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動き始めた闇

71話:信頼できる相手

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 公務を終えてトワが戻ってきたのは、誠が部屋に戻ってから2時後のことだった。
 誠の方もやるべきことを整理し、行動する時間が必要だったので暇を持て余していたわけではない。

「遅かったね、トワ。もう全部終わったの?」

 疲れたような表情で部屋に入ってきたトワを、誠が優しく出迎えた。

「うん。嘘ついて急病になったらなったで、大変なんだよ。たくさんの見舞客がわざわざきてくれるから挨拶をしないとだめで。総理大臣や天皇陛下からも電報が届いてたよ。でもいい加減キリがなくなってきてさ。マツムラが助けに来てくれてようやく開放されたよ」

 トワの口からマツムラという言葉が出た途端、誠の表情が硬くなったことに本人は気づいていないようだ。
 ああ疲れた、と誠が座っているベットにダイブしたトワは、ふと枕元の買い物袋に目を止める。

「あれ、どこかに出かけてたの?」
「うん、ちょっと……」

 歯切れの悪い返事に、トワはようやく誠の雰囲気がさっきと違っていることに気づく。
 誠はとても難しい顔をして、両手できつく両足を抱えこんでいた。
 待たせすぎて、怒ってしまったのだろうか。
 さっきまでのあどけなさはなりを潜め、誠はひどく考え込んだような表情で口を開いた。

「ちょっといいかな」

 ただならぬ誠の様子に、トワは急いで体を起こし向かい合わせに座り直す。

「何?」

 明らかに何かある。誠はそんな表情を見せた。

「ひとつ聞いていい?」
「いいよ」
「マツムラは本当に信用できる?」
「どういうこと?」
「つまり、彼って君の後見人みたいなもんだろ? 君はまだ幼いから王子といっても国の政治に関与してるのはマツムラの方。彼に全て任せて大丈夫?」

 どういう意味なのだろう。トワはとにかく誠実に答えた。

「何を心配してるのか知らないけど、マツムラは頼れる人だよ。父親のように思ってる」

 トワの瞳に一点の曇りもないことを見て取った誠は、気持ちが沈みこんでいくのを感じた。

「僕とマツムラだったら、彼の言葉を信じるよね?」

 先ほどから誠が言わんとしていることを理解できないトワは、困ったように首を傾げる。

「聞いたんだ、さっき。マツムラが誰かと電話で話してるのを」
「電話?」
「彼言ってたよ、君が誘拐される、って。殺されちゃう、って」

 一瞬トワの表情が強張ったが、すぐに無理やり笑みを浮かべて答える。

「そんな話を聞いたんだね、誠君を怖がらせちゃってごめんね」
「何言ってるんだよ、僕の方はなんともないよ、トワの方が…」
「王子ってものは常に危険に晒されているんだよ。大丈夫だよ。その為にマツムラ達がちゃんと僕を守って……」
「彼は君が死ねばいい、って!」

 辛辣な口調で誠が言い放った。
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