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再会
113話:誠の真意
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マツムラは茫然自失の一家を見て、気の毒そうに肩を竦めると、城島を地下に連れていけと命令し、兵士たちに続いてその場を去った。
後に残されたのは現実を受け止めきれない者ばかり。
自分が見てきた世界は全て偽りだったのだろうか、各々そんな思いに駆られていた。
「あいつ本当に誠か?」
誰にともなくそう問いかける元樹。
「確かに別人みたいだった。けど、あんなに感情豊かなあいつを見たの初めてだ。あれが本当の姿なのかもな」
勇治が誠を擁護するような発言をすると、栄子は目尻を吊りあげて怒り出す。
「何言ってるのよ。あんなの誠ちゃんじゃないわ。誘拐されてる間に、城島君に変な事を吹き込まれて気が変になってるのよ」
「ママ。トワ君と私の前で先輩の悪口はやめて」
美園が抗議すると、ようやく栄子はトワの存在を思い出してボルテージを下げる。
トワは一家のやりとりに入っていけず、所在なげに立っていた。
「ごめんなさい。トワ君のお兄さんを悪くいうつもりはないのよ。でも、誠ちゃん、あまりにも変わっちゃったから」
「それって先輩のせい?」
改めて美園が聞く。
「そうに決まってるでしょ。いつもあたしに対してあんな口聞く子じゃなかったわ」
「じゃあ、裏モデルファミリーは?」
「え?」
「あのブログも先輩がそそのかして書かせたとでも?」
「それは……」
「あれはずっと前から誠が自分の意志で書いてたんだよ。お金のために偽装家族演じてる私たちに呆れてたんだよ」
そう言った美園の発言に、恐る恐るといった風にトワが意見する。
「違うと思います」
「何が」
「呆れるとか、そんな悪い感情であのブログを書いてたんじゃないと思います」
「だって、そうとしか思えないもの。現に今あのブログはメディアに勘づかれて世間に広まってるのよ。今頃日本じゃ、あたしたちはいい笑い者でしょうよ」
その事実を知らなかった元樹たちは、一瞬頬をひくつかせたが、何とか冷静さを保った。
これくらいのショックには耐性ができてしまったらしい。一家は打たれ強くなっていた。
「今回はたまたま空港でのひと悶着であたしたちの仮面が剥がれたけど、ほんとならあのブログが起爆剤になってたはず」
そう、誰も知らなかった一家の裏の顔。
非難が殺到するのが目に浮かぶようだ。
「いい家族じゃないですか」
「え?」
トワは微笑んだ。
「いい家族ですよ、皆さんは。僕はあの日記を読んで羨ましくなったんです。こんな楽しい毎日を送ってる子供がいるんだなって」
「楽しい? あれが?」
美園は目を丸くする。
「誠くんとはモデルファミリー関連の掲示板で知り合いになったんです。みんなどの代表がいいとか、いろいろ意見してて。僕も外国で育ってますけど、日本の血を引いてますから日本の政策には興味を持ってるんです」
「誠はもちろん俺たちのことを推してただろ?」
元樹が嬉しそうに尋ねる。
「いえ。確か関西の代表を応援してました。世良田家は薄っぺらい、嘘くさい、うさん臭い、とかなんとか辛辣なこと書いてましたよ」
「へぇ……」
自分で確認しておきながら、元樹は誠の言葉にダメージを食らっていた。
「文章力もあって結構おもしろいことを書く子で、お互いにいろんな意見を交わしているうちに仲良くなったんです。それであの裏モデルファミリーのブログをみせてもらいました」
元樹はふいに猛烈な恥ずかしに襲われる。
こんな幼い子供にあの痴態を読まれていたのかと思うと、文字通り穴があったら入りたい気分だった。
それは他の面々とて同じ、急に心ここにあらずといった表情でまごまごし始める。
そんな一家を見て、トワはおもしろそうに笑う。
後に残されたのは現実を受け止めきれない者ばかり。
自分が見てきた世界は全て偽りだったのだろうか、各々そんな思いに駆られていた。
「あいつ本当に誠か?」
誰にともなくそう問いかける元樹。
「確かに別人みたいだった。けど、あんなに感情豊かなあいつを見たの初めてだ。あれが本当の姿なのかもな」
勇治が誠を擁護するような発言をすると、栄子は目尻を吊りあげて怒り出す。
「何言ってるのよ。あんなの誠ちゃんじゃないわ。誘拐されてる間に、城島君に変な事を吹き込まれて気が変になってるのよ」
「ママ。トワ君と私の前で先輩の悪口はやめて」
美園が抗議すると、ようやく栄子はトワの存在を思い出してボルテージを下げる。
トワは一家のやりとりに入っていけず、所在なげに立っていた。
「ごめんなさい。トワ君のお兄さんを悪くいうつもりはないのよ。でも、誠ちゃん、あまりにも変わっちゃったから」
「それって先輩のせい?」
改めて美園が聞く。
「そうに決まってるでしょ。いつもあたしに対してあんな口聞く子じゃなかったわ」
「じゃあ、裏モデルファミリーは?」
「え?」
「あのブログも先輩がそそのかして書かせたとでも?」
「それは……」
「あれはずっと前から誠が自分の意志で書いてたんだよ。お金のために偽装家族演じてる私たちに呆れてたんだよ」
そう言った美園の発言に、恐る恐るといった風にトワが意見する。
「違うと思います」
「何が」
「呆れるとか、そんな悪い感情であのブログを書いてたんじゃないと思います」
「だって、そうとしか思えないもの。現に今あのブログはメディアに勘づかれて世間に広まってるのよ。今頃日本じゃ、あたしたちはいい笑い者でしょうよ」
その事実を知らなかった元樹たちは、一瞬頬をひくつかせたが、何とか冷静さを保った。
これくらいのショックには耐性ができてしまったらしい。一家は打たれ強くなっていた。
「今回はたまたま空港でのひと悶着であたしたちの仮面が剥がれたけど、ほんとならあのブログが起爆剤になってたはず」
そう、誰も知らなかった一家の裏の顔。
非難が殺到するのが目に浮かぶようだ。
「いい家族じゃないですか」
「え?」
トワは微笑んだ。
「いい家族ですよ、皆さんは。僕はあの日記を読んで羨ましくなったんです。こんな楽しい毎日を送ってる子供がいるんだなって」
「楽しい? あれが?」
美園は目を丸くする。
「誠くんとはモデルファミリー関連の掲示板で知り合いになったんです。みんなどの代表がいいとか、いろいろ意見してて。僕も外国で育ってますけど、日本の血を引いてますから日本の政策には興味を持ってるんです」
「誠はもちろん俺たちのことを推してただろ?」
元樹が嬉しそうに尋ねる。
「いえ。確か関西の代表を応援してました。世良田家は薄っぺらい、嘘くさい、うさん臭い、とかなんとか辛辣なこと書いてましたよ」
「へぇ……」
自分で確認しておきながら、元樹は誠の言葉にダメージを食らっていた。
「文章力もあって結構おもしろいことを書く子で、お互いにいろんな意見を交わしているうちに仲良くなったんです。それであの裏モデルファミリーのブログをみせてもらいました」
元樹はふいに猛烈な恥ずかしに襲われる。
こんな幼い子供にあの痴態を読まれていたのかと思うと、文字通り穴があったら入りたい気分だった。
それは他の面々とて同じ、急に心ここにあらずといった表情でまごまごし始める。
そんな一家を見て、トワはおもしろそうに笑う。
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