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その頃の誠
61話:誠とトワ
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ここは都心にある某有名ホテルのスイートルーム。
その一室で2人の男の子がキングサイズのベットにちょこんと腰かけて、何やら楽しそうに密談している。
会話を聞かれてはまずいのだろうか、なるべく声を張り上げないように気を使っているようだが、それでも話が盛り上がってくると時々ボリュームが大きくなってしまう。
慌ててお互いに一本指を口の前に立てて「静かに」のポーズをとる。
けれど、それがまた楽しくて思わず笑い声をあげてしまい、慌ててまた自分の口を両手で押さえる。
とても微笑ましい光景だ。
片方は某王国の幼い王子、もう片方は最近有名になった一家の末っ子少年。
そう、世良田一家が小学校の児童名簿片手に、片っ端から捜索電話をかけている最中、その尋ね人は実にのんびりとした環境で最高のもてなしを受けていた。
「あ~楽しい。こんなに笑ったの久しぶり」
誠が両手を挙げてどっさりとベットに寝転ぶと、トワも同じように寝転がってみせる。
「僕も。周りには同年代の子がいないから、誠くんみたいな子と友達になれて嬉しいよ」
「そうなの? 学校行ってないの?」
「うん。警備上の理由でね。だからホームスクーリングを受けてるんだ。日本語はお母様から教わった。でもお母様が死んでからはマツムラが教えてくれてる」
どうりで流暢な日本語を喋るはずだ。
トワと誠が知り合ったキッカケはインターネットだった。
誠が開設しているサイトに興味を持ったトワが、掲示板に書き込みを始めたことをきっかけに交流が始まった。
チャットで会話を楽しむうちに話に花が咲きすぐに互いに意気投合した。
しばらく経ってから写真交換をしたのだが、綺麗な日本語の文章を綴るので相手が外国人だとは思っていなかった誠は、トワの写真を見て驚いた。
それからいろいろな話をし、トワの母親が日本人だということ、実は王子だ、ということを知った。
トワとの出会いは誠にとって驚きの連続だったが、話を続けていくうちにお互いとても共感できるものを感じたのだ。
「ねぇトワ。お母さんに会いたい?」
「――そうだね。会えるものなら会いたいかな」
少し寂しそうに呟いた。
トワと誠は同い年だ。この年で両親を亡くすという事はどんな心境なのだろう。頭の中で想像はしてみたが、今いちピンとこない。
「誰もいないからね、僕には。お父様もお母様もお兄様も……」
「お兄ちゃんもいたの?」
「うん。お兄様もお父様とお母様と一緒に海の事故で死んでしまって。その時僕だけ助かったんだ」
「そっか」
落ち込んできた気分を振り払おうと、トワはわざと明るい声を出して体を起こす。
「でも僕にはマツムラがいるから大丈夫だよ」
「マツムラってさっきの優しそうなおじさん?」
「うん。マツムラはお母様のお友達だったんだ。お母様がお父様と結婚することになってこの国に来るとき、お母様一人じゃ心配だ、って一緒についてきてくれたんだ。それからずっとマツムラは僕達の味方だよ。彼がいなきゃ僕は死んでたよ」
ずっと味方か。
改めてさっきの優しそうな男性の顔を思い出してみると、なんだか誠の方が切なくなってしまった。
「羨ましいな。そんなに自分のこと気に掛けてくれる人がいるなんて」
トワは寝転がっている誠の顔を不思議にそうに見下ろす。
「誠くんには家族がいるじゃないか。日本に来て何度かテレビで見たよ。すごく素敵な人たちじゃないか。モデルファミリーの候補に選ばれてるんでしょう?」
モデルファミリー。
そう。「全てはこの日の為に」をスローガンに、家族一丸となって頑張ってきたのだ。
「そうだよ。でも、一番にはなりたくないんだ」
「そうなの? 欲がないんだね」
誠は苦みばしった笑みを見せて首を振る。
「違うよ。欲があるんだ、誰よりも――。だから優勝したくないんだよ」
その一室で2人の男の子がキングサイズのベットにちょこんと腰かけて、何やら楽しそうに密談している。
会話を聞かれてはまずいのだろうか、なるべく声を張り上げないように気を使っているようだが、それでも話が盛り上がってくると時々ボリュームが大きくなってしまう。
慌ててお互いに一本指を口の前に立てて「静かに」のポーズをとる。
けれど、それがまた楽しくて思わず笑い声をあげてしまい、慌ててまた自分の口を両手で押さえる。
とても微笑ましい光景だ。
片方は某王国の幼い王子、もう片方は最近有名になった一家の末っ子少年。
そう、世良田一家が小学校の児童名簿片手に、片っ端から捜索電話をかけている最中、その尋ね人は実にのんびりとした環境で最高のもてなしを受けていた。
「あ~楽しい。こんなに笑ったの久しぶり」
誠が両手を挙げてどっさりとベットに寝転ぶと、トワも同じように寝転がってみせる。
「僕も。周りには同年代の子がいないから、誠くんみたいな子と友達になれて嬉しいよ」
「そうなの? 学校行ってないの?」
「うん。警備上の理由でね。だからホームスクーリングを受けてるんだ。日本語はお母様から教わった。でもお母様が死んでからはマツムラが教えてくれてる」
どうりで流暢な日本語を喋るはずだ。
トワと誠が知り合ったキッカケはインターネットだった。
誠が開設しているサイトに興味を持ったトワが、掲示板に書き込みを始めたことをきっかけに交流が始まった。
チャットで会話を楽しむうちに話に花が咲きすぐに互いに意気投合した。
しばらく経ってから写真交換をしたのだが、綺麗な日本語の文章を綴るので相手が外国人だとは思っていなかった誠は、トワの写真を見て驚いた。
それからいろいろな話をし、トワの母親が日本人だということ、実は王子だ、ということを知った。
トワとの出会いは誠にとって驚きの連続だったが、話を続けていくうちにお互いとても共感できるものを感じたのだ。
「ねぇトワ。お母さんに会いたい?」
「――そうだね。会えるものなら会いたいかな」
少し寂しそうに呟いた。
トワと誠は同い年だ。この年で両親を亡くすという事はどんな心境なのだろう。頭の中で想像はしてみたが、今いちピンとこない。
「誰もいないからね、僕には。お父様もお母様もお兄様も……」
「お兄ちゃんもいたの?」
「うん。お兄様もお父様とお母様と一緒に海の事故で死んでしまって。その時僕だけ助かったんだ」
「そっか」
落ち込んできた気分を振り払おうと、トワはわざと明るい声を出して体を起こす。
「でも僕にはマツムラがいるから大丈夫だよ」
「マツムラってさっきの優しそうなおじさん?」
「うん。マツムラはお母様のお友達だったんだ。お母様がお父様と結婚することになってこの国に来るとき、お母様一人じゃ心配だ、って一緒についてきてくれたんだ。それからずっとマツムラは僕達の味方だよ。彼がいなきゃ僕は死んでたよ」
ずっと味方か。
改めてさっきの優しそうな男性の顔を思い出してみると、なんだか誠の方が切なくなってしまった。
「羨ましいな。そんなに自分のこと気に掛けてくれる人がいるなんて」
トワは寝転がっている誠の顔を不思議にそうに見下ろす。
「誠くんには家族がいるじゃないか。日本に来て何度かテレビで見たよ。すごく素敵な人たちじゃないか。モデルファミリーの候補に選ばれてるんでしょう?」
モデルファミリー。
そう。「全てはこの日の為に」をスローガンに、家族一丸となって頑張ってきたのだ。
「そうだよ。でも、一番にはなりたくないんだ」
「そうなの? 欲がないんだね」
誠は苦みばしった笑みを見せて首を振る。
「違うよ。欲があるんだ、誰よりも――。だから優勝したくないんだよ」
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