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いざ、ユグドリアへ
88話:破滅へ向けたインタビュー
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元樹は勇治の胸倉を、勇治は元樹のネクタイを掴みながら互いに力任せに締め上げる。
「俺が浮気しようと何だろうと問題ない。子供3人を立派に育てたんだからなっ」
「子育てが終わったようなこと言ってんじゃねぇぞ! 少なくとも誠はまだ小学生だろ! あんな小さい子にプリンプリンだかブリンブリンだかの写真を見せるんじゃねぇぞ、クソが」
「見せたんじゃない! 誠が勝手に見たんだ。それにブリンブリンってなんだ、馬の糞みたいに。リンリンちゃんだ、間違えるな!」
「んなことは、どっちでもいいんだよ!」
元樹と勇治はお互いの首を絞め合いながら右へ左へ動き回る。その様子を見逃すまいとカメラはしっかり2人を追いかける。
「やめなさいよ! 日本中にあんたたちの映像が流れてるのよ」
栄子の懇願を聞いて、ほんの一瞬動きを止めた2人だが、どちらとも相手の胸倉から手を放す様子がない。
今更体裁を気にして何になる、もう正体がばれてしまったのだ。
元樹と勇治はやけになっていた。
鬼の形相で睨みあい、どちらからともなく再び罵りあいが始まった。
その様子を見て、栄子はポツリと呟く。
「もういい。勝手になさいな。あたしは誠ちゃんが無事に帰ってきたら、2人で家を出るから」
その声もしっかりマイクが音声として拾っていた。
栄子が力なく地面にマイクを落とすと、すかさず仁がそれを拾い上げ、遠巻きに様子を伺っているケンジとタキにも声をかける。
「ご家族はあんなことおっしゃってますが、どうお考えですか?」
「わしゃ知らん」
「わしも知らん。来年は2人で老人ホームじゃ」
さらりと爆弾発言をしてのけた2人の足元で、あんこが後ろ足を上げて仁の高級靴にマーキングをした。
仁本人は特大スクープを前に興奮しきりで、足元に漂うアンモニア臭には気づかない。
すぐにカメラを振り返り、国民に向けて煽情的に語りかける。
「皆さん、これをどうお考えでしょうか。これが嘘偽りのないモデルファミリーの姿なのです。理想の家族像? 憧れの一家? 世良田一家を見て本当にそう思いますか?」
仁が綺麗に纏め上げたところで準備が整った小型機が一家の前に滑り込んできた。
そして、するするとタラップが降ろされる。
まだギャーギャー喚いている元樹と勇治を、飛行機から降りてきたパイロットとCAらが宥めすかしながら、無理やり押し込みにかかる。
その後を、無表情の栄子が追う。
美園はケンジとタキに走りより「行ってくるから」と告げた。
2人はいつもなら決して見せることのない殊勝な顔をして、
「無事に帰っておいでよ」
と、消え入りそうな声で言った。
あんこも「くぅ~ん」と寂しそうに泣く。
美園は大きく頷くと、後ろを振り返らずにタラップを駆け上がっていった。
その後ろ姿を見送りながら、ケンジがタキのしわだらけの顔を見る。
「なぁ、婆さん」
「うん?」
「この前見に行った老人ホーム、最悪じゃったじゃろ」
「そうですね、みんな穏やかな顔して幸せそうでした。あのままいつポックリ逝ってもおかしくないくらい、平和なところでしたね」
「つまらんのぉ、そんな老後」
「ええ、ほんとうに」
そう言ってタラップの途中でまだいがみあっている元樹と勇治に視線を向ける。
CAやパイロットは2人が落下しないよう足を踏ん張って下から支えている。その後ろで無表情の栄子が遠い目をして階段を見上げている。
先に飛行機に搭乗した美園が、なかなか飛行機に乗ってこない2人に対し上の方から大声で怒鳴っている。
それを見て、ケンジは心の底からおかしそうに笑う。
「ははは。いつもの光景じゃ。わしらはこうでなくちゃな」
「ええ、そうですね」
タキも穏やかにほほ笑む。
「今が家族の頑張りどき。わしらはきっと乗り越えられる。そうじゃろ?」
「はい、きっと大丈夫ですよ」
「ワンワン!!!」
知ってか知らずか、あんこもケンジとタキの言葉に可愛い声で返事を返した。
「俺が浮気しようと何だろうと問題ない。子供3人を立派に育てたんだからなっ」
「子育てが終わったようなこと言ってんじゃねぇぞ! 少なくとも誠はまだ小学生だろ! あんな小さい子にプリンプリンだかブリンブリンだかの写真を見せるんじゃねぇぞ、クソが」
「見せたんじゃない! 誠が勝手に見たんだ。それにブリンブリンってなんだ、馬の糞みたいに。リンリンちゃんだ、間違えるな!」
「んなことは、どっちでもいいんだよ!」
元樹と勇治はお互いの首を絞め合いながら右へ左へ動き回る。その様子を見逃すまいとカメラはしっかり2人を追いかける。
「やめなさいよ! 日本中にあんたたちの映像が流れてるのよ」
栄子の懇願を聞いて、ほんの一瞬動きを止めた2人だが、どちらとも相手の胸倉から手を放す様子がない。
今更体裁を気にして何になる、もう正体がばれてしまったのだ。
元樹と勇治はやけになっていた。
鬼の形相で睨みあい、どちらからともなく再び罵りあいが始まった。
その様子を見て、栄子はポツリと呟く。
「もういい。勝手になさいな。あたしは誠ちゃんが無事に帰ってきたら、2人で家を出るから」
その声もしっかりマイクが音声として拾っていた。
栄子が力なく地面にマイクを落とすと、すかさず仁がそれを拾い上げ、遠巻きに様子を伺っているケンジとタキにも声をかける。
「ご家族はあんなことおっしゃってますが、どうお考えですか?」
「わしゃ知らん」
「わしも知らん。来年は2人で老人ホームじゃ」
さらりと爆弾発言をしてのけた2人の足元で、あんこが後ろ足を上げて仁の高級靴にマーキングをした。
仁本人は特大スクープを前に興奮しきりで、足元に漂うアンモニア臭には気づかない。
すぐにカメラを振り返り、国民に向けて煽情的に語りかける。
「皆さん、これをどうお考えでしょうか。これが嘘偽りのないモデルファミリーの姿なのです。理想の家族像? 憧れの一家? 世良田一家を見て本当にそう思いますか?」
仁が綺麗に纏め上げたところで準備が整った小型機が一家の前に滑り込んできた。
そして、するするとタラップが降ろされる。
まだギャーギャー喚いている元樹と勇治を、飛行機から降りてきたパイロットとCAらが宥めすかしながら、無理やり押し込みにかかる。
その後を、無表情の栄子が追う。
美園はケンジとタキに走りより「行ってくるから」と告げた。
2人はいつもなら決して見せることのない殊勝な顔をして、
「無事に帰っておいでよ」
と、消え入りそうな声で言った。
あんこも「くぅ~ん」と寂しそうに泣く。
美園は大きく頷くと、後ろを振り返らずにタラップを駆け上がっていった。
その後ろ姿を見送りながら、ケンジがタキのしわだらけの顔を見る。
「なぁ、婆さん」
「うん?」
「この前見に行った老人ホーム、最悪じゃったじゃろ」
「そうですね、みんな穏やかな顔して幸せそうでした。あのままいつポックリ逝ってもおかしくないくらい、平和なところでしたね」
「つまらんのぉ、そんな老後」
「ええ、ほんとうに」
そう言ってタラップの途中でまだいがみあっている元樹と勇治に視線を向ける。
CAやパイロットは2人が落下しないよう足を踏ん張って下から支えている。その後ろで無表情の栄子が遠い目をして階段を見上げている。
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「ははは。いつもの光景じゃ。わしらはこうでなくちゃな」
「ええ、そうですね」
タキも穏やかにほほ笑む。
「今が家族の頑張りどき。わしらはきっと乗り越えられる。そうじゃろ?」
「はい、きっと大丈夫ですよ」
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知ってか知らずか、あんこもケンジとタキの言葉に可愛い声で返事を返した。
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