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近づく二人の距離
99話:開き直り
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美園はふかふかのソファーに座ってふわぁ~と大きく欠伸をする。
ここ数日の間でいろんなことが起こりすぎて、現実を受け止めるたびに脳が疲弊し、感情がマヒしてしまったようだ。
こんな状況にも関わらず、のんきに欠伸が出てくる。
「今頃、日本は大変だろうな。おじいちゃん達ノイローゼになってなきゃいいけど」
だだっ広い客室で、なぜかつかさと2人きりで取り残されている美園は、大きく深呼吸して気持ちを落ち着かせた。
誠がいじめに遭っていたという事実は一家にとって衝撃以外のなにものでもなかったが、へしおれかけた気持ちをなんとか奮い立たせ、政府関係者や要人の集まる対策会議へ出席することとなった。
そこへは栄子と元樹と勇治が参加しており、美園とつかさはキロッスとの接触時間まで居室待機中だ。
美園が省かれて勇治が招待されていることに腹は立つが、担任によってたいして頭がよくないことを暴露されてしまったのだから致し方ないことだろう。
美園の不満をよそにつかさはテーブルを挟んだ向かいのソファーで、小さな機械をごちゃごちゃといじっている。
「やっぱ最新式はいいよな」
満足げに呟いて美園を見たので、たいして、いや全く興味がないが聞いてみる。
「それ、何」
すると、待ってましたとばかりに自慢げに語りだす。
「空港で親父にもらった。すげぇ高いペン型のスパイカメラ兼ボイスレコーダーなんだぜ。前から欲しかったんだけど金がなくてさ」
そう言って機械を美園の前に置いて、
「触ってみろ。めちゃ軽い」
喜々としている。
やっぱり全く興味が沸かない。
目の前にいるこの男と自分では、立場が全然違うのだ。自分のように神妙になれといっても、無理な注文だろう。
つかさもようやく美園の落ち込みように気づいたのか、ペンを胸ポケットに差しなおすと、遠慮がちに口を開く。
「あんま心配すんな。悪いようにはなんないさ」
「空港でのひと悶着をあんたの父親にスクープされたんだよ。どう転んだらうまくいくの」
確かに……。つかさはそう呟いて、顎をさする。
「さっき親父からメールがきて、誠のあのブログもメディアで取り上げられてて、すごい勢いでアクセスが殺到してるって」
「ふぅ~ん。でもあれって、閲覧制限がかかってて誰でも見れないんでしょ?」
「ああ。でも今回の事で誠自身も有名になっちまって、友達申請してたガキの1人があのブログをコピーして、勝手に一般公開しちまったらしい」
「なるほどね。あたし達は世界的に有名になっちゃってるってことね」
胸パッド3つも詰め込んだ偽装オッパイの真実が世界中にばら撒かれてしまったことに、美園は少なからずショックを受けた。
ふと城島の事が頭に思い浮かんで胃が痛くなったが思い直す。
城島はああいう下品なものに触れようとはしないはずだ。大丈夫、まだばれてない。
こうやっていろいろ考えていると、逆に開き直り感が出てきてしまった。
「なんだかんだいってさ、結果こうなって良かったかも。あたし的にお嬢様のフリもいい加減疲れてたし。学校の勉強にだって全然ついてけてないし」
「ずいぶんスッキリした顔してるな」
「まぁね。あたしたち家族はさ、モデルファミリーになるために理想の家族を演じてきてたわけ。だけど、やっぱ偽者は偽者。ボロが出てきちゃうのよね。誠が理想の子どもを演じてたって聞いたとき、ちょっと申し訳ないなって思っちゃった。あんな小さい子どもにまでそういうプレッシャーを背負わせてたんだって。だからあの子があたしたちの悪口を書くのも分かる気がする」
裏モデルファミリー。
最初はなんてひどいこと、そう思ったけれど、誠なりの鬱憤の捌け口を見つけていたのだろう。
「悪口かな、あれ」
「悪口でしょ。どう贔屓目に見ても。家族のアラレもない姿や嘘偽りない日常を暴露しちゃってんだから。不倫、ロリコン、胸バッド。こういう単語が出てる時点でアウトでしょ」
「俺は笑えたけど」
それは良かった。死ぬまで笑ってろ。
なんだかむかついてきたので、美園は体の向きを変えてつかさをシャットアウトする。
今考える事は誠が無事に戻ってくるかということ、それだけだ。
ここ数日の間でいろんなことが起こりすぎて、現実を受け止めるたびに脳が疲弊し、感情がマヒしてしまったようだ。
こんな状況にも関わらず、のんきに欠伸が出てくる。
「今頃、日本は大変だろうな。おじいちゃん達ノイローゼになってなきゃいいけど」
だだっ広い客室で、なぜかつかさと2人きりで取り残されている美園は、大きく深呼吸して気持ちを落ち着かせた。
誠がいじめに遭っていたという事実は一家にとって衝撃以外のなにものでもなかったが、へしおれかけた気持ちをなんとか奮い立たせ、政府関係者や要人の集まる対策会議へ出席することとなった。
そこへは栄子と元樹と勇治が参加しており、美園とつかさはキロッスとの接触時間まで居室待機中だ。
美園が省かれて勇治が招待されていることに腹は立つが、担任によってたいして頭がよくないことを暴露されてしまったのだから致し方ないことだろう。
美園の不満をよそにつかさはテーブルを挟んだ向かいのソファーで、小さな機械をごちゃごちゃといじっている。
「やっぱ最新式はいいよな」
満足げに呟いて美園を見たので、たいして、いや全く興味がないが聞いてみる。
「それ、何」
すると、待ってましたとばかりに自慢げに語りだす。
「空港で親父にもらった。すげぇ高いペン型のスパイカメラ兼ボイスレコーダーなんだぜ。前から欲しかったんだけど金がなくてさ」
そう言って機械を美園の前に置いて、
「触ってみろ。めちゃ軽い」
喜々としている。
やっぱり全く興味が沸かない。
目の前にいるこの男と自分では、立場が全然違うのだ。自分のように神妙になれといっても、無理な注文だろう。
つかさもようやく美園の落ち込みように気づいたのか、ペンを胸ポケットに差しなおすと、遠慮がちに口を開く。
「あんま心配すんな。悪いようにはなんないさ」
「空港でのひと悶着をあんたの父親にスクープされたんだよ。どう転んだらうまくいくの」
確かに……。つかさはそう呟いて、顎をさする。
「さっき親父からメールがきて、誠のあのブログもメディアで取り上げられてて、すごい勢いでアクセスが殺到してるって」
「ふぅ~ん。でもあれって、閲覧制限がかかってて誰でも見れないんでしょ?」
「ああ。でも今回の事で誠自身も有名になっちまって、友達申請してたガキの1人があのブログをコピーして、勝手に一般公開しちまったらしい」
「なるほどね。あたし達は世界的に有名になっちゃってるってことね」
胸パッド3つも詰め込んだ偽装オッパイの真実が世界中にばら撒かれてしまったことに、美園は少なからずショックを受けた。
ふと城島の事が頭に思い浮かんで胃が痛くなったが思い直す。
城島はああいう下品なものに触れようとはしないはずだ。大丈夫、まだばれてない。
こうやっていろいろ考えていると、逆に開き直り感が出てきてしまった。
「なんだかんだいってさ、結果こうなって良かったかも。あたし的にお嬢様のフリもいい加減疲れてたし。学校の勉強にだって全然ついてけてないし」
「ずいぶんスッキリした顔してるな」
「まぁね。あたしたち家族はさ、モデルファミリーになるために理想の家族を演じてきてたわけ。だけど、やっぱ偽者は偽者。ボロが出てきちゃうのよね。誠が理想の子どもを演じてたって聞いたとき、ちょっと申し訳ないなって思っちゃった。あんな小さい子どもにまでそういうプレッシャーを背負わせてたんだって。だからあの子があたしたちの悪口を書くのも分かる気がする」
裏モデルファミリー。
最初はなんてひどいこと、そう思ったけれど、誠なりの鬱憤の捌け口を見つけていたのだろう。
「悪口かな、あれ」
「悪口でしょ。どう贔屓目に見ても。家族のアラレもない姿や嘘偽りない日常を暴露しちゃってんだから。不倫、ロリコン、胸バッド。こういう単語が出てる時点でアウトでしょ」
「俺は笑えたけど」
それは良かった。死ぬまで笑ってろ。
なんだかむかついてきたので、美園は体の向きを変えてつかさをシャットアウトする。
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