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元樹の話

40話:元樹 パート3

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 元樹の食欲が失せたのを前にして、山田は申し訳なさそうにドリアを口に運ぶ。
 しばらくそうして無言の時間が流れたが、元樹は意を決したように口を開く。

「で? 進藤に助けられたってのは、どういう意味だ」
「ああ。はい」

 山田はあらかた食べ終えたドリアを端に置き、紙ナプキンで口元をぬぐう。

「警察が俺たちに探りを入れに来たあたりで、進藤仁も接触してきたんです。その時、初めて会社にどういう疑いがもたれているのかを知らされました」

 元樹は真剣な顔をして話に耳を傾ける。

「犯人に仕立て上げられようとしているのが世良田さんだってのも分かりました。その後すぐに会社からの命令が出て、世良田さんに罪を被せろって。だけど俺達にはどうすることもできません。自分たちの身が大事ですから。下手したら俺たちにとばっちりがくるんじゃないかって」

 山田の言うことにも一理ある。
 だか元樹としては誰も自分の味方になろうとしなかったことに、一抹のむなしさを感じてしまった。

「だけど進藤仁は違いました。俺たちが嘘の証言をしようものなら、それを暴き立てて週刊誌で暴露する、と。そうなれば会社もろとも君たちの人生も終わりだって」

 家の住所もばれ、まともに外も歩けなくなり、新しい就職先も見つからない。
 週刊誌にネガティブな情報がリークされるということは、一般人にとってとてつもない破壊力なのだ。

「警察がお前たちのたくらみを見逃すはずがない。今なら無実だが、偽装をした瞬間に罪に問われる。進藤仁にそう諭されました」

 そういった後、山田は「諭されたっていうか、脅されたに近いかな」と笑みを漏らす。

「結果的に俺たちはどちらかの味方につくんじゃなく、知っていることを正直に話そうって決めたんです。よくよく考えたら会社の言うことを聞いてたとしても、いずれ沈む船です。義理立てする必要もありません」
「そんなことになってたなんて知らなかった」

 元樹は冷めたスパゲティーに視線を落とす。

「クラブMのママさんも、おそらく進藤仁が裏で手をまわしたんです。確証はないですけど」

 元樹の通っていたクラブMは、会社と手を組み不正な企てに加担するための場を提供していた。そればかりか、経営者自らその闇に手を染めていたのだ。

 通常ならばひどいバッシングを受けるところだが、彼女が正直に証言したことと、進藤仁が週刊誌に寄稿した記事により彼女に対する世間の見方も変わった。
 斡旋業者を通じ日本に職を求めてやってきたが、ロクな仕事にありつけず、犯罪すれすれの性風俗に身を落としてしまう。

 稼いだ金のほとんどは斡旋業者に奪われ、残った金を祖国の家族に送金し、年老いた両親の生活を支えていた。
 彼女自身は貧しい生活を送りながら、少しづつためたお金で店を持ち、やっと自分の人生を歩もうとした矢先、悪い男と出会ってしまいズルズルと身を落とすはめになった。
 その悪い男というのが、元樹のもといた会社の副社長だった。

 これだけの物語を知った上で、全て彼女の責任だと言ってしまうには、あまりにも気の毒すぎだろう。
 元樹はようやく現実を受け止めはじめた。
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