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ユグドリアに到着
95話:さとる君
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大暴れしたことによりストレスを発散した元樹と勇治は、すっきりとした表情でソファーに腰を沈めていた。
その向かいで、つかさはぶすっとした表情で横を向いている。
つかさ自身の言葉ではなく、予測不可能な仁の発言によりなぜか元樹たちから理不尽な怒りをぶつけられてしまった。そのことに対して納得できないでいるのだ。
「俺、関係ないのに」
「何が関係ないだ。旅行中に美園をモノにしてやろうって、これっぽっちも考えてなかったのか? あ?」
元樹が声音を低くしてつかさを睨みつけるも、つかさはそれに対し返事をしない。
「おい、何とか言えよ。返事がないとYESになっちまうぞ」
元樹に続いて勇治が挑発するも、つかさは面倒くさそうに「それでいいですよ」と答える。
この言葉を聞いて、また元樹が立ち上がりかけるが、スマホから誠の名前が聞こえてきたため静かに腰を下ろして栄子の手元を覗き込む。
『君は誠くんと仲の良かった神崎さとる君だね』
『はい。今は引っ越して会えないけど、前の学校では一番仲良かったです』
利発そうな声をした少年がインタビューに答えている。
『誠くんが誘拐されたみたいだけど、どう思う?』
『すごく心配です。ケガしてなきゃいいな、と。でも誠は頭がいいから絶対自分で道を切り開きます』
『そっか。彼は友達は多かった?』
『……友達…ですか? …どうだろ。学校ではいじめられてたから、それが原因であんまり笑わなかったからなぁ』
『いじめ?』
『はい。誠の家族がモデルファミリー候補として話題になりはじめた数年くらい前から始まりました。目立ちたがり屋だとか、調子のってるとか、いろいろ言われて』
『なるほど、嫉妬されてたんだね。家族はそのこと知ってたのかな?』
栄子の肩が震えている。
『誠はいつも大人しくて言いたいことを飲み込む癖があるんです。何でも話せよ、我慢するなよって言ってるんだけど、たぶん親はいじめのこと知らないんじゃないかな』
『そう、じゃあ誠君は一人で抱え込んでたんだね』
『たぶん。誠はそいういうやつだから。早く会っておかえり、って言ってあげたいです。僕にとっては大事な友達だから』
俯いた栄子の顔からポタポタト涙が零れ落ち、スマホ画面を濡らしていく。
誠が一番仲良くしていた神崎さとるという少年の口から出た言葉は、一家の気持ちを再び萎えさせるに十分な破壊力があった。
その向かいで、つかさはぶすっとした表情で横を向いている。
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元樹が声音を低くしてつかさを睨みつけるも、つかさはそれに対し返事をしない。
「おい、何とか言えよ。返事がないとYESになっちまうぞ」
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『そう、じゃあ誠君は一人で抱え込んでたんだね』
『たぶん。誠はそいういうやつだから。早く会っておかえり、って言ってあげたいです。僕にとっては大事な友達だから』
俯いた栄子の顔からポタポタト涙が零れ落ち、スマホ画面を濡らしていく。
誠が一番仲良くしていた神崎さとるという少年の口から出た言葉は、一家の気持ちを再び萎えさせるに十分な破壊力があった。
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