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裏モデルファミリー
68話:天使か悪魔か
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部屋の中が重苦しい空気に包まれた。
誠の考えている事が分からない。どうして家族を陥れるようなことをするのだろうか。
意気消沈した一家に同情を覚えたつかさは、自分なりの考えを示した。
「そもそも天使のような子ってとこに違和感なかったのか? その年齢の子ならもっと親に迷惑かけたり、反抗したりするもんだ。いつも聞き分けのいい子、それこそ奴が演じてた【理想の子ども像】だったんじゃねえか。あいつは天使でも悪魔でもない。まだ小学生なんだ」
「――演じてた?」
元樹はまさか、というように喉を鳴らす。
「誠ちゃんは誰にも愛される<理想の子ども>のふりをしてたって言いたいの?」
栄子は語気を強めてつかさを睨みつける。
「この日記を書いた目的はみんなに嫌がらせしてやろう、って意図じゃないと思うぜ。もしそうならさっきも言ったように、とっとと世界中が見れるように公開してただろしな。ほら、見てみろ」
そう言って、つかさは閲覧者のプロフィールが並んだ画面を指差す。
「ここにいる奴らだけが誠の日記を見れる。俺は誠としか友達申請をしてないから他の奴らと交流することはできないけど、裏モデルファミリーに寄せてあるコメントを読めば、だいたいが誠と同じ年齢の子どもだってのが分かる」
言われてみれば確かに子どもっぽいコメントばかりだ。
なかには英語と日本語を織り交ぜてコメントしている子もいるが、それにしたって内容は子どもが書くようなものだ。
「外国の子とも交流してたのね。誠は英語なんて喋れなかったけど、どうしてたんだろ」
美園はOJというハンドルネームを指さす。プロフィール画像には青空の写真を設定している。
「外国人ったって、家族に日本人がいれば日本語を喋れるし、日本に住んでる外国人だっているからな」
そんなことは重要じゃない、とつかさは世良田一家に向き直る。
「ともかく、あいつはこのページを大勢に公開して家族を陥れてやろうなんて考えてないんだよ。ただ、なんつぅか子供の日記みたいな、絵日記を綴るような感覚じゃないかと」
「絵日記ねぇ……それにしてはどぎついな」
一気に老けこんだ元樹は、改めてブログをチェックしながらため息を漏らす。
立ち直れないところまでへこみ切ってしまった元樹に、気の毒そうな視線を送りながらつかさは考え込む。
「ただ、俺にも理解できないことがある。なんで誠が俺に接触してきたのかってことだよ。俺にこれを見せたらいい鴨にされることくらい分かったはずだぜ」
数日前の出来事が蘇る。
普段の誠とは異なった妙に大人びた仕草と態度を思い起こし、改めて不思議に思う。
そんな単純なことが分からないような雰囲気ではなかった。むしろ、こうなることを予想して、何かの変化を期待してつかさに接触してきた、そう考えるのが妥当のようだ。
「残念だけど今の俺にこれ以上誠を理解してやることはできない。けど、お前らは家族だろ。早くあいつを見つけて腹を割って話し合う必要があるんじゃねぇか。少なくとも、小学生が家出して親が数日気づかないなんて家は普通じゃねぇぞ」
「――家出」
栄子は改めてその言葉を喉に流し込んだ。
確かにこれは家出だ。家族に何も言わずに家を空ける子ではないし、きっちりとお泊まりの用意をして家を出たのだから、自分の意思でどこかに身を隠しているのだろう……事件でない限り。
「とりあえずパソコンは持ち出してるから、このブログを通してあいつにコンタクトがとれるかもしれない。どうする?」
つかさは美園を見て、その後、家族を振り返る。
「どうするって……」
困ったように栄子が元樹を見る。
元樹はしばらく何やら考えていたようだが、
「警察に連絡する前に、一度そこからメッセージを送ってみよう。それで夕方までに返事がなければ、手遅れになる前に警察に連絡する。いいな」
ここでようやく父親らしく決断し、家族全員がそれに従う意思を見せた。
元樹の「手遅れ」という言葉にはあえて誰も触れなかった。
それじゃあ、とつかさはキーボードをカチャカチャ鳴らせて文字を打つ。
――家族みんなで日記を読んだ。お前のことをすごく心配している。無事かどうか連絡が欲しい。 つかさ――
一家に確認を取った後、つかさは送信ボタンをクリックした。
すぐに画面が切り変わり、送信完了のメッセージが現れた。
世良田一家は祈るようにして、時計を見上げる。
時刻は昼の2時半。誠がこのメッセージに気づいて、連絡をくれるのをただただ、待つのみだ。
誠の考えている事が分からない。どうして家族を陥れるようなことをするのだろうか。
意気消沈した一家に同情を覚えたつかさは、自分なりの考えを示した。
「そもそも天使のような子ってとこに違和感なかったのか? その年齢の子ならもっと親に迷惑かけたり、反抗したりするもんだ。いつも聞き分けのいい子、それこそ奴が演じてた【理想の子ども像】だったんじゃねえか。あいつは天使でも悪魔でもない。まだ小学生なんだ」
「――演じてた?」
元樹はまさか、というように喉を鳴らす。
「誠ちゃんは誰にも愛される<理想の子ども>のふりをしてたって言いたいの?」
栄子は語気を強めてつかさを睨みつける。
「この日記を書いた目的はみんなに嫌がらせしてやろう、って意図じゃないと思うぜ。もしそうならさっきも言ったように、とっとと世界中が見れるように公開してただろしな。ほら、見てみろ」
そう言って、つかさは閲覧者のプロフィールが並んだ画面を指差す。
「ここにいる奴らだけが誠の日記を見れる。俺は誠としか友達申請をしてないから他の奴らと交流することはできないけど、裏モデルファミリーに寄せてあるコメントを読めば、だいたいが誠と同じ年齢の子どもだってのが分かる」
言われてみれば確かに子どもっぽいコメントばかりだ。
なかには英語と日本語を織り交ぜてコメントしている子もいるが、それにしたって内容は子どもが書くようなものだ。
「外国の子とも交流してたのね。誠は英語なんて喋れなかったけど、どうしてたんだろ」
美園はOJというハンドルネームを指さす。プロフィール画像には青空の写真を設定している。
「外国人ったって、家族に日本人がいれば日本語を喋れるし、日本に住んでる外国人だっているからな」
そんなことは重要じゃない、とつかさは世良田一家に向き直る。
「ともかく、あいつはこのページを大勢に公開して家族を陥れてやろうなんて考えてないんだよ。ただ、なんつぅか子供の日記みたいな、絵日記を綴るような感覚じゃないかと」
「絵日記ねぇ……それにしてはどぎついな」
一気に老けこんだ元樹は、改めてブログをチェックしながらため息を漏らす。
立ち直れないところまでへこみ切ってしまった元樹に、気の毒そうな視線を送りながらつかさは考え込む。
「ただ、俺にも理解できないことがある。なんで誠が俺に接触してきたのかってことだよ。俺にこれを見せたらいい鴨にされることくらい分かったはずだぜ」
数日前の出来事が蘇る。
普段の誠とは異なった妙に大人びた仕草と態度を思い起こし、改めて不思議に思う。
そんな単純なことが分からないような雰囲気ではなかった。むしろ、こうなることを予想して、何かの変化を期待してつかさに接触してきた、そう考えるのが妥当のようだ。
「残念だけど今の俺にこれ以上誠を理解してやることはできない。けど、お前らは家族だろ。早くあいつを見つけて腹を割って話し合う必要があるんじゃねぇか。少なくとも、小学生が家出して親が数日気づかないなんて家は普通じゃねぇぞ」
「――家出」
栄子は改めてその言葉を喉に流し込んだ。
確かにこれは家出だ。家族に何も言わずに家を空ける子ではないし、きっちりとお泊まりの用意をして家を出たのだから、自分の意思でどこかに身を隠しているのだろう……事件でない限り。
「とりあえずパソコンは持ち出してるから、このブログを通してあいつにコンタクトがとれるかもしれない。どうする?」
つかさは美園を見て、その後、家族を振り返る。
「どうするって……」
困ったように栄子が元樹を見る。
元樹はしばらく何やら考えていたようだが、
「警察に連絡する前に、一度そこからメッセージを送ってみよう。それで夕方までに返事がなければ、手遅れになる前に警察に連絡する。いいな」
ここでようやく父親らしく決断し、家族全員がそれに従う意思を見せた。
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それじゃあ、とつかさはキーボードをカチャカチャ鳴らせて文字を打つ。
――家族みんなで日記を読んだ。お前のことをすごく心配している。無事かどうか連絡が欲しい。 つかさ――
一家に確認を取った後、つかさは送信ボタンをクリックした。
すぐに画面が切り変わり、送信完了のメッセージが現れた。
世良田一家は祈るようにして、時計を見上げる。
時刻は昼の2時半。誠がこのメッセージに気づいて、連絡をくれるのをただただ、待つのみだ。
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