モデルファミリー <完結済み>

MARU助

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その頃の誠

62話:モデルファミリーの肩書

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 欲があるからモデルファミリーとして優勝したくない。
 そう言った誠の真意が分からず、トワが聞き返そうとしたとき、ノック音と同時に柔らかな笑みを浮かべたマツムラが顔を覗かせた。

「リトルプリンス様。お加減はいかがですか?」

 そう呼ばれたトワは困ったように眉を潜め、まだ少し熱っぽいんだ、と笑う。

「おやおや。それはいけませんね。今日と明日はごゆっくりなさらないと。王子がこなすご予定だった会談などは、全てわたくしめが滞りなく勤めて参りますゆえ」

 そう言って心配そうにトワのおでこに手を当てたマツムラだったが、熱などあるはずもない。
 誠と会うために仮病を使い公務をキャンセルしたのだから。

 マツムラはトワの企てを全て納得した上で、自由な時間を与えようと配慮したのだ。

「誠さま――でしたね? ずっと付き添っていて下さって感謝致します」
「いえ。僕こそ急に来てしまってごめんなさい。おまけにこんな大きなお部屋に泊まらせてもらって、ありがとうございます」

 誠は万人に好かれるであろう完璧な天使スマイルで微笑んだ。
 その可愛らしい笑顔にマツムラも満足そうに目を細めて頷いた。

「最初は驚きました。王子が急に気分が悪いと言い出されたものだから」

 急遽、マツムラたちは展示会場の近くにあるホテルに連絡を入れ、最上階全てを貸切にした。
 そうしてホテルに移動すると、そこで待っていたのは大きなリュックを背負った可愛い男の子。
 2人は顔をあわせるやいなや、旧知の友のように互いに抱き合い喜びあった。

「正直あの時はびっくりしました。ロビーで誠さまが待っていらっしゃって……。確かこう言いましたね。トワ王子の友達です、と。私には何が何やら。はぁ。最初から全て2人で計画なさってたんですね」

 トワはチロッと舌を出して「ごめんさなさい」と謝った。

「誠くんとはインターネットを通じて友達になったんだ。今度日本に行くことになったから、絶対に会いたくって」
「どうりで日本への訪問を大喜びされていたはずだ。いつもと様子が違うことは分かっていましたが、まさかこんな事とは」 

 マツムラは合点がいった、という風に顎をさすって目を瞑る。

「けれど、今度からは簡単に見ず知らずの相手を信用してはいけません。今回は本当に相手が誠さま本人だったからいいようなものを、もしもテロリスト達だったら……。どうか王子としての自覚をもっと持ってください。いいですね」

 マツムラの言葉はきついようだが、トワを守りたいという優しい気持ちが伝わってくる。
 トワもそれをよく理解しているのか、もう一度「ごめんなさい」と呟いた。

 トワが心の底から反省していることをくみ取り、マツムラも誠がいる手前これ以上のお説教は避けようと考えたらしい。
 すぐに王子の背中を優しくさすってやり、誠に向き直った。

「あんなことを言いましたが、王子には同世代の友達が必要だとは思っていました。申し訳ありませんが誠さまのことを少し調べさせていただきました。モデルファミリーのご一家だそうで、それを聞いて安心致しました」

 まただ。またここでもモデルファミリーが一人歩きしている。
 誠は気持ちが沈みこんでいくのを感じた。
 幸か不幸かモデルファミリーの信頼は絶大らしい。その実態はとても空虚なものでしかないというのに。
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