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奪われた家族
81話:昔の出来事
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マツムラがトワの家族を殺した。
城島の発言は誠にとっては衝撃だった。
まさか、あれは事故だと聞いた、誠がそう言おうとしたのが分かったのだろう。
城島は話を遮るように鋭い言葉を放った。
「あれは事故なんかじゃない。母は海に突き落とされ、それを助けようとした父までも……」
「まさか、そんな。でもトワはマツムラに命を助けられたって」
「あの時、あいつは全てを見ていた。だけど、幼かった心がそれを受け止めきれなかったんだろう。マツムラに吹き込まれた話を真実だと錯覚してるんだ。でも実際はそうじゃない。奴は俺の両親が海に落ちた後、トワにまで手をかけようとした。それを庇った俺は、奴に切りつけられて海に落ちた。信じなくてもいい、俺にとってはこれが真実だ」
誠は言葉を継げなかった。
あまりに残酷で酷い仕打ち。トワは自分の家族を殺した人間を父のように慕っているというのか。そんな人間を信じて、全てを任せていたというのか。
ベットの下から覗いたマツムラの横顔。
誠はそれを思い出し、体に身震いが走るのを感じた。あの残忍な目は、やはり狂気だったのだろうか。
「ここにいる奴らは、全員ユグドリアの志願兵だ」
そう言って、後ろでじっと話に耳を澄ましている男たちを振り返る。
「日頃からマツムラの言動に疑念を抱いていたそうだ。だからあの事故があった日、こっそり小型船で後をつけてくれていた。マツムラがトワだけを船に乗せて走りさった後、すぐに海に落ちた俺たちを助け出そうとしてくれた」
残念ながら助かったのは俺だけだがな、と表情を曇らせる。
トワが家族を失った瞬間、それは城島も同じく家族を失った瞬間だったのだ。
誠は言いようのない悲しみで胸がふさがれるのを感じた。
「でも、どうして助かった後すぐに訴えなかったの?」
「最悪なことに、内部には父……国王の平和主義をよく思わない奴らがいて、マツムラはそいつらを味方につけていたんだ。国王亡き後、マツムラはすぐにトワを時期国王候補としてお披露目し、自分が後ろ盾になることで実権を握り勢力を拡大していった。城内には病巣が広がりすぎていたんだよ、知らない間にね」
「そんな……」
「それから俺は彼らと共に日本に隠れ住んだ。真実を知っている俺が生きていると分かれば命が危ないからな。それにもしも俺がトワの前に姿を現して、トワの記憶が蘇れば、トワもマツムラに殺されるかもしれない。それだけは避けたかったんだ。だから俺は時が熟すのを待った。キロッスという組織をつくり、マツムラを政権から引きずりおろす、それが俺の計画だったんだ。だけど、どうも事態は急を要することになりそうでね」
「オペラハウスですね」
城島の眉がピクリと動いた。
「なぜそれを」
「いえ。何も知りません。ただマツムラが電話で話しているのを聞いたんです。トワが殺されたらオペラハウスが真の意味を持って国民に迎えられるだろう、って。一体オペラハウスにはどんな秘密が隠されてるんですか」
城島は難しい顔をして考え込んだが、すぐに首を振る。
「君は知らないくていいことだ。マツムラはずいんぶん昔から国の金を着服していたんだ。その額が相当な額になり、さすがに国王もそれに気付いて奴を問いただしはじめたんだ。そんな時にあの事件が起こった。2人は奴に口を封じられたんだよ。国王亡き後、マツムラは国を思うままに動かし、そしてより多くの金をオペラハウスに投じた。悪いけどこれ以上は説明できない。子どもが知ることじゃない」
「そうですか。でも、もうすぐ完成ですね」
「ああ、奴の野望が果たされる。その前に早くトワを救出しないと」
城島の顔には何の感情も浮かんでいないが、気付くと握られた拳が小さく震えている。
その指先に目を落とした誠は、トワと目の前にいる青年のために、できることはないだろうかと考えた。
そしてひとつの提案を出した。
「だったら、僕とトワとの人質交換をすればどうですか?」
誠は決意を込めて城島を見た。
城島の発言は誠にとっては衝撃だった。
まさか、あれは事故だと聞いた、誠がそう言おうとしたのが分かったのだろう。
城島は話を遮るように鋭い言葉を放った。
「あれは事故なんかじゃない。母は海に突き落とされ、それを助けようとした父までも……」
「まさか、そんな。でもトワはマツムラに命を助けられたって」
「あの時、あいつは全てを見ていた。だけど、幼かった心がそれを受け止めきれなかったんだろう。マツムラに吹き込まれた話を真実だと錯覚してるんだ。でも実際はそうじゃない。奴は俺の両親が海に落ちた後、トワにまで手をかけようとした。それを庇った俺は、奴に切りつけられて海に落ちた。信じなくてもいい、俺にとってはこれが真実だ」
誠は言葉を継げなかった。
あまりに残酷で酷い仕打ち。トワは自分の家族を殺した人間を父のように慕っているというのか。そんな人間を信じて、全てを任せていたというのか。
ベットの下から覗いたマツムラの横顔。
誠はそれを思い出し、体に身震いが走るのを感じた。あの残忍な目は、やはり狂気だったのだろうか。
「ここにいる奴らは、全員ユグドリアの志願兵だ」
そう言って、後ろでじっと話に耳を澄ましている男たちを振り返る。
「日頃からマツムラの言動に疑念を抱いていたそうだ。だからあの事故があった日、こっそり小型船で後をつけてくれていた。マツムラがトワだけを船に乗せて走りさった後、すぐに海に落ちた俺たちを助け出そうとしてくれた」
残念ながら助かったのは俺だけだがな、と表情を曇らせる。
トワが家族を失った瞬間、それは城島も同じく家族を失った瞬間だったのだ。
誠は言いようのない悲しみで胸がふさがれるのを感じた。
「でも、どうして助かった後すぐに訴えなかったの?」
「最悪なことに、内部には父……国王の平和主義をよく思わない奴らがいて、マツムラはそいつらを味方につけていたんだ。国王亡き後、マツムラはすぐにトワを時期国王候補としてお披露目し、自分が後ろ盾になることで実権を握り勢力を拡大していった。城内には病巣が広がりすぎていたんだよ、知らない間にね」
「そんな……」
「それから俺は彼らと共に日本に隠れ住んだ。真実を知っている俺が生きていると分かれば命が危ないからな。それにもしも俺がトワの前に姿を現して、トワの記憶が蘇れば、トワもマツムラに殺されるかもしれない。それだけは避けたかったんだ。だから俺は時が熟すのを待った。キロッスという組織をつくり、マツムラを政権から引きずりおろす、それが俺の計画だったんだ。だけど、どうも事態は急を要することになりそうでね」
「オペラハウスですね」
城島の眉がピクリと動いた。
「なぜそれを」
「いえ。何も知りません。ただマツムラが電話で話しているのを聞いたんです。トワが殺されたらオペラハウスが真の意味を持って国民に迎えられるだろう、って。一体オペラハウスにはどんな秘密が隠されてるんですか」
城島は難しい顔をして考え込んだが、すぐに首を振る。
「君は知らないくていいことだ。マツムラはずいんぶん昔から国の金を着服していたんだ。その額が相当な額になり、さすがに国王もそれに気付いて奴を問いただしはじめたんだ。そんな時にあの事件が起こった。2人は奴に口を封じられたんだよ。国王亡き後、マツムラは国を思うままに動かし、そしてより多くの金をオペラハウスに投じた。悪いけどこれ以上は説明できない。子どもが知ることじゃない」
「そうですか。でも、もうすぐ完成ですね」
「ああ、奴の野望が果たされる。その前に早くトワを救出しないと」
城島の顔には何の感情も浮かんでいないが、気付くと握られた拳が小さく震えている。
その指先に目を落とした誠は、トワと目の前にいる青年のために、できることはないだろうかと考えた。
そしてひとつの提案を出した。
「だったら、僕とトワとの人質交換をすればどうですか?」
誠は決意を込めて城島を見た。
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