79 / 146
奪われた家族
77話:なんでこうなった
しおりを挟む
なぜこんな事になってしまったのだろう。
ここにいる誰もがそう思っているに違いない。
目の前では顔面蒼白のトワ王子が、膝の上に置いた両手をぎゅっと握り締めて座っている。その隣には王子の背中にやさしく手を添えるマツムラ。
そしてその対面に、なぜか世良田一家。
右から元樹、栄子、勇治、美園、そして付き添い人、進藤つかさ。
室内はユグドリアの人間をはじめ、日本政府関係者や警察官らがひしめきあっており、ゆったりとしたスウィートルームが狭く感じる。
一家はそんな喧騒の中、あれよあれよと奥の部屋に案内されていた。
外は暑苦しいほどの熱気なのに、なぜこの空間はこんなに冷え切っているのだろう。
それにひどく息苦しい。誰も声を上げないことが、余計にこの空間の閉塞感を増しているようだ。
「……ぼ、僕のせいなんだ」
とうとうトワが泣き出した。
いや、そんなことは……と言いかけて立ち上がった元樹だが、思い直して座りなおす。
そんなことはないと言ってやりたいが、一体全体何が起きているのかさっぱり分かっていないのが現状だ。
誠が誘拐された、と外務省から連絡を受けたのが小一時間ほど前。
何の事か訳も分からず、とりあえず緊急事態だということで「家のことはまかせておけ」と言い切ったケンジとタキ、そして番犬あんこを残し指定されたホテルを訪ねた。
すでにホテル前にはマスコミが大挙して押しかけており、もみくちゃ状態。
けれど、その騒ぎのお陰で世良田一家に気付くものはおらず、入り口で待っていた関係者により、スムーズに最上階のスウィートルームへ案内されたのだ。
そしてそこで、誘拐されたはずのトワ王子と顔をあわせ、今に至るというわけだ。
相変わらず気まずい空気はそのままだが、一向に口を開こうとしない元樹に代わり、栄子が話を切り出した。
「それで、うちの誠ちゃんが誘拐されたというのは?」
それに対し、ひくひくと喉を鳴らしていたトワが、今にも消え入りそうな声で答える。
「誠くんは僕と間違われて誘拐されたんだ」
「間違われてって……」
明らかに見た目が違う。特に髪の色が。
そう思った栄子たちの疑問もマツムラの話を聞き、ようやく納得できることとなった。
「王子と誠様はインターネットを通じて友人になられたそうです。お2人は2日前に初めてお会いになり、今日まで仲良くしていたのですが」
それを聞いて、美園は裏モデルファミリーのブログを閲覧している1人が、英語混じりの日本語を綴っていたことを思い出した。
OJ=オージ(王子)。あれがトワだったのだろうか。だとしたらすごいことだ、一般人と王子が繋がるなんて。
「じゃあ、誠ちゃんは今までこちらでお世話に?」
「ええ」
「本当に何も知らなくて。ご好意に心から感謝いたします」
改めて栄子が頭を下げると、マツムラはそれを拒むかのように手を振る。
「いいえ、そんな事よりも誠様のことです。彼はどうやら近くのお店で買ったパーティ用のカツラを被っていたようなのです。なぜか金色のカツラを被った格好で部屋の前にいらしたので、犯人たちはとっさにトワ王子だと勘違いして連れ去ったようなのです」
「そ…そんな、じゃあ誠ちゃんは本当に誘拐されたんですか」
栄子から一瞬にして血の気が引いていった。
ここにいる誰もがそう思っているに違いない。
目の前では顔面蒼白のトワ王子が、膝の上に置いた両手をぎゅっと握り締めて座っている。その隣には王子の背中にやさしく手を添えるマツムラ。
そしてその対面に、なぜか世良田一家。
右から元樹、栄子、勇治、美園、そして付き添い人、進藤つかさ。
室内はユグドリアの人間をはじめ、日本政府関係者や警察官らがひしめきあっており、ゆったりとしたスウィートルームが狭く感じる。
一家はそんな喧騒の中、あれよあれよと奥の部屋に案内されていた。
外は暑苦しいほどの熱気なのに、なぜこの空間はこんなに冷え切っているのだろう。
それにひどく息苦しい。誰も声を上げないことが、余計にこの空間の閉塞感を増しているようだ。
「……ぼ、僕のせいなんだ」
とうとうトワが泣き出した。
いや、そんなことは……と言いかけて立ち上がった元樹だが、思い直して座りなおす。
そんなことはないと言ってやりたいが、一体全体何が起きているのかさっぱり分かっていないのが現状だ。
誠が誘拐された、と外務省から連絡を受けたのが小一時間ほど前。
何の事か訳も分からず、とりあえず緊急事態だということで「家のことはまかせておけ」と言い切ったケンジとタキ、そして番犬あんこを残し指定されたホテルを訪ねた。
すでにホテル前にはマスコミが大挙して押しかけており、もみくちゃ状態。
けれど、その騒ぎのお陰で世良田一家に気付くものはおらず、入り口で待っていた関係者により、スムーズに最上階のスウィートルームへ案内されたのだ。
そしてそこで、誘拐されたはずのトワ王子と顔をあわせ、今に至るというわけだ。
相変わらず気まずい空気はそのままだが、一向に口を開こうとしない元樹に代わり、栄子が話を切り出した。
「それで、うちの誠ちゃんが誘拐されたというのは?」
それに対し、ひくひくと喉を鳴らしていたトワが、今にも消え入りそうな声で答える。
「誠くんは僕と間違われて誘拐されたんだ」
「間違われてって……」
明らかに見た目が違う。特に髪の色が。
そう思った栄子たちの疑問もマツムラの話を聞き、ようやく納得できることとなった。
「王子と誠様はインターネットを通じて友人になられたそうです。お2人は2日前に初めてお会いになり、今日まで仲良くしていたのですが」
それを聞いて、美園は裏モデルファミリーのブログを閲覧している1人が、英語混じりの日本語を綴っていたことを思い出した。
OJ=オージ(王子)。あれがトワだったのだろうか。だとしたらすごいことだ、一般人と王子が繋がるなんて。
「じゃあ、誠ちゃんは今までこちらでお世話に?」
「ええ」
「本当に何も知らなくて。ご好意に心から感謝いたします」
改めて栄子が頭を下げると、マツムラはそれを拒むかのように手を振る。
「いいえ、そんな事よりも誠様のことです。彼はどうやら近くのお店で買ったパーティ用のカツラを被っていたようなのです。なぜか金色のカツラを被った格好で部屋の前にいらしたので、犯人たちはとっさにトワ王子だと勘違いして連れ去ったようなのです」
「そ…そんな、じゃあ誠ちゃんは本当に誘拐されたんですか」
栄子から一瞬にして血の気が引いていった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
1
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる