モデルファミリー <完結済み>

MARU助

文字の大きさ
上 下
44 / 146
つかさとの攻防

42話:愛の告白

しおりを挟む
 とんでもない場面に遭遇しているのかもしれない。
 美園は花壇の陰に身を潜めながら、目の前で行われている愛の告白の結末を息をひそめて見守っていた。

「ほんとうにずっと進藤君のことが好きだったの」
「うん、気付いてた」

 進藤つかさは向かい合っている女子生徒に、意外とそっけない言葉を返す。

「あの子……進藤君のクラスメートかな?」

 美園の横で身を隠すようにしゃがみこんでいた城島が、小声でつぶやく。

「……たぶん。つかさが仲良くしているグループのメンバーだと思います。よく廊下で楽しそうに喋ってますから」
「へぇ、詳しいんだね」
「……まぁ」

 つねにつかさに対して警戒しているせいで、彼を取り巻く人間関係にも詳しくなっていた。
 自分たちのすぐそばで美園達が覗いているとも知らずに、つかさたちの会話は続く。

「どうかな?」
「どうって?」
「私のこと、どう思う?」

 きりりとした目元に、すらりと伸びた手足。長い髪をポニーテールにした女子生徒は不安そうにつかさに問いかける。

「可愛いと思うよ。性格もいいし」

 つかさがそう答えた途端、美園の心臓がきりりと痛む。
 美園に対して絶対言わなそうなセリフを、こともなげに口にするつかさ。まるで別人のようだ。
 女子生徒の表情に、明るさが出てきた。頬にほんのり赤みも差してくる。

「だったら私とつきあ……」
「付き合うのは無理」

 女子生徒の言葉を遮るように、つかさが答える。

「どうしてだめなの? 私のこと嫌い?」
「そんなことないよ。でも好きでもない」
「……」

 いつものつかさとは違い、切り捨てるような言葉に相手も思わず一歩後ずさる。
 けれど、せっかく勇気を出した告白の機会、引き下がりたくなりという思いが彼女の気持ちを後押しする。

「……誰か…誰かいるの? 好きな子?」

 心もとなげな表情でつかさに問いかける女生徒のすぐそばで、美園も息をのんでその答えを待った。

「いるよ」
「……誰?」
「俺の背中を優しく洗ってくれたり、髪をとかしてくれたり、そんな素敵な子だよ」

 はぁ?!

 美園の中に怒りの炎がメラメラ燃えてきた。
 もちろん美園には全くあずかり知らないことではあるが、進藤に彼女がいたこと、背中を流し合う関係であることから想像するとずいぶん大人の関係に発展しているようだ。

 世良田一家の秘密はあぶりだすくせに、自分の秘密は一切明かさない。

「なんて卑怯なやつ」

 美園は腹に響く低い声で呟いた。
 その横で城島はクスリとほほ笑む。

「その子は誰なの?」
「――その子は……」

 言いかけたつかさは、くるりと美園達の方に向き直り、
「聞き耳をたてているやつらがいるから、内緒」と、悪魔のような笑みを見せた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

透明人間になった僕と君と彼女と

夏川 流美
ライト文芸
――あぁ、お母さん、お父さん。つまりは僕、透明になってしまったようです……。 *  朝、目が覚めたら、透明人間になっていた。街行く人に無視される中、いよいよ自分の死を疑い出す。しかし天国、はたまた地獄からのお迎えは無く、代わりに出会ったのは、同じ境遇の一人の女性だった。  元気で明るい女性と、何処にでもいる好青年の僕。二人は曖昧な存在のまま、お互いに惹かれていく。 しかし、ある日、僕と女性が目にしてしまった物事をきっかけに、涙の選択を迫られる――

あなたのサイコパス度が分かる話(短編まとめ)

ミィタソ
ホラー
簡単にサイコパス診断をしてみましょう

ダブル シークレットベビー ~御曹司の献身~

菱沼あゆ
恋愛
念願のランプのショップを開いた鞠宮あかり。 だが、開店早々、植え込みに猫とおばあさんを避けた車が突っ込んでくる。 車に乗っていたイケメン、木南青葉はインテリアや雑貨などを輸入している会社の社長で、あかりの店に出入りするようになるが。 あかりには実は、年の離れた弟ということになっている息子がいて――。

その奇蹟に喝采を(4/6更新)

狂言巡
ライト文芸
Happy birthday. I always hope your happiness. A year full of love. 誕生日にまつわる短編小説です。

100000累計pt突破!アルファポリスの収益 確定スコア 見込みスコアについて

ちゃぼ茶
エッセイ・ノンフィクション
皆様が気になる(ちゃぼ茶も)収益や確定スコア、見込みスコアについてわかる範囲、推測や経験談も含めて記してみました。参考になれればと思います。

時のコカリナ

遊馬友仁
ライト文芸
高校二年生の坂井夏生は、十七歳の誕生日に、亡くなった祖父からの贈り物だという不思議な木製のオカリナを譲り受ける。試しに自室で息を吹き込むと、周囲のヒトやモノがすべて動きを止めてしまった!木製細工の能力に不安を感じながらも、夏生は、その能力の使い途を思いつく……。 「そうだ!教室の前の席に座っている、いつも、マスクを外さない小嶋夏海の素顔を見てやろう」 そうして、自身のアイデアを実行に映した夏生であったがーーーーーー。

第12回ネット小説大賞コミック部門入賞・コミカライズ企画進行「婚約破棄ですか? それなら昨日成立しましたよ、ご存知ありませんでしたか?」完結

まほりろ
恋愛
第12回ネット小説大賞コミック部門入賞・コミカライズ企画進行中。 コミカライズ化がスタートしましたらこちらの作品は非公開にします。 「アリシア・フィルタ貴様との婚約を破棄する!」 イエーガー公爵家の令息レイモンド様が言い放った。レイモンド様の腕には男爵家の令嬢ミランダ様がいた。ミランダ様はピンクのふわふわした髪に赤い大きな瞳、小柄な体躯で庇護欲をそそる美少女。 対する私は銀色の髪に紫の瞳、表情が表に出にくく能面姫と呼ばれています。 レイモンド様がミランダ様に惹かれても仕方ありませんね……ですが。 「貴様は俺が心優しく美しいミランダに好意を抱いたことに嫉妬し、ミランダの教科書を破いたり、階段から突き落とすなどの狼藉を……」 「あの、ちょっとよろしいですか?」 「なんだ!」 レイモンド様が眉間にしわを寄せ私を睨む。 「婚約破棄ですか? 婚約破棄なら昨日成立しましたが、ご存知ありませんでしたか?」 私の言葉にレイモンド様とミランダ様は顔を見合わせ絶句した。 全31話、約43,000文字、完結済み。 他サイトにもアップしています。 小説家になろう、日間ランキング異世界恋愛2位!総合2位! pixivウィークリーランキング2位に入った作品です。 アルファポリス、恋愛2位、総合2位、HOTランキング2位に入った作品です。 2021/10/23アルファポリス完結ランキング4位に入ってました。ありがとうございます。 「Copyright(C)2021-九十九沢まほろ」

暗い話にはしたくない

岡智 みみか
ライト文芸
ねぇ、この世界がいま、少しずつ小さくなってるって、知ってる? 変わりゆく世界の中で、それでもあなたと居たいと思う。

処理中です...