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動き始めた闇
73話:亀裂
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ネット上の交流とはいえ、心の通じ合った友達だと思っていた相手に言われた言葉。
――僻んでるの?
誠はその衝撃でしばらく二の句が継げなった。
そんな誠を前に、トワはさらに言葉を投げかける。
「誠君には家族がいるけれど、君の事を愛してくれてない。君は一人ぼっちだ。だから、同じ傷をもつ僕と友達になりたかった。そうだろ? でも現実は違った。僕は恵まれている」
自分の発言が確実に誠を傷つけることは分かっていたトワだけれど、黙って誠の言葉を受け入れることはできない。
それを受け入れてしまえば、トワの心が壊れてしまう。傷つく前に防御する。これはトワなりの自衛本能なのだ。
「誠君は家族に愛されていない。すごく気の毒に思うよ」
決定的な言葉だった。
築きあげてきた友情が、いとも簡単に崩れ落ちた瞬間だった。
誠は泣き笑いのような表情を見せる。
さっきトワの手を引いた勢いはどこへやら、痛々しくなるほどのぎこちない笑みを見せた。
「――そうだね。ほんとごめん。トワの言う通りだよ。正直羨ましく思えたよ、王子様の生活が。それによくよく考えたら、僕よりもマツムラを信じるのは当たり前だよね。長年彼と一緒に生活してたんだから」
トワは申し訳なさそうに俯いた。
「僕、ちょっとどうかしてたよ。マツムラはトワにとって本当に大切な人なんだね」
「そうだよ。お父様もお母様もお兄様も、みんな船の事故で死んでしまったけれど、マツムラは必死に僕を助けてくれたんだ。冷たいの海の中を潜って僕を救ってくれた。彼は命の恩人だ。その彼が僕の死を望むはずはないよ」
小さすぎてほとんど記憶にない海難事故の様子。
幸せだった家族は一瞬で崩壊し、後に残されたのは幼い体で国を背負うという重圧だけ。
そんなトワをマツムラはずっと支えてくれていた。
「マツムラがそんな恐ろしいこと考えるはず……ない」
昔のことを口にするたび、トワの方も泣きたくなってくる。
誠はそんなトワを見て、申し訳なさそうにほほ笑むと、背中を向けてベットの上で開いたままだったノートパソコンと買い物袋を鞄に詰め込み、帰り支度を始めた。
その様子を黙って見ていたトワの方に、重そうにリュックを背負った誠が向き直った。
「トワが僕を信用できなくて当然だよ。あんなイジワルな日記を公開してる奴だからね」
トワは顔を背けたままだ。
「僕のこと嫌いなままでいい。友達だと思ってくれなくていい。でも、すごく心配なんだ。騙されたと思って、マツムラとオペラハウスには警戒してほしい」
当然トワから返事は返ってこなかったが、誠はそれ以上言葉をかけることはせずに、部屋を出て行った。
2人の間に、決定的な距離が生まれてしまった。
トワにとって初めてできた〈友達〉だった。
けれど、その友達は僅かな間に見も知らぬ他人になってしまったように感じた。
正直、相手を羨ましいと思っているのはトワ自身なのである。誠と話していると、押さえこんでいた自分の心の中の声が聞こえてくるのだ。
父がいて、母がいて、兄がいて、そして自分がいる。あの頃に戻りたい、もう一度家族に会いたいと。
その全てを持っていて、それに不満を抱いている誠。
トワにはその気持ちが理解できなかった。自分が欲しているものを全て持っているのにその有難さに気付かない。
その態度が憎らしいとさえ感じる瞬間がある。
けれど、誠自身はトワを羨んでいる。
お互いがお互いを羨むなんて、皮肉なことだ。
トワは一人ぼっちになった大きな部屋で、わけもなく溢れてくる涙を拭った。
――僻んでるの?
誠はその衝撃でしばらく二の句が継げなった。
そんな誠を前に、トワはさらに言葉を投げかける。
「誠君には家族がいるけれど、君の事を愛してくれてない。君は一人ぼっちだ。だから、同じ傷をもつ僕と友達になりたかった。そうだろ? でも現実は違った。僕は恵まれている」
自分の発言が確実に誠を傷つけることは分かっていたトワだけれど、黙って誠の言葉を受け入れることはできない。
それを受け入れてしまえば、トワの心が壊れてしまう。傷つく前に防御する。これはトワなりの自衛本能なのだ。
「誠君は家族に愛されていない。すごく気の毒に思うよ」
決定的な言葉だった。
築きあげてきた友情が、いとも簡単に崩れ落ちた瞬間だった。
誠は泣き笑いのような表情を見せる。
さっきトワの手を引いた勢いはどこへやら、痛々しくなるほどのぎこちない笑みを見せた。
「――そうだね。ほんとごめん。トワの言う通りだよ。正直羨ましく思えたよ、王子様の生活が。それによくよく考えたら、僕よりもマツムラを信じるのは当たり前だよね。長年彼と一緒に生活してたんだから」
トワは申し訳なさそうに俯いた。
「僕、ちょっとどうかしてたよ。マツムラはトワにとって本当に大切な人なんだね」
「そうだよ。お父様もお母様もお兄様も、みんな船の事故で死んでしまったけれど、マツムラは必死に僕を助けてくれたんだ。冷たいの海の中を潜って僕を救ってくれた。彼は命の恩人だ。その彼が僕の死を望むはずはないよ」
小さすぎてほとんど記憶にない海難事故の様子。
幸せだった家族は一瞬で崩壊し、後に残されたのは幼い体で国を背負うという重圧だけ。
そんなトワをマツムラはずっと支えてくれていた。
「マツムラがそんな恐ろしいこと考えるはず……ない」
昔のことを口にするたび、トワの方も泣きたくなってくる。
誠はそんなトワを見て、申し訳なさそうにほほ笑むと、背中を向けてベットの上で開いたままだったノートパソコンと買い物袋を鞄に詰め込み、帰り支度を始めた。
その様子を黙って見ていたトワの方に、重そうにリュックを背負った誠が向き直った。
「トワが僕を信用できなくて当然だよ。あんなイジワルな日記を公開してる奴だからね」
トワは顔を背けたままだ。
「僕のこと嫌いなままでいい。友達だと思ってくれなくていい。でも、すごく心配なんだ。騙されたと思って、マツムラとオペラハウスには警戒してほしい」
当然トワから返事は返ってこなかったが、誠はそれ以上言葉をかけることはせずに、部屋を出て行った。
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けれど、その友達は僅かな間に見も知らぬ他人になってしまったように感じた。
正直、相手を羨ましいと思っているのはトワ自身なのである。誠と話していると、押さえこんでいた自分の心の中の声が聞こえてくるのだ。
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その態度が憎らしいとさえ感じる瞬間がある。
けれど、誠自身はトワを羨んでいる。
お互いがお互いを羨むなんて、皮肉なことだ。
トワは一人ぼっちになった大きな部屋で、わけもなく溢れてくる涙を拭った。
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