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動き始めた闇

76話:電話

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「カジノといやぁ当然黒い金が動いたりするよな? 誠はそういうことを知りたいのか? マフィアとか、裏金とか……」

 つかさが考え込む。
 どうも誠が知りたい情報と繋がる気配がない。

「とりあえず、親父には連絡してあるから情報待ちってことで、今俺たちに出来るのはこれが精一杯ってことだな」

 つかさの言葉に元樹が大きく頷いて、ソファーに腰をうずめる。

「そうだな。リエって奴が本当に誠なら無事は確認されたし。つかさ君、悪いがもう一度メールを送ってくれないか。今すぐに家に電話をかけるようにと」
「ラジャー」

 すでに一見落着ムードになりかけている場の雰囲気に、栄子が喝を入れる。

「あなた、何呑気なこと言ってるの? 無事は確認されたですって? 本人の顔を見るまでは安心できないわ」
「分かってる。だけど、他にどうしようもないだろ」
「ダメよ。やっぱり警察に連絡しましょう。さっきのニュース見たでしょ。もし誠ちゃんが何か関係してたら大変だわ」
「バカを言うな。そんなことしてみろ、モデルファミリーに傷がつくだろ!」
「バカはあなたよ。傷がつくのはあんたの経歴よ! この浮気男」

 今にも取っ組み合いのけんかになりそうなところを、勇治が割って入る。

「おいおい、もうやめろよ。みっともない。これ以上家の恥をさらすな」
「なんだと、何が恥だ、父親に向かって! お前のち~たん愛の方がよっぽど恥だ」
「そうよ。いい加減あんな小さな子と仲良くするのはやめなさい」
「ふざけんな! 自分たちの醜態そっちのけで息子に当たる気かよ」

 止めに入った勇治までヒートアップし、さらに美園まで借り出されるハメになる。
 全員が揃いもそろって自分の主張を押し通し始めたため、ギャーギャーと喚いてなんだか訳の分からないことになっている。

 その中でかろうじて鳴り出した電話の音を聞き取ったつかさは、誰も取る気配がないことを見てとると、仕方なしに受話器を持ち上げた。

「もしも~し。世良田です」

 そう名乗った時、自分は世良田家の婿養子になるのだろうか、とふとした考えが浮かび慌てて首を振る。

 世良田つかさ――。

 なんだか、しっくりこない。
 できれば苗字は変えたくない。婿養子などになればこの家のことだ、尻にしかれるのは目に見えている。

 進藤美園――。うん、こっちの方がいい。

 そんなどうでもいいことを考えながら相手の言葉に耳を傾ける。 
 外野がうるさすぎてほとんど聞こえないが、重要そうなある言葉だけが耳に残る。
 つかさはもう一度聞き返す。

「――はい? え~と、もう一度言っていただけますか」

 電話の相手は、こう言っていた。

 世良田誠くんが、誘拐されました。
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