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つかさとの攻防
46話:ばれた
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ワンワンワンワン!
つかさは元気よく吠えるあんこのリードを持ちながら、笑顔で「ただいま」と片手を挙げた。
「あ、あんた……」
振り返った美園は、聞いてたの?と、言葉にならない声を漏らす。
「な、な、な、な、なんなんだお前は! 勝手に俺たちの犬を持ち出して! 非常識だぞ」
自分の非常識さを棚に置いた勇治は、飛び上がった心臓を鎮めようと肩で息をする。
「いや、でもタキさんに散歩頼まれたから」
つかさはケンジと並んでテレビを見ているタキを指さす。
指名されたタキ本人は落語番組を見ながらホホホと乾いた笑いを漏らすのみで、こちらに関心を持とうとしない。
聞こえないふりをしていると感じるのは美園だけではないだろう。
この頃、美園はケンジだけでなくタキもなかなか食わせ物だと思うようになっていた。よくよく考えれば2人も世良田一家の血筋なのだ、まともなはずがない。
つかさは犬の首輪を外しながら、なんてことはない、というように独り言をつぶやく。
「いやぁ、世も末ですね。家族みんなで高校生を性犯罪者に仕立て上げようと企むなんて」
「は? 何言ってやがる、何の話だ」
瞬時に体制を立て直した勇治は、とぼけた返事を返す。
「さっき言ってたじゃないですか。自分たちで盗撮カメラを仕掛けて、俺がやったことにして脅そうって」
「つかさ君、それはあなたの勘違いよ」
栄子が慌てて否定する。
「ええ、栄子さんは僕のこと庇ってくれてましたよね。さすが顔だけじゃなく、心も綺麗な人だ」
「あら、まぁ」
つかさにおだてられ、栄子は思わず頬を染める。それを見て、元樹が「ケッ」と呟く。
勇治はなおも虚勢を張り続け、上から目線でつかさに詰め寄る。
「おい、いい加減にしろよ。誰がそんなこと言ったんだ。お前の態度次第じゃ、出るとこに出たっていいんだ。ぶちまけるぞ週刊誌に、あられもない罪でお前に脅されたって!」
「卑怯な人ですね」
つかさは呆れたように首を振り、リビングに置き忘れたままだった小型のペンケースを掴む。
「何言ってるんだ、言いがかりをつけて俺たちを貶めようとしている卑怯な奴はお前……」
『ザザ……ザ…盗撮だよ、盗撮。あいつを本当に盗撮犯に仕立て…ザッ…るんだ』
声を荒げる勇治の耳に、どこかで聞いたことのある会話が流れ込んできた。
『え?』
『だ~か~ら~、ザザ……たちの部屋から盗撮カメラが見つかった…ザザザ……して、進藤つかさが犯人だって…ザッ…にするんだよ』
しかも、どこかで聞いたことのある声だ。
沈黙した世良田一家を前に、形勢が逆転したつかさが問いかける。
「ペンケース型のレコーダーを置き忘れてたみたいで。ところで、さっき言ってましたよね、出るところに出たっていいんだって。それ、そっくりそのまま返させていただきますよ、皆さん」
先ほどまで夏の終わりを楽しんでいたはずの世良田一家だが、突然冬を通り越し、氷河期時代に突入してしまったようだ。
全員が目を見開いて固まっており、芯から凍り付いていく体を温める気力もなくただただ静かに息をするのみだった。
つかさは元気よく吠えるあんこのリードを持ちながら、笑顔で「ただいま」と片手を挙げた。
「あ、あんた……」
振り返った美園は、聞いてたの?と、言葉にならない声を漏らす。
「な、な、な、な、なんなんだお前は! 勝手に俺たちの犬を持ち出して! 非常識だぞ」
自分の非常識さを棚に置いた勇治は、飛び上がった心臓を鎮めようと肩で息をする。
「いや、でもタキさんに散歩頼まれたから」
つかさはケンジと並んでテレビを見ているタキを指さす。
指名されたタキ本人は落語番組を見ながらホホホと乾いた笑いを漏らすのみで、こちらに関心を持とうとしない。
聞こえないふりをしていると感じるのは美園だけではないだろう。
この頃、美園はケンジだけでなくタキもなかなか食わせ物だと思うようになっていた。よくよく考えれば2人も世良田一家の血筋なのだ、まともなはずがない。
つかさは犬の首輪を外しながら、なんてことはない、というように独り言をつぶやく。
「いやぁ、世も末ですね。家族みんなで高校生を性犯罪者に仕立て上げようと企むなんて」
「は? 何言ってやがる、何の話だ」
瞬時に体制を立て直した勇治は、とぼけた返事を返す。
「さっき言ってたじゃないですか。自分たちで盗撮カメラを仕掛けて、俺がやったことにして脅そうって」
「つかさ君、それはあなたの勘違いよ」
栄子が慌てて否定する。
「ええ、栄子さんは僕のこと庇ってくれてましたよね。さすが顔だけじゃなく、心も綺麗な人だ」
「あら、まぁ」
つかさにおだてられ、栄子は思わず頬を染める。それを見て、元樹が「ケッ」と呟く。
勇治はなおも虚勢を張り続け、上から目線でつかさに詰め寄る。
「おい、いい加減にしろよ。誰がそんなこと言ったんだ。お前の態度次第じゃ、出るとこに出たっていいんだ。ぶちまけるぞ週刊誌に、あられもない罪でお前に脅されたって!」
「卑怯な人ですね」
つかさは呆れたように首を振り、リビングに置き忘れたままだった小型のペンケースを掴む。
「何言ってるんだ、言いがかりをつけて俺たちを貶めようとしている卑怯な奴はお前……」
『ザザ……ザ…盗撮だよ、盗撮。あいつを本当に盗撮犯に仕立て…ザッ…るんだ』
声を荒げる勇治の耳に、どこかで聞いたことのある会話が流れ込んできた。
『え?』
『だ~か~ら~、ザザ……たちの部屋から盗撮カメラが見つかった…ザザザ……して、進藤つかさが犯人だって…ザッ…にするんだよ』
しかも、どこかで聞いたことのある声だ。
沈黙した世良田一家を前に、形勢が逆転したつかさが問いかける。
「ペンケース型のレコーダーを置き忘れてたみたいで。ところで、さっき言ってましたよね、出るところに出たっていいんだって。それ、そっくりそのまま返させていただきますよ、皆さん」
先ほどまで夏の終わりを楽しんでいたはずの世良田一家だが、突然冬を通り越し、氷河期時代に突入してしまったようだ。
全員が目を見開いて固まっており、芯から凍り付いていく体を温める気力もなくただただ静かに息をするのみだった。
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