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嵐の前の静けさ
55話:美園とつかさ その2
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つかさの口から飛び出た、突然の言葉。
『俺はずっとお前のことを考えてた』
美園の脳裏はパニック寸前だった。
「からかうのもいい加減にしてよ! あんたの背中を流してくれたり、髪をとかしてくれたりする彼女がいるんでしょ? その子にチクるよ!」
美園の顔はどんどん真っ赤になっていく。
「全部お前がやってくれればいい。背中を流して、髪を梳かして、手を握って。お前が嫌だっていうなら俺の体は誰にも触らせない」
限界までつかさとの距離が縮まる。握られた手に熱がこもる。
美園とつかさの唇はあと少しで触れ合いそうなほど、互いの吐息が感じられる距離にまで近づいてきた。
「……」
美園の心臓は限界寸前、どうしていいか分からずつかさに掴まれていない方の手であちこちを探る。
そして――。
ボフッ!
見事に枕をつかさの顔面に命中させることに成功した。
「それ以上近づかないで、変態。あんた何想像してんのよ!」
怒りと恥ずかしさで顔を真っ赤にした美園が、何度も人差し指を突き付けてつかさを非難する。
その様子がどうにもおかしくて、つかさは大笑いする。
「あんたぶち殺されたいの? 笑い事じゃないのよ! こっちは貞操の危機だったんだから」
「はいはい」
つかさは大したことない、というように手をひらひらさせて立ち上がる。
部屋を出ていく時、もう一度真面目な顔をして美園を見る。
「さっきの話、マジだから。美園も真剣に考えてみてくれ」
「は? まだ言ってんの? バカなの?」
もう一度枕を振り上げた美園を前に、つかさはまた笑いだして一言。
「まぁまぁ落ち着いて。手を握られただけでそんなに真っ赤になるなら、キスすらしたことないんだな。俺は安心したよ、美園ちゃんが清純な子で。悪いのは性格と口だけだな」
「なっ!」
「美園の初めては俺が全部もらうから、もう少し待ってろよ」
「!!!!!!」
美園の怒りがピークに達し、力任せに枕を投げつけたときにはすでに部屋の扉は閉じられた後だった。
枕はボスンと鈍い音を立てて扉にぶつかり、ずりずりと地面に落ちる。
後に残されたのは、どうしようもない恥ずかしさと憤り、そしてなんだかよく分からない不思議な感情に包まれ心臓をバクバクさせている美園だけだった。
『俺はずっとお前のことを考えてた』
美園の脳裏はパニック寸前だった。
「からかうのもいい加減にしてよ! あんたの背中を流してくれたり、髪をとかしてくれたりする彼女がいるんでしょ? その子にチクるよ!」
美園の顔はどんどん真っ赤になっていく。
「全部お前がやってくれればいい。背中を流して、髪を梳かして、手を握って。お前が嫌だっていうなら俺の体は誰にも触らせない」
限界までつかさとの距離が縮まる。握られた手に熱がこもる。
美園とつかさの唇はあと少しで触れ合いそうなほど、互いの吐息が感じられる距離にまで近づいてきた。
「……」
美園の心臓は限界寸前、どうしていいか分からずつかさに掴まれていない方の手であちこちを探る。
そして――。
ボフッ!
見事に枕をつかさの顔面に命中させることに成功した。
「それ以上近づかないで、変態。あんた何想像してんのよ!」
怒りと恥ずかしさで顔を真っ赤にした美園が、何度も人差し指を突き付けてつかさを非難する。
その様子がどうにもおかしくて、つかさは大笑いする。
「あんたぶち殺されたいの? 笑い事じゃないのよ! こっちは貞操の危機だったんだから」
「はいはい」
つかさは大したことない、というように手をひらひらさせて立ち上がる。
部屋を出ていく時、もう一度真面目な顔をして美園を見る。
「さっきの話、マジだから。美園も真剣に考えてみてくれ」
「は? まだ言ってんの? バカなの?」
もう一度枕を振り上げた美園を前に、つかさはまた笑いだして一言。
「まぁまぁ落ち着いて。手を握られただけでそんなに真っ赤になるなら、キスすらしたことないんだな。俺は安心したよ、美園ちゃんが清純な子で。悪いのは性格と口だけだな」
「なっ!」
「美園の初めては俺が全部もらうから、もう少し待ってろよ」
「!!!!!!」
美園の怒りがピークに達し、力任せに枕を投げつけたときにはすでに部屋の扉は閉じられた後だった。
枕はボスンと鈍い音を立てて扉にぶつかり、ずりずりと地面に落ちる。
後に残されたのは、どうしようもない恥ずかしさと憤り、そしてなんだかよく分からない不思議な感情に包まれ心臓をバクバクさせている美園だけだった。
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