42 / 146
元樹の話
40話:元樹 パート3
しおりを挟む
元樹の食欲が失せたのを前にして、山田は申し訳なさそうにドリアを口に運ぶ。
しばらくそうして無言の時間が流れたが、元樹は意を決したように口を開く。
「で? 進藤に助けられたってのは、どういう意味だ」
「ああ。はい」
山田はあらかた食べ終えたドリアを端に置き、紙ナプキンで口元をぬぐう。
「警察が俺たちに探りを入れに来たあたりで、進藤仁も接触してきたんです。その時、初めて会社にどういう疑いがもたれているのかを知らされました」
元樹は真剣な顔をして話に耳を傾ける。
「犯人に仕立て上げられようとしているのが世良田さんだってのも分かりました。その後すぐに会社からの命令が出て、世良田さんに罪を被せろって。だけど俺達にはどうすることもできません。自分たちの身が大事ですから。下手したら俺たちにとばっちりがくるんじゃないかって」
山田の言うことにも一理ある。
だか元樹としては誰も自分の味方になろうとしなかったことに、一抹のむなしさを感じてしまった。
「だけど進藤仁は違いました。俺たちが嘘の証言をしようものなら、それを暴き立てて週刊誌で暴露する、と。そうなれば会社もろとも君たちの人生も終わりだって」
家の住所もばれ、まともに外も歩けなくなり、新しい就職先も見つからない。
週刊誌にネガティブな情報がリークされるということは、一般人にとってとてつもない破壊力なのだ。
「警察がお前たちのたくらみを見逃すはずがない。今なら無実だが、偽装をした瞬間に罪に問われる。進藤仁にそう諭されました」
そういった後、山田は「諭されたっていうか、脅されたに近いかな」と笑みを漏らす。
「結果的に俺たちはどちらかの味方につくんじゃなく、知っていることを正直に話そうって決めたんです。よくよく考えたら会社の言うことを聞いてたとしても、いずれ沈む船です。義理立てする必要もありません」
「そんなことになってたなんて知らなかった」
元樹は冷めたスパゲティーに視線を落とす。
「クラブMのママさんも、おそらく進藤仁が裏で手をまわしたんです。確証はないですけど」
元樹の通っていたクラブMは、会社と手を組み不正な企てに加担するための場を提供していた。そればかりか、経営者自らその闇に手を染めていたのだ。
通常ならばひどいバッシングを受けるところだが、彼女が正直に証言したことと、進藤仁が週刊誌に寄稿した記事により彼女に対する世間の見方も変わった。
斡旋業者を通じ日本に職を求めてやってきたが、ロクな仕事にありつけず、犯罪すれすれの性風俗に身を落としてしまう。
稼いだ金のほとんどは斡旋業者に奪われ、残った金を祖国の家族に送金し、年老いた両親の生活を支えていた。
彼女自身は貧しい生活を送りながら、少しづつためたお金で店を持ち、やっと自分の人生を歩もうとした矢先、悪い男と出会ってしまいズルズルと身を落とすはめになった。
その悪い男というのが、元樹のもといた会社の副社長だった。
これだけの物語を知った上で、全て彼女の責任だと言ってしまうには、あまりにも気の毒すぎだろう。
元樹はようやく現実を受け止めはじめた。
しばらくそうして無言の時間が流れたが、元樹は意を決したように口を開く。
「で? 進藤に助けられたってのは、どういう意味だ」
「ああ。はい」
山田はあらかた食べ終えたドリアを端に置き、紙ナプキンで口元をぬぐう。
「警察が俺たちに探りを入れに来たあたりで、進藤仁も接触してきたんです。その時、初めて会社にどういう疑いがもたれているのかを知らされました」
元樹は真剣な顔をして話に耳を傾ける。
「犯人に仕立て上げられようとしているのが世良田さんだってのも分かりました。その後すぐに会社からの命令が出て、世良田さんに罪を被せろって。だけど俺達にはどうすることもできません。自分たちの身が大事ですから。下手したら俺たちにとばっちりがくるんじゃないかって」
山田の言うことにも一理ある。
だか元樹としては誰も自分の味方になろうとしなかったことに、一抹のむなしさを感じてしまった。
「だけど進藤仁は違いました。俺たちが嘘の証言をしようものなら、それを暴き立てて週刊誌で暴露する、と。そうなれば会社もろとも君たちの人生も終わりだって」
家の住所もばれ、まともに外も歩けなくなり、新しい就職先も見つからない。
週刊誌にネガティブな情報がリークされるということは、一般人にとってとてつもない破壊力なのだ。
「警察がお前たちのたくらみを見逃すはずがない。今なら無実だが、偽装をした瞬間に罪に問われる。進藤仁にそう諭されました」
そういった後、山田は「諭されたっていうか、脅されたに近いかな」と笑みを漏らす。
「結果的に俺たちはどちらかの味方につくんじゃなく、知っていることを正直に話そうって決めたんです。よくよく考えたら会社の言うことを聞いてたとしても、いずれ沈む船です。義理立てする必要もありません」
「そんなことになってたなんて知らなかった」
元樹は冷めたスパゲティーに視線を落とす。
「クラブMのママさんも、おそらく進藤仁が裏で手をまわしたんです。確証はないですけど」
元樹の通っていたクラブMは、会社と手を組み不正な企てに加担するための場を提供していた。そればかりか、経営者自らその闇に手を染めていたのだ。
通常ならばひどいバッシングを受けるところだが、彼女が正直に証言したことと、進藤仁が週刊誌に寄稿した記事により彼女に対する世間の見方も変わった。
斡旋業者を通じ日本に職を求めてやってきたが、ロクな仕事にありつけず、犯罪すれすれの性風俗に身を落としてしまう。
稼いだ金のほとんどは斡旋業者に奪われ、残った金を祖国の家族に送金し、年老いた両親の生活を支えていた。
彼女自身は貧しい生活を送りながら、少しづつためたお金で店を持ち、やっと自分の人生を歩もうとした矢先、悪い男と出会ってしまいズルズルと身を落とすはめになった。
その悪い男というのが、元樹のもといた会社の副社長だった。
これだけの物語を知った上で、全て彼女の責任だと言ってしまうには、あまりにも気の毒すぎだろう。
元樹はようやく現実を受け止めはじめた。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
もしもしお時間いいですか?
ベアりんぐ
ライト文芸
日常の中に漠然とした不安を抱えていた中学1年の智樹は、誰か知らない人との繋がりを求めて、深夜に知らない番号へと電話をしていた……そんな中、繋がった同い年の少女ハルと毎日通話をしていると、ハルがある提案をした……。
2人の繋がりの中にある感情を、1人の視点から紡いでいく物語の果てに、一体彼らは何をみるのか。彼らの想いはどこへ向かっていくのか。彼の数年間を、見えないレールに乗せて——。
※こちらカクヨム、小説家になろう、Nola、PageMekuでも掲載しています。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ARIA(アリア)
残念パパいのっち
ミステリー
山内亮(やまうちとおる)は内見に出かけたアパートでAR越しに不思議な少女、西園寺雫(さいおんじしずく)と出会う。彼女は自分がAIでこのアパートに閉じ込められていると言うが……
チェイス★ザ★フェイス!
松穂
ライト文芸
他人の顔を瞬間的に記憶できる能力を持つ陽乃子。ある日、彼女が偶然ぶつかったのは派手な夜のお仕事系男女。そのまま記憶の奥にしまわれるはずだった思いがけないこの出会いは、陽乃子の人生を大きく軌道転換させることとなり――……騒がしくて自由奔放、風変わりで自分勝手な仲間たちが営む探偵事務所で、陽乃子が得るものは何か。陽乃子が捜し求める “顔” は、どこにあるのか。
※この作品は完全なフィクションです。
※他サイトにも掲載しております。
※第1部、完結いたしました。
LOVE NEVER FAILS
AW
ライト文芸
少年と少女との出逢い。それは、定められし運命の序曲であった。時間と空間の奔流の中で彼らが見るものは――。これは、時を越え、世界を越えた壮大な愛の物語。
※ 15万文字前後での完結を目指し、しばらく毎日更新できるよう努力します。
※ 凡人の、凡人による、凡人のための物語です。
かあさん、東京は怖いところです。
木村
ライト文芸
桜川朱莉(さくらがわ あかり)は高校入学のために単身上京し、今まで一度も会ったことのないおじさん、五言時絶海(ごごんじ ぜっかい)の家に居候することになる。しかしそこで彼が五言時組の組長だったことや、桜川家は警察一族(影では桜川組と呼ばれるほどの武闘派揃い)と知る。
「知らないわよ、そんなの!」
東京を舞台に佐渡島出身の女子高生があれやこれやする青春コメディー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる