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裏モデルファミリー
64話:最後の手段
しおりを挟むもうお昼だというのに、何の収穫もない。世良田一家は窮地に陥っていた。
誠のスマホにも連絡したが、電源を入れていないのか繋がらない。留守電にも接続できない。
学校名簿片手に誠のクラスメート達に電話して回ったが、誠が泊まっている家を見つけることはできなかった。
それどころか「どうして僕の家にかけてくるの?」といった不思議そうな対応の連続。
そしてようやく分かったこと。
誠が特別に親しくしていた友人は去年引っ越してしまったさとるくんだけだったのだと。
「あいつ学校で一人ぼっちだったのか」
勇治が重い口調でどさりとソファーに腰を下ろす。
今更ながらに、兄としてあまりにも弟に対して無関心だったことを後悔する。
「だけど、いつも楽しそうにお話してくれるから、そんな状況だとは」
栄子は表情を曇らせて、再び受話器を取り上げるが、思い直したように置く。
もうこれ以上どこにかけるのか分からなかった。
いや、ひとつだけある。
けれど、それをしてしまっていいのだろうか。
栄子はこの期に及んで、まだ自己保身に走ろうとする自分自身に嫌気が差す。
「でも、今思えば学校の友達の話ってここ最近聞いてないよね」
美園は惰性でつけているテレビ画面を前にボソッと呟く。目は画面を見ているが、意識は別のところにある。
「警察じゃ」
「そうですねぇ、それがいいですねぇ」
ケンジとタキは決断しかねている栄子を促すように声を揃えて頷く。
テーブルでうなだれていた元樹が「警察」という単語を聞いて、ようやく正気に返ったように顔をあげて首を振る。
「ダメだ、警察に電話したらモデルファミリー候補を剥奪されるかもしれない」
「何言ってるのよ元樹さん! 今はそんなこと言ってる時じゃないわ」
声を荒げて元樹を攻め立てる栄子だが、一向に受話器をとる気配はない。
誰もがそれに気づいていたが、指摘しようとはしなかった。
きっとどこかにいる。大丈夫。すぐに帰ってくる。そんな根拠のない思いが心のどこかにあるのだ。
そしてやはり元樹の言ったようにモデルファミリー候補失格が脳裏を掠めている。
警察に通報してしまえば、事の経緯を話さなければならなくなる。金曜の夜から小学生の子どもが家にいないことに気づいてなかったなど、どう考えてもおかしいだろう。
美園はひとつため息をついて立ち上がり、電話の傍でただ突っ立ってるだけの栄子を押しのけ、受話器を持ち上げる。
美園のその行動を止める人間はいなかった。
皆、気配だけでその様子を感じ取り、半ば諦めムードと覚悟の入り混じった表情で静かに時が過ぎるのを待った。
そこへ、厳しい目で状況を見守っていたつかさがようやく声をあげた。
「ちょっと待った。ひとつだけあいつと連絡をとれる方法があるけど、どうする?」
「え?」
全員がつかさを振り返った。
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