないような理想の家族像ばかりだった。
こんなものを目指して、何が楽しいのだろう。正直に言えばいいんだ、金が欲しいと。
そういう意味でも世良田一家はモデルファミリーに大きな風穴をあけるかもしれない期待のホープだったのだ。
「なんかもうどうでもよくなっちゃった。僕のためにここまで来てくれたことには感謝するけど、皆は世間体を守るために来ているだけであって、本当は僕のことなんてどうでもいいんだよ」
「その世間体が崩れてるっていったらどうする」
「え?」
「実は飛行場で一家はひと悶着起こしてな」
「それは知ってるよ。ネット映像でいろいろ見てるから。テレビ番組でもコメンテーターのおじさんたちが偉そうに言ってたし」
誠は興味なさそうに答える。
「おそらくモデルファミリーは失格になるだろう」
「……本当に?」
それを聞いた誠の顔に、僅かな笑みが広がった。
その表情を見て、つかさには全てが理解できたのだ。
今まで疑問だったこと、それがストンとはまるべき場所に収まった気分だった。
「お前あれだろ。モデルファミリーで優勝したくなかったんだろ」
「……」
「あのブログ見て思ったよ。他人が見ても爆笑しちまうような楽しい毎日。それが7億手に入ったら全てぱぁ。それって寂しいよな」
「……」
誠は俯いて唇を噛む。
「言やぁよかったじゃねぇか。ずっと一緒にいようって」
「……言えないよ」
「なんで?」
「楽しかったもん。モデルファミリーになってからの毎日が。家族がひとつになって、つかさ兄ちゃんも巻き込んで、みんな生き生きしてた。このまま優勝しないで、来年も候補になって、その次も優勝しないで候補になって。ずっとそうやって家族が続けばいいな、って。僕、皆が大好きだから」
そう言って、誠は声を殺して泣きはじめた。
つかさはその頭を優しくさすってやりながら、
「ガキにこんな思いさせやがって。どーしようもねぇ奴らだな」
と、わざと柱の陰に隠れている一家に聞こえるように言った。それを聞いた一家は、おずおずと姿を現した。
栄子を制止して代わりに後を追いかけてきたつかさが、その姿を見つけ黙って横に腰を降ろした。
誠はほんの一瞬視線を流しただけで、すぐに顔を伏せる。
しばらく何も言わずに誠の横に座っていたつかさだが、
「お前なんで俺にブログ見せたんだ?」
と、何でもない話から会話の糸口を切り出した。
ああ、と誠はどうでもいいと言わんばかりの口調で答える。
「つかさ兄ちゃんのブログ見てたら、やたらとモデルファミリーの話題が出てて、名前は伏せてあったけど美園姉ちゃんのこともたくさん載ってた」
ほぼ悪口しか書いてなかっはずだ。
あの女の化けの皮をはがしてやるだの、猫かぶりだの。
「あの女」の実の弟がそれを読んでいたと思うと少し申し訳なく感じる。
「思ったんだ。この人は美園姉ちゃんの本質を見抜いてる。この人ならあのブログに共感してくれるんじゃないか、って。それに美園姉ちゃんのことが好きなら、きっと悪い結果にはならない、って思ったし」
「はい?」
「好きなんでしょ? 美園姉ちゃんのこと。あのブログ見てそう思ったよ。すごく姉ちゃんのこと見てるな、って」
とんでもない事を言い出す小学生を前に、つかさの機能は停止した。
「つかさ兄ちゃんなら僕たちを良い方に導いてくれる、そう思ったから接触したんだ。ただ結果的に良かったのか悪かったのか今となっては分からないけどね」
誠は自嘲気味に笑う。
確かにつかさはあのブログに共感したし、わくわくした。
こんなおもしろいモデルファミリーがかつて存在しただろうか、と。
これだけ感情豊かな一面を見せる世良田一家、わざわざ仮面をかぶるのは惜しい。ありのままの姿で勝負してこそ価値があるのではないか、と。
最近優勝するモデリファミリーをテレビで見ていると全てにおいて嘘くさく、くそつまらないのだ。
画一的な笑顔に、定型文を引用したような決まり文句、政府のビデオでしか登場しないような理想の家族像ばかりだった。
こんなものを目指して、何が楽しいのだろう。正直に言えばいいんだ、金が欲しいと。
そういう意味でも世良田一家はモデルファミリーに大きな風穴をあけるかもしれない期待のホープだったのだ。
「なんかもうどうでもよくなっちゃった。僕のためにここまで来てくれたことには感謝するけど、皆は世間体を守るために来ているだけであって、本当は僕のことなんてどうでもいいんだよ」
「その世間体が崩れてるっていったらどうする」
「え?」
「実は飛行場で一家はひと悶着起こしてな」
「それは知ってるよ。ネット映像でいろいろ見てるから。テレビ番組でもコメンテーターのおじさんたちが偉そうに言ってたし」
誠は興味なさそうに答える。
「おそらくモデルファミリーは失格になるだろう」
「……本当に?」
それを聞いた誠の顔に、僅かな笑みが広がった。
その表情を見て、つかさには全てが理解できたのだ。
今まで疑問だったこと、それがストンとはまるべき場所に収まった気分だった。
「お前あれだろ。モデルファミリーで優勝したくなかったんだろ」
「……」
「あのブログ見て思ったよ。他人が見ても爆笑しちまうような楽しい毎日。それが7億手に入ったら全てぱぁ。それって寂しいよな」
「……」
誠は俯いて唇を噛む。
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「……言えないよ」
「なんで?」
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そう言って、誠は声を殺して泣きはじめた。
つかさはその頭を優しくさすってやりながら、
「ガキにこんな思いさせやがって。どーしようもねぇ奴らだな」
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