98 / 146
ユグドリアに到着
96話:天使を演じた子ども
しおりを挟む
天使のように愛らしい誠がいじめられていた。
それが原因で学校では笑顔を見せず、家族にもそのことを話せずずっと苦しんでいた。
スマホ画面の向こうには、一家の知らない誠の姿があった。
「あたし、誠がそんなことになってるなんて全然知らなかった。なんてひどい姉だったんだろう」
美園が動揺したように、両腕を抱え込む。
「美園だけが悪いんじゃない。それを言うなら家長である俺の責任だ。もしも今回のことを知ってたら学校に直談判に行くなり、相手の親と話し合うなりしてたさ」
そう言い切った元樹に、栄子が反論する。
「嘘おっしゃい」
「え?」
「嘘をつかないでって言ってるの」
栄子は感情を押し殺したような低い声を出す。
「もしいじめが分かってても、私たちは何もしなかったわ」
「そんなことないだろ、みんな誠にために動いてたさ」
「やらなかったわよ! だってそんなことしたらモデルファミリーのイメージに傷がつくもの」
「いや、それは……」
「私たちは誠のことより、お金のことが大事だったのよ。そんな最低な家族なのよ!」
栄子が金切り声をあげてスマホを元樹に投げつける。
その瞳から大粒の涙がぽろぽろこぼれ落ちていく。
「お…おい、栄子。落ち着け」
「落ち着けるわけないじゃない! 誠ちゃんがこんなに苦しんでたのに私たちはモデルファミリーのことに必死で、あの子のこと聞き分けのいい天使だと思ってたなんて」
興奮しきった栄子の声音はトーンアップし、この場にいるメンバーの胸を突き刺していった。
「前につかさ君が言ってたわ、この年で聞きわけがいいなんておかしい、って。本当にそうよ。あの子はただ我慢してただけなのよ、私たちのために。ううん、私たちのために、じゃなく私たちのせいで何にも言えなかったのよ!」
その言葉を聞いて、美園も勇治も黙り込む。
栄子だけではない、みんながそう思っていたのだ。誠は誰からも好かれる天使のような子だと。
けれど、それは誠の本当の姿ではなかった。誠が家族に心配をかけまいと、その役割を必死に演じていただけなのだ。
お金のためにモデルファミリーを目指していた世良田一家だが、その裏でお金以上に大切なものを傷つけていたことに、今ようやく気付いたのである。
今まで頑張って来た時間は何だったのだろう。
家族のために偽装家族を演じ、輝かしい未来が開けると思っていたあの時間。
今となって虚しさしか残らないというのに。
それが原因で学校では笑顔を見せず、家族にもそのことを話せずずっと苦しんでいた。
スマホ画面の向こうには、一家の知らない誠の姿があった。
「あたし、誠がそんなことになってるなんて全然知らなかった。なんてひどい姉だったんだろう」
美園が動揺したように、両腕を抱え込む。
「美園だけが悪いんじゃない。それを言うなら家長である俺の責任だ。もしも今回のことを知ってたら学校に直談判に行くなり、相手の親と話し合うなりしてたさ」
そう言い切った元樹に、栄子が反論する。
「嘘おっしゃい」
「え?」
「嘘をつかないでって言ってるの」
栄子は感情を押し殺したような低い声を出す。
「もしいじめが分かってても、私たちは何もしなかったわ」
「そんなことないだろ、みんな誠にために動いてたさ」
「やらなかったわよ! だってそんなことしたらモデルファミリーのイメージに傷がつくもの」
「いや、それは……」
「私たちは誠のことより、お金のことが大事だったのよ。そんな最低な家族なのよ!」
栄子が金切り声をあげてスマホを元樹に投げつける。
その瞳から大粒の涙がぽろぽろこぼれ落ちていく。
「お…おい、栄子。落ち着け」
「落ち着けるわけないじゃない! 誠ちゃんがこんなに苦しんでたのに私たちはモデルファミリーのことに必死で、あの子のこと聞き分けのいい天使だと思ってたなんて」
興奮しきった栄子の声音はトーンアップし、この場にいるメンバーの胸を突き刺していった。
「前につかさ君が言ってたわ、この年で聞きわけがいいなんておかしい、って。本当にそうよ。あの子はただ我慢してただけなのよ、私たちのために。ううん、私たちのために、じゃなく私たちのせいで何にも言えなかったのよ!」
その言葉を聞いて、美園も勇治も黙り込む。
栄子だけではない、みんながそう思っていたのだ。誠は誰からも好かれる天使のような子だと。
けれど、それは誠の本当の姿ではなかった。誠が家族に心配をかけまいと、その役割を必死に演じていただけなのだ。
お金のためにモデルファミリーを目指していた世良田一家だが、その裏でお金以上に大切なものを傷つけていたことに、今ようやく気付いたのである。
今まで頑張って来た時間は何だったのだろう。
家族のために偽装家族を演じ、輝かしい未来が開けると思っていたあの時間。
今となって虚しさしか残らないというのに。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
その奇蹟に喝采を(4/6更新)
狂言巡
ライト文芸
Happy birthday. I always hope your happiness. A year full of love.
誕生日にまつわる短編小説です。
黄昏の恋人~この手のぬくもりを忘れない~【完結】
水樹ゆう
ライト文芸
高校三年生の優花は、三年前の交通事故以来『誰かと逃げる夢』を繰り返し見ていた。不意打ちのファーストキスの相手が幼馴染の晃一郎だと知ったその日、優花の運命は大きく動き出す――。 失われた記憶の向こう側にあるのもは? 現代学園を舞台に繰り広げられる、心に傷を負った女子高生とそれを見守る幼馴染の織りなす、恋と友情と切ない別れの物語。
2019/03/01 連載スタート
2019/04/11 完結
★内容について
現代の高校を舞台に、主人公の優花が体験する運命を変える長い1日の物語です。恋愛(幼馴染との淡い初恋)、ファンタジー、SF、サスペンス、家族愛、友情など、様々な要素を含んで物語は展開します。
★更新について
1日1~5ページ。1ページは1000~2000文字くらいです。
一カ月ほどの連載になるかと思います。
少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです。
★ライト文芸大賞に参加中です♪
時のコカリナ
遊馬友仁
ライト文芸
高校二年生の坂井夏生は、十七歳の誕生日に、亡くなった祖父からの贈り物だという不思議な木製のオカリナを譲り受ける。試しに自室で息を吹き込むと、周囲のヒトやモノがすべて動きを止めてしまった!木製細工の能力に不安を感じながらも、夏生は、その能力の使い途を思いつく……。
「そうだ!教室の前の席に座っている、いつも、マスクを外さない小嶋夏海の素顔を見てやろう」
そうして、自身のアイデアを実行に映した夏生であったがーーーーーー。
第12回ネット小説大賞コミック部門入賞・コミカライズ企画進行「婚約破棄ですか? それなら昨日成立しましたよ、ご存知ありませんでしたか?」完結
まほりろ
恋愛
第12回ネット小説大賞コミック部門入賞・コミカライズ企画進行中。
コミカライズ化がスタートしましたらこちらの作品は非公開にします。
「アリシア・フィルタ貴様との婚約を破棄する!」
イエーガー公爵家の令息レイモンド様が言い放った。レイモンド様の腕には男爵家の令嬢ミランダ様がいた。ミランダ様はピンクのふわふわした髪に赤い大きな瞳、小柄な体躯で庇護欲をそそる美少女。
対する私は銀色の髪に紫の瞳、表情が表に出にくく能面姫と呼ばれています。
レイモンド様がミランダ様に惹かれても仕方ありませんね……ですが。
「貴様は俺が心優しく美しいミランダに好意を抱いたことに嫉妬し、ミランダの教科書を破いたり、階段から突き落とすなどの狼藉を……」
「あの、ちょっとよろしいですか?」
「なんだ!」
レイモンド様が眉間にしわを寄せ私を睨む。
「婚約破棄ですか? 婚約破棄なら昨日成立しましたが、ご存知ありませんでしたか?」
私の言葉にレイモンド様とミランダ様は顔を見合わせ絶句した。
全31話、約43,000文字、完結済み。
他サイトにもアップしています。
小説家になろう、日間ランキング異世界恋愛2位!総合2位!
pixivウィークリーランキング2位に入った作品です。
アルファポリス、恋愛2位、総合2位、HOTランキング2位に入った作品です。
2021/10/23アルファポリス完結ランキング4位に入ってました。ありがとうございます。
「Copyright(C)2021-九十九沢まほろ」

体育座りでスカートを汚してしまったあの日々
yoshieeesan
現代文学
学生時代にやたらとさせられた体育座りですが、女性からすると服が汚れた嫌な思い出が多いです。そういった短編小説を書いていきます。
透明人間になった僕と君と彼女と
夏川 流美
ライト文芸
――あぁ、お母さん、お父さん。つまりは僕、透明になってしまったようです……。
*
朝、目が覚めたら、透明人間になっていた。街行く人に無視される中、いよいよ自分の死を疑い出す。しかし天国、はたまた地獄からのお迎えは無く、代わりに出会ったのは、同じ境遇の一人の女性だった。
元気で明るい女性と、何処にでもいる好青年の僕。二人は曖昧な存在のまま、お互いに惹かれていく。
しかし、ある日、僕と女性が目にしてしまった物事をきっかけに、涙の選択を迫られる――
凪の始まり
Shigeru_Kimoto
ライト文芸
佐藤健太郎28歳。場末の風俗店の店長をしている。そんな俺の前に16年前の小学校6年生の時の担任だった満島先生が訪ねてやってきた。
俺はその前の5年生の暮れから学校に行っていなかった。不登校っていう括りだ。
先生は、今年で定年になる。
教師人生、唯一の心残りだという俺の不登校の1年を今の俺が登校することで、後悔が無くなるらしい。そして、もう一度、やり直そうと誘ってくれた。
当時の俺は、毎日、家に宿題を届けてくれていた先生の気持ちなど、考えてもいなかったのだと思う。
でも、あれから16年、俺は手を差し伸べてくれる人がいることが、どれほど、ありがたいかを知っている。
16年たった大人の俺は、そうしてやり直しの小学校6年生をすることになった。
こうして動き出した俺の人生は、新しい世界に飛び込んだことで、別の分かれ道を自ら作り出し、歩き出したのだと思う。
今にして思えば……
さあ、良かったら、俺の動き出した人生の話に付き合ってもらえないだろうか?
長編、1年間連載。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる