モデルファミリー <完結済み>

MARU助

文字の大きさ
上 下
104 / 146
近づく二人の距離

102話:美園の気持ち

しおりを挟む
『お前は間違いなく俺の未来の嫁さんだし、そうなってくると世良田一家は俺にとって大事な家族になる』
 
 思いもよらぬつかさの発言に、美園の心拍数が跳ね上がり、体中を一気に血が駆け巡っていった。
 美園の様子を冷静に観察しながら、つかさは淡々とした口調で話し続ける。

「俺が一緒に暮らさないかって言ったのはそういう意味も含めてだよ。もちろんお前が大学を卒業してからでもいい」
「…………」

「ただ、返事だけは先に聞かせといてほしい。なんだかんだでお前も男に人気があるから、こっちも冷や冷やするんだ」
「…………」

「どうだ、俺の家にこないか?」
「………ッ!」
 
 よく恥ずかしげもなくそんなことを、そう口にしたかった美園だが恥ずかしさで喉から声が出てこない。
 もごもごと口ごもる美園を前に、つかさは立ち上がってソファーを回り込んでくる。

 そして美園の正面に立つと、

「おい、聞こえてるのか?」

 苛立たし気に問いかける。

 それでも美園は顔を上げようとしない。
 何も反応せず、座ったままでいる美園を頭上から見下ろしたつかさは、さらに語気を強めて問いかける。

「おい、返事しろよ。さっき言ったこと聞こえたか、って聞いてんだ」
「……ま…まぁ、聞こえたような」

 ここでようやく口を開いた美園だが、その返答はつかさが期待しているようなものではなかった。 
 つかさはほんの少しムッとした表情をして、美園を見つめた。

 美園は気のない素振りで口を尖らしているが、実は全神経は目の前に立つつかさに向いている。それを悟られないように必死に冷静さを装っていたのだ。

 けれど、つかさから見れば美園が無関心を貫いているように思え、その態度が妙に癪に触った。

「で、どうなんだ」
「どうって?」

 美園の心臓が早鐘を打っている。

「だから……その、なんだ。どう思ってるかってことだよ」
「だから何をよ」

 一向に美園がこちらを向こうとせずに、話を逸らそうとしていることに業を煮やしたつかさは、美園の腕を強引に掴んでこちらを振り向かせた。

「おい! 人が真剣に話してるんだからこっちを……」

 そう言いかけて、美園の表情を見るなり目を丸くする。

 美園はすぐにつかさの腕を振りほどいて、顔を逸らす。別に怒ってる訳ではない。それはつかさにも伝わっただろう。


 ――ガチャリ


 まるで計ったとしか思えないタイミングで、勇治が扉を開けて、中を覗き込んできた。

「おい、そろそろ行くってよ」

 かったるそうな口調だが、美園とつかさの微妙な空気感を感じ取って眉根を寄せる。

「ん? なんだお前ら。この部屋冷房効いてなかったか」
「ごほんっ……そ、そんなことないわよ」

 咳払いして美園が答えると、勇治は首を傾げて2人を指差す。

「じゃあなんで2人とも顔が真っ赤なんだ」

 そう言われたつかさは、慌てて右手で顔を覆う。

 美園は更に顔を赤くすると、無言で兄を睨みつけ、足早に部屋を出て行った。
 その後を追うように、つかさも勇治と扉の隙間を無言ですり抜けて行く。

 勇治は不思議そうに2人の後ろ姿を見送りながら、誰もいなくなった部屋で唐突に満面の笑みを浮かべた。

「まだまだ青いねぇ」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

僕の大切な義妹(ひまり)ちゃん。~貧乏神と呼ばれた女の子を助けたら、女神な義妹にクラスチェンジした~

マナシロカナタ✨ねこたま✨GCN文庫
ライト文芸
可愛すぎる義妹のために、僕はもう一度、僕をがんばってみようと思う――。 ――――――― 「えへへー♪ アキトくん、どうどう? 新しい制服似合ってる?」  届いたばかりのまっさらな高校の制服を着たひまりちゃんが、ファッションショーでもしているみたいに、僕――神崎暁斗(かんざき・あきと)の目の前でくるりと回った。  短いスカートがひらりと舞い、僕は慌てて視線を上げる。 「すごく似合ってるよ。まるでひまりちゃんのために作られた制服みたいだ」 「やった♪」  僕とひまりちゃんは血のつながっていない義理の兄妹だ。  僕が小学校のころ、クラスに母子家庭の女の子がいた。  それがひまりちゃんで、ガリガリに痩せていて、何度も繕ったであろうボロボロの古着を着ていたこともあって、 「貧乏神が来たぞ~!」 「貧乏が移っちまう! 逃げろ~!」  心ない男子たちからは名前をもじって貧乏神なんて呼ばれていた。 「うっ、ぐすっ……」  ひまりちゃんは言い返すでもなく、いつも鼻をすすりながら俯いてしまう。  そして当時の僕はというと、自分こそが神に選ばれし特別な人間だと思い込んでいたのもあって、ひまりちゃんがバカにされているのを見かけるたびに、助けに入っていた。  そして父さんが食堂を経営していたこともあり、僕はひまりちゃんを家に連れ帰っては一緒にご飯を食べた。  それはいつしか、ひまりちゃんのお母さんも含めた家族ぐるみの付き合いになっていき。  ある時、僕の父さんとひまりちゃんのお母さんが再婚して、ひまりちゃんは僕の義妹になったのだ。 「これからは毎日一緒にいられるね!」  そんなひまりちゃんは年々綺麗になっていき、いつしか「女神」と呼ばれるようになっていた。  対してその頃には、ただの冴えない凡人であることを理解してしまった僕。  だけどひまりちゃんは昔助けられた恩義で、平凡な僕を今でも好きだ好きだと言ってくる。  そんなひまりちゃんに少しでも相応しい男になるために。  女神のようなひまりちゃんの想いに応えるために。  もしくはいつか、ひまりちゃんが本当にいい人を見つけた時に、胸を張って兄だと言えるように。  高校進学を機に僕はもう一度、僕をがんばってみようと思う――。

せやさかい

武者走走九郎or大橋むつお
ライト文芸
父の失踪から七年、失踪宣告がなされて、田中さくらは母とともに母の旧姓になって母の実家のある堺の街にやってきた。母は戻ってきただが、さくらは「やってきた」だ。年に一度来るか来ないかのお祖父ちゃんの家は、今日から自分の家だ。 そして、まもなく中学一年生。 自慢のポニーテールを地味なヒッツメにし、口癖の「せやさかい」も封印して新しい生活が始まてしまった。

飯屋の娘は魔法を使いたくない?

秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。 魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。 それを見ていた貴族の青年が…。 異世界転生の話です。 のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。 ※ 表紙は星影さんの作品です。 ※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。

セリフ&声劇台本

まぐろ首領
ライト文芸
自作のセリフ、声劇台本を集めました。 LIVE配信の際や、ボイス投稿の際にお使い下さい。 また、投稿する際に使われる方は、詳細などに 【台本(セリフ):詩乃冬姫】と記入していただけると嬉しいです。 よろしくお願いします。 また、コメントに一言下されば喜びます。 随時更新していきます。 リクエスト、改善してほしいことなどありましたらコメントよろしくお願いします。 また、コメントは返信できない場合がございますのでご了承ください。

忘却の艦隊

KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。 大型輸送艦は工作艦を兼ねた。 総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。 残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。 輸送任務の最先任士官は大佐。 新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。 本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。    他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。 公安に近い監査だった。 しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。 そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。 機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。 完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。 意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。 恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。 なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。 しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。 艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。 そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。 果たして彼らは帰還できるのか? 帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?

隣の古道具屋さん

雪那 由多
ライト文芸
祖父から受け継いだ喫茶店・渡り鳥の隣には佐倉古道具店がある。 幼馴染の香月は日々古道具の修復に励み、俺、渡瀬朔夜は従妹であり、この喫茶店のオーナーでもある七緒と一緒に古くからの常連しか立ち寄らない喫茶店を切り盛りしている。 そんな隣の古道具店では時々不思議な古道具が舞い込んでくる。 修行の身の香月と共にそんな不思議を目の当たりにしながらも一つ一つ壊れた古道具を修復するように不思議と向き合う少し不思議な日常の出来事。

懐かしい空を見る望遠鏡

にゃあ
ライト文芸
切なくて、じんわりくる少し不思議な物語を目指しました。さくさく読めます。 ★真結と同棲中の裕。最近、倦怠期を感じる。 特に真結の作った食事に我慢できない。いつも買ってきたお惣菜だらけだ。 そんなある日、裕はネットショップでオール五つ星の変な商品をノリで買ってしまった。 ちょっと不思議なそのアイテムで、倦怠期も解消になるかと思われたが………。 表紙絵はノーコピーライトガール様よりお借りしました。 素敵なイラストがたくさんあります。 https://fromtheasia.com/illustration/nocopyrightgirl

182年の人生

山碕田鶴
ホラー
1913年。軍の諜報活動を支援する貿易商シキは暗殺されたはずだった。他人の肉体を乗っ取り魂を存続させる能力に目覚めたシキは、死神に追われながら永遠を生き始める。 人間としてこの世に生まれ来る死神カイと、アンドロイド・イオンを「魂の器」とすべく開発するシキ。 二人の幾度もの人生が交差する、シキ182年の記録。 (表紙絵/山碕田鶴)  ※2024年11月〜 加筆修正の改稿工事中です。本日「60」まで済。

処理中です...