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ユグドリアに到着

92話:千秋の本音

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 栄子は手元のスマホを見たまま、一言も声を発しない。
 元樹は魂が抜けた死骸のように動きを止めた状態でいる。
 美園は俯いた状態で、つかさは我関せずなため、誰も頼りにならない。
  
 仕方なしに勇治が場を取り持とうとした時、

『ゆぅたんとはラブラブなんです』

 今度は勇治の見知った声がスマホ越しに漏れ聞こえてきた。

「ち、ち~たん?」

 勇治は栄子の背後からスマホ画面を覗き込む。

『ゆぅたんはいっつも優しくてお兄ちゃんみたいで大好きなんです』

 今日の千秋はフリルのついたよそ行きの服を着て、頭に大きなリボンをつけている。
 まるで魔法少女のようで可愛らしい。

「やっぱり、ち~たんは可愛いな」

 勇治がデレデレし始めたところで、レポーターが余計な質問を挟んでくる。

『お兄さんみたい、ってことだけど、普段はどんなことして遊んでるの?』
『ん~と』

 千秋が考え始める。
 瞬時に勇治の脳裏を千秋と遊んだあんなことやこんなことが過る。
 大丈夫、だいたいどれもぎりぎりセーフだ。自分にそう言い聞かせ飛び出しそうな心臓を抑えながら、千秋の言葉を待つ。

『今日のパンツは何色ですかゲームとか、チアダンスゲームとか』

 ドタン!!!

 勇治が泡を吹いて倒れた。

 よりにもよって千秋は一番やばい遊びを持ち出してきた。
 内容を聞かずとも、想像だけである程度ゲーム内容は予想できる。
 白目を剥いて失神している勇治を見下ろして、美園は辛辣な言葉を投げかけた。

「まじキモイ」
「同じく」

 つかさも美園に追従した。

『千秋、いい加減にしなさいよ。誤解しないでください、その時は私も一緒に遊んでましたから。変なゲームじゃないんです』

 スマホの向こうでは夏美が千秋とレポーターの間に割って入って誤解を解こうと必死に動いている。

『お姉ちゃんは関係ないじゃん。ゆぅたんは私のことが好きなんだから。私のためならなんでもしてくれるって言ってるもん』
『バカ言わないでよ。千秋には久辻君がいるでしょ。千秋が余計なことしゃべるたびに勇治に迷惑がかかるんだから、黙ってなさいよ!』
『ゆぅたんはキリンも買ってくれるし、私が言えばお菓子もおもちゃもゲームも何でも買ってくれる。だって将来お金持ちになるんだから。ゆぅたんのお金はみんな私のものになるんだもん』
  
 ――ゆぅたんのお金はみんな私のものになるんだもん
  
 意識を失いかけていた勇治だが、千秋のその言葉だけはしっかり耳に届いていた。
 ゆぅくんのお金はみんな私のもの。まるでジャイアンみたいなやつだ。
 
 『千秋は私の妹よ。お金が大好きに決まってるじゃない』
 
 夏美が空港で言い放った言葉。
 あの時は現実を受け止めたくなかったため、深く考えようとしなかった勇治だが、千秋の口から本音が飛び出したからには認めざるを得ない。

 可愛い千秋の成長を見守るつもりでいた勇治だが、どうやら向こうにその気はなかったらしい。
 千秋にとって勇治は金の湧く泉、金の卵を産むガチョウだったとういわけだ。
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