モデルファミリー <完結済み>

MARU助

文字の大きさ
上 下
66 / 146
裏モデルファミリー

64話:最後の手段

しおりを挟む

 もうお昼だというのに、何の収穫もない。世良田一家は窮地に陥っていた。
 誠のスマホにも連絡したが、電源を入れていないのか繋がらない。留守電にも接続できない。

 学校名簿片手に誠のクラスメート達に電話して回ったが、誠が泊まっている家を見つけることはできなかった。
 それどころか「どうして僕の家にかけてくるの?」といった不思議そうな対応の連続。

 そしてようやく分かったこと。
 誠が特別に親しくしていた友人は去年引っ越してしまったさとるくんだけだったのだと。

「あいつ学校で一人ぼっちだったのか」

 勇治が重い口調でどさりとソファーに腰を下ろす。
 今更ながらに、兄としてあまりにも弟に対して無関心だったことを後悔する。

「だけど、いつも楽しそうにお話してくれるから、そんな状況だとは」

 栄子は表情を曇らせて、再び受話器を取り上げるが、思い直したように置く。
 もうこれ以上どこにかけるのか分からなかった。

 いや、ひとつだけある。
 けれど、それをしてしまっていいのだろうか。
 栄子はこの期に及んで、まだ自己保身に走ろうとする自分自身に嫌気が差す。

「でも、今思えば学校の友達の話ってここ最近聞いてないよね」

 美園は惰性でつけているテレビ画面を前にボソッと呟く。目は画面を見ているが、意識は別のところにある。

「警察じゃ」
「そうですねぇ、それがいいですねぇ」

 ケンジとタキは決断しかねている栄子を促すように声を揃えて頷く。
 テーブルでうなだれていた元樹が「警察」という単語を聞いて、ようやく正気に返ったように顔をあげて首を振る。

「ダメだ、警察に電話したらモデルファミリー候補を剥奪されるかもしれない」
「何言ってるのよ元樹さん! 今はそんなこと言ってる時じゃないわ」

 声を荒げて元樹を攻め立てる栄子だが、一向に受話器をとる気配はない。
 誰もがそれに気づいていたが、指摘しようとはしなかった。

 きっとどこかにいる。大丈夫。すぐに帰ってくる。そんな根拠のない思いが心のどこかにあるのだ。
 そしてやはり元樹の言ったようにモデルファミリー候補失格が脳裏を掠めている。

 警察に通報してしまえば、事の経緯を話さなければならなくなる。金曜の夜から小学生の子どもが家にいないことに気づいてなかったなど、どう考えてもおかしいだろう。
 美園はひとつため息をついて立ち上がり、電話の傍でただ突っ立ってるだけの栄子を押しのけ、受話器を持ち上げる。
 美園のその行動を止める人間はいなかった。

 皆、気配だけでその様子を感じ取り、半ば諦めムードと覚悟の入り混じった表情で静かに時が過ぎるのを待った。
 そこへ、厳しい目で状況を見守っていたつかさがようやく声をあげた。

「ちょっと待った。ひとつだけあいつと連絡をとれる方法があるけど、どうする?」
「え?」

 全員がつかさを振り返った。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

~喫茶ポポの日常~

yu-kie
ライト文芸
祖父の残した喫茶店を継いだ孫の美奈。喫茶ポポは祖父の友人が所有する土地と店舗を借りている。その息子はボディーガードを職業にし、ひょんな事から喫茶店の空き部屋に住みはじめたのでした。 春樹の存在がトラブルを引き寄せてしまうが…基本ほのぼの?物語。 一旦完結とします。番外編書けたらと考え中です。

第一機動部隊

桑名 裕輝
歴史・時代
突如アメリカ軍陸上攻撃機によって帝都が壊滅的損害を受けた後に宣戦布告を受けた大日本帝国。 祖国のため、そして愛する者のため大日本帝国の精鋭である第一機動部隊が米国太平洋艦隊重要拠点グアムを叩く。

人生の全てを捨てた王太子妃

八つ刻
恋愛
突然王太子妃になれと告げられてから三年あまりが過ぎた。 傍目からは“幸せな王太子妃”に見える私。 だけど本当は・・・ 受け入れているけど、受け入れられない王太子妃と彼女を取り巻く人々の話。 ※※※幸せな話とは言い難いです※※※ タグをよく見て読んでください。ハッピーエンドが好みの方(一方通行の愛が駄目な方も)はブラウザバックをお勧めします。 ※本編六話+番外編六話の全十二話。 ※番外編の王太子視点はヤンデレ注意報が発令されています。

第12回ネット小説大賞コミック部門入賞・コミカライズ企画進行「婚約破棄ですか? それなら昨日成立しましたよ、ご存知ありませんでしたか?」完結

まほりろ
恋愛
第12回ネット小説大賞コミック部門入賞・コミカライズ企画進行中。 コミカライズ化がスタートしましたらこちらの作品は非公開にします。 「アリシア・フィルタ貴様との婚約を破棄する!」 イエーガー公爵家の令息レイモンド様が言い放った。レイモンド様の腕には男爵家の令嬢ミランダ様がいた。ミランダ様はピンクのふわふわした髪に赤い大きな瞳、小柄な体躯で庇護欲をそそる美少女。 対する私は銀色の髪に紫の瞳、表情が表に出にくく能面姫と呼ばれています。 レイモンド様がミランダ様に惹かれても仕方ありませんね……ですが。 「貴様は俺が心優しく美しいミランダに好意を抱いたことに嫉妬し、ミランダの教科書を破いたり、階段から突き落とすなどの狼藉を……」 「あの、ちょっとよろしいですか?」 「なんだ!」 レイモンド様が眉間にしわを寄せ私を睨む。 「婚約破棄ですか? 婚約破棄なら昨日成立しましたが、ご存知ありませんでしたか?」 私の言葉にレイモンド様とミランダ様は顔を見合わせ絶句した。 全31話、約43,000文字、完結済み。 他サイトにもアップしています。 小説家になろう、日間ランキング異世界恋愛2位!総合2位! pixivウィークリーランキング2位に入った作品です。 アルファポリス、恋愛2位、総合2位、HOTランキング2位に入った作品です。 2021/10/23アルファポリス完結ランキング4位に入ってました。ありがとうございます。 「Copyright(C)2021-九十九沢まほろ」

語りカフェ。人を引き寄せる特性を持つマスターの日常。~夜部~

すずなり。
ライト文芸
街中にある一軒のカフェ。 どこにでもありそうな外観のカフェは朝10時から昼3時までの営業だ。 五席しかない店内で軽食やコーヒーを楽しみに常連客が来るカフェだけど、マスターの気分で『夜』に店を開ける時がある。 そんな日は決まって新しいお客が店の扉を開けるのだ。 「いらっしゃいませ。お話、お聞きいたします。」 穏やか雰囲気のマスターが開く『カフェ~夜部~』。 今日はどんな話を持った人が来店するのか。 ※お話は全て想像の世界です。(一部すずなり。の体験談含みます。) ※いつも通りコメントは受け付けられません。 ※一話完結でいきたいと思います。

光のもとで1

葉野りるは
青春
一年間の療養期間を経て、新たに高校へ通いだした翠葉。 小さいころから学校を休みがちだった翠葉は人と話すことが苦手。 自分の身体にコンプレックスを抱え、人に迷惑をかけることを恐れ、人の中に踏み込んでいくことができない。 そんな翠葉が、一歩一歩ゆっくりと歩きだす。 初めて心から信頼できる友達に出逢い、初めての恋をする―― (全15章の長編小説(挿絵あり)。恋愛風味は第三章から出てきます) 10万文字を1冊として、文庫本40冊ほどの長さです。

もういいです、離婚しましょう。

うみか
恋愛
そうですか、あなたはその人を愛しているのですね。 もういいです、離婚しましょう。

推しにも彼にも私にも

音はつき
ライト文芸
人生を捧げたわたしの〝推し〟は、人気絶頂にて解散・引退。 涙が枯れるほど泣いて、絶望して、だけど推しの幸せのためならと見送ったのが一年前。 そんなわたしの前に、〝推し〟が再び現れた。 キラキラのオーラも、眩い笑顔もないままに。

処理中です...