モデルファミリー <完結済み>

MARU助

文字の大きさ
上 下
109 / 146
オヘラハウスへ

107話:対峙

しおりを挟む
マリクと話してから1週間
その間俺はただレティと過ごす時間に癒されていることを改めて実感していた
「シア、ここよね?」
いつの間にか少し先を歩いていたレティがカフェの前で立ち止まる

「ああ」
俺は頷いて少しペースを速めた
今日訪れたのは町にあるカフェだ
ここはナターシャさんの知り合いがやっていて俺達も昔からよく連れてきてもらってる店だ

「考え事?」
「ん?あぁ、ちょっとな」
レティの事を考えてたなんて言えないだろ…
俺は適当にごまかしながら扉を開けてレティを先に通した

「いらっしゃい。久しぶりねシア」
「どーも。テラス行っていい?」
「ふふ…いいわよ」
隣にいるレティを見てから生暖かい視線を向けられた
恥ずかしいからやめてもらいたい

レティはケーキとホッとコーヒー、俺はアイスコーヒーを頼んだ
「お待たせ。お客さん少ないから貸し切りにしとくわね」
「…どうも」
「そんな不貞腐れないの。彼女に嫌われちゃうわよ」
店員はそう言いながら戻って行った

「貸し切りって大丈夫なの?」
「あぁ、元々ここは常連しか知らない席だから問題ない」
というより多分俺達しか知らない
チビの集団が店内で走り回るからって開放された場所だからな
庭も手入れされててかなり落ち着く場所だ
2人掛けのベンチが3つ少し間隔をあけて置いてあり、その前に丸い木のテーブルが置いてある

「シアも食べる?」
「いや、いいよ」
満足そうな顔をしながら尋ねてきたレティは『そう?』と言いながら次のひと口を頬張った

「そんなに気に入ったのか?」
「甘いものなんて食べる機会なかったもの」
「あぁ、なるほど」
レティの生い立ちを考えれば当然かもしれない

「母さんもよく作るから、頼めば作り方教えてもらえると思うぞ」
「本当?私でも作れるかな?」
「ああ。チビが手伝えるようなレシピも多いから、そういうのから教えてもらえばいい」
「それはすごくうれしいわ。サラサさんのお料理どれも美味しいしすっごく楽しみ」
そういうレティからはワクワクしてるのが伝わってくる
やっぱりこういう素直な真っすぐな反応は気持ちがいい
計算とか駆け引きとかそういうのが透けて見える反応にばかり接してきたから余計にそう感じる

「やっぱレティがいいな」
「え?」
レティの驚いた表情に自分が声に出していたことに気付く
やばい…
心の声が漏れるとかあり得ない
俺は内心かなり焦っていた

「私がいいって何が?」
「…」
改めて尋ねられて誤魔化そうとするのを諦めた
どうせ周りにもバレてる
かっこ悪いけど結局この1週間言い出せなかったのが現実だ
それならなし崩しだろうと何だろうと伝えてしまえばいい

「…隣に居たいと思うのも、隣にいて欲しいと思うのもレティだけだってこと」
「!」
覚悟を決めてそう言うとレティの目が大きく見開かれた
そして次の瞬間…

「何で泣くんだよ…」
これまで見たこともない満面の笑みの直後溢れ出したのは涙

「だって嬉し…」
「泣くほど?」
何度も首を縦に振るレティを思わず抱きしめた
驚いたせいか一瞬体をこわばらせたレティはすぐに警戒を解いて俺にされるがままになった

「…みんなシアは私を大事にしてくれるって…でも…」
「でも?」
「皆が思ってるような気持じゃないんだろうなって…ただ保護した対象だからだろうなって…」
「…」
「なのに…シアの事を知れば知るほど惹かれていくのを止められなかった」
時々鼻をすすりながら吐き出される想いに今日まで引っ張ったことを恨めしく思う

「もっと早く伝えればよかったな」
マリクの言うとおりだ
かっこ悪くてもその時その時に伝えればよかったんだ
今更言っても遅いけど

「愛してるよレティ。多分、出会った頃から」
「私も…愛してる!」
戸惑いながらも抱きしめ返されて顔がにやけて来る
こんな気持ちを知らずに来たのはもったいなかったなとどこかで思う
同時にそれを与えてくれるレティを、そんなレティと過ごせる時間を大事にしたいと思った

元の世界以上に何が起こるかわからない世界
今日が平和でも、明日にはスタンピードが起こる可能性だってある
当たり前の日常が当たり前じゃないこの世界で、共に過ごしたい相手と過ごせる時間だから猶更だった

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

~喫茶ポポの日常~

yu-kie
ライト文芸
祖父の残した喫茶店を継いだ孫の美奈。喫茶ポポは祖父の友人が所有する土地と店舗を借りている。その息子はボディーガードを職業にし、ひょんな事から喫茶店の空き部屋に住みはじめたのでした。 春樹の存在がトラブルを引き寄せてしまうが…基本ほのぼの?物語。 一旦完結とします。番外編書けたらと考え中です。

語りカフェ。人を引き寄せる特性を持つマスターの日常。~夜部~

すずなり。
ライト文芸
街中にある一軒のカフェ。 どこにでもありそうな外観のカフェは朝10時から昼3時までの営業だ。 五席しかない店内で軽食やコーヒーを楽しみに常連客が来るカフェだけど、マスターの気分で『夜』に店を開ける時がある。 そんな日は決まって新しいお客が店の扉を開けるのだ。 「いらっしゃいませ。お話、お聞きいたします。」 穏やか雰囲気のマスターが開く『カフェ~夜部~』。 今日はどんな話を持った人が来店するのか。 ※お話は全て想像の世界です。(一部すずなり。の体験談含みます。) ※いつも通りコメントは受け付けられません。 ※一話完結でいきたいと思います。

第12回ネット小説大賞コミック部門入賞・コミカライズ企画進行「婚約破棄ですか? それなら昨日成立しましたよ、ご存知ありませんでしたか?」完結

まほりろ
恋愛
第12回ネット小説大賞コミック部門入賞・コミカライズ企画進行中。 コミカライズ化がスタートしましたらこちらの作品は非公開にします。 「アリシア・フィルタ貴様との婚約を破棄する!」 イエーガー公爵家の令息レイモンド様が言い放った。レイモンド様の腕には男爵家の令嬢ミランダ様がいた。ミランダ様はピンクのふわふわした髪に赤い大きな瞳、小柄な体躯で庇護欲をそそる美少女。 対する私は銀色の髪に紫の瞳、表情が表に出にくく能面姫と呼ばれています。 レイモンド様がミランダ様に惹かれても仕方ありませんね……ですが。 「貴様は俺が心優しく美しいミランダに好意を抱いたことに嫉妬し、ミランダの教科書を破いたり、階段から突き落とすなどの狼藉を……」 「あの、ちょっとよろしいですか?」 「なんだ!」 レイモンド様が眉間にしわを寄せ私を睨む。 「婚約破棄ですか? 婚約破棄なら昨日成立しましたが、ご存知ありませんでしたか?」 私の言葉にレイモンド様とミランダ様は顔を見合わせ絶句した。 全31話、約43,000文字、完結済み。 他サイトにもアップしています。 小説家になろう、日間ランキング異世界恋愛2位!総合2位! pixivウィークリーランキング2位に入った作品です。 アルファポリス、恋愛2位、総合2位、HOTランキング2位に入った作品です。 2021/10/23アルファポリス完結ランキング4位に入ってました。ありがとうございます。 「Copyright(C)2021-九十九沢まほろ」

人生の全てを捨てた王太子妃

八つ刻
恋愛
突然王太子妃になれと告げられてから三年あまりが過ぎた。 傍目からは“幸せな王太子妃”に見える私。 だけど本当は・・・ 受け入れているけど、受け入れられない王太子妃と彼女を取り巻く人々の話。 ※※※幸せな話とは言い難いです※※※ タグをよく見て読んでください。ハッピーエンドが好みの方(一方通行の愛が駄目な方も)はブラウザバックをお勧めします。 ※本編六話+番外編六話の全十二話。 ※番外編の王太子視点はヤンデレ注意報が発令されています。

光のもとで1

葉野りるは
青春
一年間の療養期間を経て、新たに高校へ通いだした翠葉。 小さいころから学校を休みがちだった翠葉は人と話すことが苦手。 自分の身体にコンプレックスを抱え、人に迷惑をかけることを恐れ、人の中に踏み込んでいくことができない。 そんな翠葉が、一歩一歩ゆっくりと歩きだす。 初めて心から信頼できる友達に出逢い、初めての恋をする―― (全15章の長編小説(挿絵あり)。恋愛風味は第三章から出てきます) 10万文字を1冊として、文庫本40冊ほどの長さです。

神守君とゆかいなヤンデレ娘達

田布施月雄
ライト文芸
僕、神守礼は臆病だ。 周りにこんなに美人な女性に囲まれて何もできないなんて・・・・ 不幸だ、不幸すぎる。 普通は『なんて幸せなんだろう』とそう思うよね?思うでしょ? その状況だけだったら僕もそう思うんだ。 ・・・・でも君たちは彼女らの怖さを知らないから。 彼女たちがヤンデレだったらどうする。 僕を巡ってヤンデレ娘達が暴れまくる、ラブコメドタバタストーリー。 果たして僕は彼女らをうまくなだめられるだろうか? <この作品は他でも連載中>

【完結】限界離婚

仲 奈華 (nakanaka)
大衆娯楽
もう限界だ。 「離婚してください」 丸田広一は妻にそう告げた。妻は激怒し、言い争いになる。広一は頭に鈍器で殴られたような衝撃を受け床に倒れ伏せた。振り返るとそこには妻がいた。広一はそのまま意識を失った。 丸田広一の息子の嫁、鈴奈はもう耐える事ができなかった。体調を崩し病院へ行く。医師に告げられた言葉にショックを受け、夫に連絡しようとするが、SNSが既読にならず、電話も繋がらない。もう諦め離婚届だけを置いて実家に帰った。 丸田広一の妻、京香は手足の違和感を感じていた。自分が家族から嫌われている事は知っている。高齢な姑、離婚を仄めかす夫、可愛くない嫁、誰かが私を害そうとしている気がする。渡されていた離婚届に署名をして役所に提出した。もう私は自由の身だ。あの人の所へ向かった。 広一の母、文は途方にくれた。大事な物が無くなっていく。今日は通帳が無くなった。いくら探しても見つからない。まさかとは思うが最近様子が可笑しいあの女が盗んだのかもしれない。衰えた体を動かして、家の中を探し回った。 出張からかえってきた広一の息子、良は家につき愕然とした。信じていた安心できる場所がガラガラと崩れ落ちる。後始末に追われ、いなくなった妻の元へ向かう。妻に頭を下げて別れたくないと懇願した。 平和だった丸田家に襲い掛かる不幸。どんどん倒れる家族。 信じていた家族の形が崩れていく。 倒されたのは誰のせい? 倒れた達磨は再び起き上がる。 丸田家の危機と、それを克服するまでの物語。 丸田 広一…65歳。定年退職したばかり。 丸田 京香…66歳。半年前に退職した。 丸田 良…38歳。営業職。出張が多い。 丸田 鈴奈…33歳。 丸田 勇太…3歳。 丸田 文…82歳。専業主婦。 麗奈…広一が定期的に会っている女。 ※7月13日初回完結 ※7月14日深夜 忘れたはずの思い~エピローグまでを加筆修正して投稿しました。話数も増やしています。 ※7月15日【裏】登場人物紹介追記しました。 ※7月22日第2章完結。 ※カクヨムにも投稿しています。

推しにも彼にも私にも

音はつき
ライト文芸
人生を捧げたわたしの〝推し〟は、人気絶頂にて解散・引退。 涙が枯れるほど泣いて、絶望して、だけど推しの幸せのためならと見送ったのが一年前。 そんなわたしの前に、〝推し〟が再び現れた。 キラキラのオーラも、眩い笑顔もないままに。

処理中です...