115 / 146
再会
113話:誠の真意
しおりを挟む
マツムラは茫然自失の一家を見て、気の毒そうに肩を竦めると、城島を地下に連れていけと命令し、兵士たちに続いてその場を去った。
後に残されたのは現実を受け止めきれない者ばかり。
自分が見てきた世界は全て偽りだったのだろうか、各々そんな思いに駆られていた。
「あいつ本当に誠か?」
誰にともなくそう問いかける元樹。
「確かに別人みたいだった。けど、あんなに感情豊かなあいつを見たの初めてだ。あれが本当の姿なのかもな」
勇治が誠を擁護するような発言をすると、栄子は目尻を吊りあげて怒り出す。
「何言ってるのよ。あんなの誠ちゃんじゃないわ。誘拐されてる間に、城島君に変な事を吹き込まれて気が変になってるのよ」
「ママ。トワ君と私の前で先輩の悪口はやめて」
美園が抗議すると、ようやく栄子はトワの存在を思い出してボルテージを下げる。
トワは一家のやりとりに入っていけず、所在なげに立っていた。
「ごめんなさい。トワ君のお兄さんを悪くいうつもりはないのよ。でも、誠ちゃん、あまりにも変わっちゃったから」
「それって先輩のせい?」
改めて美園が聞く。
「そうに決まってるでしょ。いつもあたしに対してあんな口聞く子じゃなかったわ」
「じゃあ、裏モデルファミリーは?」
「え?」
「あのブログも先輩がそそのかして書かせたとでも?」
「それは……」
「あれはずっと前から誠が自分の意志で書いてたんだよ。お金のために偽装家族演じてる私たちに呆れてたんだよ」
そう言った美園の発言に、恐る恐るといった風にトワが意見する。
「違うと思います」
「何が」
「呆れるとか、そんな悪い感情であのブログを書いてたんじゃないと思います」
「だって、そうとしか思えないもの。現に今あのブログはメディアに勘づかれて世間に広まってるのよ。今頃日本じゃ、あたしたちはいい笑い者でしょうよ」
その事実を知らなかった元樹たちは、一瞬頬をひくつかせたが、何とか冷静さを保った。
これくらいのショックには耐性ができてしまったらしい。一家は打たれ強くなっていた。
「今回はたまたま空港でのひと悶着であたしたちの仮面が剥がれたけど、ほんとならあのブログが起爆剤になってたはず」
そう、誰も知らなかった一家の裏の顔。
非難が殺到するのが目に浮かぶようだ。
「いい家族じゃないですか」
「え?」
トワは微笑んだ。
「いい家族ですよ、皆さんは。僕はあの日記を読んで羨ましくなったんです。こんな楽しい毎日を送ってる子供がいるんだなって」
「楽しい? あれが?」
美園は目を丸くする。
「誠くんとはモデルファミリー関連の掲示板で知り合いになったんです。みんなどの代表がいいとか、いろいろ意見してて。僕も外国で育ってますけど、日本の血を引いてますから日本の政策には興味を持ってるんです」
「誠はもちろん俺たちのことを推してただろ?」
元樹が嬉しそうに尋ねる。
「いえ。確か関西の代表を応援してました。世良田家は薄っぺらい、嘘くさい、うさん臭い、とかなんとか辛辣なこと書いてましたよ」
「へぇ……」
自分で確認しておきながら、元樹は誠の言葉にダメージを食らっていた。
「文章力もあって結構おもしろいことを書く子で、お互いにいろんな意見を交わしているうちに仲良くなったんです。それであの裏モデルファミリーのブログをみせてもらいました」
元樹はふいに猛烈な恥ずかしに襲われる。
こんな幼い子供にあの痴態を読まれていたのかと思うと、文字通り穴があったら入りたい気分だった。
それは他の面々とて同じ、急に心ここにあらずといった表情でまごまごし始める。
そんな一家を見て、トワはおもしろそうに笑う。
後に残されたのは現実を受け止めきれない者ばかり。
自分が見てきた世界は全て偽りだったのだろうか、各々そんな思いに駆られていた。
「あいつ本当に誠か?」
誰にともなくそう問いかける元樹。
「確かに別人みたいだった。けど、あんなに感情豊かなあいつを見たの初めてだ。あれが本当の姿なのかもな」
勇治が誠を擁護するような発言をすると、栄子は目尻を吊りあげて怒り出す。
「何言ってるのよ。あんなの誠ちゃんじゃないわ。誘拐されてる間に、城島君に変な事を吹き込まれて気が変になってるのよ」
「ママ。トワ君と私の前で先輩の悪口はやめて」
美園が抗議すると、ようやく栄子はトワの存在を思い出してボルテージを下げる。
トワは一家のやりとりに入っていけず、所在なげに立っていた。
「ごめんなさい。トワ君のお兄さんを悪くいうつもりはないのよ。でも、誠ちゃん、あまりにも変わっちゃったから」
「それって先輩のせい?」
改めて美園が聞く。
「そうに決まってるでしょ。いつもあたしに対してあんな口聞く子じゃなかったわ」
「じゃあ、裏モデルファミリーは?」
「え?」
「あのブログも先輩がそそのかして書かせたとでも?」
「それは……」
「あれはずっと前から誠が自分の意志で書いてたんだよ。お金のために偽装家族演じてる私たちに呆れてたんだよ」
そう言った美園の発言に、恐る恐るといった風にトワが意見する。
「違うと思います」
「何が」
「呆れるとか、そんな悪い感情であのブログを書いてたんじゃないと思います」
「だって、そうとしか思えないもの。現に今あのブログはメディアに勘づかれて世間に広まってるのよ。今頃日本じゃ、あたしたちはいい笑い者でしょうよ」
その事実を知らなかった元樹たちは、一瞬頬をひくつかせたが、何とか冷静さを保った。
これくらいのショックには耐性ができてしまったらしい。一家は打たれ強くなっていた。
「今回はたまたま空港でのひと悶着であたしたちの仮面が剥がれたけど、ほんとならあのブログが起爆剤になってたはず」
そう、誰も知らなかった一家の裏の顔。
非難が殺到するのが目に浮かぶようだ。
「いい家族じゃないですか」
「え?」
トワは微笑んだ。
「いい家族ですよ、皆さんは。僕はあの日記を読んで羨ましくなったんです。こんな楽しい毎日を送ってる子供がいるんだなって」
「楽しい? あれが?」
美園は目を丸くする。
「誠くんとはモデルファミリー関連の掲示板で知り合いになったんです。みんなどの代表がいいとか、いろいろ意見してて。僕も外国で育ってますけど、日本の血を引いてますから日本の政策には興味を持ってるんです」
「誠はもちろん俺たちのことを推してただろ?」
元樹が嬉しそうに尋ねる。
「いえ。確か関西の代表を応援してました。世良田家は薄っぺらい、嘘くさい、うさん臭い、とかなんとか辛辣なこと書いてましたよ」
「へぇ……」
自分で確認しておきながら、元樹は誠の言葉にダメージを食らっていた。
「文章力もあって結構おもしろいことを書く子で、お互いにいろんな意見を交わしているうちに仲良くなったんです。それであの裏モデルファミリーのブログをみせてもらいました」
元樹はふいに猛烈な恥ずかしに襲われる。
こんな幼い子供にあの痴態を読まれていたのかと思うと、文字通り穴があったら入りたい気分だった。
それは他の面々とて同じ、急に心ここにあらずといった表情でまごまごし始める。
そんな一家を見て、トワはおもしろそうに笑う。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説

商家の旦那様の「お気に入り」は
都茉莉
ライト文芸
豪商の青年ノエルには、使用人から「お気に入り」を見つける悪癖がある。
そんな何人もの女性を泣かせてきたノエルが次に手を出したのが、セシリアだった。
短期契約で後腐れもない身では結末など一つしかない。だが、彼女は彼女でなにやら思惑があるようで……
EX級アーティファクト化した介護用ガイノイドと行く未来異星世界遺跡探索~君と添い遂げるために~
青空顎門
SF
病で余命宣告を受けた主人公。彼は介護用に購入した最愛のガイノイド(女性型アンドロイド)の腕の中で息絶えた……はずだったが、気づくと彼女と共に見知らぬ場所にいた。そこは遥か未来――時空間転移技術が暴走して崩壊した後の時代、宇宙の遥か彼方の辺境惑星だった。男はファンタジーの如く高度な技術の名残が散見される世界で、今度こそ彼女と添い遂げるために未来の超文明の遺跡を巡っていく。
※小説家になろう様、カクヨム様、ノベルアップ+様、ノベルバ様にも掲載しております。
となりのソータロー
daisysacky
ライト文芸
ある日、転校生が宗太郎のクラスにやって来る。
彼は、子供の頃に遊びに行っていた、お化け屋敷で見かけた…
という噂を聞く。
そこは、ある事件のあった廃屋だった~
伏線回収の夏
影山姫子
ミステリー
ある年の夏。俺は15年ぶりにT県N市にある古い屋敷を訪れた。某大学の芸術学部でクラスメイトだった岡滝利奈の招きだった。かつての同級生の不審死。消えた犯人。屋敷のアトリエにナイフで刻まれた無数のXの傷。利奈はそのなぞを、ミステリー作家であるこの俺に推理してほしいというのだ。俺、利奈、桐山優也、十文字省吾、新山亜沙美、須藤真利亜の六人は、大学時代にこの屋敷で共に芸術の創作に打ち込んだ仲間だった。グループの中に犯人はいるのか? 脳裏によみがえる青春時代の熱気、裏切り、そして別れ。懐かしくも苦い思い出をたどりながら事件の真相に近づく俺に、衝撃のラストが待ち受けていた。
《あなたはすべての伏線を回収することができますか?》
深夜水溶液
海獺屋ぼの
ライト文芸
鴨川月子は海に反射するネオンが好きだった。
人工的な明かりは彼女をゆっくりと東京という街に溶かしていく―ー。
タイトル作品「深夜水溶液」他4人の人物の成長と葛藤を描いた短編集。
エリート警察官の溺愛は甘く切ない
日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。
両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉
【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】
絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。
下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。
※全話オリジナル作品です。

泣き虫エリー
梅雨の人
恋愛
幼いころに父に教えてもらったおまじないを口ずさみ続ける泣き虫で寂しがり屋のエリー。
初恋相手のロニーと念願かなって気持ちを通じ合わせたのに、ある日ロニーは突然街を去ることになってしまった。
戻ってくるから待ってて、という言葉を残して。
そして年月が過ぎ、エリーが再び恋に落ちたのは…。
強く逞しくならざるを得なかったエリーを大きな愛が包み込みます。
「懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。」に出てきたエリーの物語をどうぞお楽しみください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる