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いざ、ユグドリアへ
89話:親父との会話
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元樹と勇治がようやく飛行機の搭乗したのを確認し、つかさも後に続こうとする。
そこへ、仁がやって来てつかさを呼び止める。
「おい、つかさ」
タラップに足をかけた状態で、つかさは走って来た仁を振り返る。
「なんだ?」
つかさの前に、最新式の小型ボイスレコーダーが突き出された。
「持ってけ」
「え? これって前に欲しかったやつ。すげぇ高いやつじゃんか。いいのか?」
「これから報道記者を目指すお前には、最低これくらいのレベルのものは必要だろ」
普段仁とこういう会話をすることがないだけに、なんだか気恥ずかしい。
「どうも」つかさはそう言って有難く胸ポケットに収めた。
それを確認した後、仁はつかさの耳元に口を寄せてくる。周りに聞かれたくない話があるようだ。
「調べてくれと言われたユグドリアのオペラハウスだが、どうもキナ臭いぞ。はっきりとした事は分からんが、公式に発表されている劇場やカジノだけがコンセプトじゃないようだ。アメリカやロシアがスパイを雇って情報を収集してるらしい」
「なるほど、他国が警戒する何かがあるってことだな」
「ああ、巨額の金が動いてるらしい。それを取りまとめているのが外相の松村とかいう男だ」
つかさは「やっぱり」と小声で呟く。
はっきりとは言えないが、つかさの中でおぼろげな形が見え始めてきた。
怪しい動きの中心にはマツムラがいる。
初めて会った時に感じた直感、この男には裏の顔があると。どうやらそれが現実味を帯びてきたようだ。
大きなヤマほど記者魂が燃え上がるもの。
つかさは改めて強い決心を抱いた。
「あと、最後に一つ忠告だ」
仁が思いのほか、真剣な表情をしてつかさの肩に手をおく。
「いいか、怪我だけはするな。これは父親としての忠告だ。分かったか」
「お、おう」
「お前なりに世良田一家のためにできることをやれ。悔いの残らないように」
「もちろん、そのつもりだ」
「で、これが記者としての忠告。記者たるもの怪しいと思ったものには最後まで喰らいつけ」
「分かった」
つかさは力強く頷いた。
それを見た仁は、少し表情を柔らかくしてつかさの頭に手を置く。
「あとは男同士の話だ。いいか、男たるもの惚れた女は最後まで守りぬけ」
きょとんとしたつかさを前にして、厭らしい笑みを浮かべて仁が言う。
「美園ちゃんだっけ? あの子、どんどん可愛くなってきてるじゃないか」
「はぁ?」
思わず赤面したつかさを見て「息子ながら分かりやすい奴だ」とニヤリと笑った。
「心配すんな。素人の熱愛ネタは俺の管轄外だ」
そう言ってドンとつかさの背中を勢いよく押すので、危うく躓いてタラップから転落しそうになった。
恨めしげに父親を振り返れば、仁は嬉しそうに飛行機の窓の方を指差す。
何事かとつかさも指差す先を見上げてみれば、すでに席についている美園が「ちんたらしてんじゃねぇ」と言った風に中指を突き立てている。相当ご機嫌斜めだ。
つかさはものすごい勢いで飛行機を駆け上がる。
仁は眩しいものを見つめるように、目を細めてその後姿を見送った。
そこへ、仁がやって来てつかさを呼び止める。
「おい、つかさ」
タラップに足をかけた状態で、つかさは走って来た仁を振り返る。
「なんだ?」
つかさの前に、最新式の小型ボイスレコーダーが突き出された。
「持ってけ」
「え? これって前に欲しかったやつ。すげぇ高いやつじゃんか。いいのか?」
「これから報道記者を目指すお前には、最低これくらいのレベルのものは必要だろ」
普段仁とこういう会話をすることがないだけに、なんだか気恥ずかしい。
「どうも」つかさはそう言って有難く胸ポケットに収めた。
それを確認した後、仁はつかさの耳元に口を寄せてくる。周りに聞かれたくない話があるようだ。
「調べてくれと言われたユグドリアのオペラハウスだが、どうもキナ臭いぞ。はっきりとした事は分からんが、公式に発表されている劇場やカジノだけがコンセプトじゃないようだ。アメリカやロシアがスパイを雇って情報を収集してるらしい」
「なるほど、他国が警戒する何かがあるってことだな」
「ああ、巨額の金が動いてるらしい。それを取りまとめているのが外相の松村とかいう男だ」
つかさは「やっぱり」と小声で呟く。
はっきりとは言えないが、つかさの中でおぼろげな形が見え始めてきた。
怪しい動きの中心にはマツムラがいる。
初めて会った時に感じた直感、この男には裏の顔があると。どうやらそれが現実味を帯びてきたようだ。
大きなヤマほど記者魂が燃え上がるもの。
つかさは改めて強い決心を抱いた。
「あと、最後に一つ忠告だ」
仁が思いのほか、真剣な表情をしてつかさの肩に手をおく。
「いいか、怪我だけはするな。これは父親としての忠告だ。分かったか」
「お、おう」
「お前なりに世良田一家のためにできることをやれ。悔いの残らないように」
「もちろん、そのつもりだ」
「で、これが記者としての忠告。記者たるもの怪しいと思ったものには最後まで喰らいつけ」
「分かった」
つかさは力強く頷いた。
それを見た仁は、少し表情を柔らかくしてつかさの頭に手を置く。
「あとは男同士の話だ。いいか、男たるもの惚れた女は最後まで守りぬけ」
きょとんとしたつかさを前にして、厭らしい笑みを浮かべて仁が言う。
「美園ちゃんだっけ? あの子、どんどん可愛くなってきてるじゃないか」
「はぁ?」
思わず赤面したつかさを見て「息子ながら分かりやすい奴だ」とニヤリと笑った。
「心配すんな。素人の熱愛ネタは俺の管轄外だ」
そう言ってドンとつかさの背中を勢いよく押すので、危うく躓いてタラップから転落しそうになった。
恨めしげに父親を振り返れば、仁は嬉しそうに飛行機の窓の方を指差す。
何事かとつかさも指差す先を見上げてみれば、すでに席についている美園が「ちんたらしてんじゃねぇ」と言った風に中指を突き立てている。相当ご機嫌斜めだ。
つかさはものすごい勢いで飛行機を駆け上がる。
仁は眩しいものを見つめるように、目を細めてその後姿を見送った。
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