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その頃の誠
63話:美しい国ユグドリア
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日本が高齢化社会問題と少子化対策への解決案として打ち出したモデルファミリー制度は、海外でも注目を集めていた。
当初は半信半疑だった諸外国も、日本の成功例を前にして似たような対策を打ち出し始めている。
過去、モデルファミリーのトップに君臨した一家は、米有名雑誌の表紙を飾るなど世界的な知名度も高い。
「王子はあと2日ほどこちらに滞在する予定です。その間は一緒に過ごしていただいて構いません。その後は、誠さまさえよろしければ家族揃ってユグドリアに遊びに来られてはいかがでしょう」
マツムラのその提案にトワは大喜びで手を叩いた。
「本当だ。そうすればいいよ。僕はもっと誠くんと遊びたいよ。ぜひユグドリアに来てほしいな」
「ユグドリアか。行ってみたいなぁ」
写真で見たユグドリアの風景を思い出してみた。
レンガ造りの美しい街なみのその奥に、緑に囲まれて聳え立つ白いお城。グリム童話の世界からそのまま抜け出してきたようなな平和な夢の国。そんなところだ。
実際に平和なのは見た目だけではなく、国民は幼い王子をとても愛し慕っているらしい。
「今ね、海の一部分を埋め立ててオペラハウスを建設してるんだ。もうすぐ完成するし、ぜひ見て欲しいな」
「オペラハウス?」
「そう、大きなイベントホールなんだけど、最新の技術を集めて作ってるからかなり快適だよ。まだ建設途中で中は非公開なんだけど、とても綺麗なんだ。……っていっても、僕もまだ中は見てないんだけど」
そう言いながら、最後の方は少しふくれっつらをして、マツムラを見上げた。
「まだ未完成です。作業途中ですし、王子が怪我をされたら大変です。もうすぐ完成しますから、じきに見れるようになります。楽しみはとっておきましょう」
小さい子を諭すような物言いに、さらにトワはふくれっ面をしてみせた。
その様子を見て、誠は思わず笑ってしまう。
一国の王子とはいえ、まだ11歳の少年。子供扱いされてふてくされてしまったりするところは、自分と変わらないんだなと嬉しくなったのだ。
いい意味で笑ったのだが、トワはバカにされてしまったと思ったのか、恥ずかしそうに横を向いてしまった。
「そうだ。ちょうどお昼時です。この部屋とは別のところにお食事が準備できておりますので、お2人で召し上がって下さい」
そう言われて、誠とトワは嬉しそうにベットから飛び降りると、2人で競うように部屋を飛び出した。
何か楽しいことでもあるのだろうか、廊下の方で2人の笑い声が響いているが、やがてパタパタとした足音と共にその笑い声も遠ざかっていった。
マツムラは久しくトワのあんな子供らしい一面を見た記憶がなかった。
両親が死んでから、トワの生活は一変した。
一国の王子として学ぶべきことが増え、子供らしい時間を楽しむ暇もなかった。
それでもトワは弱音を吐かず、マツムラと共にユグドリアのために努力を続けてきた。
マツムラは閉まりきっていない扉をそっと押して、外に誰もいないことを確認すると、静かに扉を閉じた。
当初は半信半疑だった諸外国も、日本の成功例を前にして似たような対策を打ち出し始めている。
過去、モデルファミリーのトップに君臨した一家は、米有名雑誌の表紙を飾るなど世界的な知名度も高い。
「王子はあと2日ほどこちらに滞在する予定です。その間は一緒に過ごしていただいて構いません。その後は、誠さまさえよろしければ家族揃ってユグドリアに遊びに来られてはいかがでしょう」
マツムラのその提案にトワは大喜びで手を叩いた。
「本当だ。そうすればいいよ。僕はもっと誠くんと遊びたいよ。ぜひユグドリアに来てほしいな」
「ユグドリアか。行ってみたいなぁ」
写真で見たユグドリアの風景を思い出してみた。
レンガ造りの美しい街なみのその奥に、緑に囲まれて聳え立つ白いお城。グリム童話の世界からそのまま抜け出してきたようなな平和な夢の国。そんなところだ。
実際に平和なのは見た目だけではなく、国民は幼い王子をとても愛し慕っているらしい。
「今ね、海の一部分を埋め立ててオペラハウスを建設してるんだ。もうすぐ完成するし、ぜひ見て欲しいな」
「オペラハウス?」
「そう、大きなイベントホールなんだけど、最新の技術を集めて作ってるからかなり快適だよ。まだ建設途中で中は非公開なんだけど、とても綺麗なんだ。……っていっても、僕もまだ中は見てないんだけど」
そう言いながら、最後の方は少しふくれっつらをして、マツムラを見上げた。
「まだ未完成です。作業途中ですし、王子が怪我をされたら大変です。もうすぐ完成しますから、じきに見れるようになります。楽しみはとっておきましょう」
小さい子を諭すような物言いに、さらにトワはふくれっ面をしてみせた。
その様子を見て、誠は思わず笑ってしまう。
一国の王子とはいえ、まだ11歳の少年。子供扱いされてふてくされてしまったりするところは、自分と変わらないんだなと嬉しくなったのだ。
いい意味で笑ったのだが、トワはバカにされてしまったと思ったのか、恥ずかしそうに横を向いてしまった。
「そうだ。ちょうどお昼時です。この部屋とは別のところにお食事が準備できておりますので、お2人で召し上がって下さい」
そう言われて、誠とトワは嬉しそうにベットから飛び降りると、2人で競うように部屋を飛び出した。
何か楽しいことでもあるのだろうか、廊下の方で2人の笑い声が響いているが、やがてパタパタとした足音と共にその笑い声も遠ざかっていった。
マツムラは久しくトワのあんな子供らしい一面を見た記憶がなかった。
両親が死んでから、トワの生活は一変した。
一国の王子として学ぶべきことが増え、子供らしい時間を楽しむ暇もなかった。
それでもトワは弱音を吐かず、マツムラと共にユグドリアのために努力を続けてきた。
マツムラは閉まりきっていない扉をそっと押して、外に誰もいないことを確認すると、静かに扉を閉じた。
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