モデルファミリー <完結済み>

MARU助

文字の大きさ
上 下
53 / 146
嵐の前の静けさ

51話:偽りの仮面

しおりを挟む
 嘘くさい。
 つかさが中学生の世良田美園を見た時の第一印象がそれだった。
 父親の職業柄、人間観察に長けていたので、すぐに彼女の違和感に気づいた。

 今でこそ高嶺の花だとか、M高ナンバーワンの美女だともてはやされているが、そういう人たちは美園の表面的な美に惑わされている。
 
 一呼吸置いてよぉく観察すれば分かる、彼女の笑顔は常に同じ、完璧に計算しつくされたものだということが。
 第一好きな食べ物が「いちご」だという時点でアウトだ。

 進藤仁のゴシップ対象になるアイドル達は、大概いちごが好きだ。アイドルにふさわしい可愛い食べ物。恐らく事務所がそう書くように促しているのだろう。

 そういうアイドル達は、仁の徹底的な取材の元、半年から1年で本性が出る。
 過去の男性遍歴の多さや、はたまた学生時代のヤンキー武勇伝。好きな食べ物がいちごどころか、焼酎だなんて開き直った子達もいる。
 
 アイドルと美園を同じ括りで扱うのは違うかもしれないが、彼女をひと目見たとき、なんだかおかしい、そう感じた。
 最悪なことに、その偽りは美園だけでなく家族にまで及んでいるようだった。

 元樹の会社のスキャンダルに巻き込まれ、テレビ取材を受けることの多かった世良田一家。結果的にそれが功を奏しモデルファミリー候補として名前が挙がるようになった。

 その頃から日を追うごとに世良田一家の違和感は強くなり、いつ見ても同じ顔、同じ表情で笑うようになっていった。妙に嫌な感じを受けた。
 
 美園と同じ高校に入り、テレビ越しではなく実際に彼女を見かけることが多くなった。
 好奇心から美園を観察するようになり、つかさの中で日増しに違和感とがっかり感が増していった。
 徹底的に自分を偽り嘘の笑みを浮かべる美園、その仮面は中学時代よりも固く分厚くなっているようだった。
 
 そしてある日気づく。
 どうやら向こうがつかさの事を警戒し避けているということに。

 目はしょっちゅう合うのに、その途端すごいスピードであらぬ方を向く。
 廊下をすれ違う際も、できるだけつかさに近づかないように端を歩く。振り向いて声をかけようと思うと、すでに走り去っている。

 当初は理由が分からずむしゃくしゃしたが、今年の夏、世良田一家がモデルファミリー関東ブロック代表に選出されたことで合点がいった。
 どうか我が家の秘密を探ってくれるな、関わるな、そういう事だったらしい。 

 つかさは、大きなため息をつく。

 美園たちはつかさの情報源を探ろうと必死になっている。しかし、追求されても困る。
 提供者との信頼関係が重要だとはねつければ良いのだが、実際のところ、相手が身元を隠している以上追求できないというのが正直なところだ。

 つかさがネット上で公開しているブログに、突然メールが舞い込んできたのは数ヶ月ほど前のこと。
 モデルファミリーについて考察記事を書いていたことが目に止まったのかもしれないし、美園と同じ学校にゴシップ記者・進藤仁の息子が在学しているという事実があったからかもしれない。

 理由は謎だが、その人物はつかさに接触し、一方的にメールを送り付けてきた。
 そこに記載されたURLを踏んでみると、とあるSNSサイトに繋がった。

 そこは特定の人のみが閲覧できるサイトで、相手が承認しない限り、その日記を読むことができない。
 つかさのように不特定多数の目に止まる公開型のブログとは違い、完全にプライベートな日記なのだ。

 そして、そこが世良田一家の裏情報発信先だった。
 赤裸々に綴られた一家の日常。ネタには困らなかった。

 日記の公開者とはたまにメールでやりとりをするが、一切自分の情報は開かしてこない。
 ただ、相手が身元を隠しているといっても、つかさ本人にはそれが誰か分かっている。掲載されている写真や状況から推測して特定の人物にたどり着いているのだ。

 が、下手に問い詰めて、世良田一家を混乱させるのもどうかと思うし、今のところあの日記がつかさの唯一の武器であるため、沈黙を続けている。

 ただ「あいつ」はどういうつもりであんなものを公開しているのだろう、という疑問は残る。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

182年の人生

山碕田鶴
ホラー
1913年。軍の諜報活動を支援する貿易商シキは暗殺されたはずだった。他人の肉体を乗っ取り魂を存続させる能力に目覚めたシキは、死神に追われながら永遠を生き始める。 人間としてこの世に生まれ来る死神カイと、アンドロイド・イオンを「魂の器」とすべく開発するシキ。 二人の幾度もの人生が交差する、シキ182年の記録。 (表紙絵/山碕田鶴)  ※2024年11月〜 加筆修正の改稿工事中です。本日「60」まで済。

エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。 両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

OLサラリーマン

廣瀬純一
ファンタジー
女性社員と体が入れ替わるサラリーマンの話

百物語 厄災

嵐山ノキ
ホラー
怪談の百物語です。一話一話は長くありませんのでお好きなときにお読みください。渾身の仕掛けも盛り込んでおり、最後まで読むと驚くべき何かが提示されます。 小説家になろう、エブリスタにも投稿しています。

人生負け組のスローライフ

雪那 由多
青春
バアちゃんが体調を悪くした! 俺は長男だからバアちゃんの面倒みなくては!! ある日オヤジの叫びと共に突如引越しが決まって隣の家まで車で十分以上、ライフラインはあれどメインは湧水、ぼっとん便所に鍵のない家。 じゃあバアちゃんを頼むなと言って一人単身赴任で東京に帰るオヤジと新しいパート見つけたから実家から通うけど高校受験をすててまで来た俺に高校生なら一人でも大丈夫よね?と言って育児拒否をするオフクロ。  ほぼ病院生活となったバアちゃんが他界してから築百年以上の古民家で一人引きこもる俺の日常。 ―――――――――――――――――――――― 第12回ドリーム小説大賞 読者賞を頂きました! 皆様の応援ありがとうございます! ――――――――――――――――――――――

泣き虫エリー

梅雨の人
恋愛
幼いころに父に教えてもらったおまじないを口ずさみ続ける泣き虫で寂しがり屋のエリー。 初恋相手のロニーと念願かなって気持ちを通じ合わせたのに、ある日ロニーは突然街を去ることになってしまった。 戻ってくるから待ってて、という言葉を残して。 そして年月が過ぎ、エリーが再び恋に落ちたのは…。 強く逞しくならざるを得なかったエリーを大きな愛が包み込みます。 「懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。」に出てきたエリーの物語をどうぞお楽しみください。

便箋小町

藤 光一
ライト文芸
この世には、俄かには信じ難いものも存在している。 妖怪、悪魔、都市伝説・・・。 それらを総じて、人々は“オカルト”と呼んでいるが、 そう呼ばない者達も居る。 時に、便箋小町という店を知っているだろうか。 今で云うところの運び屋であるのだが、ただの配達業者ではない。 高校卒業後、十九歳になった垂イサムは、 この便箋小町に入社して3ヶ月になる新入社員。 ただの人間である彼は、飛川コマチ率いるこの店で 俄かには信じ難い不思議な物語の道を歩む事となる。

サイケデリック!ブルース!オルタナティブ!パンク!!

大西啓太
ライト文芸
日常生活全般の中で自然と編み出された詩集。

処理中です...